第二章二十三話 「凄絶」
―――地図と作成を使い、安全かつ登りやすい、地上への階段を作ったルーディナに残る問題は――奴隷たちの、服装である。
モモンのみはルーディナのマントがあったため、どうにか服を着させることはできたが、それ以外の奴隷たち――先程ざっと見た結果、百人弱ほどはいる。
「……買う、ってのはちょっと無理かもなぁ」
ルーディナの呟き通り、百人弱の服装を全て自腹で買う、というのは少し厳しい問題である。
ルーディナは『勇者パーティ』の一員であるが、そこまでの金額を持っているというわけでもない。
そもそも誰がどんな服装を好みなのかも知らないし、百着なんて服装を買ったら、悪目立ちしてしまうのは明らかだ。
「うーん……」
制限時間――イ・エヴェンが国王処刑の件の裁判の場を整えるまで、残り三日。
その間に、ルーディナはモモンをリーダーシップある美少女へと育て、奴隷たちの中から取り巻きを決め、服装を揃えなければならない。
三日もあれば――と、思うかもしれないが、三日というのは案外、早く過ぎていくものだ。
「……まずは服。服が大事、裸で歩かせるわけにはいかないから」
三日の間にやるべきことの三つ。モモンの育成、取り巻きの決定、服装の確保。
この中から、今、最優先すべきは服装の確保。それを最優先とし、達成せんと決意を新たにするようにルーディナは覚悟が籠った声で、そう言った。
――服装程度で覚悟を籠らせるのは、少々大袈裟かもしれないが。
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――というわけで決意を新たにし、覚悟を決めたルーディナは、ロード道中王街へと訪れた。
そこはルーディナが初めてザシャーノンたちと会い、ルーディナが初めて血肉を見た、言わば、ルーディナが始まる原因となった、街。
「……なんか、懐かしいなぁ」
まだここを離れてから数時間ほどしか経っていない気がするが、なぜか、ものすごく懐かしく見える。
故に今、この街の光景を見て、懐かしさにより心温まる――なんてことはない。
「……血肉さえなければ、絶景だったのに」
心温まらない原因は、血肉である。
まだ一日も経っていないため、残っている血肉たちが――時間が経って消えるかはわからないが――そこら中に散らばっており、どこを見ても不快なのだ。
故に、絶景になり得る可能性があったであろう場所は血肉により、不快を感じさせる場所へと変わった。
「……ま、いっか。それよりも服だよ服」
まあそんな光景問題はどうでも良く、ルーディナがこの王街に再び訪れたのは、服を入手するためが理由だ。
血肉に塗れているこの王街には、もう人どころか、生きとし生けるもの全てが既に存在していない。
だが、建物や服装などの、命が宿っていない物体や物質は、まだ残っているはず。
ならば服屋か何かに行けば、店主も店員も買う人も売る人もいなくなってただの余り物と化した服が、着てくれる人を求めて跋扈しているはずだ。
金もかからない、悪目立ちもしない、余り物の服たちも報われる。一石二鳥ならぬ、一石三鳥である。
「よし、行こ」
――ということで、ルーディナは百着ほどの服装を持ち、奴隷監禁所へと帰っていった。
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――そんなこんなでさまざまな場所を探索し、冒険し、モモンはどうなったか、取り巻きは誰にしようかなどと不安や心配を込めながらも、ルーディナが奴隷監禁所に返ってきた結果。
「ルーディナさん! 全員、あなたにつきます!」
「どうか、我ら全員を、配下に!!」
モモンを筆頭に、子供も老人も男も女も関係なく、全員がルーディナに向かって跪いていた。
それを見て、ルーディナは――
「何があった!?」
――突っ込まずには、いられなかった。
「何もどうも、私が頑張りました!」
「いや、何をどう頑張ればこんなになるわけ!?」
ルーディナは、少しモモンを過小評価しすぎていたのかもしれない。
