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第二章十五話 「感情」




―――門の近くでルーディナを待っていたのは、メリアのみであった。

 メリア曰く、それ以外の『勇者パーティ』の諸々は王国への出発準備のため、もう少し門から離れた平原で準備を行なっている、とのことだ。

 つまり、その平原へと歩き到達するまでは、メリアとルーディナは二人っきりということ。


 距離がすごく近い二人が二人きり、何も起こらないはずがなく――とはならず、先程の門での痴態が原因か、メリアはルーディナに対する警戒度が高かった。

 そのため――平原までの道のりを歩いている今は、恋人繋ぎで歩くこと程度のことしか、できないていない。


「……むぅ……むむぅ……むむむぅ……」

「いつまで不貞腐れてるんですか……」


 恋人繋ぎしかできないことへの不満を込めて、実に不機嫌そうな声を出すルーディナ。

 だがメリアは呆れながら、ついでにため息を吐くだけで、ルーディナに構ってはくれない。


「……メリアちゃん」

「なんですか?」

「一回さ、少しだけ目瞑ってみてくれない?」

「嫌です」

「いや、別に何もしないから! ほら、もしメリアちゃんの身になんかあって目失っちゃったりしたとき、歩けるかどうかのテスト……じゃなくて試験も兼ねて! ほらほら早く!!」

「絶対に今やることじゃないですよねそれ!?」


 ルーディナの提案は、実に有効的手段だと、ルーディナ自身はそう思う。


 『勇者パーティ』の旅には、常に危険や生死を分ける困難がつきものだ。可能性として、いつかは本当に目の一つや二つ、失うことがあるかもしれない。

 そのときのために今のうちから、失明状態で歩けるかどうかのテストをする――とても、有効的で効率のいい手段だ。


 だが、メリアはお気に召さないのか、ルーディナの提案に反論を返す。


「……ルーディナさんも、たまには私に頼ってくれてもいいんですよ?」


 そして、メリアの反論に再び不貞腐れたルーディナの反応を見てどう思ったのか、急にメリアは、そんなことを言い始めた。


「……結構頼ってると思うけど」

「例えば、どんな場面で?」

「基本的にはその体を堪能……」

「ルーディナさん?」

「ん、ごほんごほん……なんでもないなんでもない」


 メリアの提案に、ルーディナはそんなことがないとか返すが、それだけではメリアの思いはまだ晴れないのか、彼女は例を求めてくる。

 そのメリアの問いに答え、今考えてみれば少々確かにちょっと不健全な言葉かもしれないような言葉を言おうとしたが、メリアの光も暖かさも感じない満面の笑みにより、それは不可能であった。

 だが――


「……メリアちゃんのことは、頼るというより守る、だからさ」


 ――ルーディナから見たメリアは、いつでもどこでも頼れる姉貴というより、可愛くて美しくて、そして守らねばという感情が湧いてくる妹、という感じだ。

 故に、ルーディナは結構、自分でもかっこいいことを言ったのではないかと、自慢げにメリアの反応を待つが――


「……そうですか」


 ――メリアの反応は、俯きながら、目を少し寂しそうに細めながら暗い声を出して答えるという、予想以上に暗いものであった。


              △▼△▼△▼△▼△


 ――先程のやり取りで、少し気まずい雰囲気のまま進むこと、数分。

 恋人繋ぎで歩いているルーディナとメリアの視界に、ディウ、フェウザ、アークゼウスたちが荷物のまとめをしている場面が見えてきた。


「……ルーディナさん、さっきの話の続きなんですけど」


 と、そこで、ルーディナとの二人きりの時間はもうすぐ終わると認識したためか、メリアが暗い雰囲気のまま、そう提案――否、この場合は強制だろう。


「ルーディナさんも、たまには私を頼ってください」

「……肝に銘じておきます」


 メリアのその頼みに、わかったやOKなどの単純な返事でもなく、絶対覚えとくや絶対忘れないなどの重すぎる返事でもなく。

 ルーディナが返したのは、肝に銘じますと、重くもありしかし軽すぎることもない返事だった。

 それにメリアは――


「……ん」

「…………ふぇ?」


 ――恋人繋ぎで繋いでいた手を引っ張り、ルーディナの体を寄せ、ルーディナの頬に自分の唇を触れさせた。

 紛う方なき――キスである。


「……じゃあ、行きましょう」


 メリアからの初めてと言ってもいい触れ合いに、ルーディナは硬直したまま、メリアに連れられていった。


              △▼△▼△▼△▼△


<視点 フェウザ>


 ――もちろんディウ、フェウザ、アークゼウスたちは、そのルーディナとメリアの光景を見ていた。

 それもそのはず。向こうからフェウザたちのことが見えていたなら、こちらからルーディナとメリアのことが見えていても、何の問題もない。


「……俺たちって、あれにどう接すればいいんだ?」


 と、そこで、ルーディナとメリアの関係に、困ったように頭を右手で掻きながら周りに聞いたのが、フェウザだ。


 ――そもそも、ルーディナとメリアが二人きりになったのは、ディウが原因だ。

 ディウの配慮か遠慮かは知らないがその心遣いにより、メリアのみがルーディナを待つことに、他の三人が荷物の整理をすることにして、彼女ら二人きりの時間を作らせた。

 なので、フェウザは周りというより、この状況を作ったディウに聞いた、という感じである。


「……あいつらが結ばれでもしたときに、祝ってやればいいだけだ」

「その通りだ。人の恋路など自由そのもの。他のものが口を挟むものではない」


 ディウの単純な返答に、アークゼウスが便乗して、賛成派ということを示す。

 彼らの意見はもっともであり、人の恋路に文句や異論を述べるなど、その恋路の張本人の親や兄弟や姉妹しか、述べてはならないであろう。


 フェウザだってそのことは知っているし、あの二人が仲良くなることに何の異論もないし、邪魔するつもりも一切合切ないのだが――


「でも、俺たちって『勇者パーティ』だろ? ……なんつうか、『勇者パーティ』で、女同士が結婚、まじかよーみたいな……そういう感じにならねえか?」


 ――『勇者パーティ』、という立場が邪魔をする。


 『人類平和共和大陸』では、同姓同士の結婚や、一夫多妻制、一妻多夫制など、そういうのは基本的には認められている。

 しかし、認められているとはいえ、その諸々に偏見を持つものだって、少なからずいるのだ。


 それにザシャーノンの話から、『人類平和共和大陸』のほとんどが血肉に侵食され済みというのも聞いている。

 もしも万が一、ルーディナとメリアの関係に偏見を持つものが段々と増えていき文句を言い始め、世界一体が敵に回ることになる、とかにならないだろうか。


 普通なら居場所がなくなる程度かもしれないが、生憎ながらこの『人類平和共和大陸』は、先程も言った通り、血肉に侵食され済み。

 意図せぬ殺し合いにでもなって、追い詰められたら――元も子もないのだ。


「……フェウザ」


 と、フェウザの考えと表情が比例していくように暗くなっていると、ディウがふと、声に真剣さを増してフェウザの名を読んだ。そして――


「心配しすぎだ」


 ――そう言った。


「……そうだな」


 フェウザもまた、それに賛成して、この話し合いはここで終わりとなった。

 それと同時に、ルーディナとメリアたちも、フェウザたちの元へと着いた。




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