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第二章二十五話 「組織」




ーーー国王処刑の裁判が始まるまでの制限時間(タイムリミット)は、残り三日。

 その三日のうちにルーディナがやるべきことは、もうほとんどなくなったと言っていい。


 地下の奴隷監禁所の全奴隷の救出、及び現状説明も終えたし、ロード道中王街の無人の服屋などから高価そうな服をたくさん貰ってきて、服問題も解決済み。

 国王処刑の裁判に、証拠として出る代表はモモンとし、取り巻きは他の全員が出ればいい。


「――――」


 ついでに――さすがは奴隷と言うべきか、子供や幼女から成人や既婚者、そして老人など、老若男女関係せず、全員の見た目が整っている。

 そしてさらに、その見た目の整い具合も、全員が完璧と言えるほど素晴らしいのだが、その整っている整い方が、それぞれで違うのだ。


 力強く逞しく、強靭無比とも言える体を持つものもいる。

 それに眼鏡がよく似合う明らかな知的タイプの見た目のものもいる。

 さらには男だが髪が長く、チャラそうな見た目を持つものなど。――その整い方の種類が豊富なのだ。


 そしてそれも、老若男女は関係せず。

 逞しい男性、背が低いイケメン、チャラそうな美女、おっとりとした老人、勇敢そうな子供、真面目そうな夫婦。

 ――全員が全員、整い方も性格のタイプも、一人一人の種類が違う。


「――――」


 そしてもちろん、今、ルーディナに甘えている猫と化しているモモン、ルーディナが渡した服を気に入ったのか、格好つけたポーズをさっきからしているカーヴィス、ルーディナとモモンのやり取りを羨ましそうに見つめているティアラナ。

 ――彼ら彼女らもまた、整うに整えられた、文句のつけようがない美男子と美少女だ。


「――――」


 そんなことを考えながら、ルーディナの次に出てくる不安は、彼ら彼女らのこれからの住居である。


 見た目が完璧ということは、ナンパされる可能性や、また奴隷として誘拐される可能性などが高いということも意味する。

 奴隷は全員ルーディナの配下となり、ルーディナが独占権を得たわけだ。誰一人として手放さないし、手放してほしいと言われても、離すつもりはない。


 故に――この百人ほどの奴隷たちが安全かつ目立たずに暮らせる場所、それが欲しいのである。


「つまり、拠点探し、か」

「んー……どうしました、ルナ様」


 暮らせる場所探し、又の名を拠点探し。安全で、目立つことがなく、ついでに衛生管理も整っていると良し。後、この人数全員で、窮屈なく暮らせる場所。

 そんなところは本当にあるのだろうか、とルーディナが思うと同時に、ルーディナが只今可愛がっている最中のモモンが、上目遣いでそう問いかけてきた。


 ちなみにだが、奴隷たちはルーディナのことをルナ様と呼ぶことになっている。

 ルーディナ様は少し長いし、ルナ様の方がなんとなく可愛いし、奴隷たち専用の呼び方などもあっていいと思うし、などと言った理由故、だ。


「ん、いやさ、皆んなどこに住んだ方がいいのかなーって」

「ほう、拠点探しですか?」

「そうそう。元奴隷だから目立たない場所がいいだろうし、皆んな戦えるわけじゃないから安全も欲しいし……衛生管理が整ってるとか、この人数全員で窮屈ないように暮らせるとか、そういう場所がいいんだけどさ、なかなかないじゃん」

