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第二章二話 「抜群」




<side ルーディナ>


―――ザシャーノンの相談の内容に、ルーディナは、期待と不安の二つの感情を持った。


 期待というのは、ザシャーノンが『勇者パーティ』の諸々と上手く接してくれることで、もっと仲良くなれる可能性が上がるという――一つ目の期待。

 そして、他の各種族幹部も来ているらしいので、それらがザシャーノンのような親しみやすい性格だとすると、仲良くなれる可能性があるという――二つ目の期待。


 不安というのは、他の『勇者パーティ』の諸々は、他の各種族幹部にボコられていないか、蹂躙されていないか、心が折られていないかに対する――一つの不安。

 その二つの感情を持ったルーディナは――自分の意見よりもまず、メリアの意見を聞くことを優先した。


「ね、メリアちゃんはザシャーノンの意見に乗る?」

「ふぇ?」


 声をかけられると思わなかったのか、メリアはルーディナに話を向けられ、予想外と言わんばかりの声を出す。

 だが、メリアはルーディナの意図――先程のザシャーノンとの交流はルーディナとザシャーノンの二人だけで進めてしまい、ルーディナのことを思ったメリアの説得が、余計なもののようにメリアは思っていただろうから、ルーディナは彼女の存在を全然余計じゃないよ、という意図――を察知したのか、嬉しそうに微笑み――


「私は、全然ザシャノンさんの意見に乗っていいと思います」


 ――ルーディナと同じあだ名でザシャーノンのことを呼び、賛成した。


「ちなみに、ルーディナさんは?」


 そして、その後にルーディナがどうなのか、という疑問も足される。

 もちろん、ルーディナの答えは――


「もちろん、賛成だよ」


 ――悩む暇も出さず、二つ返事で賛成である。


「お二人ともありがとです! んじゃ、早速行きますか」

「行こー! ……って言いたいところだけど、他の各種族幹部の場所、ザシャノンって知ってるの?」

「知りませんよ? でも、そんぐらいわかります」

「……はい?」


 肝心の場所がわからなければ行くにも行けないと、そうルーディナは思ったが――ザシャーノンのその後の発言で、ルーディナはまたしても、期待と不安を抱いた。

 ザシャーノンは何か特別な能力でも使えるのか、もしくは単なる友情なら、ザシャーノンと同じく仲良くなれるのかという――期待。

 することもしたいこともわからないから、どう言ったことをしようとしているのかがわからないという――不安。

 その二つの感情を抱いてはいるものの――期待の方が、ルーディナの中では多い割合を占めていた。


「はい、じゃあささっと行きたいので、運びますね」

「ふぇ、ちょ!?」

「ひゃ、わ!?」


 そしてザシャーノンは、その可憐な体のどこに筋肉やら力やらが入っているのか、ルーディナをお姫様抱っこ、メリアをおんぶで抱える。

 そしてそのまま――床を足で踏み切り、ものすごいジャンプをした。


「わ、すごい! 空飛んでる!?」

「お褒めに預かり光栄です! ウキウキな気分なのも嬉しいですけど、しっかりと掴まってくださいね? 落ちますから」


 ザシャーノンの肩に顔を埋め、高所恐怖症を我慢しているメリアを他所に、ルーディナはお姫様抱っこされながら、興奮しているように声を上げる。

 ザシャーノンは、そのルーディナに感謝とちょっとした注意事項を言いながら――一つ目の場所に、向かっていった。


              △▼△▼△▼△▼△


<視点 ディウ>


 ――音を置き去りに――するぐらいの速さで、ディウ・ゴウメンションは、鬼双子へと迫っていった。


「はぁ――!!」


 ――恩を仇で返す、とは少し違うが、ディウの戦いたい、強くなりたいという、過去の嫌な記憶――なぜか当時の記憶はないが――から出てくる本能的な求めている部分を、鬼双子はディウへ提供した。

