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第二章三十二話 「六言」




―――クラティックの遠慮がちな声。それは言わずもがな、この状況はどう言ったことなのか、それについて聞くための声かけであろう。


「はい、なんでしょうか?」


 そして、この状況についての疑問を抱くのも当然だ。


 ――ルーディナがザシャーノンから貰った、白金色の月のような吊り飾りが飾られた、首飾り。

 それの効果は――血肉に侵食されているかいないかの違いを見分ける、というものだ。


 そして、国王処刑の裁判を有利に進めるための味方集めも兼ね――おそらく、まだ助かる人がいるなら助けたいというメリアの聖女らしき思いを達成することも兼ねて。

 メリアはここにいる彼女たちに話をするため、連れてきた。


 そしてこれらの理由はクラティック、そして今、ベッドで絶賛気絶中のインフィル、ルリナリン、フィファラの誰にも伝えてないが故、誰も知らないのだ。

 ――だから、疑問を持つのは当然という話。故にメリアはその声に不信感も疑問も抱かず、応えた。


「あ、ええと、その……今の状況について、説明してもらっても、いい、ですか?」

「はい、もちろんです。……それと、緊張しなくて大丈夫ですよ?」

「あ、いえ、その……」


 メリアの予想通り、人差し指同士を突き合わせモジモジしているクラティックからの質問の内容は、やはりこの状況についての説明を、とのことだった。

 メリアも時間は一秒一分惜しいため、とりあえず説明を――と思うが、その前にいくつか気になることが。


 若干頬を赤らめ己の人差し指同士を突き合わせて、少しだけモジモジとした態度でメリアに話しかけてくるクラティック――その姿から見て、緊張しているというのは一目瞭然であった。

 それ故に、メリアは優しめに声をかけたのだが――


「……な、なんというか、やはり『勇者パーティ』の方ですので……」

「――――」


 ――返ってきた反応は、『勇者パーティ』が故、緊張するとのことだった。

 その反応を見てメリアは、『勇者パーティ』という存在に対して大きく出れないその心を嘲笑うでもなく、遠慮していることに対し少し苛立つでもなく――


「……ふふっ」

「ふぇ?」


 ――その遠慮する姿勢、真面目に対応しようとする姿勢に対し、無性に可愛がりたくなる小動物のような可愛いさを、クラティックに対して覚えた。

 ――そしてその気持ちが、おそらくルーディナが、メリアやザシャーノンに抱いている思いと似ているだろうと気づき、嬉しいが故、笑った。


 笑いの原因がなんなのかわかっていないクラティックは突如としたメリアの微笑みに、困惑を浮かべていたが――その困惑の表情もメリアは可愛いと思える。

 保護欲、またはメリアの母性。それらがこの感情を生み出しているのだろうが――今は、とりあえずそんなことはどうでもいい。


「え、えと……?」

「あ、ごめんなさい。クラティックさんが可愛いもので」

「かわっ……!?」


 戸惑っているクラティックに、メリアは謝罪と自分の率直な感情を伝える。

 そのメリアの言葉に、急な褒め言葉に対しての驚きか、それとも可愛いと言われたことに対する嬉しさか、クラティックは頬を先程よりも赤に染め、驚いたように目を見開く。


 ――それもまた、メリアは可愛いと思えるのだ。


「……さて」


 と、そこらでメリアは、クラティックを堪能するのを終えることにしようと意味を込めた言葉を呟く。


 クラティックを揶揄い続け、可愛さを堪能するのもまた一興なのだが――それでは話が進まないため、ベッドで絶賛気絶中の三人を起こすことにする。

 一旦クラティックの頭をメリアは右手で撫で、目を瞑りながら受けているクラティックの可愛さを堪能し、手を離してインフィルたちの方を向く。


「……目覚め(アウェイクン)


 そして、未だに気絶中のインフィルたちに対し、メリアは治癒魔法を唱える。


 目覚め(アウェイクン)。――魔法名と文字の通り、眠りや気絶状態から目を覚まさせる、という魔法だ。

 基本的にはこう言った魔法は何段階も使用して、少しずつ意識を覚醒させていく、という使い方だ。

 だが、そこはさすが世界一ほどの治癒術師――たった一回だけで三人同時に目を覚まさせることを、可能とする。


「ん……ん、あ?」

「起きましたか、インフィルさん」

「……夢?」

「現実ですけど?」


 と、目覚め(アウェイクン)を使い最初に起きたのは、インフィルであった。

 煌めくような肌色の髪の後ろ結び、茶色のスカートに白色の服、そして桃色花模様の前掛け――その姿で眠そうに目を開け周りを見渡す姿は、とても神秘的で美しい、とメリアは思う。


