第二章三十六話 「七友」
<視点 メリア>
「私と、友達になってくれませんか?」
「―――」
―――そのメリアの発言の後に残る空気は、沈黙だ。
明らかに場が違い、明らかに時が違い、明らかに趣旨が違う、メリアの放った言葉の内容。
それに対する驚愕か、唖然か、呆然か。
どれだかはわからないが、ベッドの壁際に座るメリアを囲むように座っている四人――インフィル、ルリナリン、フィファラ、クラティックは、それぞれが予想外と言わんばかりの顔をして、沈黙している。
―――少々、前回について振り返ろう。
「―――」
―――まずメリアは、ルーディナがザシャーノンから貰っていた、白金色の月のようなペンダントが飾られた、ネックレス――それがどう言ったものなのか、調べた。
調べ、試し、この目で見て、そのネックレスの効果――相手が血肉に感染しているかどうか、を調べられるものだと理解した。
「―――」
―――そしてその後、そのネックレスの光で指されているいくつかの方向に、行った。
その結果、花屋でインフィルを、カフェテリアでルリナリンとフィファラを、本屋でクラティックを見つけ、話し合いをするため、連れてきた。
その連れてきた場所は、次代国王であるイ・エヴェンの生活のための城、隣王城ゼルである。
「―――」
―――そして、ネックレスによる診断結果から血肉に感染していないとわかっている彼女らには、是非とも味方側であってもらいたい。
故に、血肉についてはいろいろと危険なため、教えはしないが――何か話し合いはした方がいいだろうと、メリアはそう思った。
だが、彼女らは平民だ。
世界の結末にも、『勇者パーティ』たちの戦いにも、血肉の原因にも何一つとして関係のない、平民だ。
「―――」
―――だから、メリアとの話し合いに、緊張してしまうのは当然の話。
緊張することは、別に悪いことではないが――それでも、気軽に話せた方が彼女らにとっての負担は少ないだろう。
メリアはそう思い、緊張させず負担を与えない言葉――それが、冒頭に言った言葉である。
「―――」
―――そして、そんな話なんて微塵も欠片もされるとは思っていなかったであろう彼女らは、その言葉に対する驚きが強いが故か、沈黙している。
まだ脳で分析が終えられてないのか、あまりの驚きに思考が一時停止しているのかわからないが、とりあえず沈黙している状況だ。
「―――」
―――前回の振り返りと今の状況について語ったが、メリアは別に、彼女らにさっさと答えろ、なんて思ってはいない。
友達になる――それは簡単なように見えて難しく、自然のように見えて不自然だ。
「―――」
―――学校の友達、ならば関係はすぐにできるかもしれない。
だが大人の世界となると、職業仲間やら先輩後輩やら同僚やら、と言った表され方が多く、友達、と言うものは基本的にはいない。
実際、メリアも『勇者パーティ』のことは仲間だと思っているし、イ・エヴェンやザシャーノンなどは協力者だと思っている。
友達と表せるほど交流は深いかもしれないが、わざわざ私たち友達だよね、なんて確認はしないし呼びもしない。
「―――」
―――長々と語ったが、究極、メリアは何を言いたいのかというと――返答ははいでもいいえでもなんでもいいが、まあはいの方が嬉しいのだが、わざわざ友達、と表したところに意味がある、ということだ。
味方になってほしい、と言うなら、相手側もすぐに返答ができるだろう。
味方になるだけなら、メリアもしくは『勇者パーティ』の言う通り思惑通りに動き従い、自分の身もしっかりと守りながら、過ごせばいい。
「―――」
―――仲間になってほしい、と言うなら、味方のときより少しだけ時間はかかるかもしれないが、それでも比較的速く返事は貰えるはずだ。
仲間になるだけなら、味方よりもやるべきことの難易度は上がるだろうし、任される役目の重大さも重くなるだろうが、それでも責任を持ってやれられるのなら、それでいい。
「―――」
―――だが、友達。
味方のように、協力関係に類似した、あまり距離は近くないが一応こちら側という認識はある、というものではなく、友達。
仲間のように、友情もあり恋慕の情もありな、お互いを頼もしく思い信じ合っていて絆が深い、というものでもなく、友達。
響きが温かく、信頼していて絆が深くて気軽に話し合えて簡単に頼めて喧嘩してもすぐに元通りになるような、友達。
「―――」
―――同僚、先輩、後輩、職業仲間などの言い方は固い。
味方、仲間、協力者、好敵手などの言い方はどちらかと言うと戦闘寄りだ。
それに比べ、友達、親友、家族、恋人などの言い方は柔らかく、そして想像すると、戦闘よりも平和な雰囲気が浮かべられる。
だから、友達。
堅苦しい関係になりたいわけでもなく、彼女らに戦闘員として参加してほしいわけでもないから、友達。
