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第二章十六話 「流石」




―――今、ルーディナたちがいるこの王街は、第一巨大王国ノヴァディースと第二巨大王国ナウルソペルを繋ぐ道の道中にある、港町ならぬ道街だ。

 故に、馬車や人力車などを使う必要もなく、『勇者パーティ』の底力で走っていけば、ノヴァディースまでは余裕で辿り着くことができる。


 まあ、王街――ロード道中王街には、もう既に人間も馬もいないので、結局馬車や人力車は使えず、走っていくしか選択肢はなかったが。


「――――」


 だが、ルーディナたち『勇者パーティ』の異常さは、今の現状を見ればわかる。

 食料や調理器具、日常品や冒険者カード、武器や装備など――そう言った諸々を風呂敷のようなものにまとめ、背負いながら疾走できるのだから。


 だが、男組と女組では、荷物の多さや持つものは変わる。

 メリアが持つのは洗剤や化粧品、非常食や軽食などの比較的軽く、持ちやすいものが多い。

 そしてディウ、フェウザ、アークゼウスたちの男組の持ち物は、短剣や数本の矢、調理器具や調味料が詰められた瓶など、比較的重そうなものが多い。


「――――」


 そしてなぜか、一番重いはずの大剣や鎧、その他諸々の重量級なものは全て、ルーディナが担当している。

 一応、ルーディナは女性とまではいかない女子だ。自信過剰とか思われるかもしれないが、ルーディナは自分自身、意外と顔や体のスタイルには自信がある。

 だが、それでなぜ傲慢にならないのか――メリアという美少女が、ルーディナの近くにいるからだ。


「――――」


 問題は、その顔や体のスタイルも、自分自身では意外と自信があり、美少女と言っても何の変哲もない女子、ルーディナ。

 そんな彼女が――『勇者パーティ』の中で、一番重いものを持たされているということだ。


「……メリアちゃん」

「ん、どうしました?」


 ルーディナはふと、自分は『勇者パーティ』の諸々からどう思われているのだろうかと、疑問を持つ。

 ということで自分の一番近くにいたメリアに、速度を合わせるように少しだけスピードダウンをしながら、話しかける。


「メリアちゃんは私のこと、どう思ってる?」

「……え? え、ええと……」


 もしや女子ではなく、怪力系の化け物とでも思われているのではないか、とルーディナは心配して聞いた、という意図、なのだが。

 ――メリアは何をどう勘違いしたのか、ルーディナの質問に、急に頬どころか顔全体が真っ赤になった。


「……好き、ですよ?」


 そして、なんか予想していた返事と違った件について。


「……私も大好きだよ、メリアちゃん」


 そこもメリアの可愛いところである。

 そんなことを思いつつ、見た目は美少女だけど筋肉はゴリラとか言われなくて良かったなとも思いつつ、ルーディナは溢れ出た愛しさから、そう返答をした。

 すると、顔全体を真っ赤に染めていたその赤は、さらにメリアを侵食し、首や耳まで赤に染めていった。なんとも可愛い姿である。


「――――」


 ともあれ、メリアからは筋肉系女子とか怪力の化け物とか思われていないと知れて、さらにメリアの可愛い姿を見れたのだから一石二鳥。

 そう考えつつ、ルーディナは満足げな表情をしながら走っていった。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――そしてそこからノヴァディースに着き、門を通してもらい、宿を取り、そこに荷物を預けた『勇者パーティ』の諸々。

 その後、彼ら彼女らはノヴァディースの中央に位置する城――王城ゼレルヘレルへと、歩いていく。


「……メリアちゃん」

「な、なんですか?」


 先程の荷物運びのときとは違い、ルーディナとメリアが先頭、そしてディウ、フェウザ、アークゼウスがその後ろをついていくような形で歩く。

 そこで、ルーディナがメリアに話しかける――と、先程の件もあってか、メリアは未だに頬が真っ赤に染まったままであった。


「……周り、本当に鬱陶しくない?」

「……鬱陶しいですよ。フェウザさんですら、うんざりとした表情してますからね」


 ルーディナが話しかけた内容――それは、周りからの『勇者パーティ』への熱烈な歓迎の声だ。

 やれ『勇者パーティ』万歳だの、やれルーディナ様愛らしいだの、やれメリア様素敵だの、やれフェウザ様イケメンだの、やれディウ様かっこいいだの、やれアークゼウス様賢明だの。

