第二章二十一話 「行動」
作戦内容1<ルーディナ・デウエクス用>
・地下の奴隷監禁所には何があるかわからないので、『閃光の勇者』ルーディナ・デウエクスのみで行くこと。
・可能ならば奴隷全員を救出、及び現状説明をすること。
・国王処刑裁判にて出場する代表、複数人の取り巻きを決めること。
・その代表、複数人の取り巻きの服装を、高価そうなものに整えること。
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――モモン・プロロームと名乗った、金と桃が混ざったような髪をした妖艶な体つきの美人に、自分の鎧についているマントを着せながら、ルーディナは作戦内容について思い出していた。
作戦内容は簡略化すると――奴隷全員を救出し、国王の罪を明言するため、代表と取り巻きを決めるというものだ。
「……よし」
「ぁ、ぇと、ぁ……」
そしてルーディナは、代表をモモンにすると、既に決めていた。
彼女は見た目も可愛いし美しいので、これが国王の性奴隷です的なことでも言えば、周りからは真実と思われやすいであろう。
――それにルーディナは、モモンのことを気に入っている。
モモンの絶望を完全ではないが理解できなくもないし、見た目も可愛く美しい。
そしてルーディナがマントを着させ、それに対するお礼をすぐ言えない、といった恥じらしさがあるところも――実に、可愛い。
「ん、大丈夫だよお礼は。私がしたくてやってるんだから。ね?」
「ぁ……はい」
「お、よく返事ができました〜。偉いね偉いね〜」
「ん……」
未だに他人と話すことに慣れていないのか、モモンはお礼の一つも咄嗟にできず、返事一つで精一杯――まあ、そう言ったところが可愛いのだが。
モモンの返事一つ、それも声を振り絞って出したものだろうとルーディナは理解し、赤ん坊を甘やかすような声色と、プラスアルファで頭を撫でる。
すると――甘える子猫のようにその手を求め、しかしどこか羞恥も感じるのか若干頬を染めながら、モモンはルーディナに甘える。
「かっわぁいい!!」
「はぅ!?」
ご存知の通り、ルーディナは可愛い人物が大好きな性格である。
メリア然り、ザシャーノン然り、ついでにレンプレイソン然り、自分の身の回りにいる美少女、美女たちは全て、自分のものにしたいと企むほどだ。
レンプレイソンには全くと言っていいほど手を出せなかったが、今後また会うとき――いつになるかはわからないが、そのときは逃すつもりはない。
それと同様で、可愛くルーディナに甘えるモモンを見ると、こうグッとくるものがあり、ついつい抱きしめてしまうのも仕方がない話なのだ。
「モモンちゃん、本当に可愛いなぁ……」
「ぁ……ん……」
「ん〜?」
あまりの可愛さに抱きついてしまったが、モモンはルーディナの抱擁に、大して嫌悪感を感じていなさそう――どころか、やはり甘えてくる。
その仕草も甘えてくる声色も、ルーディナは自分の妹みたいに感じ――そこで、ふと疑問が出てきた。
「……モモンちゃんって何歳なの?」
「ぇ……じゅぅ、きゅぅ……」
「十九歳?」
「ぅん……」
「……モモンお姉様?」
妹みたいに感じたが故、ルーディナよりも年下かと勝手に思っていたが――まさかの、モモンお姉様であった。
ルーディナは十六歳、そしてモモンは十九歳――三歳差の、甘えん坊なお姉様である。
「とりあえず、これからモモ姉って呼んでいい?」
「――――」
「……モモでいい?」
「ん」
「おっふ、可愛い……」
とりあえずモモンの呼び方が決まり、ついでにモモンにも寒く感じないように、肌が露出しないように、マントを着させた。となると、次は――
「――この子供たちと、他の奴隷たち、か」
――モモンの同じ檻の中にいる四人の子供たちと、それ以外の檻――ルーディナがちょっと見ただけでも二十個以上はある檻の中にいる、奴隷たちの救出。
ついでに全員がやはり裸なので、服を着させなければならないが――ルーディナのマント以外、着させるものはここにはない。
「……どうしよ」
――さて、どうしたものか。
服はない。しかし皆、裸。
救出せねばならない。しかし、いろいろと面倒臭い道のりがあったこの監禁所を、奴隷たちが抜け出せるとは思えない。
モモンを代表にし、他の取り巻きも決めねばならない。しかし、モモンは今の通り返事をするだけで精一杯だし、取り巻きは誰にすればいいのか決まらない。
服がなく、抜け出せるか不明で、代表も取り巻きも少し不安。ならば――
「それ全部を、達成できるように……よし」
――全部を達成できる、一石二鳥ならぬ一石三鳥――その作戦を、考えるべき。
そしてさすがは『閃光の勇者』の閃光通り、頭の回転が速いルーディナ。――作戦を、思いついた。
「ね、モモ」
「ん……」
「私が帰ってくるまでに、皆んなのこと安心させてられる?」
「……ん?」
ルーディナが、この監禁所から直球で地上に登れる道を作れば、奴隷全員の救出が可能になる。
そしてルーディナがいないその間、モモンが皆んなをまとめていれば、モモンのリーダーシップ能力が上がる。
それにルーディナが帰ってきたとき、モモンの周りで他の誰かも手伝っていたり、モモンの指示にすぐ動いたりと、そう言った優秀なものを集めれば、取り巻きの確保も可能。
「できる?」
「……ん!」
「……ありがとね」
そのルーディナの作戦に、モモンは快く、そしてやる気満々で答えてくれた。ならば、奴隷たちについては、モモンに任せればなんとかなる。
故に――
「じゃ、モモン、頼んだよ?」
「ん!」
「よし……道、作りますかぁ」
――残りの作業は、安全かつ登りやすい地上への道を作ること。
設計図の作成、横幅縦幅の計算、時間速度距離の問題、X座標やらY座標やらなど――ルーディナの、得意分野ばっかりの仕事だ。
「うーんと……まあここら辺でいいかな」
と、そう言いながらルーディナが訪れた場所は、奴隷監禁所の一番奥の、何もない壁である。
地上への階段などを作るには、何も障害のない壁や、弄られていない場所などが最適なのだ。
この壁に上の地上に何があるか、ルーディナにはわからない――ことはないのだ。
「地図」
――勇者のみの特殊能力、地図。これは一体どういうものか――簡単に説明すると、生物なしでの地形がわかる、というものである。
それはもちろん、今いる位置と平行にある場面もわかるし、今いる場所からの地上も地下も天空も海上も、わかる。
「……うん、大丈夫そう」
それで、ルーディナの頭の中に浮かび上がってきた地上の画像は――ただの、なんの変哲もない森林。
ここは、第一巨大王国ノヴァディースから少し離れているため、おそらくその近くにある森林なのだろう。
王国が近い故、周りの森林や池などは整備がきちんとされている。ならば、なんの問題もない。
「よし、次は……作成」
そしてここからは、地形を意のままに変えられる勇者のみの特殊能力――作成での、慎重かつ集中してやらねばならない作業である。
――制限時間、残り三日。




