第二章四十八話 「団斬」
―――レーナエーナはそのまま、ディウの気配がする方へと駆けていく。
辺りは未だにレーナエーナの反射させた光に包まれ照らされており、気配から察するに、ディウも『英雄五傑』も何がなんだかと困惑している様子だ。
ディウはともかく、作戦を立てていた『英雄五傑』たちには若干罪悪感もあるが、それは後で謝ればいいと区切りをつける。
ちなみにだが、レーナエーナの剣に光が反射したというのに、レーナエーナが剣を持ち動いても問題なく光が輝き続けているのは、理由がある。
――光からの反射。
剣でも鏡でも金属でもなんでもいいから、それらに当たった光を反射させる魔法だ。
――光をも保持。
反射させた光でも、日の当たりが強い場所の光でもなんでもいいから、それらの光をその場に留めておく魔法だ。
それらを使ったが故、レーナエーナが動いても、光はその場で光り輝き煌めき続ける。
「……じゃあ、行くわよお」
そう小さく、言う意味もないぐらいの声量でレーナエーナは呟く。
殺意も敵意も込めず、だがしかし少しの悪意は込め、切り捨てんという覚悟も一応込め、レーナエーナはディウへと近づいていき、剣を振るおうと――
「……は?」
――した。だが、遅かった。――刹那、光が消え去ったから。
△▼△▼△▼△▼△
「っ……!?」
レーナエーナは、その光景に呆然とするしかできなかった。否、正確に言うと、『英雄五傑』全員が、呆然とするしかできなかった。
意味不明の呆然であり、理解不能の唖然。それは、その俄然、突然として起こった場面に対する当然で自然な反応で、それ故に皆は凝然、動けなかった。
「……ふ、なかなかな遊びをしてくれるものだ」
「――――」
『英雄五傑』は誰一人として動けなかったが、ただ一人、愉快そうに声を出す人物がそこにはいた。
場違いのように笑い、場に合っているように剣を地に突き立て、場違いとも合っているとも見れるように声を出している。
――ディウだ。ディウ・ゴウメンションだ。『勇者パーティ』の一員の、ディウ・ゴウメンションだ。
「光を反射させたのか、魔法か何かで集めたのかは知らないが……ああ、面白い。俺はこう言う普通は使わない特殊な手段や、圧倒的な強者が好きなのだ」
「――――」
「……すごく、熱い」
彼は何か一人で呟いているが、その内容のほとんどは、レーナエーナに入ってこない。
それ以前に、先程の起こった現象が理解不能が過ぎて、意味不明が過ぎて、脳には何一つとして情報が入ってこない。
――今、さっき、ディウは、何をした?
「――――」
状況を整理しよう。
レーナエーナは、ディウからの攻撃で吹き飛ばされそうになったリアテュとロクトを助ける、もとい吹き飛ばされたら分が悪い故、不意の一撃を放った。
それが先程の魔法で解説した、光の反射だ。
光からの反射で光を反射させ、光をも《リテイン・オブ》保持でその場に維持させる。
その戦法を使い、レーナエーナはディウに隙を作り、その間に攻撃をせんと、企んだ。
――だが、しかし、その維持させた、保持させた、留めておいた光は、消え去った。
そしてその後、楽しそうに、愉快そうに呟いている、ディウ。
「――――」
ここまでの経緯ならば、ディウが何かしらの魔法か、もしくは特殊な技法かで、光を消した、という話でも説明はつく。
だが、レーナエーナは感じたのだ。――光が消え去ったときに、剣が振るわれることで放たれる、振動を。
「――――」
剣を振るうと、その剣の振るった後の余韻か何かで、振動のようなものが放たれる。
空気のような、だが強い風のような。そんな感じの、言葉として表すのは難しい類の、振動だ。
――ここまで情報が集まれば、それは嫌でもわかるものなのだ。
光を放って、それが消えた。
そのときに、剣を振るったとき特有の振動を感じた。
その後、その場に立っているディウは愉快そうで。
――それは単純に見えて、人間的に見て、あり得ない話。
「……は」
―――ディウは光を、斬ったのだ。




