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第二章四十三話 「団議」




―――五者五様の返事、それはディウからしてみれば嬉しいものであったが、本当にそんなあっさりと決めていいものなのか、という疑問も出てきた。


「――――」


 単純な話、『英雄五傑』の五人対ディウの一人というのは、ディウの方に得はあれど、『英雄五傑』の方には少ないと思われる。

 ディウの方は相手の実力を知れたり、戦うことでわかり合い仲良くなったりと、そう言った得があるのだ。

 それは『英雄五傑』にも言えることであるが――それは、彼ら彼女らにとって得なのだろうか。


「――――」


 はっきり言うと、『英雄五傑』の諸々からして、ディウがどう見られているのかわからない。

 尊敬すべき相手だと見られていたら嬉しいし、大して関係のない人だと見られていたら寂しいし、むしろ訓練の邪魔になるとか思われていたら普通に悲しい。

 故に――ディウの実力を知れたり、戦うことでわかり合い仲良くなったりが、『英雄五傑』側に取って得なのかどうか、わからない。


「――――」


 だから、その返答自体は嬉しいものであるが、本当にそんなにあっさりと決めていいものなのか、と疑問も出てきた。

 と、終始一人で悩んでいても解決策は生み出されないので――


「……前向きな返答を貰ったところで申し訳ないが、なんでお前らは俺の要望を受け入れた?俺には得があるが、お前らからして見れば、得はないと思うのだが……」


 ――率直に素直に、もはや少し失礼ではないかと思うぐらい、『英雄五傑』の諸々に質問をした。

 と言っても申し訳ないやらどうやらと言っているので、おそらく失礼と言ったことにはならないだろう。


 ――そんなことはどうでも良く、ディウは彼ら彼女らの反応を待つ。

 『英雄五傑』の諸々はディウの質問に、ロクトとルタテイトは来るとでも予想していたのか大した動揺は見られず、ラウヴィットとレーナエーナは少しきょとんとした表情をして、リアテュは立ち上がり―――


「そんなの、ディウ殿との貴重な関わる時間を無駄にしないというためでもあり、ついでに特訓がてらにもなるからです。おそらく他の皆んなも、そのような理由かと」

「あらあ、そうなのお?わたくしはなんか楽しそうだからって理由だけどお?」

「そっすか、僕は気分転換っすね。日頃―訓練ばっかしてるっすから、たまには別のことしたいって話っすよ」

「己は。ラウヴィットに同じく。」

「俺ンは単純にン、皆ンながやろうってン言ってンだから受けたンって話だンぜン」

「ディウ殿、やはり私こいつらを締めようと思います」


 ――右手に胸を当てて丁寧にお辞儀しながら、至極真っ当なことを言う。

 その律儀な態度に、ディウは自ずと彼女への好感度が上がるが――その後、その彼女の態度をぶち壊すかのような他の四人の割り込みに、ディウは苦笑する。


 レーナエーナは彼女らしく、義務的義理的と言った理由よりかは、感情的な理由で。

 ラウヴィットはその受け身な性格からして、日頃が疲れているのだろう、故に気分転換を取るためという理由で。

 ロクトは疲れているのか飽きているのか知らないが、ラウヴィットと同じく気分転換という理由で。

 ルタテイトは要望や欲求をあまり表に出さないのか、どうせ多数決で決まるから、という理由で。


 どうやらそれぞれが、ディウの要望を受けた理由は、一応しっかりとしたものとしてあるらしい。

 故に――


「お前らが受けた理由はわかった。……では、準備をしよう」


 ――その好意をしっかりと受け止めながら、ディウはそう、言葉を溢した。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――準備をしよう、とディウは言ったが、一体なんの準備をするのか。

 『英雄五傑』の諸々は先程のディウの発言に、そんな疑問を抱いているはずだ。


「ここで戦えば、他の訓練している騎士たちからいろいろと目立つ。故に、場所を変えよう」


 飽くまでディウの予想だが、なんの準備をするのかとそんな疑問を抱いているであろう『英雄五傑』たちに。そんな彼らに、ディウは簡潔に説明をする。

 正確に言えば、ディウや『英雄五傑』が白熱する戦いをして周りから目立てば、今後の行動が酷くやりづらくなる。


 ――何せ、やろうとしていることが国王の処刑だ。

 戦っているところを見られ、終わった後になんでそんな戦いをしていたのだとか、どんな出会い方をしたんだとかの理由を聞かれれば、いろいろとまずいことになると想像するのは容易い。

