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―――王でも神でも魔王でもなく、勇者である  作者: 超越世界 作者
第一章 「光の裏には闇があり、闇の裏には光がある」
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第一章八話 「音を置き去りに」




<視点 ディウ>


―――音を置き去りに――とまではいかないぐらいの速さで、ディウは鬼双子へと迫っていく。


「おややおやや? おじさん、もしかして遠距離戦が駄目だったからって近距離戦に変えようとしてる?」

「ねえねえおじさんおじさん。遠距離戦が駄目だったからって近距離戦に変えるってのは――」

岩石嵐(ロックストーム)!!」


 ――『閃光の勇者』の二つ名を持ち、素早さと瞬発力に自信があるルーディナですら手加減を求めたディウの遠距離攻撃を、軽々と躱した鬼双子。

 ルーディナですら手加減を求めた攻撃を軽々と躱すということは、『閃光の勇者』の二つ名を持つルーディナよりも、――ディウが知っている中で、ルーディナは一番素早い――素早さや瞬発力が高いということになる。


 遠距離攻撃では軽々と躱されてしまうため、近距離攻撃での戦いに移るということは、大して変なことではないはずだ。

 だが鬼双子は、その考えは少し的外れだ、とそう言う意味を込めてか、言葉を発しようとする。

 しかしその言葉を聞きたくないからか、聞く前に技を発動した方が得と感じたのか、ディウは鬼双子の話を遮り、技を発動した。


「「おっと」」


 そのディウの、岩石を巻き込み、岩石を動かし、岩石を起動させ、岩石を破壊するような砂嵐――否、岩石嵐。

 それを、鬼双子はその攻撃の速さが思ったより速かったことに驚いたのか、まさか話を遮って技を発動するとは思わなかったのか、予想外な事態を面食らったような声を出しながら、躱す。

 鬼双子が躱したことにより、その岩石嵐の嵐は途中でなくなり、残された岩石が嵐に動かされていた余韻かなんかで、あらゆるところへと飛び散った。


「すごいすごい。そのまま近距離戦に持ち込むかと思ってたけど、案外考えてたんだね」

「そうだねそうだね。あの攻撃って遠くても近くても攻撃としてできるし、躱しただけじゃさっきみたいに岩がいろんなところ行くから、油断できないんだよ」

「なるほどなるほど。そういう活用性もあるんだね。さすがお兄ちゃん、頭いいし察しがいいし洞察力がある!!」

「でしょでしょ。さすが弟、理解力高いしすぐ納得できるしすぐに人の意見肯定できるから、素晴らしいよ!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


 躱された岩石嵐のその後を見た後、鬼双子はお互いを高め合いながら、言葉を交わす。

 交わされている言葉の内容は、先程の岩石嵐の攻撃の活用性や近遠両用の使い道など、一瞬で岩石嵐の使いやすさを見つけ理解し説明し、利点を生み出すものだ。


「っ……ならば、次だ」


 その鬼双子の理解の速さ。そして岩石嵐(ロックストーム)はもう通じないであろうと理解したディウは、岩石嵐(ロックストーム)での攻撃は諦め、他の策を実行せんと、大剣に力を込める。


「おややおやや? なんか、あのおっきな剣に力が込められてる気がするんだけど」

「そうだねそうだね。おじさん、まだ何個か策があるみたいだから、力込めてるんだろうね。次何来るか、楽しみだな」

「そっかそっか。さすがお兄ちゃん、考察すごいし相手の強さを楽しみに変えるって、すごく強いし頭いい!!」

「でしょでしょ。さすが弟、僕の考えに同意できるの、すごく強いし頭いいし空気読める!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


 鬼双子の漫才のような話を聞き、ディウは、鬼双子に自分の次にする手段が暴かれたと、理解する。

 だが――だからと言って、今の攻撃をやめて、また次の策に移るわけにはいかない。故に――


「――行くぞ!!」


 ――なぜか自分の中で感じる高揚感のままに、相手に技を放つという意味合いを込め、掛け声をかける。

 直後、なぜ自分はそんな掛け声を放ったのかと、不思議に思うが――そんなことは、些細なことだ。


「ふっ!」


 遠距離戦と遠距離攻撃は、先程言われて感じた通り、鬼双子には通用しない。

 それ故に、ディウはその力を込められた大剣を構えながら鬼双子へと接近し――鬼双子ではなく、地面でもなく、空中に向かって、剣を振るう。


「「お?」」


 そのディウの行動に、鬼双子が興味津々と言わんばかりの声を出すが、それを気にも止めず、ディウは次の技を放つ。


岩石切(ロックカッター)!!」


 そしてディウはそう叫びながら、大剣に籠っていた力を解放した。

 その力は、先程の岩石嵐(ロックストーム)のように、岩石を荒らす嵐へとなる――わけではない。

 どちらかというと力が凝縮され、素早く的確に、真一文字に空へと飛んでいく。


「「ん?」」


 その、空へと飛んでいく岩石切(ロックカッター)を見て、鬼双子は、先程遠距離攻撃は駄目だと言ったはずだが、のような疑問に満ち溢れた声を上げるが――そんな声を上げている時間も、短く。


