第二章二十四話 「愛情」
―――とりあえず、ルーディナが見ている現状を報告しよう。
ルーディナは国王処刑という大規模な企みを犯すため、次代国王であるイ・エヴェンと協力し、三日という制限時間の中で、これをやろうあれをやろうと、いくつかの作戦を決めた。
故にここではルーディナ一人だが、他の場所では、他の『勇者パーティ』の諸々が今も大活躍中だったり、逆に大きなミスを犯していたりする。
それでルーディナの役目は、国王が持っている奴隷――その確保と、国王処刑に証拠として出るための、代表と取り巻きの決定。
だがまあそんなことは、今伝えるべきことではない。伝えること、その光景をダイジェストで送ろう。
「ルーディナさん! 全員、あなたにつきます!」
「どうか、我ら全員を、配下に!!」
声が上手く出ず、返事をするので精一杯だったはずのモモンに、その場を任せた。
そしたらなぜか奴隷全員が、今から国を滅ぼすぜヒャッハーのような目をして、まるでルーディナを一国の大皇帝とし、それに従うように跪いている件。
「こほんこほん……モモ、改めて聞くけど何があったの?」
「ん〜? なんか皆さん元気がなかったので、お前らもっとシャキッとしろよ的なこと言ったら、皆さん元気出ました」
「うん。なんだそれ!?」
見た目も美しくスタイルも良く声も綺麗で、何もかもが可愛いモモン。
だがその話を聞くに、実はオラオラ系で奴隷全員を励ますような、それでいて闘志を蘇らせるような、そんな風な性格だった件。
「俺の名前はカーヴィス・ジオディラーです! この度、そこの泣き虫代表に煽られ、それを俺の気合いで闘志へと変え、王国を滅さんと決意しました!」
「私の名前はティアラナ・スーフィパーレです! この度、そこの弱虫代表に煽られ、それを私が慈愛の心で許し、その慈愛の心で王国を取り囲み破壊せんと決意しました!」
「二人とも、よくできました! ……ちなみにですけど、泣き虫代表と弱虫代表ってなんですか!?」
「「我らの心は常にルーディナ様の元にあり!」」
「私の話を聞きなさい!」
ルーディナの配下になる件について、カーヴィスという灰髪の男性と、ティアラナという水髪の女性。
その二人がモモンから意気込みを言えと言われ、前に出てきて吐いた言葉が、それだ。
気合いで闘志に変えたり、慈愛の心で許したり、王国を滅さんだの破壊せんだの物騒なことを言い出す。
挙げ句の果てに、なぜか励ましてくれていたはずのモモンのことを、泣き虫代表や弱虫代表と罵る。
突っ込みどころ満載、カオスフェスティバルである。それが、今の状況だ。
「いや意味わからにゃい!?」
「「「ふぁ!?」」」
――と、そこまでのところを回想したルーディナは、その出た結論に対し、思わず叫んでしまった。
焦っていたのか、余程意味がわからなかったのか、噛んでしまったし。
そのルーディナの叫びが、配下になることについての意気込みを意味がわからないと言われたと、モモン、カーヴィス、ティアラナの三人が勘違いしているし。踏んだり蹴ったりである。
「ル、ルーディナ様! 俺は本当に、王国……否、世界の滅びを願っております! この恨みはらさねおくべきか、というやつです! 憎悪と憤怒の籠った力で、世界を闘神の如き一撃で粉砕します!!」
「わ、私もですルーディナ様! 私の慈愛の心は世界に牙を向け、憎悪と怨念の心へと変化します! 故に、世界の滅びも崩壊も近い! 私の光が、いつか世界を断罪しますから!!」
「いやそんなことあってたまるかぁ!? ……後、憎悪に変わったら慈愛じゃないでしょ」
「「ふぁっ!?」」
さらに何をどう勘違いしたのか、いきなり滅びだの崩壊だの断罪だの憎悪だの憤怒だの怨念だの、そんなものを必死に語られても、ルーディナは困る。
その決意と覚悟、それにやる気だけは認めるが――
「却下却下! やっぱ、私の配下になるの却下!」
「な、なぜ!?」
