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第二章十話 「本番」




―――この王街の生物たちの違和感――それについては言わずもがな、この会議の席についているメンバー全員が、同じ意見を持っている。


「……それなら、先程の自由時間で、ディウさんと少し話しました」


 ザシャーノンの問いに最初に答えたのは、控えめに言葉を放ったメリアだ。

 メリアはそう言った直後、ディウの方を見て、そうですよねと言わんばかりに、視線で質疑を問う。それに対し、ディウも、頷いて答える。


 ――メリアとディウの仲は、大して良くも悪くもなく、お互い平行線を辿るような関係であったはず。

 だが先程の自由時間でか、ルーディナの知らないどこかでか、視線や頷きだけで意思疎通ができる仲になったらしい。

 その二人の成長に寂しく思いつつも、さすがは私のメリアとディウだなと思いながら、今はそのことを考えている場合ではないと、ルーディナは静かに、自分の両頬を両手で叩く。


「それでその違和感とやらなのですが……」

「……ああ、血肉の量が異常に多い、というものだったな」


 その場面を思い出したくないのか、メリアは言おうとするも言葉を詰まらせ、ディウに続きを頼むように、縋るように目線を再び合わせる。

 ディウもその目線に合わせ返し、メリアの希望通りに、続きの言葉を繋げる。

 二人の信頼関係に微笑ましく思いつつも、ルーディナも、考察の海へと沈んでいく。


「――――」


 王街の生物たちの違和感――それはルーディナから見て、複数ある。

 血肉の量が普通の生物と比べて異常に多いこと。気づく暇もなくいつの間にか全員死んでいること。謎の血肉が集まった巨人になって襲いかかってくること。放つ匂いが独特、見た目が嫌悪を呼ぶ、ずっと見ていると額から冷や汗が出てくること、などなど。


 最後の三つほどはルーディナの神香(オルファクトリー)神眼(ビジュアル)神感(テレパシー)などの特殊能力を使ってのため、ザシャーノンは違和感には入れていないかもしれない。

 ――だが、ルーディナは合計で、それほどの違和感を持った。

 はっきりと、躊躇もなしに言うと――この王街の生物たちは、おかしい。


「……血肉の量が多い、ってのもそうですけど……ええと、他にも……ルナっちとか、なんかないですか?」


 メリアとディウの返答に対し、的は射ているが求めていた答えではなかったのか、若干困り気味に、ザシャーノンはルーディナの方へと話題を振る。

 それに伴い、周りの諸々の視線も、話題を振られたルーディナの方へと集まる。

 メンバー全員の視線が集まるというのは緊張も高まるは高まるが――さすがは勇者と言うべきか、ルーディナはそういうのに慣れているため、何も気にせず、平然と話し始める。


「うーんそうだね……ええと、これさっきの自由時間で気づいたことなんだけど。――この王街の生物たちってさ、私たち以外、全員死んでるんだよね」

「「「……え?」」」


 そのルーディナの答えに、ザシャーノンとレンプレイソンは予想通りと言わんばかりの、やはりかと考える仕草。

 それに対し、メリアとディウとフェウザは、突然のその言葉に、驚愕の表情を浮かべていた。


「私が持ってる能力に神眼(ビジュアル)ってのがあって、それが、効果範囲内にいる生物の視線を借りられる、って能力なんだよね」

「……そんな能力持ってたんですか?」

「……うん、まあ」


 ――ルーディナは、基本的には自分の手札は隠すタイプである。

 故に、自分の能力を伝えず、そんな能力があったのかと驚愕されたり、なぜ教えてくれなかったのかと愚痴を言われたりすることも、しばしばある。


 ルーディナもその癖をさっさと治して、『勇者パーティ』の諸々と、それぞれの能力の情報交換など行いたいのだが――癖は、そう簡単に治るものではない。

 だから、こうした少し気まずい場面が起きるのも、仕方のないことなのだ。


「で、まあそれは後々として……その神眼(ビジュアル)で見た結果、出てきた視線は三つ。メリアちゃん、ディウ、ザシャノンの三人。多分そのときはフェウザもアークゼウスも寝てたと思うし、レンプちゃんも来てなかったと思う」


 ルーディナの言う通り、神眼(ビジュアル)を使ったときはフェウザとアークゼウスはまだ起きていなく、ザシャーノンがレンプレイソンを連れてこようと、すぐ街を出るような場面であった。