岩石断(ロックグレイブ)!!」

「「おお!!」」


 いつの間にか、ディウは鬼双子の至近距離へと迫っており、そのまま大剣を地面に突き刺し、大地から岩を突き出させる。

 そして鬼双子は、その攻撃を見て――こちらが本命だったのか、さっきの空に飛ばしたやつは囮かとでも言わんばかりの、驚愕の歓声をあげる。

 ――だが、鬼双子のその考えは、筋違いだ。


「よいしょよいしょ。おじさんすごいね、学んでるね」

「そうだねそうだね。さっきのやつが囮だったなんて――」

「――いや、違う!!」

「「え?」」


 その岩石断(ロックグレイブ)を鬼双子は容易く避け、ディウの賢い行動に、賞賛を与えんと言葉を発しようとするが――完全に発することは叶わず、ディウの声に遮られる。

 そのディウの言葉の意味に、意図に、疑問の声を上げる鬼双子だが、その疑問の声に答えるように――


「「おおっと!!」」


 ――先程、空へと真一文に飛ばした岩石切(ロックカッター)が、鬼双子へと降り注いだ。


「わーすごいわーすごい! 真の囮はさっきの突き出てくる岩ってことか!」

「そういうことだねそういうことだね! 空に飛ばしたやつを囮に見せて攻撃するけど、実はそっちの攻撃の方が囮で、空に飛ばした方が真の攻撃……二段構えってやつだね!!」

「そうかそうか。さすがお兄ちゃん、理解力も説明力も高い!!」

「でしょでしょ。さすが弟、こんぐらいの説明でわかるなんて、すっごく優秀!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


 そして鬼双子は、漫才のようなやり取りをしながら、岩石切(ロックカッター)を上手く躱し、先程のディウの攻撃について、理解と説明を示す。


「……やはり、強いな」


 ――その理解の速さ、洞察力や監視力、説明力に、ディウは思わず、思ったことを呟く。

 二人は鬼の子供なのに――いや、逆に子供なのだから、普通の人が気付かないようなところまで、よく見ているのだろう。


 ――子供というのは、まだ脳内の記憶力に余裕がある。

 子供はまだ自由で、知らないことがたくさんあって、単純な思考をしているからこそ――縛られ、世の中を知り尽くし、何事にも複雑な思考を持ってしまう大人よりも、脳内の記憶力に余裕がある。

 だから人一倍よく見てるし、人一倍理解できるし、人一倍実行できるし、人一倍勇気がある。


 ――故に、強い。


「――――」


 相手が強いからと言って、ディウは諦めることなどしない――というより、むしろ盛り上がる方である。


 相手が強ければこちらも苦戦を強いられるが、その分、得られるものというのが多い。

 相手が強ければ、自分が使えない、使ったことのない、そもそも知らないような技を使ったり、特殊な使い道をしたりする。

 相手が強ければ、自分が見たことのない技や武器、聞いたことのない単語や情報、感じたことのない感情や心情を持っていて、知っていて、蓄えている。

 だからこそ、それを取り込めば、自分も使えるように努力すれば、得られるものというのは多いのだ。


 故にディウは、相手が強ければ強いほど、歓迎する。

 今の自分をさらに高めることができて、今の自分よりも強いものを知れて目標が高くなって、できることが増え、知ることが増え、そして何より――人生というものが楽しくなる。