――ルーディナは、この集団を一人の乱れもなく扱えと言われたら、無理ですと即答できる自信がある。
故に、配下になるだのなんだの言っていたが、全力で拒否させてもらう。
――だが一人、ルーディナの却下を拒否とわからなかった、馬鹿がいる様子。
「くぅ、ルーディナさん、さすがです! 痺れます! 憧れます! 皆さん、よく聞きなさい!! これは私たちへの試練です! 私の配下になりたいなら、私が気に入る人間になれと、そう言っているのです!!」
「なるほど!!」
「違うから!?」
ーーモモン・プロロームである。ルーディナの却下と拒否を、どうやらルーディナの気に入る人間になれと、そう励まされたと勘違いしているらしい。
ルーディナはモモンの発言を全力で否定したが、気に入られるような人間になると意気込んでいる奴隷たちには、誰一人として伝わっていない様子。
「……はぁ」
そのような奴隷たちを見て、さすがのルーディナも呆れ、ため息を吐いた――否。ルーディナのため息は、ギブアップのため息だ。
「――――」
ルーディナと奴隷たちの間には、大した密接な絆などは存在しない。
ルーディナがいろいろと励ましたのはモモンのみだ。実際それも、励ましたというより可愛がったに近く、モモンがそれで元気づけられていたのかどうか、ルーディナにはわからない。
そんな、ルーディナに従う義理も義務もなく、従ったことで何かが得られるというわけでもないのに――見ての通り、奴隷たちは必死だ。
「あ、あぁ……もう、やぁん」
ルーディナは思わず、少々妖艶な声を出し、身を捻る。
奴隷たちが必死なのは、ルーディナに認めてもらいたいから。ルーディナに認めてもらいたいのは――きっと、救ってもらいたいからだ。
「あ、やばい……ふぅ」
ルーディナが自分たちを救ってくれる存在だと、ルーディナが自分たちの大将だと疑わず、誰も彼もがルーディナに認めてもらおうと、必死に頑張っている。
――そんな必死な姿を、そんな努力している姿を見せられて、絆されない人は、いるのだろうか。
「ああ〜……はぁ、全くもう」
結論で言えば、ルーディナはものすごく信頼されていて、皆んなが皆んな信頼しているが故、ルーディナに認めてもらおうと必死。
こういう努力や頑張りには、ルーディナは滅法、弱い。
なぜなら、先程まであれだけなんだこいつらと思っていたのに、こうやって考えてみると――とても、愛しくなってしまうから。
「はぁ……これは、なんか可愛い皆んなが悪いんだから」
そう、誰に向けるでもない言い訳をするルーディナ。
その後、どうやったら認められるとか、気に入ってもらえるにはどうすればとか、そう言ったことをカーヴィスやティアラナと共に言い合い案を出しているモモンの方へと、歩いていく。
「ん、あ、ルーディナさん! ルーディナさん、是非ともなんですけど、好きなものとか趣味とか、そういうの教えてもらんむっ!?」
そして、ルーディナが来たことに対し、ちょうどいいとでも言わんばかりに、好きなものやら趣味やらについて質問するモモン。
だが、ルーディナはその諸々全てを無視し――モモンの唇と自分の唇を、合わせた。
「――――」
ついでにモモンの口内に舌を侵入させ、ディープなキッスを完成させる。
そのルーディナの突然すぎる行動に、さすがのモモンや奴隷たち全員も何が起きたかまだ把握し切れていないのか、一歩も動くことなく瞬きをすることもなく呼吸をすることもなく、硬直している。
「……ふぅ」
「ん……あ、あの、ルーディナさん……?」
――そして、約二十秒程度といったところか。ルーディナは、モモンの唇と口内を存分に堪能した。
未だに何が起きたか把握し切れていなく、ルーディナになんなのかと質問するモモンを無視し、次のターゲットへと、迫る。
「……あれ、これ向かってくる方向からして俺じゃね?」
「ん、正解」
「あ、そりゃどうもんっ!?」
――そして、今度のターゲットであるカーヴィスにも、ディープなキッスを。
「……次、私?」
「ん」