 そしてその恩を、ディウが今、使える技の中での最も強い技で返すその行為は――恩を仇で返す、という言葉に似てはいるだろう。


「――――」


 ディウの圧倒的な技を眼前にしながらも褒めるだけで、避ける仕草も躱そうとする仕草を見せない鬼双子二人に、ディウは若干、心配の情を抱く。

 ――もしもこの技で鬼双子が死んでしまったら、どうしようか。


「いや、あり得ないな」


 だが、そんな心配はすぐに消え去った。

 あんなにディウに圧倒的な強さを見せながら、この程度の技で死ぬなど、あり得ない。

 故に、ディウは――


「――――」


 ――音を置き去りに――するぐらいの速さで、その巨剣を構え、鬼双子へと迫っていったのだ。


「はぁっ!!」


 そして、とうとう距離がなくなり、眼前へと迫る。

 その空間をも歪ませ、時間をも少しずらし、建物のガラスを、振動だけでひび割れさせるような一撃を、鬼双子はまともに食らい――


「っ……」


 ――ながら、二人して真剣白刃取りのように、受け止めた。


「やっぱすごいすごい。さすがディウだよ。こんな技、普通の人間どころか、上達した人間ですらできっこないね」

「やっぱさすがさすが。すごいよディウは。人間が空間とか時間とかに影響及ぼす技って、僕は見たことないな」

「……それは単に、お前らがまだ若くて、経験が浅いだけな気がするが」

「確かに確かに。さすがディウ、鋭い考察見事だね!!」

「そうだねそうだね。さすがディウ、着眼点が常人とは違うんだね!!」

「「わーはっはっはっ!!」」

「……ふっ」


 先程まで、その漫才のような話にうんざりとしていたはずだが――それが、自分への褒め言葉となると、こちらの戦いたいという気持ちも向上する。

 そう思いながら、ディウは軽く笑みを溢し、その巨剣を鬼双子の手から引き抜き、距離を取る。


「……やはり、熱い」


 自分が出せる、最も強い技を軽々と受け止められたことに、ディウは――面白さを感じていた。


 負けず嫌いや、自分の失敗をあまり認めたくないものの場合、自分が出せる最も強い技を軽々と受け止められるというのは――屈辱の念が、強いだろう。

 確かにディウも、自尊心が他の『勇者パーティ』の諸々より高く、負けず嫌いで、できるだけ自分の否を認めたくない人間だが――屈辱の念は、感じない。


「……熱い。ものすごく、熱い」


 それは、今の自分に満足しているか満足していないかの違いだと、ディウは思う。


 今の自分に満足していれば、その満足を否定されるというのは――とても屈辱だ。

 しかし、今の自分に満足していないのなら、そして、その満足していない部分がわかっていないのなら――否定されるというのは、教訓となる。


「……ああ、やはり、いい」


 教訓というのは、自分を高めるさらなる一歩。

 その教訓をどんどんと取り込んでいければ、自分はさらにさらに、高みへ着く。

 だからこそ――強者というのは、敵わないというのは、面白いのだ。


「すごいすごい。なんかすごい熱気を感じるよ」

「そうだねそうだね。そんな熱気放たれちゃうと、こっちまで熱くなってきちゃうね」

「だよねだよね。さすがお兄ちゃん、僕が話さないでもわかってくれるなんて、ノリがいい!!」

「でしょでしょ。さすが弟、僕らは一心同体なんだね!!」

「「わーはっはっはっ!!」」


 そして、ディウが放つ熱気で、鬼双子も熱くなっている。

 相手が魔族で、王国から見れば絶対悪なものに言うのもなんだが――ディウと鬼双子は相性が抜群にいいと、ディウは思う。


「……ふっ」


 できれば一生、この戦いが続いてほしいものだ。

 そうすれば、ディウはさらなる高みへと成長していくし、鬼双子も成長するだろうし、ディウと鬼双子の仲も深まるであろう。

 だから一生、この戦いが続いてほしい。が――


「……む?」

「あれあれ。お迎えの時間かな?」

「まじかまじか。いいところだったのに」

「……迎え?」


 ――激突に感じた、上空から感じる謎の強大な魔力に、ディウも鬼双子も、異変を感じる。