 ――なぜか、インフィルの最初の一言は、夢か現実かを確認する言葉であったが。

 メリアは現実、と少し戸惑いながらも答え、インフィルがどう反応するかを待つ。そして、インフィルは――


「メリアしゃみゃっ!?」


 ――盛大に、噛んだのだった。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――ということでインフィルが起きた後、残りのルリナリンとフィファラも、同じように夢かどうかと確認する言葉を発しながら、起きた。


 二人とも、インフィルのように噛みも驚きもしなかった。

 ただインフィルの反応が可愛かった故、ルリナリンとフィファラも何か可愛い反応をするのかな、と思うメリアだったが、どっちかというと――


「め、メリア様、メリア様だっ! こ、こうして見るとまさに女神っ!」

「ま、眩しい、眩しすぎるっ!」


 ――なんだか馬鹿にされている気分になった。故に、この後、メリアは二人の頭を自分の神杖で、ポコっと叩かせてもらった。


 ――と、まあ、それは過ぎた話だ。


「――――」


 ――メリアはその後、豪華なベッドの壁際に座り、他の四人には、そのメリアを囲うように座ってもらっている。

 四人ともメリアの指示に軽く従ってくれたが、その体勢を想像すれば言わずもがな、今からメリアを中心に、何か重大な話をするだろうということがわかる。


 故に他の四人も真剣な顔――ではなく、どこか場違いを覚えるような、困惑したような顔をしている。


「――――」


 それを見て、メリアは当然か、と思った。


 彼女らは全員、第一王国三大美貌店員という――フィファラは違く、ルリナリンの友達という立場だが――有名なものたちではあるが、全員が全員、王国で過ごす一般の平民なのだ。

 見た目が可愛く美しく有名であるだけの、ただの一般の平民なのだ。

 そんな平民たちが、メリアという『勇者パーティ』の一人から、何か重大な話をされる場面――確かに場違いだと感じ、困惑を覚えるだろう。


「――――」


 ――ここでメリアは、最初、なんと言うべきか。


 緊張しなくていいですよと前置きを入れる――否。

 そんなことを話されたなら、是が非でも緊張する内容なのだなとわかってしまう故、さらに四人の負担が増えるのは間違いない。


 ならば、何も言わずに話を進める――否。

 それでは困惑したまま進んでしまうので、一番駄目だ。


 だとすると、どうすればいいのだろうか。


「――――」


 緊張しないで、気にしすぎないでなどの前置きは、さらに負担を増加させるだけなので駄目。

 特に重要じゃない、大事ではないよなどの言葉も、メリアは普通にかなり重要なことを話そうとしているが故、嘘を吐くことになるので駄目。

 何も話さずに話を進めるのは一番駄目だ。


 だからなんと言えばいいか、どう言えば四人が負担を背負わずに、緊張もせずに話してくれるか、メリアは――特に、悩んでいなかった。


「――――」


 ――そう、メリアは何一つとして悩んでいない。

 何を言うかも、内容も、四人が負担を背負わず緊張しない方法も、何一つとして悩んでいない――それは、もう既に方針が決まっているから。


「――――」


 だが、メリアは特に、試行錯誤をしたわけでもない。

 試行錯誤ならぬ思考錯誤では、という突っ込みはいらないが、自分の妄想の中で試したわけでも考えを浮かばせたわけでもない。


 メリアの考え方は、至って単純。単純明白。単純明快。単刀直入。――ルーディナだったら、どうする?

 答えは簡単だ。


「さて、皆さん」

「――――」


 メリアは、四人に対し呼びかける。

 すると、インフィルは一番緊張した顔持ちで。

 そして、ルリナリンは何がなんやらとそわそわした様子で。

 それと、フィファラは場違いを感じているためか、ぽかんとした顔で。

 最後、クラティックはとりあえず話をしっかりと聞こうとしているのか、熱心にメリアを見つめて。


 それで、メリアは――


「私と、友達になってくれませんか?」


 ――四人が負担を背負わず緊張せず、血肉について教えはしないが自分がしっかりと四人を守るため、最適な方法を、言った。

 いずれ、この四人とメリアと、そしてルーディナの合わせて六人で言葉を交わせたらいいなと、そう思いながら、言った。


 ――残念ながら、その願いが叶うことはないが。




 次回、インフィル、ルリナリン、クラティックの名前回。

 なんか名前回書かねえみたいなこと言ってたけど書いちゃった、ははは。


 感想とかくれるとありがたいです〜。

 読んでくれてありがとうございました! またね〜。



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