「なるほど……」

「そ、だから悩んでたわけ」


 ルーディナの答えを聞いた後、モモンも拠点が欲しいと便乗したのか、顎に手を当てて、何か考える仕草をしている。

 そしてルーディナは、モモンに拠点探しの詳細を説明して改めて、本当にこんな場所はあるのだろうか、と新たな疑問を生む。


 ――そもそも、王国の中で目立たない場所など、あるのだろうか。

 基本的に衛生管理は整っているだろうが、目立たない場所や百人規模が収まる場所など、王国の中にあるかわからない。


 それに、王国――まあ、王国だけの話ではないのだが――は、安全に見えて、安全ではないのだ。

 なぜなら、『人類平和共和大陸』のほとんどが、既に血肉に溺れているため――


「……あ」


 ――と、そこで、ルーディナはふとした疑問が湧いた。場合によっては最悪につながる、この場所では、絶対に思い出したくなかった疑問。

 ――この奴隷たちは、血肉に侵食されているのだろうか、と。


「っ……」


 もし奴隷たちが血肉に侵食されていた場合、ルーディナはほとんど詰みだ。


 万が一、億が一でも、ルーディナが血肉に対しての疑問を浮かべていることが明らかになってしまい、奴隷たちが全員、血肉の化け物へと豹変したら。

 ルーディナは奴隷たちがどんな姿で形で心であれ、それを守り切ると、愛し切ると、そう決めたものを倒すことも殺すことも、できない。

 それに、国王処刑での裁判の理由や、証拠としての根拠が、全くに等しいほどなくなってしまう。


 ――辛い未来。計画の破算。圧倒的な敗北感。それらが身に染みて、ルーディナは一瞬、硬直する。

 ――そしてもちろん、ルーディナに愛でられているモモンが、それに気づかないわけがなく。


「……ルナ様、どうかしましたか?」

「……へ?」


 ルーディナの一瞬の硬直に気づいたらしいモモンは、ルーディナの今の考えなど梅雨知らず、再び上目遣いでそう質問する。

 その、いきなりの質問に、ルーディナはまた、体が硬直してしまう。そしてまた、モモンはその硬直に気づいたようで――


「……ルナ様、大丈夫ですか?」


 ――心配したような声色で、今度はルーディナに大丈夫かと、問いかけてくる。

 だがモモンのルーディナを上目遣いで見つめる瞳、心配を伴った声色、ルーディナの神感(テレパシー)で感じるモモンの内側の心配の情。ーーその諸々から見て、モモンの問いかけは不審感や疑問などではなく、単なる心配から来たものだとわかる。


「……ふぅ」


 そのモモンを見て、ルーディナは自分は少し考えすぎていたかもしれないと、ため息を吐く。


 そう思ったのは、自分を心配そうに見つめてくるモモンが、血肉に侵食されているなど、想像もできなかった――というのが大半だ。

 他の理由で、モモンの上目遣いが可愛かったと、自分でも馬鹿げているなと思う理由もあるが、それは先程も言った通りモモンは完全なる美少女なので、ルーディナが思っても仕方のない話。


 それらの理由故、ルーディナは少し考えすぎだと自分の考えを戒め、そして――


「ね、モモ」

「はい、なんですか?」

「……血肉、って何か知ってる?」


 ――こんなに可愛いモモンが血肉になんかなっているわけがないと、そういう信頼を込めながら、そう聞いた。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――そのルーディナの血肉を知っているかどうかの質問に、モモンは心底不思議そうな表情を浮かべた。