「……ふっ」


 そんな思考をしている自分に、ディウは自嘲気味に笑いを溢す。

 腹を抱えて笑うや、大笑いや満面の笑みなどの大層な笑いとはまた違う――微笑みや、微笑と言った、細やかな笑み。


 ――楽しい、楽しいのだ。――嬉しい、嬉しいのだ。――喜ばしい、喜ばしいのだ。

 心が熱くなり、体がさらなる力を求めて、脳が活性し、腕が鳴り、足が騒ぎ、心臓が震える。


 ――強者とは、良いものだ。


「お、いいねいいね。おじさん熱くなってきたんじゃない?」

「お、ほんとだほんとだ。おじさん燃えてきたんじゃない?」

「……ああ、おかげでな」


 ――強者とは、良いものだ。


 いつの間にか心がさらなる力を、さらなる情報を、さらなる知識を求める。

 いつの間にか体がさらなる力を、さらなる情報を、さらなる知識を求める。

 目がもっと見たいと、耳がもっと聞きたいと、口がもっと言葉を交わしたいと、脳がもっと考えたいと、腕が足がもっと動きたいと、心臓がもっと緊張をよこせと、そう言う。


 ――強者とは、良いものなのだ。


「さっきまでは、最低な子供共だと思っていたのにな」


 戦いとは、人の本質が、性格が、本能的に求めている部分が出る。

 先程まで、ディウが鬼双子に持つ印象は、自分の心的負担発散か私利私欲程度の感情かで人を無惨に殺し、適当に兄弟愛でお互いを高め合い、相手を蹂躙することに楽しみを覚えているのかと、そんな印象だった。

 だが――今はまるっきり、逆だ。


 鬼双子が、あんな素晴らしい力を持つ強者が、心的負担発散で、私利私欲で人を無惨に殺すわけがないと、ディウは思う。

 鬼双子が、あんな素晴らしい兄弟愛を持つ強者が、適当にお互いを高め合うわけがないと、ディウは思う。

 鬼双子が、あんな素晴らしい技や知恵を持つ強者が、相手を蹂躙することに楽しみを覚えているわけがないと、ディウは思う。

 その証拠に――


「――俺は、殺されてない」


 ――鬼双子の力なら、ディウなんてもう殺せているはずだ。

 ――なのに、殺されてない。ディウは今も尚、生きている。


「――兄弟愛は、いつものように出される」


 適当にお互いを高め合うなら、いつものように出されるわけがない。

 適当ならお互いのいい点が毎回見つからないだろうし、それを毎回毎回とは、褒めないはず。


「――弟が言ってたように、情報を齎してくれた(もたらしてくれた)


 遠距離攻撃の利点と不利点を、ディウに話した。

 岩石嵐(ロックストーム)の良さを、ディウに話した。岩石切(ロックカッター)岩石断(ロックグレイブ)での作戦の良さを、ディウに話した。

 熱くなったことに勘づいて、指摘してくれた。


「――悪いやつでは、ない」


 ――人を殺すのにだって、なんらかの理由がある。

 その理由が心的負担発散とか私利私欲とかなら最悪の権化、死んでも当然の輩なのだが――鬼双子は、違うと断言ができる。

 ならば、何か別の理由があるのだろう。

 相手は魔界王配下の各種族幹部。『勇者パーティ』の一人であるディウに、そう言った理由を話すのも難しいだろう。


「――行くぞ」


 悪いやつではないとわかっているからこそ、ディウは、鬼双子に全力でぶつかりたい。

 鬼双子になら、あの子供たちになら、自分の全力というものが見せられる。


「いいよいいよ。なんかこっちまで楽しくなって来ちゃったよ」

「そうだねそうだね。バトルしたのも久々だし、なんか楽しいのも久々だよ。さすがおじさん、『勇者パーティ』の一人だけあるね」


 鬼双子の言葉を聞いて、大事なことをディウは思い出した。


「……そうだ、俺のことはこれからディウと呼べ」

「「え?」」

「最後に、俺は全力でぶつかるぞ。――バルガロン、ブルガロン」


 そう言った後、ディウは目を細め、己の身体を整理する。

 自分の体を流れる魔力の流れ。自分の脳に侵食する余分な情報の排除。自分の体の筋肉がどこか変なところに力が入っていないか、などなど。

 自分の体が無駄な力なく、無駄な魔力なく、無駄な疲労なく技を打てるように、体という体の器官を、巡りを、力を、記憶を整理する。

 そして――


騎士技術(キャバリエアーツ)――」


 ――放つ。


「――空間破絶巨撃(スペースアナイアレイト・インパクト)!!」


 空間がひび割れ、時間が少しだけずらされ、大地が歪み、建物の窓が破壊される。

 まさに破壊の権化、滅亡の化身、終焉の災禍のような二つ名が似合うその攻撃を、ディウの全力を、鬼双子へと放つ。

 そして、肝心の鬼双子は――


「すごいすごい。さすがディウ、『勇者パーティ』の一人だけあるね」

「そうだねそうだね。さすがディウ、一流の冒険者だね」

「――――」


 ――そう、言った。

 ディウは、それに対し、少しだけ笑みを浮かべながら――


「はぁ――!!」


 ――音を置き去りに――するぐらいの速さで、鬼双子へと迫っていった。




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