ほのぼのお昼と、起きた小さな悲劇
「フレイ君、昨日の調査はどうだった? 薬師の人、連絡取れそう?」
翌日のお昼休憩、ウッドさん達から少し離れた場所でお弁当を広げつつ、私は声を潜めながらフレイ君に向けて話を切り出した。
「ああ。既にだいたいの家の場所はつきとめたよ。あとは、それをはっきりさせて在宅時間を探るだけだな」
「えっ、もう? 凄い……さすがフレイ君! じゃあよろしくね! 声をかける時は、私も一緒に行くから!」
「ああ、わかってる。任せろ、プリム」
「うん!」
私が笑顔で頷くと、フレイ君も微笑む。
そして、私の頭に手を置き、ポンポンと軽く叩くように撫でた。
「さあそれじゃ、私も午後の庭仕事、頑張るからね! フレイ君の分も!」
「ああ、頼む」
「うん、任せて!」
「ああ」
今度はフレイ君が頷き、また二人でにこりと微笑む。
さっきとは逆のその行為に、私はふと思いつき、身を乗り出してフレイ君の頭に手を伸ばした。
けれど悲しきは身長差。
伸ばした手はそこには今少し届かない。
「む~……っ」
「ははっ。ほら」
私が悔しげに声を上げると、フレイ君は可笑しそうに笑い声を上げ、頭を下げてくれた。
「……むぅ」
望んだ場所に手は届いたけれど、私はやっぱりどこか悔しくて仏頂面でそこをポンポンと撫でた。
それを見たフレイ君はまた可笑しそうに笑っている。
少し離れた場所では、ウッドさん達がそれを微笑ましそうに眺めていた。
★ ☆ ★ ☆ ★
お昼休憩が終わると、私はフレイ君と別れ、今日の作業場所が離れているウッドさん達とも別れ、一人担当の場所へと向かっていた。
交差した通路に差し掛かると、横の道の向こうに人影がちらりと見え、なんとなくそちらに顔を向ける。
「あっ!」
「ごきげんよう、プリム」
「フローラ様! こんにちは。庭にいらっしゃるって事は、私にご用ですか? それとも、お散歩に?」
その人影をフローラ様と認識した私は、笑顔で駆け寄った。
フローラ様も僅かに早足になって近づいてきてくれる。
「勿論、プリムに用ですわ。フレイ君と別行動なさっていると聞きましたの。一人では大変でしょう? 微力ながら、私がお手伝いしますわプリム!」
「えっ? お、お手伝いって、フローラ様が、ですか……?」
「ええ、そうよ? ……駄目、かしら? プリム?」
「えっ、いえ、あの、私は嬉しいですが……でも」
お姫様に庭仕事なんて、手伝わせていいんだろうか?
フローラ様の突然の申し出に困惑しながら、私はフローラ様の後ろに控えるメイドさんに視線を向けた。
すると私と目が合ったメイドさんは、笑顔で頷いた。
「フローラ様が説得なされて、陛下の許可は得ておりますよ」
「へっ……そ、そうなんですか……? わ、わかりました。じゃあ、お願いします、フローラ様。……ありがとうございます、助かります」
「ええ! 頑張りますわ! では参りましょう、プリム!」
「はい」
私がお願いすると、パアッと顔を輝かせたフローラ様は、私の腕を掴んでいそいそと促した。
私はそれに合わせて再び歩き出す。
……それにしても陛下、フローラ様に甘いよねぇ。
よく見れば、いつもより控え目で動きやすそうなドレスを纏ったフローラ様に視線を向けながら、私は心の中でそう苦笑した。
そして、午前中と、いや、昨日とも同じ担当の場所に着くと。
数人いる騎士様と、そこに広がる光景を前に、私は呆然と立ち尽くした。
お昼休憩に入る前まで元気に育ち、綺麗な花を咲かせていた花ばなは、見るも無惨に切り刻まれ、踏み荒らされていた。