モモンと初めて出会ったときは、奴隷で碌な声も出せず、返事一つで精一杯な可愛い女の子――そんな風なイメージであったのに、一体全体何がどうなった。
「むぅ……ルーディナさん、褒めてくれてもいいんですよ?」
「――――」
「ね? ね? だって私、しっかりとルーディナさんの言ってくれたこと、やり遂げました。なら、それ相応のご褒美を……わっ!?」
とりあえず、モモンがご褒美やらなんやらを求めてきたので、ルーディナはモモンに抱きつくことにする。
ついでに、その右手で頭を撫でてやると、モモンは気持ち良さそうに目を細め、甘えるようにルーディナの右手を求めてきた。
「本当に可愛いなぁ……」
「えへへ……」
そしてルーディナが思わず心の中の言葉を発すると、モモンはさらに甘えるような声を出して、ルーディナの頬に頬擦りをしてきた。
その行動に、ルーディナはなんだかとても襲いたくなるような衝動を覚えるが――それを一旦気合いで止め、モモンに再び、何があったのかを問おうとする。
「こほんこほん……モモ、改めて聞くけど何があったの?」
「ん〜? なんか皆さん元気がなかったので、お前らもっとシャキッとしろよ的なこと言ったら、皆さん元気出ました」
「うん。なんだそれ!?」
結局、しっかりと聞いたところで、なんだそれと言わずにはいれないものであった。
要約すると――モモンがとても頑張って、奴隷たちも皆、生気を取り戻した。
その結果、全員がやる気を取り戻し、ルーディナにとっていい方向へと、変わってくれた。
つまり、再びの一石三鳥である。
「ふむふむ、そう考えるとなかなか……」
「ルーディナさん?」
「あ、そうだ。全員私の配下につくとか言ってたけど……」
「はい! もちろんです! 私と、後、カーヴィスとティアラナ!」
「「はっ、ここに!」」
「さあ、意気込みを言いなさい!」
なかなかいいのでは、となるルーディナは、そう言えば先程、配下になるやらどうやらこうやらと言っていたな、と思い出す。
それをモモンへと尋ねると――いきなり咆哮の如く声色が逞しくなり、カーヴィス、ティアラナという二人の名前を呼ぶ。
すると、呼ばれた二人――灰色の髪に、中々の長身と細身の裸の男性、おそらくカーヴィスと呼ばれたもの。
そしてもう片や、水色の髪に、かなりの妖艶な体つきをした裸の女性、おそらくティアラナと呼ばれたものが、前に出てくる。
そして――
「俺の名前はカーヴィス・ジオディラーです! この度、そこの泣き虫代表に煽られ、それを俺の気合いで闘志へと変え、王国を滅さんと決意しました!」
「私の名前はティアラナ・スーフィパーレです! この度、そこの弱虫代表に煽られ、それを私が慈愛の心で許し、その慈愛の心で王国を取り囲み破壊せんと決意しました!」
「二人とも、よくできました! ……ちなみにですけど、泣き虫代表と弱虫代表ってなんですか!?」
「「我らの心は常にルーディナ様の元にあり!」」
「私の話を聞きなさい!」
――なんだろう、このカオスは。
別に王国破壊やら崩壊やらを目指しているわけでもないし、気合いやら闘志やら慈愛の心やらと、一体何がどうそんな単語を生み出したのだろうか。
後、モモンが泣き虫やら弱虫やらと言われているのは、なぜだろうか。
聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、ルーディナの心が、なぜか拒否反応を示している。だが――
「とりあえず、私の配下ってのは却下で」
「「「な、なぜですか!?」」」
――ルーディナ一人でこの連中を扱えるような気は、とてもしてこなかった。
キャラ紹介
・カーヴィス・ジオディラー
前回、「っ、うるせぇ!!」とか「俺が考えれなかったから、こんな不幸になってんだろ!?」みたいな叫んでた人です。
・ティアラナ・スーフィパーレ
前回、「ちょっとあんた、それは酷くない!?」って言ってた人です。
この二人は予定だと名前回書きます。
僕の腕が怠惰になって書きたくねえーって言う可能性もあるけど。予定だと書く、うん。
というわけで、今回も見てくれてありがとうございます! 次も見てね!!




