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第二章三十七話 「団員」




作戦内容3<ディウ・ゴウメンション、フェウザ・ロトフゥイ、アークゼウス・ヴェルゼウ用>

・ディウ・ゴウメンションは副騎士団長と副魔法騎士団長ともに、騎士団から何人か凄腕を連れてくること。

・だがしかし、血肉に侵食されているされていない関係せず、連れてきたものとは仲良くすること。

・フェウザ・ロトフゥイは風魔法を使い、王国に今代国王の嫌な噂を少しでも流すこと。

・だがしかし、噂を流している張本人であるとわからないようにすること。

・アークゼウス・ヴェルゼウは、今代国王の動きをできるだけ観察すること。

・だがしかし、見つかったら気配を探られたりしないこと。


              △▼△▼△▼△▼△


<視点 ディウ>


―――ディウは今、第一巨大王国ノヴァディースの王城ゼレルヘレルの近くにある訓練所、騎士鍛錬場メガナイツに訪れていた。

学校の校庭のように完全に野に放たれている野外の訓練所は、まさに騎士団とでも言うべきな汗臭さと血生臭さが漂っていた。

ディウが、そこを初めて目にして思った感想は――感心と関心の二つだ。

完全に野に放たれ、整備が行き届いてないように見えても、しっかりと騎士団員たちは皆、努力していることに対する感心。

この状況でよく続けられるな、だが逆にこのような状況の方が集中できるのだろうか、ということに対する関心。


「どうです、うちのメガナイツは。……見た目に反して、意外としっかりしてるんですよ、はい」

「ほっほっほっ、見た目は完全に野原ですからなぁ。ですが逆にそれ故に、騎士たちも集中できている次第」


―――そして、訓練所を見て感心と関心の二つを感じているディウに話しかけてくる、二つの声がある。

片や上の台詞の、金髪金瞳金鎧金剣と、まさに黄金で染まった『副騎士団長』、又の名を『金髪の天速者』――ジェノン・ブルガルダス。

片や下の台詞の、白髪青瞳白髭黒服と、いかにも魔術師らしき見た目の老人である『副魔法騎士団長』、又の名を『秀才魔術者』――アルテッド・ルフォンス。


「ああ、そうだな。……見た目はあれだが、騎士たちの実力は悪くはない」


―――二人の問いかけに、ディウは少しだけ躊躇いながらも答える。

ディウの答えを聞いて、ジェノンとアルテッドも苦笑気味の顔になっているが、実際、ディウの評価は間違ってはいない。

失礼ではあるかもしれないが。


「―――」


―――血気盛んな雰囲気漂うこの訓練所だが、屋根なし壁なしの野外でやっているため、その雰囲気が更に開放的になり、集中するものが自然と多くなる。

故に、騎士団一つとしての実力が高いのではなく、各々一人一人の実力が高いのだ。

だから、ディウの評価は、訓練所の見た目は少し悪いが騎士たちの実力は悪くないというディウの評価は、決して的外れではないのだ。

失礼ではあるだろうが。


「まあそんなことよりも、今は達成すべきことがある」

「ああ、そうですね、ええ。……凄腕を何人か連れてくる、というのですね、はい」


―――とまあ、訓練所への評論会は以上で終わりとし、ディウは後ろに振り向きジェノンとアルテッドへ話しかける。

ディウがやるべき達成すべきの、作戦内容――それは、騎士団の中から凄腕を何人か連れてくる、というものだ。


「……しかし、なぜ凄腕なのだ?俺は強いか弱いかよりも、性格の良さ悪さを選ぶが」

「ああ、それですか。……アルテッド、説明できますか?私はこういうもの苦手なので、ええ」

「ほっほっほっ、いいでしょう」


―――ディウはそこで、先程からずっと感じていた疑問を発する。

騎士団の中から凄腕を何人か連れてくる――確かに、強い弱いでの厳選の必要もあるだろう。

相手が血肉に感染しているしていないはともかく、万が一の事態を考えて、場を任せられるような頼もしい強さを持つものはいた方がいい。

しかし、だ。

強い弱いも大事だろうが、ディウはそんなことよりも、性格の良さ悪さを大切にする。

―――鬼双子のときもそうだった。

彼らはディウから見れば、どうやってあの年齢であそこまで強くなったのかと思うほど、強い。

だが、もしも彼らの性格が、本当に救いようのない最悪な性格だった場合、ディウはきっと和解なんてせず、あのまま逃げるか死ぬか見逃されるかしていただろう。


