第一章一話 「人はそれを勇者と言う」
―――雲一つない、青く染まる澄んだ空に浮かぶ太陽が、神々しいように、そして照り輝くように日の光を放つ中。
簡易的な闘技場で、剣と剣が、ぶつかり合っていた。
「やぁっ!!」
そのぶつかり合う二つの剣の、所有者のうちの片方、――肩ぐらいまでの短い金髪に、小柄な体、そして純白の鎧を纏った少女――ルーディナ・デウエクス。
彼女は可愛い大声を上げ、眼前にいる、巨剣とも言える大剣を持った巨漢へと、剣を構えながら迫っていった。
「ふんぬっ!!」
剣を構えたルーディナが、その巨漢へと叩き込まんとした、強烈な一撃。
その一撃を、黒髪に黒い鎧を纏った、大剣を持つ百九十センチメートル近い巨漢が――その大剣で受け止める。
「ぐっ……!」
「岩石断!!」
巨漢はルーディナの剣をその大剣で受け止めたまま、その大きな足で大地を踏み、大地を震動させ、地面を破壊する。
「ちょっ!?」
そしてその破壊された地面から、ルーディナを含む縦一直線に――尖った形をした岩が休む暇もなく、どんどんと突き出てくる。
「っ、剣閃!!」
その休む暇もなくどんどんと突き出てくる尖った形をした岩を、ルーディナは対抗するように、こちらも休む暇なくどんどんと切り裂いていく。
縦に、横に、斜めに、三等分に、四等分に、五等分に、四角に、三角に、円に、球体に、点に、線に、星に、ハートに、ツリーに、木の形に、雲の形に、雫の形に、氷の結晶の形に、回って、突っ切って、躱して、跳んで、超えて、踏んで、足場にして、下を潜って、下から突き上げて、上から振り下ろして、横から薙ぎ払って、斜めから切り落として、そしてそのまま――
「――俺の岩で遊ぶんじゃない!!」
――巨漢を切り裂かんと、ルーディナは真っ直ぐ進んで剣を振るうも――その巨漢の姿が、見当たらない。
「なっ!?」
「はぁっ!!」
ルーディナと、澄んだ青空に浮かぶ太陽の日の光。その間に何か障害物ができ、頭上から浴びていた太陽の日の光が、ルーディナに届かなくなる。
そのわかりやすい異変が起きた直後、ルーディナはすぐに上を向くが――時既に遅し。
――ルーディナの視界の中には、明らかに重いであろう大剣を軽々と持ち上げ、そのまま振り翳さんと構えている、巨漢の姿があった。
「まっず!?」
「逃がさん!!」
ルーディナは、その巨漢を視界に入れた直後に、その攻撃を避けようと行動に移すが――またしても、時既に遅し。
――雲一つない、青く染まる澄んだ空に浮かぶ太陽が、神々しいように、そして照り輝くように日の光を放つ簡易的な闘技場で、何かにぶつかったような、巨大な金属音が鳴り響いた。
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数分ほど経ったはずなのに、未だに痛みが染みる頭を抑えながら、ルーディナは頬を膨らませ、愚痴のように言葉を溢す。
「あれおかしいって! 私一瞬で避けたはずなのに、なんで受けちゃったの!?」
「知らん。単純に、お前の回避が遅かっただけだ」
「むぅ……」
精一杯の睨みのつもりなのだろう。
だが歳の問題も然り、美少女なところも然り、可愛く頬を膨らませているのも然り、ただの可愛い顔としか見えない顔で、睨んだつもりのルーディナ。
そして、その可愛い顔で睨まれている巨漢は――
「だいたい、ディウもおかしいでしょ! いつの間に移動してたの!?」
「それはお前が自分で考えることだろう。俺に答えを求めるな」
「むぅ……!」
――ディウと呼ばれた、黒髪に黒い鎧を纏った、大剣を持つ百九十センチメートル近い巨漢――ディウ・ゴウメンション。
十六歳のルーディナと、二十八歳のディウの絡み。
それは側から見ると――ちょうど反抗期真っ盛りで対抗している娘と、その娘を落ち着かせんと抗議している父親。という、家族の日常にしか見えない。
「――で、お前らはなんで戦ってたんだ?」
そこで二人の家族の日常にしか見えない絡みに、今かと空気を見計らってか――背に強弓とも言える弓を背負った青髪の美青年が、二人相手に質問する。
「ああ、あれか。あれはどちらが買い出しの後の荷物持ちをするか、決めるためにやったものだ」
「いやそんな理由かよ!?」
背に強弓とも言える弓を背負った、青髪の美青年――フェウザ・ロトフゥイ。
彼はディウから話されたこの戦いが起こった理由に、驚愕の反応を上げる。
