第二章四十四話 「団備」
―――そのラウヴィットとリアテュの言い合い然り、レーナエーナの変な性癖か知らないがそうであろうもの然り、ロクトとルタテイトの口調が少しだけ特殊なところも然り。
『英雄五傑』とは、本当に自分の中にある英雄像を目指しているのか、と疑いたくなるほど、自由奔放で騒がしくて、子供のような集団だった。
「……まあ、いいか」
だが、ディウは騎士鍛錬場メガナイツで彼ら彼女らの訓練の質や量、雰囲気の違いなどをしっかりと見ているため、『英雄五傑』に対する評価は下がらない。
むしろ、上がったぐらいだ。
――話しやすい、関わりやすい。そう言った力は、やはりある方が断然、いい。
「……だが、騒ぎ続けるのもあれだからな。そろそろ止めるか」
と言っても、永遠に言い合いを続けていたら話が進まない。
なのでディウは今も尚、どちらかと言うと騒いでいるというより戯れているようにしか見えないラウヴィットとリアテュに近づき――
「「むがっ」」
「ほれ、そんな戯れていてはいつまで経っても着かんから、さっさと行くぞ」
「「はい、すみま……って戯れてない!」」
――二人の頭に、軽く瓦割りを食らわせた。
悲鳴の声も、ディウの戯れと評したものに反論する声も、同じ言い方で同じときに言うことから、二人は本当に仲がいいと見える。
「……いや、仲がいい、というよりは相性がいい、と言ったところかもな」
「え、ちょっと急になんすか困るっすよそんなこんな女と相性がいいとか言われるのはちょっと」
「……そう?私はまあ、貴殿となら、別に……」
「え?あ、そっすか……ああ、まあ、そっすね、はい……」
「――――」
ディウの訂正の発言に、ラウヴィットは最初は照れ隠しのような発言をしたが――その後、なかなかに甘い雰囲気となる。
なぜ側から見れば相思相愛だと簡単にわかるのに、未だに恋人ではないのかとディウは思う。意外と恋愛関係とはいろいろと複雑なのかもしれない。
「……あれ、これ周りの人たちって、なんで僕らに反応してないんすかね?」
と、ディウの恋愛思考を遮るように割り入ってきた声は、ラウヴィットのものだ。
彼はこの甘くもあり故に気まずくもある雰囲気を逸らそうとしたのか、別の話題へと疑問符をつける。
そして、ラウヴィットだけでなく――
「そのことなら。己も少し前ほどから。気になっていました。……ルタテイトも。でしょう?」
「ンだな。ラウヴィットとリアテュの二人ンがいろいろンと言い合いンしてンとき、よく周りの人間らは気づかねぇンなと思ったンだよ」
――ロクトとルタテイトもラウヴィットの疑問に便乗して、先程から感じていた疑問を言う。
――確かに、そうだ。
『勇者パーティ』の一員であるという、どこに行っても大物として見られるであろうディウ。
そして、他の国で知られているのかは知らないが、このノヴァディーズではよく知られているであろう、『英雄五傑』。しかも、全員集合。
だと言うのに、普通に歩いても少しだけ騒いでも、国民は誰も反応するどころか気づくことすらない。
そんなの、疑問を持つに決まっている。
「ああ、それか」
それに対し、ディウはあっさりとささっとぱぱっと答えた。理由は、単純にその疑問について身に覚えがあるからだ。
そんなに早く相槌を打たれたことに若干驚いているラウヴィットたちを横目に、ディウは自分の右手を掲げ――
「俺の中指に、指輪がついているだろう?」
「あらあ、ディウ殿って結婚してたのかしらあ?」
「そうではなく、これがお前らの疑問の原因だ」
――自分の右手の中指についている指輪を、指す。
レーナエーナの揶揄いのような突っ込みを軽々と躱し、その後のディウの発言に疑問符を浮かべている『英雄五傑』を見て、彼は説明を再開する。
「この指輪には、認識阻害結界という魔法がついている。俺のところの……メリア・ユウニコーンという『勇者パーティ』の一人は知っているだろう?そいつがかけてくれたものだ」
「「「「「ほへー……」」」」」
「故に、俺らのことは周りから見えてもいないし、声も聞こえていない。……まあ、範囲外に行ったら効果はなくなるのだがな」
この指輪の特徴は、魔力を込めれば込めるほど、効果範囲が広がるということだ。
魔法自体なら使う魔力は決められていて、故に効果範囲は広がることも狭まることもない。が、それだといろいろと使いずらいのだ。
故にメリアは隠密行動が目的ではないルーディナと、後自分自身は使えるからと言って、それ以外の諸々に、この指輪を渡した。
「まあ、そんなところだ。……それよりも、早く行くぞ」
疑問が解けたのであろう。ロクトとルタテイトは興味深い顔をして、レーナエーナは指輪をじっと見つめて、ラウヴィットはよくわからなそうな顔をして、それをリアテュが呆れたように見ている。
そんな中、ディウのその発言が響いた。
△▼△▼△▼△▼△
――ディウは『英雄五傑』と戦闘をするつもりだが、目立たないようにしなければならない。
では、どこで行うのがいいだろうか。
騎士鍛錬場メガナイツでは他の騎士たちの注目を集めてしまうため、避けた。
街中でやるなど常外で埒外で論外すぎるので、避けた。
王国にはいくつかの簡易な広場のような訓練場があるが、それだと国民たちの注目を集めてしまうため、避けた。
ならば、どこで行うか。
「……さて、着いたぞ」
「――――」
そうディウの発言に、『英雄五傑』の諸々は、動揺か驚愕か呆然か唖然か、いずれかの表情を浮かべただろう。
生憎とディウはその目的の場所を見ており、その後ろに『英雄五傑』の諸々がいるため、彼ら彼女らの表情は見えない。
だがそれでも、沈黙から、場の雰囲気から、なんとなくそんな表情をしているだろうな、というのは感じて取れた。
――『英雄五傑』が驚くのも無理はない。何せ、場所が場所だ。
本当にこんなところで戦闘をして良いのか、本当にこんなところに訪れて良いのか。そう思うものが多発してもおかしくない。
そう思いながら、ディウは――
「……王国城ゼレルヘレルだ。さて、中に入るぞ」
――着いた場所の名称を言って、入り口へと歩き始めた。