「―――」


―――だからディウは、強い弱いという観点よりも、性格の良さ悪さの方の観点を重要として取り上げる。

故に、先程の疑問が浮かんだのだ。

それに対し、見た目と喋り方に反して、脳内は意外と脳筋なジェノンは、アルテッドへと説明を託し、そして承ったアルテッドが一歩前へ出る。


「ええまずここの騎士団の凄腕、というのは、おそらく『英雄五傑』というのを指してるのでしょうねぇ」

「……『英雄五傑』?」


―――そのアルテッドから放たれた聞き覚えのない単語に、ディウは首を傾げる。


「ええ。―――五人それぞれが別々の英雄像を抱き、それに辿り着くために何事にも手を抜かないという、五人の凄腕騎士たちのことです」


―――そのアルテッドの、誇るような哀れむような楽しむような笑うような言い方の、説明。

否、言い方ではなく雰囲気なのだろうが――なぜそれほどの感情が入り混じった雰囲気を感じるのか不可解ではある。

だが、今はその、『英雄五傑』とやらについてだ。


「……それは、いつからできたものなのだ?」


―――と言っても、ディウは先程の疑問から推測できる通り、その『英雄五傑』とやらについては知らない。

見たことも聞いたことも嗅いだことも感じたこともないその単語だが――ディウは『勇者パーティ』の一員になる前、騎士については人一倍詳しかったのだ。

訓練所を見学したり他人から話を聞いたり噂を聞いたり調べたりなど、本当にさまざまな方法で情報収集を行なっていた。

そのような存在に憧れていたから、力強くなることを望んだから、というように理由はたくさんあるが――前述した通り、ディウは『英雄五傑』なんて単語は聞いたことがない。

だが、ディウは『勇者パーティ』の一員になってから、常日頃が忙しくなり、騎士団関連については全くと言っていいほど情報収集をしなかった。

騎士団とは王国の力の支柱が故、そうそう変わることなどないだろうと思っていたが、案外そんなことはなかったらしい。


「そう言えば、俺はこの訓練所も知らなかったな。……『勇者パーティ』に入ったのは三年ほど前だから、この訓練所も『英雄五傑』とやらも、この三年間のうちにできたのか」

「おや、疑問に答えようとしたのですが……ほっほっほっ、自問自答で見事に当たるとは、まこと感心する次第」

「世辞は辞せ。知ってる情報から分析しただけだ」

「情報から分析するだけでも充分すごいとは思いますが……」


―――ジェノンのさりげない感心したような声が聞こえるが、ディウはそれを無視し、情報を整理する。

ディウが得意なのは剣術だ。

剣術とは、体の力を制御し、脳内の記憶を制御し、血流細胞肉体骸骨内臓精神を己の集中一つで制覇するもの。

故に、ディウは情報収集などは得意分野だ。

―――ディウは昔、騎士団の情報を集めていたが、『勇者パーティ』に入ってから、忙しくなりそれをしなくなった。

そしてディウが『勇者パーティ』に入ったのは、三年ほど前から。

つまり、その三年間でこの新たな訓練所ができ、『英雄五傑』という人物たちが増えた。


「―――」


―――だが、果たして『英雄五傑』たちは、どうしてそこまで有名になったのだろうか。

ただただ努力していたから、ならば、別に他の騎士だって努力はしている。

ものすごく強いのなら、『騎士団長』や『副騎士団長』に昇格していてもおかしくないのに、その座は未だ変わっていない。

―――『英雄五傑』は、アルテッドの説明からするに、何事にも手を抜かない人物、らしい。

そしてこの訓練所は、見ての通り、騎士一人一人が集中していて、努力をしっかりと感じられる場所だ。

つまり―――


「……この訓練所を建てたのは、その『英雄五傑』とやらに頼まれたか何かされたから、だな?」

「……お見事ですなぁ」


―――更なる努力をするために、五人全員かもしくは誰か一人なのかは知らないが、この訓練所を作ろうと頼むか何かし、そして実際に建てたから、名が有名になっている。

そんなところではなかろうか。


「―――」


―――ディウの考察が必ずしも当たっているとは限らない。

だがしかし、ディウの考察通りならば、『英雄五傑』たちとはその英雄像とやらのために建物一つ建てようとする、努力家たち。

―――ディウは密かに、その『英雄五傑』に対する好感度を上げた。




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