三組の幸福
フローラ様の公爵領視察の期間は一週間。
それが終わると王都に帰り、今度はすぐにお城で婚約披露パーティーが開かれる。
その為、護衛やら警備でまだまだ騎士様達は忙しい。
なので、連勤が続いている数名を、半日だけ、交代で休むようにと、公爵領に着いた翌日、騎士様達を集めて、フローラ様は仰った。
それにはお父さんも含まれる。
……というか、これはお父さんを休みにしてツェリさんを例の場所に誘う時間を作る為に、皆で考えた作戦だ。
嬉々として協力してくれたフローラ様や、それを許してくれた王様や公爵家の方々には、感謝しかない。
というわけで、やって来ました、有名なデートスポット!!
それは公爵一家が住む館のある街の外れ、高台にある広場だった。
眼下に街が一望できるその場所は、花壇に綺麗な花が咲き誇る静かな所で、なるほどデートには最適な場所だった。
ツェリさんと連れ立って歩くお父さんを、私達四人は離れた場所から見守る。
勿論、フローラ様や公爵子息様の護衛も側にいる。
私達の邪魔にならない程度には、離れているけれど。
お父さんはこの土地に関する情報を予め調べていたのか、お休みを貰うとすぐにツェリさんを誘い、この場所へやって来た。
どこか緊張した様子のお父さんは、きっとツェリさんにプロポーズするに違いない。
「ああ、ここからじゃ姿は見えても、声は聞こえないね……」
「そうだな。でも仕方ないさ。あまり近づくと旦那様に気づかれる」
「そうですわね、テイエリーは優秀な騎士ですから。少し残念ですが、ここから見守りましょうプリム」
「……王国の騎士と王城に仕える医師との恋か。それが成就したとなれば、この場所の評判がまた上がるな。それで遠くから更に恋人達が観光に来るようになれば、我が領の収益も上がって、良いことづくめだ」
私、フレイ君、フローラ様、公爵子息様の四人は声をひそめながら会話し、お父さんとツェリさんのデートをじっと見守る。
暫くそうしていると、やがてお父さんがポケットから小さな箱を取り出し、何かを告げながらそれをツェリさんに差し出した。
その箱を見て、驚いたように目を見開くツェリさん。
次いで両手を口元に持っていき、少しの間を置いてこくりと頷き、箱を受け取ってお父さんを見上げた。
するとお父さんは、感極まったようにツェリさんを掻き抱く。
こ、これは……!!
「プロポーズ、成功……!?」
「そのようだな。良かった」
「素敵……!! なんだか憧れてしまいますわ!!」
「へえ? それはいい事を聞いたな。なら、将来適齢期になったら、僕もここで君にプロポーズしよう。僕の言葉、やり方で。楽しみに待っていて、フローラ」
「えっ……!!」
「「 ! 」」
優しく微笑みフローラ様の手を取った公爵子息様を、顔を真っ赤にして見つめるフローラ様。
甘い空気が漂い出した隣を見て、私とフレイ君は顔を見合せ、少し距離を取って離れる。
婚約関係にある二人の、甘い世界のお邪魔虫となってはいけない。
馬に蹴られてしまう。
「はあ、お父さん達も、フローラ様達も、ラブラブだねぇ。羨ましいなぁ。私もいつか、こんな場所でロマンチックに求婚されてみたいかも」
「そうか。うん、わかった、覚えておくよ」
「え? 覚えて……?」
「……今はまだ俺は兄のようなものなんだろうけど、そう遠くないうちにその認識は変えてみせるから。覚悟しておいて、プリム」
「え? ……えっっ!?」
私の呟きを拾ったフレイ君から告げられた言葉に、私は激しく動揺した。
か、覚悟って、認識って!?
それって……つまり!?
徐々に顔に熱が集まり、わたわたする私の頭を優しく一撫でして、フレイ君は目を細めて微笑んだ。
……どうやら私も、お父さんやフローラ様に負けず劣らず、既に幸せなようです……。




