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第二章十七話 「謁見」




―――王城ゼレルヘレルの豪華な待ち合い室。

 実は防音付きの、人が近づいたら察知して自動で開いてくれる自動扉。一度堕ちたら、戻ることはかなり難易度の高い高級ソファ。決して消えることなく、永遠と光続けている魔術式シャンデリア。


 ――と、部屋の家具の諸々を見れば、この待ち合い質が高級で豪華であると言うことは、最も容易く理解ができる。


「――――」


 そこで、そのソファに座っているのは、頬を真っ赤にしたルーディナとメリア、その二人を微笑ましそうに見ているディウ、フェウザ、アークゼウス。


 その向こう側の、もう一つのソファに座っていて、ルーディナたちと向かい合っているのは――第一巨大王国ノヴァディースが次代国王、ディヴェルダーク・ノヴァディース・レプンツォ・イ・エヴェン・フィブティニー。

 そしてその右斜め後ろに立っている、『騎士団長』、又の名を『銀髪の救世主』エレサロン・ラーティキュス。

 その隣に立っている『魔法騎士団長』、又の名を『天才魔術師』ペアレッツォ・モンティーヌ。


「――――」


 と、名前だけを述べたとて想像できることは少ないであろうが故、見た目も述べよう。


 次代国王、又の名を『冷徹の王姫』、イ・エヴェン。

 彼女は、二十代前半ほどの歳であろう美貌、真紅のような長く伸びた髪、金色に染まる輝く瞳、そしてなぜか王族なのに着ている軍服。

 と、まさに王族と言えるような、威風堂々とした見た目である。


 『騎士団長』、又の名を『銀髪の救世主』、エレサロン・ラーティキュス。

 彼女は、おそらくルーディナと同じほどの歳であろう幼さが残る可憐な顔、長く伸びた銀髪、輝く銀色の瞳、そして腰につけている、何かものすごい力を感じる剣。

 騎士団長としての見た目にしては可愛すぎるし、幼すぎる気もするが、確かな実力者であることは、ルーディナの観察(スキャン)が証明する。


              △▼△▼△▼△▼△


エレサロン・ラーティキュス

性別:女性

属性:風

ステータス

威力:1002

魔力:6万0358

体力:2万0478

敏捷:2万1173

感覚:3万0226

合計:13万3237


              △▼△▼△▼△▼△


 『勇者パーティ』の諸々と比べれば少しは見劣りかもしれないが――それでも、確かな実力者である。


 そして『魔法騎士団長』、又の名を『天才魔術師』、ペアレッツォ・モンティーヌ。

 彼女は十歳程度であろう身長、そしてその背丈に見合った幼い顔つき、紫色というより闇色に近いポニーテール、そしてどこかのお墓参りでもするのかと思うほどの、何十と重ね着された魔術師の服。

 先程のエレサロンと同じく、『魔法騎士団長』としては可愛すぎるし、幼すぎるが、彼女もまた、実力者であるのだ。


              △▼△▼△▼△▼△


ペアレッツォ・モンティーヌ

性別:女性

属性:火

ステータス

威力:62

魔力:40万3525

体力:2099

敏捷:3074

感覚:1万0087

合計:41万8847


              △▼△▼△▼△▼△


 見た通り、その背丈と表情に見合わないような、『勇者パーティ』の諸々よりも高い壮絶な魔力を持っている。

 エレサロンも、ペアレッツォも――その可愛さと幼さからは想像できないような、実力者なのだ。


「……ふぅ」


 と、ちょうど、ルーディナが相手の分析をし終えたとき。

 先程から書類の束を見て、両手を忙しなく動かしていたイ・エヴェンがその漏らした息とともに、書類の束を机の端へと寄せた。

 そしてイ・エヴェンは、どこか申し訳なさそうな表情をし、ルーディナの方をしっかりと見ながら、口を開いた。


「……すまないな。どうやら、私はいろいろと勘違いをしていたらしい」


 一体何を、とは言うまい。


 ルーディナたちは、性犯罪を犯したもしくは犯されたという名目で、この待ち合い室へと呼び出され、酷い言い方をすると、閉じ込められた。

 ――ちなみにだが、待ち合い室にいるものたちが順番で出ていってイ・エヴェンと謁見するという方法が普通だと思うのだが、彼女は次代国王故に王座に座ることがまだ許されないので、向こうから待ち合い室に出向いてきた。