 だが、鬼双子は――迎えが来たと、その強大な魔力を持つ存在のことをわかってるかのように、言う。


「……ルーディナに、メリアか?」


 その強大な魔力を持つ存在が近づいてくるのを確認するため、ディウは上空を見上げる。

 すると、段々と見えてきたのは――ルーディナと、メリアの姿。そしてもう一つ、その二人を抱える青髪の美少女。


「――とうっ、と到着!!」


 その青髪の美少女が可愛い大声を上げ、到着の合図を言う。

 そして――


「――ディウ、無事!?」

「ああ、俺は特になんともない」


 ――その青髪の美少女にお姫様抱っこをされたまま、ルーディナがそう、問いかけてきた。


              △▼△▼△▼△▼△


<side ルーディナ>


 ――ルーディナが目にした場面は、頭に鬼族の証である角が生えた赤髪の子供と、青髪の子供の二人。

 そしてその二人に対抗しているが、どこか楽しげな顔をしながら戦いをしている、ディウが一人。

 そんな、どこか熱苦しさや楽しさを感じられる、場面だ。


「ルナっち、あの大きい人って誰ですか?」

「あの人は、ディウって言うの。ディウ・ゴウメンション」

「ディウ・ゴウメンション……『界壊の豪獄』ですか」


 ルーディナがその場面を目にすることができたということは、さらなる規格外な力を持つザシャーノンにも、見えてくるということ。

 それを表すかのように、ザシャーノンはルーディナに、ディウが誰なのかを聞き――その二つ名を、口にする。


「――――」


 ――『勇者パーティ』のリーダーであるルーディナ以外の二つ名や名前が知られているのは嬉しいし、喜ばしいこと。

 だが――ルーディナ以外の『勇者パーティ』の諸々は、二つ名で呼ばれることを酷く嫌がる。


 それは名前をしっかりと覚えてほしいとか、二つ名は所詮二つ名で覚える価値はあまりないからとか、そう言った理由ではなく――もっと心の中の、何か触れては行けない部分が理由だと思われる。

 ルーディナも、それはなんなのかと聞こうとしたことや、実際に質問したこともあるのだが――まだ何一つ、詳細を得られていない。


「……ザシャノン」

「ん、なんですか?」

「ディウと会ったとき、二つ名では呼ばないであげて」

「……わかりました」


 ルーディナのちょっとした暗い雰囲気から何か察したのか、ザシャーノンは特に文句や疑問を並べずに、すぐに了承してみせた。

 そう言った、特に文句や質問を並べないで了承してくれる人は――ルーディナの、好きなタイプだ。


「……ふふっ」


 位置的にどうしても当たってしまうザシャーノンの豊満な胸に顔を埋め、その匂いと柔らかさを堪能しながら、ルーディナはそう、微笑む。


「ん、ルナっち、ちょっとくすぐったいですよ」

「えへへ、ごめんごめん」


 そんなちょっとした会話でも、ザシャーノンの優しさと可愛さと暖かさを感じられる。

 なぜ魔族が、王国から絶対悪と言われているのか、ルーディナは本当に――不思議で不思議で、仕方がない。


「さて、そろそろ着地しますから、ルナっちもメリちゃんもしっかり掴まってくださいね」

「はーい」

「メリちゃん……」


 そのザシャーノンの可愛い警告に、二者二様の反応をするルーディナとメリア。

 メリアは自分もあだ名呼ばされたことが嬉しかったのか、心底嬉しそうな笑みを浮かべながら、ザシャーノンにさらに深く抱きつく。

 ルーディナはしっかり掴まってという言葉をいいことに、ザシャーノンの豊満な胸に顔と腕をさらに埋め、匂い柔らかさ、そして暖かさも存分に堪能する。

 そしてザシャーノンは――


「――とうっ、と到着!!」


 ――そう可愛い大声を上げ、二人の鬼の子供と、ディウが対峙している場面に着地する。


「ディウ、無事!?」

「ああ、俺は特になんともない」


 そして、ルーディナはディウのことを心配して無事かを確認したが――案外、平気そうな声が返ってきた。




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