気軽に話し合えて、簡単に頼み合えて、よく笑い合えて、幸せに過ごし合えるような、友達。
メリアが彼女らに求めているのは、それだ。
「―――」
―――少し長すぎるのではないか、と思うほどの沈黙が場を支配する中。
「……あ、あの」
―――一番最初に反応を示したのは、恐る恐ると言った風に声を出した、フィファラであった。
△▼△▼△▼△▼△
<視点 フィファラ>
―――意外だったのだろうか。
フィファラが恐る恐ると言った風に声を出すと、メリアはまっすぐ見つめてくるが、インフィルとクラティックはまだ状況がよくわかっていないような、そしてルリナリンは明らかに困惑した表情を浮かべて。
その雰囲気からして、フィファラはとても言葉が放ちにくいが――逆にここでカッコつけ、その後ルリナリンにカッコよかったよとでも言われればフィファラは万々歳なので、そんな雰囲気は決して敵でもなんでもない。
「―――」
―――フィファラは、メリアの放った言葉に、素敵だな、と素直に思った。
メリアの意図、思惑、目的、目標など、フィファラは何一つとして知らない。
だが、だからこそ、メリアの放った言葉に、素敵だな、という感想を浮かべられた。
「―――」
―――メリアの言葉の意味を、何も改竄せずに何も考えずに何も思わずにそのまま受け取るなら、よくわからない意図になる。
友達になってほしい、と。
その意味はわかるが意図はわからない。
インフィルとクラティックがどのように連れられてきたかフィファラは知らないが故に、その二人は省かせてもらうが、ルリナリンとフィファラの二人とメリアの出会いは、なかなかに謎なものだったと思う。
「―――」
―――ルリナリンが休憩時間で休んでいるときに、フィファラは、ルリナリンが働いているカフェテリアに寄った。
それはいつものことで、そしてそこからは世間話や雑談をしたり少しだけ仕事を手伝ったり、というのが毎日の定番と化した日常。
だが、その日は違った。
昼の十五時、ほとんどの家庭はおやつの時間で、どの店にも客は来ないはずなのに、カフェテリアの扉は開かれた。
そしてそこにいたのが、彼女、メリア・ユウニコーン。
「―――」
―――彼女の来訪に疑問符を浮かべていたルリナリンとフィファラをメリアは無視し、そのまま二人に近寄り、ネックレスのようなものを近づけた。
そしてそのネックレスがなんなのかどんな反応をしたのかどんな導きを出したのかわからないが、メリアはそのネックレスの何かに納得し、名乗った。
そのとき、二人はまさかの『勇者パーティ』の一人、ということに驚愕し、気絶した。
「―――」
―――それが、ルリナリンとフィファラの、メリアとの出会いだ。
その話を思い出して、先程のメリアの発言を聞いて、二つを繋げて、思い浮かぶ疑問は一つ。
―――あんな意味深な風に出てきて連れられてきたというのに、その目的が友達になること、などあり得るだろうか。
「―――」
―――まあ可能性は零ではないが、その場合、メリアはかなり異質で異様な人物になる。
『勇者パーティ』に入っているのだから、完全なまともと言うことはないだろうが、今はそんなことは本当にどうでもいい。
―――だから、話の真相を全て繋げるなら。
「―――」
―――メリアは何か目的があり、それを達成するために今ここにいる四人を連れてきたが、全員素人で平民なので、是が非でも緊張はするもの。
そしてメリアは、緊張という負担を減らすために友達になってほしいと、言った――こう考えるのが、普通ではないだろうか。
「―――」
―――その考えが異常であっても、フィファラは特に気にしない。
昔からいい意味で頭がおかしく、家族からも友達からも何もかもからも遠ざけられたのは、懐かしい思い出だ。
だから、その考えが異常だろうが、フィファラは気にしない。
その考えに対し、皆んなから疑問を持たれても、フィファラは気にしない。
その考えに対し、皆んなから愚痴を言われても、フィファラは特に気にしない。
その考えに対し、皆んなから困惑を浮かべられても、フィファラは絶対に気にしない。
「―――」
―――だが、気にしないにしても、人付き合いとはあるものだ。
メリアは、友達になってくれませんか、と言った。
ならば、それに答えるのは、何か変だろうか。
否、質問をされたら、答えるのが普通だ。
故に―――
「……末永く、よろしくお願いしましゅ」
―――質問に対する答えを、返した。
だが、最後の最後で噛んだため、結局カッコはつかなかった。
何回も言いますけど、フィファラの名前回は、第六章で書く予定なんで。まあそこまでフィファラについては待っててもらって。
フィファラどんな人生送ってきてんだー気になるーってなったら、今までの描写から情報集めて予想でもしといてください。
はい、読んでくれてありがとうございました!!次回もお楽しみに!はい、またね〜。