「あ、そうなんでんむぅ!?」
――そしてそして、さらなるターゲットであるティアラナにも、ディープなキッスを。
「ちょ、これ次はんむっ!?」
「あー、なるほど? この様子だと今度は僕ん!?」
「ママ、ママ、なんかあれ楽しそんんっ!?」
「あ、あらそう、というより、ルーディナ様? あの、私既婚者でんんっ!?」
背丈が低い子供や幼女から、既婚者や成人たち、老人に至るまで男女年齢関係なく、ルーディナはディープなキッスをし続ける。
もちろん、全員二十秒ほどで、そこに小数の差すら、ルーディナは入れさせない。
――そして、全員にディープなキッスをし、もう一度モモンへと、ルーディナは向かう。
「……ル、ルーディナさん? あの、これは、その……何をしたいんでしょうか?」
「……私は悪くないの。可愛い皆んなが悪いだけ。OK?」
「お、おけー? てか、可愛いとかなんとか……え、ええと?」
ルーディナはやはり、この集団のことを扱える気はしてこない。
もう少し、ルーディナがしたディープキスに恥じらいやらなんやらを感じてくれると、とても扱いやすいのだが――それはそれ、これはこれ。
ただただ、二十秒という抵抗時間があったのに、誰一人としてルーディナのキスに抵抗しなかった奴隷たち全員が、ルーディナはとても愛しい。
「私の配下に、なりたいんでしょ?」
「あ、はい! それはもちろん、そうなんですけど……その、それとこれが、どのような関係で?」
それとはルーディナの配下になる件で、これとはディープキスの件であろう。
確かに、一見すれば、配下とディープキスはなんの関係もないように見えるが――
「……言うなら、証明?」
「しょ、証明?」
「そう。……ね、モモン。なんで皆んなは、私のことこんなに信頼してくれるの?」
「え?」
――証明、という形で言ってしまえば、それとこれの関係は結びつく。
とまあ、それは一旦置いておいて――ルーディナはモモンに、どうして皆んながルーディナを信頼するのか、質問する。
だがその質問の態度は、不思議がっている様子でも戸惑っている様子でもなく、ただただ愛しいものを見つめるような、余韻に浸るような表情と、態度。
「いや、だって、ルーディナさんが私のこと励ましてくれたじゃないですか」
「でも、ここにいる皆んなを励ましたのはモモンでしょ?」
「私はルーディナさんに励まされてこうなってるんですから。私が励まそうがなんだろうが、その影響はルーディナさんのものです。だから、ルーディナさんが信頼されてるのは、何もおかしいことではないですけど……」
「……そっか」
――ルーディナは聞いた。言質を取った。
奴隷は全員、ルーディナの配下になりたいと。
奴隷は全員、ルーディナのことを信頼していると。
奴隷は全員、ルーディナの配下になるため、必死に頑張っていると。
ならば、ルーディナも、その奴隷たちの期待に応えなければならない。
「……独占する権利ぐらい、私にあっても良いと思うんだ」
「……ええと?」
「よし、一から十まで説明するから、聞いてね? ……もちろん、他の皆んなも」
ルーディナのその言葉に、場が沈黙で包まれる。誰一人として、ルーディナの言葉を聞き逃さんと、しっかりと覚えると、そう意気込んでいるようだ。
そんなところも、実に愛しい。
「まず、皆んなは私の配下になりたい。私のことを信頼してるから、皆んなは配下になりたい。それで、皆んな必死に私に気に入られようって頑張ってるんだから、私がその期待に応えるのは当然でしょ?」
「で、でも、ルーディナさん……却下とか、なんとか」
「あ、却下って言ったのはごめん。それはさ、皆んなの必死に気づく前だったから。頑張ってる人相手に、あっさりと切り捨てるようなことは、私はしないよ?」
「……そうですね」
つまりルーディナを信頼しているが故、奴隷全員はルーディナに配下になりたい。そしてルーディナはその一生懸命さに気づいたから、その期待に応えたいと思った。