 故に――場所を変え、なるべく目立たないように、戦闘をする。

 それが、ディウの望んでいる顛末だ。


「……ディウ殿、少しよろしいでしょうか、ええ」

「む?」


 ――と、そこで、行き先に向かおうと振り返ったディウに、話しかけてくる声がある。

 それは、金髪金瞳金鎧金剣の、『副騎士団長』――ジェノン・ブルガルダスだ。

 そう言えばジェノンとアルテッドもいたな、と『英雄五傑』の話し合いで彼らを若干忘れていたが、そんなことを直接言うディウではない。

 とりあえず何事か、とジェノンの方を向き――


「私とアルテッドは、そろそろエヴェン様の元へ戻ろうかと、はい」

「ほっほっほっ、後はディウ殿に任せて大丈夫と見る次第」

「……そうか、わかった。ありがとな、いろいろと。……訓練所の案内に、騎士たちへの呼びかけ、その他諸々、助かった」

「いえ、それが私たちの役目ですので、ええ。当然のことをしたまでですよ」

「そうですなぁ。わしはそれよりも、彼らと五対一で戦うと決めたディウ殿の方が、勇気あると見る次第」


 ――理解、感謝を述べ、ディウは二人と一時期の別れを告げる。


 ――ジェノンとアルテッドがいなければ、今回のことを一人でやるには、ディウ一人では少々厳しかったはずだ。

 それらの感謝を述べ、ジェノンとアルテッドからの感謝や褒め言葉も貰い――


「では、また後程」

「ご健闘を祈りますねぇ」

「うむ」


 ――三人とも短い言葉で、それぞれの行くべき道へと進んでいった。


              △▼△▼△▼△▼△


「――あんま涙腺緩まなかった別れ告げてたっすけど、なんすか、これ僕らどこ行くんすか?」


 ――騎士鍛錬場メガナイツを出て、行くべき場所への道のりを歩いているところで、ラウヴィットからそんな質問が繰り出された。

 ラウヴィットが出した質問だが、おそらくは『英雄五傑』全員の疑問を総まとめしたものだろう。


「気になるか?」

「そりゃあもちろんっすよ」

「……あまり道端で呟く言葉ではないのだが」

「……なんすかそれ、どういうことっすか?」


 と言っても、残念ながらその質問には答えられない。

 ディウが言った通り、道端で呟くような場所ではないから――というのもあるが、それを彼ら彼女らが目にしたときの驚愕の反応を、ディウが見たいだけだ。

 行く場所を知っていたら、それを初めて目にしたときの驚愕の反応と比べれば、どうしても目劣りしてしまう。

 故にディウは、そんな何歳の子供だと突っ込みが入りそうな思考内容が故、そう言ったのだが――


「ラウヴィット貴殿ちょっと無礼すぎよ。少し自分の立場っての弁えなさい(わきまえなさい)

「ええ、別にいいじゃないっすか。てか、ディウ殿って僕らと仲良くなるために戦うんすよ?つまりそれは日頃からも仲良くなりたいってことっすよ。だからこういう今の態度も、友達みたいにしていきゃいいんじゃないっすか?」

「確かに一理あるけど!でも相手は『勇者パーティ』なの。普通の人が望んでもなかなか話しかけられない立場なの!」

「なのなのじゃないっすよなんすか可愛い子気取りっすか!」

「別に気取らなくても私は可愛いわ」

「まあそりゃ同意っすけど……」

「……え?同意なの?」

「いや違うっすよ!?てかそうじゃないっす!今話してること違う内容っすよね!?」

「……そっか、ラウヴィットから見れば私って可愛いんだ……」

「だから違うって言ってるっすけど!てか何にやにやしてるんすか!」

「へっ!?いやしてないわよ!?」

「してたっすよ。それはもう顔が溶け落ちそうなぐらい」

「そんなわけないでしょ!?」

「そんなわけあるっす!」

「ない!」

「ある!」

「ない!!」

「ある!!」

「ないないない!!」

「あるあるある!!」


 ――聞いている方が思わず呆れてしまうほど、ラウヴィットとリアテュがいろいろと言い合いをしていた。

 最初の方は普通の内容の言い合いであったが、途中から――ラウヴィットがリアテュを可愛いなどと言い始めた時点で――脱線し始め、曲がってはいけない方向に話が曲がっていっている。

 そんな様子で歩くのが進まず、どうしようかとディウが頬を掻いていると――


「……ねえ、ディウ殿お。こういう雰囲気、いいと思わないかしらあ?」

「俺は恋愛沙汰についてはよく知らん」

「あらあ、釣れないわねえ。……でも、これが恋愛関係ってことはわかるのねえ?」

「そんなの見ればわかるだろう。……うちのパーティにも、こんな甘い雰囲気はよく見るからな」

「あらあ、どこもかしこも青春ねえ」


 ――他人の恋愛沙汰を見て興奮する性癖でもあるのか、レーナエーナが頬を赤くしながらディウへとそんな話をしてきた。

 と言っても、ディウはルーディナとメリアの二人のやり取りでこう言った甘い空間は慣れているので、大した感情は浮かばない。

 だが、ラウヴィットとリアテュのやり取り、レーナエーナの話の内容、そして呆れているような目つきで甘いやりとりを見ているロクトとルタテイトを見て、ディウは――


「……こやつらは、本当に英雄なんて目指しているのか?」


 ――そう、少し心配になった。




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