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第二章間話 「戦前」




<視点 イ・エヴェン>


「――本当に良かったのですか? エヴェン様」


 ――『勇者パーティ』の諸々と国王処刑の件についての作戦を考え合い、語り合い、決め合い、それを実行に移すため、彼ら彼女らが出ていった後の会議室。

 その会議室に残り、疲れたように机の上に置いている紅茶を飲むイ・エヴェンに、そう尋ねたのものがいた。


 それは、――長く伸びた銀髪に白銀の鎧、風精霊の王の加護が宿った剣、そしてまだ幼さを感じる可愛げのある顔の少女――『騎士団長』、又の名を『銀髪の救世主』、エレサロン・ラーティキュス。

 本当に良かったのですかと、そこに込められている意味と意図は――それが言わずもがな、何を指しているか、イ・エヴェンは理解している。


「ああ、別に何の問題もない」

「……確かに我も、国王処刑の件についての異論はありません。ですが、『閃光の勇者』が、その情報を手に入れた情報源は――」


 意味も意図もわかっていたが故、イ・エヴェンは考える間も入れず、即答で答えた。

 それに対しエレサロンは、その見た目からは予想できない凛々しい態度と、その見た目から容易く想像できる可愛い声で、情報源という言葉で一泊置き――


「――魔界王配下の各種族幹部からのもの、と言っていました」

「――――」


 ――王国のみならず、『人類平和共和大陸』共通での禁断の言葉を、口にする。


 魔界王、『十魔星』、魔族、各種族幹部、代表王など。――そう言った『魔界王支配地域』関連の言葉は、どれも言ってはならない禁忌とされている。

 だが、『勇者パーティ』の一員であり、『勇者パーティ』の諸々を束ねて先導する、『閃光の勇者』ルーディナは――絶対に信じてくださいね、という確認を入れ、しっかりと言質を取ってから、その名を容易く口にした。


 なぜ彼女がそこまで容易く口にできたのか、なぜ彼女がそこまで信頼しているのか、なぜ彼女がそこまでこちらに遠慮なく話せたのか――疑問は尽きない。

 しかし――


「……確認を入れ、言質を取ってから言うほどなのだ。何か、その幹部とやらと重大なことや信頼できること……そう言ったものが、あったのだろう」

「故に、その意図を読み取って、エヴェン様も信頼するわけ、ですね?」

「ああ」

「……そうですか」


 ――イ・エヴェンは既にその決意も覚悟も、そして疑問への返答も、疾うの昔に済ませている。


 ルーディナからのその幹部とやらと言う相手への信頼は、その発言や考えから、必要以上に伝わってきた。

 それが故、ルーディナが相手の善意をしっかりと見つけ信じる性格が故、イ・エヴェンもまた、彼女の思いを考えを話を、信じたのだ。――だがエレサロンの声は、未だに少し暗い。


「エレサロンよ」

「……なんでしょうか」

「逆に聞くが、貴殿は何が不安なのだ?」


 イ・エヴェンのその言葉に、エレサロンは少しだけ目を見開いて、驚愕を露わにした。

 目には目を、歯には歯を、という言葉があるように――質問には質問を。

 エレサロンがそこまで、その各種族幹部やらルーディナやらに不安を覚えるのは、なぜか。


「……まず、情報源が魔界王配下のこと。どうしてそんな重要なことを、こちらに気楽に話せたのかということ。ルーディナ様がなぜ、その幹部を信じているのかということ。そして、極めつけは――」