まだまだ話は続くが――先の展開を読めてきたのか、奴隷のうちの何人かが、目の端に雫を溜めている。
「そ。で、まあ私は期待に応えるから、皆んなを配下にするじゃん? ……んでさ、皆んなは奴隷なわけでしょ? 主にどうこう言う権利は、ないわけでしょ? だったら、私が皆んなを独占したって、別に良いよね?」
「……それは、ルーディナさんに……ルーディナ様にとって、負担では?」
ルーディナの説明、というより言質を取るための問いかけに、モモンはそう質問する。
おそらく、さん付けが様付けになっているところからして、もう先の展開はわかったのだろうが――単に、安心が欲しいのだろう。
それで、負担ではないか、であったか。答えは簡単。
「負担なわけないじゃん」
「っ……」
――負担なわけが、ない。
確かに、全員を相手するだとか、全員の面倒を見るだとか、全員を差別なく愛するだとか、そういうのにルーディナも大変だ、と思わないわけではない。
だが――人は、好きなことならなんでも頑張れる生き物だ。
別に大変だろうが厳しかろうが、それが好きな人のためなら、好きなことのためなら、ルーディナはなんだってできる。
「まあつまり、私にとっては得ばかりの話。皆んな独占できるし、後、代表と取り巻きもついでに決められるし」
「……そうですか」
ルーディナがそう言った直後、何人かの涙腺が崩壊した。
もちろんルーディナとて、その流される涙が、悲しさではないことはわかっている。
「……本当に、可愛いなぁ」
――奴隷全員、皆んなが皆んな、嬉しいのだ。
今までずっと奴隷で、死体の処理をするような場所でずっと住み、碌な食べ物も食べず、衣服も着てすらなかった。
そんな最悪な生活――それから解放してやると、ルーディナは言っているのだ。
「――――」
――ルーディナは、奴隷全員が、愛しい。故に、欲しい。
誰のものでもなく、ルーディナたった一人のものとして、ルーディナが奴隷全員を独り占めしたい。
奴隷たち皆んなも、ルーディナのことを信頼している。そのために、必死で気に入られようと頑張ってきたのだから。つまり――
「両想いってことだよね」
「……そうですね」
――お互いがお互いを思い、お互いがお互いを信頼し、お互いがお互いを愛する、両想い。
それは――言わずもがな、奴隷たちにとってもルーディナにとっても、最高の形である。
「ん、でさ」
「……はい」
「最後の確認で聞くけど、皆んなは私の配下になる? 拒否権はないけど」
「……拒否権、ないじゃないですか」
「そうだけど……何、モモは拒否するの?」
「するわけありません」
ルーディナは最後の確認として、本当に奴隷たちは皆んなルーディナの配下になるのか、と質問した。
まあ拒否権はないわけだが――かと言って、モモンはきっぱりと拒否しないと言い切り、他の奴隷たちは何も述べないが――それと同時に異論も述べない。
沈黙は、肯定である。
「んじゃ、最後に言っとくけど……私、束縛強い女だから。誰一人として逃さないし、皆んなをしっかりと幸せにするから、覚悟しといてよ?」
そして最後、そのルーディナの救いとも言える宣伝に、奴隷監禁所が、嬉し涙の泣き声で包まれた。
どうもこんにちは、超越世界です。
いやぁなんかさぁ、知らず知らずのうちにルーディナが奴隷全員とディープキスしてたんだけど。なんで?
ちなみにですけど、ルーディナはメリアと一回キスしてるじゃないですか。
だから、ファーストキスメリアなんだから、それ以降はもう好きなやつにどんどんキスしたって良いよねって変態思考なんです。
今回のことは多めに見てやってください。
てかさぁ、第二章十話ぐらいで終わらせる予定だったのに、二十話以上まで来てるってどういうこと?
キャラが勝手に動くってあるんすね。
ということで、今回も読んでくれてありがとうございます!!
感想・評価、ついでに誤字報告、是非是非お待ちしております!! では、またね〜