――そして、そのような反応をしたのはフェウザだけではなく、その近くにいる、紫髪の男性と桃髪の女性も然りで。
「……ならば、貴様らはそんなくだらん理由のためだけに民衆の興味を無駄に集め、下手すれば大怪我、もしくは命を落とすかもしれんかった戦闘をし、ルーディナは頭に大きなたんこぶを作り、戦闘途中の気に食わなかったやり取りに愚痴を言い続けて、無駄に時間を使っているというのか?」
「い、いや、そう言われるとなんと言うかどうと言うか……」
ディウが話したこの戦いが起こった理由。それについて、紫髪に、四つの宝珠が埋まった杖を持ち、魔法使いのような服を纏った男性――アークゼウス・ヴェルゼウが、長く的確に否定的に、二人の戦いとその後のやり取りについて、辛辣に反応を返す。
その理論的すぎる内容に、ルーディナは思わず引き気味に、そして言い訳のように、言葉を述べてしまった。
「いや、どっちが荷物持つかとか決めるのなかなか長くなるじゃん? だから、いっそ戦って決めた方がいいかなーって……」
「ですが、それでルーディナさんかディウさんのどちらかが怪我でもしてしまったら、むしろ逆効果ではないでしょうか?」
「むむぅ……!」
アークゼウスの理論的な内容に、なんとか否定しようと、対抗しようと、抗議するルーディナ。
だが、桃髪に聖女のような服を着た、妖艶な体つきをした女性――メリア・ユウニコーンに、思わぬ角度から弱点を突かれてしまう。
「で、でもぉ……」
「もう寄せ、ルーディナ。お前は俺たちのパーティの中で最年少。間違うことなんぞ、よくあることだ」
「ふぁ!?」
そして挙げ句の果てに、買い出しの後の荷物持ちを決めるという先程の戦いに参加していたディウまでもが、敵側になってしまった。
なんとか対抗する派はルーディナ一人。そしてそれ以外のアークゼウス、フェウザ、ディウ、メリアの四人がルーディナを叱る派グループ。
こうなってしまっては、ルーディナの勝ち目はもうないも同然だ。
「むむむぅ……!」
――可愛らしく頬を膨らませながら、ルーディナは納得いかないと言わんばかりの、声を出した。
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<side 語り手>
―――『閃光の勇者』の二つ名を持つ、肩ぐらいまでの短い金髪に、小柄な体、そして純白の鎧を纏った少女――ルーディナ・デウエクス。
―――『禁忌の賢者』の二つ名を持つ、紫髪に、四つの宝珠が埋まった杖を持ち、魔法使いのような服を纏った男性――アークゼウス・ヴェルゼウ。
―――『界壊の豪獄』の二つ名を持つ、黒髪に黒い鎧を纏った、大剣を持つ百九十センチメートル近い巨漢――ディウ・ゴウメンション。
―――『迅雷の虐殺』の二つ名を持つ、背に強弓とも言える弓を背負った、青髪の美青年――フェウザ・ロトフゥイ。
―――『慈愛の女神』の二つ名を持つ、桃髪に聖女のような服を着た、妖艶な体つきをした女性――メリア・ユウニコーン。
この計五人の、世界に十二人しかいないと言われるSランク冒険者たちで構成される、強者揃いのSランクパーティ――これを世間は、『勇者パーティ』と呼ぶ。
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<side ルーディナ>
――買い出しの後の荷物持ちを決めるためだけに戦いをした罰として、たった今ルーディナとディウは、その日の夕飯のための食材の買い出しに行っていた。
「はぁ……」
夕飯のための食材の買い出し。そして、その後の夕飯を作る料理人としての役目。それら諸々を、ルーディナはやらなければならない。
普段はメリアが一緒だ。故に楽しい女子トークやら少し未発展の恋バナやらになり、こう言った買い出しや夕飯作りも楽しいものなのだが――
「――――」
――如何せん、今、一緒に買い出しに行っている相手が、ディウなのだ。
――先程から商店街の商品を物珍しく見ており、何を買えばいいのか、どれを選べばいいのかと明らかに迷っているような顔をしている、ディウなのだ。
「ね、ディウ」
「……なんだ?」
「もしかして、食材の買い出しって行ったことない?」
「……一人で冒険者をしてたときは、たいていギルドで頼むか、レストランで食べるかだったな」
「そんな遠回しに言わなくてもいいよ!?」