「ええと……知ってるも何も、私たち人間の血と肉、ですよね?」

「ぶぶ、ハズレ」

「ふぇ!?」


 それで、モモンの返答は――戸惑い不思議そうになりながらも、再び上目遣いをしながら常識的なことを答える、であった。

 その答えに、その表情に、その上目遣いをしている瞳に――ルーディナはハズレと言いながらも、ものすごい安堵を浮かべていた。


「だ、だったらその……血肉、というのは?」


 その、モモンの五度目の上目遣いからの質問に、ルーディナは自然と答えようとしたが――そこでふと、再び思考が生まれる。


 再び生まれたその思考を、ルーディナはモモンの頭を左手で撫でながら、右手で顎に手を当て深く考える。

 モモンは、血肉に侵食されてはいない。だが、だからと言って――無闇に血肉のことについて教えるのは、どうなのだろうか、と。


「――――」


 もちろん血肉については、知っていた方がいいであろう。

 警戒心が強くなるだろうし、王国での過ごし方も変わるだろうし、血肉によっての死の確率なども減るであろう。


 だが――それと同時に、デメリットも多数存在する。

 もしも、モモンたちが血肉のことについて知り、ルーディナの少しでもの助けになるための、それの囮にでもなったとしたら。

 囮じゃなくてもこそこそと機械を伺って、攻撃開始や反撃行動を起こしてしまい、皆んなを危険な目に合わせたら。


 もしそうなり、奴隷の中の誰かが死にでもしたら――ルーディナは、耐えられる自信がない。


「……ふぅ」


 段々と暗くなってきてしまった被害妄想に、ルーディナは一旦力を抜くように息を吐き、そして脱力し、自分を落ち着かせる。

 そして、落ち着いてきて冷静になってきて――どうすればいいか、案が浮かんだ。


「――――」


 先程も言った通り、ルーディナは奴隷の中の誰かが死にでもしたら、耐えられる自信がない。

 それ故に、血肉のことについて事細かに教える――というのは、奴隷たちが協力してくれるというメリットもあるが、危険が伴うというデメリットもある。


 そしてルーディナは、この奴隷たちには、ただ単に幸せに暮らしてほしい。


「――――」


 今回の国王処刑の件にだけ参加してもらい、それ以外はただただ幸せに暮らす。――そんな生活を、してほしいのだ。

 故に、血肉の件に関しての協力は、ルーディナにとって必要ない。そして危険にもなってほしくない。


 ルーディナが血肉のことを教え、危ないから手を出さないでねとでも注意すれば、多少は収まるかもしれない。

 だがそれでもルナ様のためにと、そう頑張るものはいるかも――というより、いた。


「――――」


 ルーディナが奴隷全員の服を持って帰ってきたとき、奴隷たちのほとんどは感謝を述べてくれたが――極僅か、ルナ様が危険になるぐらいなら私が取ってきたのに、などと言うものが、複数名いた。

 そう、自分の危険を顧みずに、ルーディナの手を煩わせないために自らを犠牲にする――そう言った奴隷が、いるのだ。


「――――」


 故に、ルーディナが血肉の件で注意したとて、その注意を聞かずに突撃する、なんてものが出てくる可能性がある。

 それで結果死ぬ――そんな結末、是が非でも回避したい。


「――――」


 危険になってほしくないし、死んでほしくないし、協力も大して欲しいわけではない。


 ただただ安全に幸せに、最高で最良で最上の人生を、過ごしてほしいだけなのだ。

 故に――血肉のことについては教える必要はないと、ルーディナは思う。


「……よし」

「……あの、長くないですか」


 と、血肉に関しては教えないという結論を決め、少し長かったがやっと結論が決まったと、そういう達成感を込め言葉を溢した後――ふと、声が聞こえた。


 思わずそちらを向くと――未だにルーディナの左手で頭を撫でられていたモモンが、若干頬を赤くしながら、そして上目遣いをしながら、ルーディナの方を向いていた。

 そして、モモンが左右の両手で、ルーディナの左手をぱたぱた可愛く叩いているところを見れば、ルーディナの結論を出すまでの時間ではなく、撫でる時間について、長いと言いたいのだろう。


「あーもう、可愛いなぁ」

「ん……んんぅ」


 その可愛さにルーディナは意識せずとも甘い声が漏れ、モモンをさらに堕落させてしまう。

 実際、モモンも甘えたような声で、ルーディナの手に縋っている真っ最中。これぞ、愛である。


「……じゃなくて、長いです。質問に答えるまでの時間が」

「あ、そっちなのね」


 と、甘えモモンも可愛いなという感想が浮かび上がっていたルーディナだが、モモンの急に我に帰ったような声に、その思考が止められた。

 どうやら先程言っていた長い、というのは頭を撫でている時間ではなく、質問に答えるまでの時間だったらしい。


「んで、なんだっけ?」

「あ、えと……血肉、というのは?」

「――――」


 ルーディナは再び何がどうだったのかと問うと――モモンは一瞬思い出すような仕草をし、その後、前の質問を繰り返した。

 ルーディナはその再びの問いに、もったいぶるように数秒間、目を瞑り――


「……内緒」


 ――人差し指を自分の唇の前に立てて、そう言った。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――とまあその後、なんで教えてくれないんですかと可愛く暴れるモモンをディープなキッスで黙らした。


