第二章四十二話 「団話」
<視点 ディウ>
―――第一印象、自己紹介、慣れ始め、それは人間関係において、大事なことだ。
人の見た目、表情、声、髪、服装、歩き方、目線の高さ、清潔感、などなど。
それらの総合の第一印象で決まる相手の見方の割合は、七割から八割程度と言われている。
その割合はアルヴァート・メラヴィアンという人物が考えた説であるからして、『メラヴィアンの法則』などと呼ばれているが、それはとりあえず今はいい。
それよりも、人の見方は第一印象でほぼ決まる。
故に、最初の出会いこそが最重要なのだ。
「―――」
―――そしてどうやら、ディウの第一印象はかなり後ろ向きなものになったらしい。
見た目、表情、声、髪、歩き方は普段通り、目線の高さは身長が高いが故に少し高く、清潔感は見た目に反してかなり意識している方。
だがしかし――声のかけ方と雰囲気が、おそらくはダメだったのだ。
「―――」
―――話しかける前からこちらのことを気づいていたロクトとルタテイトですら頬を固め、他の三人に至ってはかなり緊張している様子。
ルーディナやフェウザから、「なんかどっしりしてるから叱られてる気分になる」と言われることがあったが、それは的を射ている発言だったと、今になって思う。
緊張している『英雄五傑』の五人、そしてそれを見ながら苦笑するディウ、そして更にそれらを見ながら苦笑しているジェノンとアルテッド。
気まずい空気が漂う中、それをどうにかしなければ、とディウは思い―――
「……そこまで緊張されると、逆に傷つくのだが」
―――そう、敢えて場違いな雰囲気で、苦笑しながら言った。
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―――第一印象の次に意識すべきなのは、第二印象――つまり、初めてではないがまだ相手のことを知らない時期。
その時期での言葉遣いや人と接する態度などが、その第一印象を肉づけしていき、相手への見方を生む。
故に、第一印象で相手の見た目を見て、相手の声を聞いて、相手の行動を観察して、おそらくこういう人なのだろうという予想が生まれる。
そして第二印象で、言葉遣いや人と接する態度を聞いて見て、こういう人なんだなという理解が完成。
それでその人物に対する感想や意見、接し方や態度などが自分の中で作り上げられていく。
いろいろと述べたが、ディウは人の印象とは、こうやって決まっていくものだと思っている。
「―――」
―――そして、ディウは第二印象でも選択肢を間違えたらしい。
考えてみてほしい、威厳たっぷりな見た目と声と雰囲気の人物が、その後に言わなそうな予想外の発言をする。
そんなことがあれば、威厳を感じ固まっていたのが、今度は予想外の発言に脳が理解しようと固まって、結局硬直状態は続く。
つまり何が言いたいのかと言うと、先程から何も変わっていないということだ。
「―――」
―――何も変わっていない、というのは些か盛った言い方だ。
正確に言うと、先程までは緊張で固まっていた諸々が、今度は口をぽかんと開けたり瞬きをしたりして固まる、という状態になった。
故に硬直状態は続いているが――硬直する理由の内容が違うだけ、まだましだろうか。
「―――」
―――ともあれ、結局気まずい雰囲気が漂っていること自体は、変わりない。
故に、ディウは今、ここでの何か最適な回答を見つけなければならない。
―――ここでできる最適解、それはなんだろうか。
「―――」
―――それはとても簡単な答えであった。
と言っても、普段から『勇者パーティ』という頼もしい諸々が身の回りにいるからこそ、辿り着ける答えだったとも言える。
ディウが何を言っても予想外の発言として見做され硬直状態が続くのなら、単純な話、ジェノンやアルテッドにその硬直状態を解いてもらえばいいだけの話。
故に―――
「―――」
―――ディウは後ろを振り向き、この訓練所に来てからおそらく二回目か三回目ほどの目配せをする。
その意図がわかったのか、もしくはそんなことをするだろうと想像がついていたのか、ジェノンとアルテッドは少しため息をつきながらも―――
「―――『英雄五傑』の皆様、ディウ殿があなた方に用があると、はい」