 そのため、ルーディナ以外の人物は、メリア、ディウ、ザシャーノンの三人しかいなかった。

 そして神眼(ビジュアル)で出てきた視線は、その三つ。――それ以外の生物は、何もいない。


「で、他の生物は全員死んでるわけなんだけど……ザシャノンとかレンプちゃんも、全員を殺したわけじゃないでしょ?」

「……そうですね。まあ多少はあれですけど、全員とまではいかないです。レプもそうですよね?」

「……え、レンプちゃんって擬音語のこと?」

「それ以外ないと思いますけど」

「ほわわ、外部の人間からあだ名で呼ばれるなんて初めて……」

「いいから質問に答えてくれませんか?」

「あ、はひ。この街の生物は何一つとして殺してまへん」


 若干の漫才、というより素の反応だろうが、ザシャーノンもレンプレイソンも、この街の全生物を殺したわけではない、という確証は取れた。

 この二人の言葉からするに――おそらく、他の各種族幹部も、全生物を殺したわけではないはずだ。


「……でも、誰かが殺した、とかそういうわけではないと思う」

「それは、なぜ?」


 そこで、ルーディナは一つの仮説を大っぴらげに言い、メリアからの質問を受ける。

 ここまでのやり取りを考えれば、この王街の生物たちは、いつの間にか謎の刺客に殺されていた、とでも説明がつく話になる。


 しかし、ルーディナにはまだ隠している手札――神感(テレパシー)があるのだ。

 だから、誰かが殺したわけでもないというのは判断がつく話であるため、そう言ったが――ルーディナの悪い癖がまた出た。

 『勇者パーティ』の諸々は、神感(テレパシー)のことを知らないのだ。


 ザシャーノンとレンプレイソンは知っているのかわかっているのか予想していたのか知らないが、どうとも思っていないような、何も感じていないような、普通の真面目の表情をしている。

 そのため、ルーディナの突如とした発言に疑問を持ったのは、メリア、ディウ、フェウザの三人だけらしい。眉を寄せて、疑問符を浮かべたような顔をしている。


「うーんと……神感(テレパシー)っていう、効果範囲内の物事をほとんどわかるような能力があってね」

「……まだ隠してる能力あったんですね」

「ははは……ええと、それで。私、神感(テレパシー)はずっと発動させてるの。で、ザシャノンと戦うときは集中するために外したけど、ザシャノンとの戦いはあんまり長引かなかった。だから、その間にこの王街全部巡って、それで生物全員殺した……っていうのは、いくらなんでもできすぎてるかな、って思って」


 少々説明が長くなってしまったが、細かく綺麗に詳細を伝えれたため、他の諸々も納得の表情を見せている。

 メリアだけ、ルーディナがまだ隠している能力があったことに、拗ねたような表情をしているが。


「……そうか。他のときは常に発動させているから、何かあったら気づくと、そういうことか」

「うん、そういうこと。……もしかして説明不足だった?」

「いや、気づけたから大丈夫だ」


 今度はメリアではなく、ディウの質問に答えるルーディナ。

 納得の表情を見せてくれたかと思ったが、どうやらただただ、説明不足な部分を考えているだけであったらしい。

 最初の方に効果範囲内の物事がほとんどわかる、と言っていたため、そのおかげで簡単に理解してくれたのではあろう。

 だが、その肝心な部分が先程の少々長い説明では抜けていた、とルーディナは気づく。


 長ったらしい文章で、重要な物事だけを中心として語る――ルーディナは直感と判断と感覚と計算で動くので、そういうのは苦手だ。

 そこも反省点としながら、今度は説明不足な点はないかと、そう思いながら、会議の席の全貌を見渡す。


「――――」


 見えるのは、納得の表情を見せているディウとフェウザ。未だに拗ねている可愛いルーディナのペット、ではなくメリア。

 そして撮れるはずがないであろうに、暇なのか遊び気分なのか、カメラマンのようにパシャパシャとした動作と独り言を喋りながら会議の席の周りを周回している、レンプレイソン。


 説明不足な点はおそらくないと思うが――ザシャーノンだけが、何か考えているような仕草をしていることに、少しだけの気掛かりができた。


「……ザシャノン、どうかしたの?」

「ふぇ? な、なんですか?」

「いや、なんか考えてそうなポーズしてたから……」

「……ポーズ、ですか」


 どうしたのかとルーディナがザシャーノンに問うと、ザシャーノンは素っ頓狂な声を出した。――なぜか、ポーズという単語に反応したが。

 その素っ頓狂な声で全員の視線を集め、羞恥を感じているのか、少しだけ頬を赤らめたザシャーノンもまた可愛いなと思いながら、ルーディナは再び問う。


「……なんかさ、ザシャノンの顔に書いてあるんだけど」

「何がですか?」

「これ言っていいんでしょうか、もう少しだけ皆んなの意見を聞くべきでしょうか、これでうちの信頼がなくなったらどうしましょう、って」

「……そんな長文がですか?」

「少なくとも私にはそう見えた」


 そう言った後、隣でその長文を見ようと、可愛い瞳を閉じたり開けたり精一杯見開いたり最低限まで細めたりしているメリアが可愛い。

 だがそんなことを思っている場合ではないので、それを抑え、ザシャーノンに再びの再び問う――否、伝える。


「私は、ザシャノンが何言っても、信頼してるからさ」

「ルーディナが言うなら、俺もだ」

「あ、私もです」

「じゃあ、俺も」


 と、伝えたところで、ディウ、メリア、フェウザも、ルーディナの発言についてくるように、次々と発言した。


「……そうですか」


 そして、全員が発言し終えた後に、ザシャーノンは少しだけ微笑んだ。

 ――その微笑みは心の中に響くような綺麗な微笑みであり、その後、一言。


「では、言いますね」


 それに対しての返事は、ない。ルーディナもメリアもディウもフェウザも、ついでにレンプレイソンも、返事は述べないが――異議も述べない。

 それを見越して、ザシャーノンは言った。


「――『人類平和共和大陸』に、純粋な生物はほとんどいません。ほとんどの生物が、既に血肉に溺れています。故に、その血肉の生態からして、この王街の生物は全員、死んだのでしょう」


 ――と。




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