 ということでルーディナは、血肉の話になる前の、拠点探しの件について、奴隷たちと話し合いをする必要があると考えた。

 そして奴隷たちに呼びかけをし、奴隷監禁所の中心にルーディナが座り、その周りに円を描くように奴隷たちが座っている――というのが、今の状況だ。


「ふぅ……さて、皆んな、私から話したいことが一つ……いや、二つある」

「――――」


 そしてルーディナがそう言うと、周りの奴隷たちが、ルーディナの一言一句を聞き逃さんと聞き耳を立てたが故か、沈黙に包まれる。


 とりあえず、最初にルーディナの、今回話す内容についてまとめておこう。


 まず、一つ目――これは先程言った、拠点探しだ。

 安全かつ目立たず、衛生管理がばっちりで、百人規模でも窮屈を感じない場所。

 それを求めるには、そこに住むには、話し合いで候補や決定をする必要があるだろう。


 そして、二つ目――これは先程、ルーディナがハッと気づいたことである。それは――


「――奴隷」

「っ……」


 ――ルーディナが先程から心の中で、彼ら彼女らのことを()()、と表してしまってることである。奴隷たち、奴隷全員、奴隷監禁所、など。


 確かに彼ら彼女らは国王処刑の裁判に出て、見事それが上手く行くまでは奴隷という身分だ。

 故にルーディナの言い方も間違っているわけではないのだが――それでも、ルーディナは愛しているものたちを奴隷とは、呼びたくない。


 そう思って奴隷と言の葉を溢したのだが、そのルーディナの言葉に何をどう勘違いしたのか、ルーディナの愛しているものたちは息が詰まったような声を出す。


「じゃあ、一つ目から行くけど、まず奴隷について。……確かに皆んなはまだ身分は奴隷だけど、将来的には違くなる。それに、私だって愛してる皆んなを奴隷とか呼びたくない。だから、奴隷じゃない呼び方……つまり、組織名を作ろう!」

「……組織名、ですか?」


 とりあえず、ルーディナの愛しているものたち全員が息を詰まらせたのは――良くない考えが浮かんだからなはず。

 故に、まずは最初にそんな良くないものではないと、解釈違いだとわかるように言葉を告げ、そしてその後、ルーディナは本題を話す。


 数時間前、『勇者パーティ』の諸々やザシャーノンらと会議をしたとき、ルーディナの作った文は少し伝わりづらかったが――今はそれがない。成長している証拠だ。

 とまあそんなことはどうでも良く、組織名――それを決定させたいと、ルーディナがそう言った後、よくわからない風に声を出したのが、モモンだ。


「そう、組織名。皆んな全員で一つのチームってこと」

「……つまり、こういうことですね」

「ん?」


 と、この全員で一つのチーム、チームワークを大事に、などとルーディナが組織で大事なことを述べようとすると、ふと、モモンが何か自慢げな顔をしながら立ち上がった。

 何事か、とルーディナは目を見開きながら、疑問の声を上げて周りを見渡すが――そのモモンの行動について疑問を持っているのは、ルーディナ一人のみであった。


 なぜか他の皆も自慢げな顔をして、モモンの行動を待っている。そしてモモンがルーディナの前に出てきて――


「我が名は『星誓(せいせい)』のモモン・プロローム! ルーディナ・デウエクス様率いる、『星姫(プリンセス)()後追い(アルデバランズ)』を、ルナ様の代わりに統べしもの! 我が星(ルナ様)への誓いは、永遠に尽きることあらず!」


 ――と、二つ名、組織名と共に、自己紹介をした。その、自慢げな顔、そして腕を組んだモモンを見て、ルーディナは――


「ちょっと何言ってるかわかんない」


 ――そう言わずには、いれなかった。




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