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第二章四十五話 「団場」




「……豪華ね」

「豪華っすね」

「豪華ねえ」

「豪華。」

「豪華ンだなン」


 ――第一巨大王国ノヴァディースの中央に位置する巨大な城、王城ゼレルヘレル。


 戦うための準備をするぞ、とディウが言い着いた場所がここだ。

 王族か上位貴族かぐらいしか入れない場所故に、『英雄五傑』の諸々は、驚愕か動揺か唖然か呆然かの表情を浮かべていた。

 それをディウが一掃し、正気を取り戻した『英雄五傑』たちと王城ゼレルヘレルの中にある、次代国王イ・エヴェンの住処の隣王城ゼルへと入っていき、その際の感想の一言目が、上記のものである。


「――――」


 確かに、言われてみれば豪華だ。

 今代国王の住処である国王城レレよりかは目劣りするかもしれないが、それでも十二分に豪華である。

 

 今、ディウたちが歩いているのは廊下だ。

 赤色と言うより紅色と言った方が適切だと思われる、豪華な絨毯。

 壁は金色と白色のひし形が散りばめられており、床は絨毯を目立たせるためか、黒曜石のような漆黒色で統一されている。

 城や王宮ではよく見る絵や画像などは飾られていないが、それでも十分きらびやかであり、輝かしく煌めいている。


 故に、こういう場所に慣れていないであろう『英雄五傑』たちがそう言った感想を言うのも、仕方のないことである。


「ディウ殿ディウ殿、これって叫んだりして大丈夫なんすか?ちょっと僕声がどのくらい反響するのかとかやってみたいんすけど痛っ!?」

「やめなさいよ貴殿。そんな庶民が王城に訪れたときの反応みたいな」

「みたいも何も実際そうなんすけどね」


 少し興奮した様子のラウヴィットが、登山した山の頂上に登ったときにするようなことを言うが、リアテュに手刀を食らって黙らされる。

 だが、やはりリアテュはともかく、ラウヴィットはこう言った王族や貴族がいる場所には来たことがないようだ。

 故に、ラウヴィットのようにソワソワしている、他の三人も然りで。


「でもお、ラウヴィットの気持ちわかるわよお?なんだか、こういう場所って罪を犯したくなるのよねえ」

「そこまでとはいきませんが。ちょっとした良くないことはしたくなります。」

「ンだな」


 そのやり取りから、ディウは若干の違和感が生まれる。

 三人揃ってラウヴィットに賛成しているため、全員彼のようにこういう場所には来たことがない、ということだが――ロクトとルタテイトはともかく、レーナエーナは来たことがないのだろうか。


 金髪という貴族以外ではなかなか見ない髪の色に、一人称は丁寧なわたくし、そして喋り方もお嬢様のようななまりがある。

 ――否、可能性としてディウの勘違い説、思い違い説もあるので、念のために質問をする。


「……レーナエーナ、お前はこういう場所には来たことがないのか?」

「わたくし?」


 ディウはその返答に頷くと、彼女はその質問が意外だったのか、目を見開いて驚愕を露わにしながら――


「……そうねえ、こういう場所に来たことはあるんでしょうけどお、覚えてないわあ」


 ――そんな、返答をした。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――隣王城ゼルの内部の構造の詳しい説明をしよう。


 まず、出入り口である門を入っていくと、先程のディウたちが歩いていた廊下がある。

 その廊下を進んでいくと大きな螺旋状の階段に突き当たる。そしてそこを登っていくと、二階三階四階五階へと行くことができるのだ。


 一階には廊下と出入り口。二階には書庫と巨大風呂。三階には仮の訓練所。四階には生活部屋。五階には王国全体を見渡せる、露出している部屋。

 隣王城ゼルの構造は、ざっくりと言えばそんな感じだ。

 ディウたちはここに戦いに来た故、三階の仮の訓練所に行くことになる。


「――――」


 ただいま階段を登っている最中だが、先程の廊下とは違い、すごく静かである。

 ――それもそうだろう。『英雄五傑』たちはこの後、ディウと戦うのだ。

 自分で言ってはあれかもしれないが、ディウは『勇者パーティ』の一員であり、手合わせどころか見ることすらなかなかに珍しいことだ。

 故に、彼ら彼女らが緊張故に静寂になるのは、仕方のないことなのかもしれない。


「――――」


 ディウはふと後ろを振り返ると、やはり全員が全員、少し緊張した顔になっていた。

 なぜかラウヴィットだけはリアテュの胸ら辺をずっと見ているが、それ以外は冷や汗をかいていたり、目を閉じていたりと、普通ではない様子だ。


「――――」


 コツコツと、階段を登る音だけが響いていく。

 ドンドンと、廊下を走るような音も聞こえてくる。


「……む?」


 ――。

 ――廊下を走るような音とは、なんだ?


「……むむ?」


 ディウがそう、疑問に思った直後。

 三階の扉が、ふと、バーンと大きな音を鳴らしながら、開かれた。


「ちょっとモモ待ってってば!」

「いーやーでーす! というかルナ様のせいです今回は完全に!」

「なんで!? 私モモたちに自分の身は自分で守れるために……!」

「だからって元奴隷で碌に最近体も動かしてない人たち無理矢理戦わせます!? ルナ様って意外と脳筋ですよね!?」

「だ、誰が脳筋!? そんなわけないでしょ!」


 刹那、そこからそんな大声を上げて騒ぎながら飛び出てきたのはディウがよく見覚えのある、短い金髪に純白の鎧を纏った少女――ルーディナ・デウエクス。

 そしてもう一人、見覚えのない桃色と水色の二つを混ぜたような髪色をした少女。

 一瞬メリアか、とも思ったが、彼女の発言――元奴隷、という言葉にその可能性は失われた。


「――――」

「ルーディナさーん? 急に飛び出したりしたら危なひゃう!?」

「メリアちゃん! 聞いて聞いてよ、脳筋って言われた!」

「んあっ、いや的射てはいると思いますけど……やんっ、ちょルーディナさん胸弄っちゃああっ!?」

「うう、メリアちゃんまでに言われた〜。こんにゃろ」

「あんっ、て、撤回しますからあ、やめっ……!?」


 そして更に、そのルーディナともう一人の少女を追いかけてきたのか、今度は桃髪の聖女のような服を着た女性――紛うことなきメリア・ユウニコーンが飛び出してきた。

 そしてその後、(はた)から見れば見るのが気まずいとしか言いようのない光景を見せられ、ディウも『英雄五傑』たちも流石に驚愕が故、固まっている。


「ほーら撤回しろ撤回しろ。ほらほら〜」

「あ、んっ、ちょ、ルーディナさ、あ待ってやめっ、ちょ、そんな先端弄っちゃ……!?」

「えへへ〜。可愛いなぁ全くもう」

「んあっ、あうっ、あ、やっ、はうっ」


 他に人がいるというのに気にせず二人の世界に入っているルーディナとメリアに呆れた目線を送り、未だに気づかれていないディウははぁ、とため息を吐く。

 すると、メリアを弄り倒しているルーディナがこちらを向き、固まり、ものすごい量の冷や汗をかき始める。

 それを見て、ディウは――


「……何をやっているんだ、お前ら」


 ――今日一番の呆れた声で、そう言った。




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