 そう言った褒めの言葉から、他にもやれフェウザ様奴隷にしてだの、やれルーディナ様いじめてくださいだの、ちょっと危ない発言も多数ある。


 それははっきり言って――ルーディナたち『勇者パーティ』からすれば、鬱陶しいものでしかない。

 メリアの言う通り、シンプルに気持ち悪がっているルーディナとメリア。眉を寄せて明らかに不機嫌オーラ満開のディウやアークゼウス。

 そして彼らのみならず、このような熱烈なファンからの声にもしっかりと答える優しさを持つフェウザですら、うんざりとした鬱陶しそうな表情をしている。


「やめてほしいなぁ……変に目立ちたくもないし」


 ルーディナの言う通り、今回の件についてはできるだけ内密に行いたいので、変に目立ちすぎると困るのだ。

 だが、だからと言って、変に早歩きで行ったり隠れながら行こうとしたりすると、何か後ろめたいことをするのではないかと、すぐにバレる。

 どうしようかとルーディナが思っていると――メリアの、少しだけ悲しそうな声が聞こえた。


「……でも、この全員、血肉の可能性があるんですよね」


 ――そう言い切る前に、ルーディナはメリアの唇を奪っていた。

 周りからの声がさらにうるさくなっていたり、メリアの蕩けた表情が可愛すぎたりと、気になることはいろいろあるのだが――とりあえず、どうしてそんなことをしたのかの理由を説明しよう。


 ザシャーノンは言っていた。――どんな相手だろうと、血肉のことに疑問を思えば、効果範囲内にいる全ての血肉が死ぬ、と。


「――――」


 その効果範囲内はおそらく、第一巨大王国ノヴァディースだ。

 そのため、メリアの先程の発言が公に発されていたら、周りの民全員が死亡したり、それが故に襲いかかってきたり、変な濡れ衣を着せられたり、などなど。

 ――とりあえず、いいことは一つもない。故に、ルーディナはメリアの唇を奪うという行為に出たのだ。


「――――」


 まあ、ルーディナもだからと言って、勢い余ってメリアと自分の舌を絡ませる必要まではないと、そうは思ったが。

 だが、この際はこの際なので、周りからの声やメリアの可愛い表情は関係せず、とりあえず、しっかりと堪能しておこうと思う。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――時間にして、数十秒。まあおそらく、二十秒か三十秒程度のものだと思われる。

 ルーディナも歯止めが効かなくなって、十秒で終わらせるはずのものを、二倍やら三倍やらしてしまったわけだが、問題はない、はずだ。


 最初の方は盛り上がっていた周りの国民たちも、途中から「え、ルーディナ様とメリア様、本気なの!?」やら「これが百合!?」やら。

 勢い余ってぶちのめそうかと思ったほどの戯言をぼやいていた国民が多発していたが、ルーディナの知ったことではない。


「……ふぅ」


 そしてルーディナはやっと、メリアから唇を離した。

 ちなみに余談だが、ルーディナとメリアのディープなキスから垂れた銀色の橋を狙いに来る輩もいる可能性があるとルーディナは思い、唇を離すときにメリアの口内の唾液諸々、水分を全て吸い上げたため、二人の間に銀色の橋はかかっていない。本当に余談である。


「――――」


 そして、やったことの重大さに気づいたルーディナは顔を真っ赤にするが、仕方ないと自分の中で区切りをつけ、余りの快楽に気絶したメリアを背負う。

 そして、ディウ、フェウザ、アークゼウスたちに、今のは決してそういう意味ではないと――そういう意味も含まれている行為だったが――目配せする。


「――――」


 すると三人は、わかっているとも言いたげな表情で、ルーディナに目配せに頷いた。

 さすが、『勇者パーティ』。ルーディナの意図をわかってくれたようである。


「……よし」


 というわけで、ルーディナは王城までの道のりを再び、歩き始めた。ちなみに――


「……ルーディナ、もう我慢ならなくなったのか。見せつける意味も込めて、か……さすが」

「そうだな。反発が来ないように、最初から見せつけ、それで国民を圧倒させ、完膚なきまでに圧倒する。さすがだ」

「国民の前で見せつける、あれほどの勇気もすごい賜物だ。本当に、さすがルーディナである」


 ――上から、フェウザ、ディウ、アークゼウスの順番で語られた、この言葉。

 ルーディナの、メリアからの血肉疑惑発言で血肉の生態が発揮されないように口封じで唇を奪った、という意図には誰も気づいていなかった、と記しておこう。


「――止まれ!! そこの『勇者パーティ』たち、一度止まれ!!」


 と、そこで、ルーディナたちを止めろという怒号が響き渡った。

 突然の怒号に、ルーディナたち『勇者パーティ』のみならず、国民たちや後ろからさらっとついてきていた護衛の騎士たちですら、硬直する。

 ――硬直したのは、その声が誰から発せられたか、わかっていたから。


「第一巨大王国ノヴァディース次代国王、ディヴェルダーク・ノヴァディース・レプンツォ・イ・エヴェン・フィブティニーだ!! 先程、『勇者パーティ』の一人が野蛮な猛獣に襲われたと報告が入った!! 堂々とした性関連の出来事は犯罪と見做す!! 故に、事情調査も兼ねて、王城に来てもらう!!」


 その声を聞いて、ルーディナは、思った。――ちょっと失敗したかな、と。




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