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第二章四十七話 「団戦」




―――ディウの圧迫感があり切迫感がある開始の合図が放たれた後、『英雄五傑』の諸々は仮訓練所の中央に居座るディウへと、駆けていった。


「――――」


 ――『英雄五傑』の諸々がこの戦いに対し本気を尽くすのか、もしくはディウの心配をしてくれて手加減をするのか、見当はつかない。

 だが、ディウは加減は与えないつもりだ。――否、無論殺さないように傷を与えないように手加減はするが、その中での全力は尽くす、つもりだ。


「――――」


 だが、今回の戦は『英雄五傑』との友誼を深めるためであり、『英雄五傑』の強さを知るためである。

 故に、ディウが初手から彼ら彼女らに攻めていき、軽く技量や防御を掻い潜り、『英雄五傑』の見せ場なくして終わらせるというのは、話が違う。

 ――『英雄五傑』の五人相手にディウがそこまで圧倒できるかはわからないが。


「――――」


 ――だからディウは、『英雄五傑』の諸々がディウを目掛けて駆けてきても、その場を動くことはせず、不動のままであった。


「――最初はリアテュか」


 そのディウの呟き前、『英雄五傑』はそれぞれで目配せをし、四方へと散開した。

 そしてその後、ディウへと目標を定め腰の剣を引き抜き、対峙せんと駆けてきたのは――彼の呟き通り、リアテュである。


「――――」


 靡く(なびく)赤髪と、その女性らしい華奢な体から紅の炎を連想させん姿の彼女は、変化球な行動はせず、至極単純にディウの目前から迫ってくる。

 ディウは周りを警戒しながら、迫り来る彼女へ対抗せんと、己の黒曜石のように怪しく光輝く大剣を引き抜いた。


「はっ、やっ!」

「――――」


 リアテュは勇ましい声を上げながら、ディウは無言で相手を観察しながら、両者、剣をぶつけ合う。

 正面からぶつかり合った剣は、その後、左右上下前後斜め百八十度三百六十度四方八方へと、爽快な金属音を鳴らしながらぶつかり合う。


 長細剣と太大剣という違いがあるにも関わらず、両者は一歩も引かず、斬り合い薙ぎ合い跳ね返し合い――刹那。

 ――ディウの後ろから、殺意も敵意も込められてはいないが、切り捨てんという覚悟だけが込められている剣が、影のようにすっと現れた。


「っ……」


 背後が故に見えはしないが、その気配だけは察知したディウ。

 前には四方八方へと剣を薙ぎ払うリアテュが。後ろには誰かは知らないが気配だけは感じる剣が。

 挟み撃ちにされ、ディウは一時(ひととき)だけどうしようかと思考し――その地面を踏み鳴らし、上空へと跳んだ。


「――――」


 その巨体からは予想不可能なような跳び上がり具合に、リアテュも、後ろから迫ってきた人物――ロクトも、驚愕の表情で顔を染める。

 ディウはそのまま地面へ大剣を振り下ろし、振動で彼ら彼女らを吹き飛ばそうとして――刹那、突如として辺りを照らした謎の光により、その行動は叶わなかった。


              △▼△▼△▼△▼△


<視点 レーナエーナ>


 ――レーナエーナが目指す英雄像は、“死ぬときまで相手に有利を感じさせないこと”だ。

 例え勝負で負けたとしても、死ぬそのときまで相手を嘲笑い、揶揄い、おちょくり、大胆不敵な笑みを浮かべ、相手に有利を感じさせず、戦いたくなかった敵だと相手に記憶させる。


 それは勝負後の勝敗のときだけでなく、勝負中でも同じだ。

 罠を使い、卑怯な手段で、時には正直に、しかし虚偽も混ぜ、相手を混乱させ、苛立つでも不気味に思うでもなんでもいいから、相手に有利を感じさせない。

 そんな方法で戦い続ければ、騎士や勇者や、さらには英雄などとも呼ばれることはないであろうが、そんなことはレーナエーナから見て些事にしか過ぎない。


 そこには深く悲惨な過去や事情諸々があるのだが、そんなことは今はどうでもいい。

 今言うべきことは、相手に有利を感じさせず、不快にさせるような戦い方をレーナエーナは好む故、さまざまな到底普通とは言えない手段を持っている、ということだ。


 落とし穴を作ったり、虚言を吐いたり、剣に毒を塗ったりと、とにかく相手が嫌がり、不快に思い、己が有利だとは感じない戦法。

 ――故に、彼女はその剣で光を反射させ、辺り一面を照らし、その隙に不意で攻撃を成功させる、という手段も取れる。

 ちなみに、それらはほとんど彼女の独自の技法か、魔法だ。


「――――」


 だから、辺りを照らすその謎の光は、レーナエーナが使用した数多くあるうちの一つの戦法。

 あのままディウが地を震えさせ、その振動でリアテュとロクトを吹き飛ばす、というのはレーナエーナから見たら少々、分が悪い。

 だからその戦法を使用し、敵味方関係せず巻き込んだ。たったそれだけの話だ。


「――――」


 とは言え、『英雄五傑』たちとは三年近くのつき合いだ。レーナエーナの卑怯で姑息な戦法の数々など既に把握しているだろう。

 作戦通りには進まなかったが、致し方なし。そもそも『勇者パーティ』の一員相手に作戦通りに進むなど、おそらく誰も思っていない。


「……じゃあちょっと予想外の展開があったけどお、このまま作戦通りってことで、いいわよねえ」


 レーナエーナはその後、誰の返答も待たず、そもそも返答を貰う予定などなく、ディウの気配が感じる方向へ駆けていく。


 ――まだまだ、ディウ対『英雄五傑』の戦いは、始まったばかりである。




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