第二章二十七話 「一方」
作戦内容2<メリア・ユウニコーン用>
・メリア・ユウニコーンはやりたいことがあるそうなので、彼女にはこの三日間、好きにさせておくこと。
・だがしかし、国王処刑の裁判を有利に進めるため、今代国王に何か不快な行動及び言動をされたものを、何人か集めること。
・血肉に侵食されているされていない関係せず、集めたものとは仲良くすること。
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<視点 メリア>
――第一巨大王国ノヴァディースの道を、なるべく目立たないように隅の隅を歩くメリアは、今、そんな作戦内容を思い出していた。
作戦内容――というより、メリアのみ自由行動が許された、優遇されたような内容のものだ。
これもどれも、ルーディナがメリアちゃんの勘は大事だから頼った方がいいよ、と言ってくれたが故に、決められたからこうなったのもの。
ロード道中王街を出ていくとき、できれば頼ってほしいとメリアがルーディナに言ったことが、上手く伝わっているのだろうか。
それだとしたら、メリアはとても嬉しいし、何が何でも期待に応えなければと、やる気が出てくる。
「……さて」
と、まあ作戦内容の決め方や優遇などは良しとして、その内容――メリアはやりたいことがある、というのについて話そう。
メリアは、ルーディナをしっかりと見続けている。
それはもちろん、ルーディナが好きだからずっと見続けてしまう、という可愛い乙女な事情も関連している。
だがそれ以外にも、ルーディナの行動をしっかりと自分の目に収めたい、ルーディナの表情の変化をしっかりと見ていたい、ルーディナの身に何かが起きたとき一番早く反応し、守るのは自分でありたいなど。
――訂正、やはりルーディナが好きだからずっと見続けてしまう以外に、理由はなかった。
「……じゃなくて」
それで、メリアはルーディナをずっと見続けているが故に、わかることがあるのだ。
それは――ルーディナが前、ザシャーノンと別れるときに彼女から貰った、白金色の月のような吊り飾りがつけられている、首飾りについてだ。
「――――」
その首飾り。今はルーディナから借りているため、メリアの首元にあるが――その、首飾りについての異変、それを今から、提示しよう。
「――――」
そう意気込みを入れ、メリアは、その首飾りを人差し指と親指でちょこんと摘み、道の中心――たくさん人が歩いていたり走っていたり止まっていたりする道の中心へと、首飾りを向かせる。
すると、その首飾りの、白金色の月部分の光が――消えた。
「――――」
そして、首飾りを摘んでいる指を、メリアは離す。
すると当然のことに、首飾りはメリアの首元に戻ってきて――白金色の月部分の光が、光り輝き始める。
「――――」
それが一体何を意味しているか、説明しよう。
メリアは、ルーディナをずっと見続けているが故、この首飾りが誰に対してどう反応しているかも、ずっと見続けていた。
ザシャーノンが持っていたときは光り輝いていた。
ルーディナがつけているときも光り輝いていた。
ルーディナが王国の大通りを歩いているときに、ルーディナが視線を周りの住民たちに向けているときは光が消えていた。
イ・エヴェンたちと会議をしているときは光り輝いていた。
それが意味するものは、言わずもがな――
「……血肉に侵食されてるかされてないか、ですよね」
――メリアの、自分自身に確認を問いかけるような独り言の通り、血肉に侵食されているかされていないかの違い、である。
故に、ルーディナやザシャーノン、メリアやイ・エヴェンたちなどには光り輝いていて、王国の国民たちには光り輝いていない、ということだ。
これで、ザシャーノンが言っていた、『人類平和共和大陸』にいる生き物のほとんどが血肉に溺れている、ということは半ば確定してしまったが、これでもう一つ、わかることがあるのだ。
それは――
「……これを使えば、誰が侵食されててされてないか、わかります」
――作戦内容2に記載されていた内容のうちの一つ。血肉に侵食されているされていない関係せず、集めたものとは仲良くすること、について、変な蟠りを発生させることなく仲良くできる。
そして、国王処刑の裁判を有利に進めるため、今代国王に何か不快な行動及び言動をされたものを、何人か集めること、についても、集めやすくなる可能性が高いのだ。
「……では、一つ目から行きますか」
――ということで、メリアの仲間集め、開始である。
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<視点 インフィル>
――インフィル・アトセトラは、自分で建てた花屋を経営する、二十一歳の女性である。
長い肌色の髪を纏めた後ろ結び。茶色の長いスカートと白色の服。桃色の花模様の、右胸に小さな袋がついた前掛け。