「――血肉、とやらのことです」

「――――」


 イ・エヴェンの言う通り、エレサロンはどこが不安なのかを、明確に述べた。そして前半三つは、イ・エヴェンにも一応、答えられるものだ。


 情報源が魔界王配下なのは大丈夫なのだろうか。

 ――ルーディナが確認を入れ、言質を取ってから言うほどなので、特に問題はないはず。


 どうしてそんな重要なことを、こちらに気楽に話せたのか。

 ――おそらく、その魔界王の幹部とやらから話すことを勧められたか、こちらをしっかりと信用してくれたかの、どちらか。


 ルーディナがなぜ、その幹部を信じているのか。

 ――信頼できる場面に出会ったり、もしかしたら助けてくれたり、救ってもらったりしたかもしれなくて、それが故に相手のことを信じた、なはず。


 前述した通り、前半三つの質問についてはイ・エヴェンですら、返答が可能な質問だ。だが――


「……血肉、か」

「はい」


 ――『人類平和共和大陸』のほとんどが、既に血肉に溺れている――それについてはイ・エヴェンも、何がどうなのか、いまいちわかっていない。


 そもそも、血肉とはなんなのか。溺れているとは、侵食されているということか。

 『人類平和共和大陸』のほとんどが侵食されているというなら、この国に住む普通の国民たちは、一体どうなっているのか。


「――――」


 ルーディナから傷ついていないんですか的なことを言われたときは、『冷徹の王姫』の名に相応しい姿のため、なんとか平然とした様子で返答をしたが――内心は、ものすごく動揺していた。

 何が何だかさっぱりのものに、いきなり『人類平和共和大陸』のほとんどが侵食されています、と言われたのだ。――動揺しない方が、おかしい。


「――――」


 故にイ・エヴェンも、血肉については一体何なのかと、不安"では"あった。


 本当にこのままルーディナたちと協力して大丈夫なのか。任せて良いのか。黒幕は誰なんだ。裏切られるんじゃなかろうか。

 エレサロンとペアレッツォは二人とも立派な騎士団長だが、まだ子供だし、危険な目に合わせてしまうことになってしまうのか――などなど。


 そんな不安が尽きず、疑問や質問だらけで、心の中は動揺の嵐。――だが、イ・エヴェンから、言わせてもらうならば。


「だから、なんだ?」

「……え?」


 イ・エヴェンのその言葉に、エレサロンは鳩が豆鉄砲を食ったような、そんな表情をした。

 口をぽかんと開け、可愛い顔がさらに可愛くなっているが、そんなことは気にせず、イ・エヴェンは続ける。


「知らないのなら、知っていけばいいだろう。不安があるなら、その都度理解していけばいいだろう。私は、今やるべきことを優先する。知ることも不安を解消することも後で時間があればできるが……我が父の処刑に関しては、今しかできないだろう?」

「…………貴殿は、そういうやつだった」

「む?」


 イ・エヴェンは、驚愕顔のエレサロンにさらに捲し立てるように、言葉を次々と放つ。

 知らないのなら、知ればいい話。不安があるなら、解消すればいい話。そんな、時間があればいくらでもできることをよりも――今しかできない、優先すべきことを進める。


 イ・エヴェンの考え方に――エレサロンは懐かしむような、それでいて若干呆れるような、そんな雰囲気を溢し敬語をやめながら、そう言った。

 イ・エヴェンはそんなエレサロンの反応に、納得いかないと言わんばかりの声を上げる。

 だが、それは敬語を使っていないことでも、呆れるような雰囲気が加わっていることに対してでもなく――


「言っただろう?――私は強い、と」


――ディヴェルダーク・ノヴァディース・レプンツォ・イ・エヴェン・フィブティニーが言ったなかなかの名言を今まで忘れていたのか、ということに対する、不機嫌な反応である。

 それにエレサロンは、やはり呆れたように、しかしどこか仕方がないとでも言うような表情で――


「……エヴェン様は、真面目だな」


 ――と、言葉を溢した。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――さて、覚えているだろうか。

 この会議室――『勇者パーティ』がいなくなった後に、一体何人、人がいたのか。

 『冷徹の王姫』、ディヴェルダーク・ノヴァディース・レプンツォ・イ・エヴェン・フィブティニー。『騎士団長』、又の名を『銀髪の救世主』、エレサロン・ラーティキュス。そして――