 そもそも、ルーディナとメリアが公衆の前でディープなキッスをしただけである。それもいろいろと訳ありな理由で。

 故に性犯罪など犯されても犯してもいないし、呼び出される理由は言わば免罪。

 そのため、周りの国民たちからの事情聴取で手に入れた情報をまとめたであろう書類の束を見て、免罪だと気づき謝罪した、という形である。


「あ、いえ、大丈夫です。私も私で……まあ、はい、なんか、ね?」

「ああ、言いにくいのはわかる。無理にこれ以上問い詰める必要もないが……故に聞くが、なぜあんなことをしたのだ?」


 隣の頬を赤に染めたメリアが可愛い、と現実逃避気味なルーディナの元へ、そんな問いが降りかかってきた。

 そんなの、単純に好きだからですの返答で終わる問いだが――ルーディナの今回の行動には、しっかりとした理由があるのだ。

 『勇者パーティ』の諸々は何かを勘違いしている節があるのだが、今回のディープキス、これははっきり言って、しなければならないことであったのだ。


「……ええと、そのことについて、いろいろと実は話し合う時間を取りたくて、今回王都に来たんですよ」


 そのしなければならなかった理由、それを説明――まあそれはついでだ。

 だが血肉の件についてルーディナたちは結局、イ・エヴェンと話し合わなければならなかったのだ。遅かれ早かれこの場面になっていたことは変わらない。


「……別に、同性愛など父上は認めると思うぞ?」

「いやそういうことではなくてですね? 私別に、メリアちゃんに、気とか……あー……うーん……うん」

「なんだその微妙に返答に困る返事は」


 話は一旦変わるが、ルーディナも実際、メリアへの愛が恋愛なのか友愛なのか、見当がついていないのだ。

 確かにメリアのことは好きだし、風呂は一緒によく入るし、先程のディープキスも下心が全くなかったのかと問われれば、否と答えるしかない。


 だがルーディナも、それが恋愛なのか友愛なのか、わからないのだ。

 そもそもどこが恋愛と友愛の境目で、どこから恋愛と呼んでいい感情で、どこから友愛と呼んでいい感情なのかも、わからない。


 だから、ルーディナを女しかイケナイ口か何かと判断して、遠ざかるように身を引くエレサロンとペアレッツォの行動はやめてほしい。


「……いや、こほん。私はそんな話をしに来たのではないのですわです」

「口調がおかしくなっているが?」

「……真剣に、話し合いたいんです」

「……そうか」


 そして話は変わる、というより戻るが、ルーディナたち『勇者パーティ』が王都まで来て、話し合いたい内容、それは言わずもがな――


「――血肉の件について、です」


 ――ザシャーノンとの話し合いでいろいろと判明した、世界の真相である。


              △▼△▼△▼△▼△


「――血肉、とは?」


 そのルーディナの一言に、イ・エヴェンは驚く様子もなく、慌てる様子もなく、平然と、そう問いかけてきた。

 『冷徹の王姫』の二つ名に相応しい、冷静な態度――今回は、それに感謝である。


「私たち『勇者パーティ』は、つい最近、ちょっとしたすごい人に会ったんです」

「すごい人、か。……名前を聞いても?」


 その問いかけに、ルーディナは一旦、どう答えようかと考えた。


 血肉のことについて教えてくれたのは、魔界王配下各種族幹部『鮫魔族』代表王、ザシャーノン・ノア・アクアマリンだ。

 ――可愛くて頼もしい人、というより魔族だが、それでも、王国から見て絶対悪の、魔界王陣営の一人。


 その名前を堂々と使い答えれば、こちら側が隠すことはほとんどないと、向こうも理解してくれるだろう。

 だが同時に、ルーディナの発言が嘘偽りと見做される可能性もある。


 名前を使わず答えなければ、ルーディナの発言の信憑性が下がることはないとは思う。

 けど何か隠していることがあると知られ、後ろめたいことではないのか、と推測される可能性もある。


「――――」


 とまあ、一人で終始悩んでいても解決しないので、ルーディナは他の『勇者パーティ』の諸々に甘えることにした。

 ちらり、と視線だけを逸らし、メリアと視線を合わせ、その視線でどうすればいいかと問いかける。

 結果、その意図をわかってくれたのか、メリアは少しだけ微笑んで、頷いてくれた。頬は未だに赤いままだが。


「――――」


 そして今度は首を少しだけ動かし、ソファには座っていないディウ、フェウザ、アークゼウスたちへと、視線で問う。

 その結果――ディウたちも意図をわかってくれたのか、全員メリアのように少し微笑んで、頷いてくれた。


「……ふぅ」


 その『勇者パーティ』の諸々への甘えで、ルーディナは、自分の緊張の呪縛が解けたような感覚に至る。

 自分でも気づいていなかったが、いつの間にか緊張していたのだろう。

 ルーディナはそのことを実感しながら前を向き、イ・エヴェンとしっかり目を合わせながら、口を開く。


「……驚くかもしれないし、疑うかもしれないですけど、今から私が言う名前の人はいい人で、優しくて可愛い人なので、できれば信じてほしいです」

「ふむ……」


 『勇者パーティ』の諸々に確認を取ったと言えど、さすがに直球でいきなり、魔界王配下各種族幹部の人、ではなく魔族ですと言うと――まずい状況になるのは、ルーディナもわかっている。


 『勇者パーティ』の諸々は、ルーディナのことを信頼してくれて、頷いてくれた。

 ならば、その信頼に応えるために、しっかりと確認を取り、こちら側も向こう側も準備万端という状況にして、相手に話の趣旨を話す。


 ――第一巨大王国ノヴァディースのみならず、『人類平和共和大陸』の全ての規模で、魔界王陣営は絶対悪とされている。

 ならば、イ・エヴェンがいくら国王の裏切りを疑っているとは言え、所詮は戯言と一蹴される可能性がある。

 そういう意図を込め、言葉を放ったルーディナだが――イ・エヴェンの反応は、顎に手を当て、明らかに考えていると伝える仕草をすることであった。


「……いや、だとしたら好都合だ」

「……えーと、エヴェン様?」

「ああ、すまない。少しだけ考えさせてもらったが……いいだろう、貴殿のが言うその人物とやらを、私は信用する」

「……ありがとうございます」


 それはなぜですか、などと言うことを聞くのは野暮であろう。

 おそらく、このタイミング、信じられるかどうかの発言、そしてイ・エヴェン自身が持っている疑惑。

 それらの状況を繋げ、ルーディナの発言から出てくる可能性は、絞られる。


「――――」


 ――国王の裏切り。イ・エヴェン自身が疑っているその可能性の情報か何かだろうと、イ・エヴェンは察したのだろう。

 だから、ルーディナもその察しに、意図に、ありがたく甘えさせてもらい――


「――魔界王配下各種族幹部『鮫魔族』代表王、ザシャーノン・ノア・アクアマリン、という人物から得た、血肉……国王の裏切りも関わっている件、です」


 ――素直に率直に、内容を伝えた。




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