その可愛い衣装と見た目と、少しお茶目な天然っぽい性格故、店とインフィル自身の評価も、国民からはなかなかに高い。
――そして、そんなインフィルは、今日も休むことなく、花屋を一人で経営真っ最中である。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……!」
インフィルは、今日も今日とで、店内を走り回っている。ここ花屋ウェディングドレスは、他の花屋とは一線を画した、少々特別な花屋故だ。
まず、いつも第一にしなければならないことは、害虫の駆除だ。
この花屋ウェディングドレスで売っている花々は、どれも高級で、どれも高価で、どれも普通の花を超越した一品。
故に、それに我先にと集らん害虫や害獣の数がとてつもなく多く、それを毎日や毎時間どころか、毎分ほどの間隔で、駆除し続けなければいけないのだ。
「ほっ、ほっ、ほっ……!」
そして次にやらなければいけないことは、水ではなくお湯をかけることである。
普通なら水や、肥料が入った水なのだろうが――ここの花々は、常に暖かい環境で育てなければいけない。
故に冷たい水はかけてしまっては駄目であり、お湯をかけるしかないのである。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
そして最後、五分ほど、店内の電気を消すことである。
魔術式光源で天井が埋め尽くされたこの店内だが、浴びさせすぎ浴びさせなさすぎの両方が、この花々たちにとっては毒なのだ。
故に、一日五分ほど、光源を完全に遮断する時間が必要なのである。
「ふぅ……」
――そして、その電気を消しているときは、インフィルの貴重な休憩時間である。
息を整え服を整え、水分補給をし食事を食べ、電気がついたときに、再び害虫や害獣の駆除へと移る。その駆除へと移るときのため、体力温存も必要である。
故に、店内の床に体育座りをし、休憩しているインフィルだったが――ふと、店内の電気がついた。
「……あれ?」
「あ、すいません、電気はつけちゃ駄目でしたか?」
「……ふぇ?」
一体何が起こったのかと、インフィルは店内を見渡すと――一人の女性の姿が見つかった。
綺麗な桃色の髪に、妖艶な体つき、そして聖女のような服と神聖さを感じさせる杖。さらに、透き通るような、綺麗で美しく可愛い声。
その女性が、インフィルの素っ頓狂な声に対し、まさか電気はつけてはならなかったのかと、若干不安そうな顔になりながら、インフィルに尋ねる。
だが、インフィルは、そんな質問も電気のつけ消しも、今は蚊帳の外であった。なぜなら――
「え、え、め、メ、メリア・ユウニコーン……?」
「あ、はい、そうですよ。『勇者パーティ』の一員の、メリア・ユウニコーンです」
「ふぁ? ……ふぁぁぁぁぁ!?」
――王国のみならず、『人類平和共和大陸』の規模で大人気の『勇者パーティ』の一員、『慈愛の女神』の二つ名を持つ、メリア・ユウニコーンだったからだ。
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――追記として、インフィルは『勇者パーティ』の中ではルーディナとメリアの二人が最推しだと、そう言っておこう。
つまりインフィルは、長年憧れていて、長年会いたくて、長年求めていた二人、そのうちの一人が今、自分の目の前にいるということになる。
「……ゆ、夢?」
「いえ、現実ですよ。それよりも、ちょっと確認したいことが」
「ほ、本物!?」
そして、どうやら思考がまだ追いついていなかったらしいインフィルは、今やっと、目の前のメリアが本物だと、理解した。
驚愕やら喜びやら焦りやら、それらの感情がごちゃ混ぜになっているインフィルだが――そこに、さらなる感情が、ごちゃ混ぜに加わることになる。
「ほい」
「……え?」
それは、いきなりメリアが、首元につけている首飾りを、インフィルの額にあてがってきたのだ。
そしてそれは、メリアの、突如とした急接近にもなるわけで。
「ふぁっ!?」
「え? ちょっと!?」
――長年憧れていて、長年会いたくて、長年求めていた存在が、いきなり現れただけでなく、とてつもない近距離に来る。
そんな脳の処理量を容易く超える驚愕の続きにより、インフィルは、顔を真っ赤にさせ湯気を発生させながら、気絶してしまった。
なんか前回長くなっちゃったんで、今回と次回は短めです。
後、インフィルとか次回出てくる子とか、名前回は多分ないですね。
まあ急遽、僕の右腕が疼いて勝手に描き始める可能性もあるんですけど……まあそんときはそんとき。
ということで、今回も見てくれてありがとうございます! 次回もお楽しみに!! ではでは、さらばだ。
追記:後ろ結び……ポニーテール
小さい袋……ポケット
前掛け……エプロン
さらに追記:吊り飾り……ペンダント
首飾り……ネックレス