「故に、そろそろ緊張を解いていただけると助かりますねぇ」
―――そう、言ってくれた。
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「と、言うわけだ。だから俺と五対一で戦ってほしい」
「その説明と内容からなんで戦うになるかの繋がりがわかんないんすけど」
―――その後、ディウはジェノンとアルテッドの二人に感謝を述べ、『英雄五傑』へと振り返った。
ジェノンとアルテッドの言葉を聞いて、茶髪の男性――ラウヴィット・アレッケラーと名乗った彼は少し焦りながらも、ディウに謝罪をしてくれた。
赤髪の女性――リアテュ・ナジャヴォルドと名乗った彼女は「私の阿呆、動揺してるんじゃ周りの騎士たちと同じじゃない」と言いながら、謝罪をしてくれた。
金髪の女性――レーナエーナ・モアルラルトと名乗った彼女はディウのことを見定めるように見ながらも、軽い態度で謝罪をしてくれた。
ロクトとルタテイトに関しても同様に、謝罪をしてくれた。
―――別に謝罪などいらないのだが、それぞれの英雄像を追いかけている『英雄五傑』たちは、おそらく『勇者パーティ』の一員を目の前にして固まる、というのが自分自身で許せなかったのだろう。
「ちょっとラウヴィット、貴殿今すごく馬鹿な発言したわよ?『勇者パーティ』の一員と戦う、それってどんな意味かちゃんとわかってんの?」
「いやわかってるっすよ僕だって。ただ単に疑問持っただけじゃないっすか前の発言となんの関係があんのか……」
「普通に、わたくしたちの実力見定めるために戦うんでしょお?関係なんてありありだと思うけどお?」
「それにディウ殿は。『勇者パーティ』の中でも戦闘が好きと言われるほどです。」
「そうだンよ、噂じゃあン買い出しの荷物持ちン決めるってンだけでン戦ったって噂だンぜン」
―――『英雄五傑』の諸々がディウのことをどう見ているかについては置いておいて、ディウはそれぞれから謝罪をもらった後、事情についての話をした。
血肉やら魔界王陣営やらと言った単語は出さずに、次代国王が今代国王の裏切りを勘づいている、ということについて話した。
勘違いではないかとか、裏切りの内容はなんだとかの質問が来たが、それは話がわかっているジェノンやアルテッドが上手く逸らしてくれた。
―――血肉がいる場所で血肉の話をすると、その場にいる血肉全てが化け物となる。
故に、血肉という単語は後で説明しようと、ここに来る前から、ジェノンやアルテッドたちと決めていた。
魔界王陣営という単語について出さなかったのを言うのは、説明しなくてもわかるであろう。
「……別に、レーナエーナが言った通り実力を見定めるためなのと、後は仲良くなる段階としての手順のためだから、戦うかどうかはお前らに任せるが」
「あらあ、もう名前呼びされちゃったわあ」
「威厳たっぷりな人が仲良くなるとか言う意外性がすごいっすね」
「ちょ、貴殿ら……申し訳ませんディウ殿、ラウヴィットとレーナエーナは後で必ず締めますので……」
「反省させるとかじゃなくて締めるなんすか!?」
―――ディウが彼ら彼女らと会って最初に言った通り、『英雄五傑』とは真面目で清き正しい連中の集まりのような名前に見えるが、案外そうではないのだ。
どちらかと言うと一人一人の個性が強く、全員が全員仲良く、そして賑やかなで愉快な集団、と言った感じだ。
故にディウも関わりやすいし、おそらく『勇者パーティ』たちとも、『英雄五傑』は仲良くなれるであろう。
そして―――
「……俺は、お前らのことをもっと知りたいし、もっと仲良くなっていきたいから、戦闘を所望する」
「―――」
―――そんな彼ら彼女らをもっと知りたくて仲良くなりたい――要するに交流を深めたいから、ディウは戦闘を所望する。
その発言に、『英雄五傑』も、そして子供たちの仲の良さを見つめる親のような目をしていたジェノンもアルテッドも黙り―――
「いいっすけど」
「それならこっちも本気出していきますから」
「後悔しても知らないわよお」
「それならば。」
「ンじゃあ俺ンも所望するンって話だぜン」
―――その後、そんな三者三様ならぬ五者五様の返事が来た。