「……ほら、お菓子があるぞ? さらに、ケーキもついている。ペアレッツォも、会議続きで空腹だろう? な?」

「……ふーんだ」


 ――先程の、イ・エヴェンとエレサロンの絆を確かめ合うような会話から除け者にされていた、不貞腐れている少女がそこにはいた。

 『魔法騎士団長』、又の名を『天才魔術師』、ペアレッツォ・モンティーヌ。まだまだ、子供というべき年齢だが、その実力は折り紙つき。


 そして現在――イ・エヴェンとエレサロンの会話からずっと羽生られていたため、子供らしく、可愛くむくれている状態。

 ついでに、それを慰めんと必死な、しかし無視し続けられているエレサロン、そしてそれを楽しげに見ているイ・エヴェンという、おまけつき。


「ペアレッツォ……いい加減、機嫌を戻してはくれないか?」

「ふーーんだ」

「ペアレッツォ! そろそろやめないと、我は本気で怒るぞ?」

「ふーーーんだ。あたしだって本気で怒ってますよーだ。べー」

「むぐぅ……」


 ペアレッツォの機嫌を取り戻さんと、エレサロンはお菓子まで用意して、ケーキまで爆速で買ってきた。

 そして現在も、その年相応に実った胸にペアレッツォの顔を埋めて頭を撫でている――が、ペアレッツォの機嫌は一向に直らない。

 作戦実行中に一体何をしているんだ、と突っ込まれてもおかしくない場面だろうが、生憎ながらそれを突っ込むような人物は、今ここにはいない。


「ペアレッツォ……」

「……何」

「いや、拗ねた姿も可愛いなぁと思ってな……」

「ふーーーーんだ!!」

「ひゃあん!?」


 ちなみに、エレサロンはその可愛らしい見た目からは想像できて、凛々しい態度からは想像できないほど、ペアレッツォのことを溺愛している。

 故に落ち込みというのも、どうやら拗ねたペアレッツォを見て、その姿への愛しさの方が勝ったらしい。

 それを口にした直後、ペアレッツォからの胸の先端を摘まれて刺激されるという、なかなかなモノを受けたわけだが。


「逃げる!!」

「あ、こら待て!!」


 そして、ペアレッツォは逃げるために部屋を出ていき、エレサロンはペアレッツォを追いかけるために部屋を出ていった。

 そして、イ・エヴェンはその様子を見て、こう思った。――相変わらず締まらないやつらだな、と。


              △▼△▼△▼△▼△


<視点 ??????????・?????

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―――人が死にました。否、死ぬでしょう。

名前は、ディヴェルダーク・ノヴァディース・レプンツォ・イ・エヴェン・フィブティニー。

第一巨大王国ノヴァディースの次代国王にして、『勇者パーティ』たちに協力し、実の父であル今代国王を死刑にして、そして帝国に行き、『英雄五傑』とともに風帝の技を受けて死んだ愚か者。

まあラーナウ……風帝が相手でスから、死ぬのも仕方ないんでスかね。

おとなしく血肉になって、私の配下にでも加わってれバ良かったのに。

にしても、長い名前でスね。

このときの会話のエレサロンとペアレッツォは、まさか彼女が死ぬなんて思ってもないでしょう。

いやはや、お疲れ様で意味のない人生でした。

後三週間、残りの生を楽しんでくださいねぇ。

ご冥福をお祈りしまス。





 はい、間話です。

 まあそんなことはどうでも良くて、ちょっと時間感覚狂いそうなので書いときますね。


昨日 第一章の、ルーディナとディウがどっちが荷物持ちかで戦ったやつ


今日 午前10:00ぐらい ギルド来ました、なんかS+の依頼受けました、クローディナと話しました

   午前11:00ぐらい ザシャーノン登場、バルガロンとブルガロン登場、コブラヴェズ登場、ルガイド登場、クローディナのギルドで異変発生

   正午12:00ぐらい レンプレイソン登場、会議開始

   午後13:00ぐらい 第一巨大王国ノヴァディース到着、イ・エヴェンとの会議開始

   午後14:00ぐらい 作戦実行

って感じです。


 わかってくれたら嬉しいな。

 ということで、今回も読んでくれてありがとうございます! 次回もお楽しみに!!



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