そのディウの様子を見て、ルーディナは心の中で密かに思ったことを質問する。するとディウからは遠回しの返答が来た。
その、言い方は予想外で内容は予想内の返答に、ルーディナは思わず驚愕の叫びを上げてしまった。
「うーん……よし、ディウもこれから買うことがあるかもしれないから、この際にいろいろ教えるね?」
「断る。時間もかかるし、碌な食材も選べないだろうから、ルーディナ一人で選んでくれ」
「いや速いって!?」
ルーディナはその後、今後に役立つ故にさまざまな知識を教えようとして――ディウの発した一言目の拒絶に、再び驚愕の叫びを上げた。
「でも、もし冒険途中で私たち皆んなが死んじゃって、ディウ一人になったらどうすんの?」
「ルーディナたちが俺を置いて死ぬとは思えないし、もしお前らが死ぬなら俺も一緒に死ぬ。だから問題はない」
「何かっこいいこと言ってんの……」
どうにか先程のディウの言葉を撤回させんと、ルーディナはディウの心が揺れ動きそうな言葉を選び口論を放つが、ディウには残念ながら無効化。
むしろ、ディウのディウらしい言葉に、逆にルーディナの心が揺れ動いたが――とりあえず、ディウには何を言っても無駄だということは理解した。
「はい、じゃあ選んでくるから、ディウはここで――」
「――きゃああ!?」
「っ、何!?」
ディウはここで待っててね、とルーディナが言おうとしたとき、突如、商店街の中で、甲高い叫び声が聞こえた。
その声にルーディナは驚愕の反応を見せ、ディウも何事かと、商店街の中を隈なく見渡す。
釣られて、ルーディナも周りを見ると――
「あ、あれ!」
――ルーディナたちのかなり先の方向に、転んだのか押されたのかわからないが、地面に倒れていて前に手を伸ばしてる女性。そしてその女性の物であろう鞄を持って走っている、黒い服を着た男性が見えた。
「窃盗か」
「追いかけよう!」
そのルーディナの追いかけよう、という提案にディウも頷き、二人して上手く人混みを掻い潜りながら、商店街を走る。
「……結構離れてた気がするけど、少し急いだ方がいいかな?」
「いや、案外すぐ近くだ」
商店街を走りながら、ルーディナが心配そうに、言葉を溢す。だがディウがすぐ近くにいると言って、ルーディナを安心させた。
そして――
「……ここ、右だ」
「いた!」
――商店街の、とある角を曲がる。
そこは、明るく賑わい、人混みを掻い潜ることがなかなか困難であった商店街とは打って変わった――暗く静かで、人が少ない路地裏であった。
そして――その先に、行き止まりで焦っている、男性の姿が見えた。
「捕まえた!」
「がっ!?」
ルーディナは、一瞬でその男性の頭を床に押しつけ、抑える。
「さて、鞄を返してもらおうか」
「な、なんでだよ!? お前らのじゃないだろ!?」
「私たちのじゃなくても、窃盗なんて見たらさっさと取り返すに決まってるでしょ?」
「がふっ!?」
ディウの言葉に、ルーディナに頭を押さえつけられている男性が、押さえられながらも反論をする。
だがその男性にルーディナが蹴りを入れ、男性の反論にさらなる反論を返す。
そして、その男性がどう言うのか、反応を待つが――
「……気絶したらしいな」
「あれ、ちょっと強すぎた?」
「いや、そんなことはない。それよりも、この鞄を返しに行くぞ」
「はーい」
――どうやら、ルーディナのたった一撃の蹴りだけで、気絶したらしい。
とてつもなく弱い男で、窃盗なんて向いていないだろうと――ルーディナは、そう思った。
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<side 語り手>
――人間という生き物は、自分自身を最も信頼している生き物である。
自分自身を最も信頼しているものは、自信過剰、自己中心的と罵るものもいる。
だが自分自身の考えというものは、自分自身が考えて、それを自分自身が正しいと思ったから、出されるもの。
もし、自分自身のことを最強だと思うなら。それは自分自身が自分自身を最強だと考え、その考えを自分自身が正しいと思ったからこそ、その考えは考えとして出され、『自分自身は最強』という考えが完成する。
もし、自分自身のことを何もできない無能な人間だと思うなら。それは自分自身が自分自身を何もできない無能な人間だと考え、その考えを自分自身が正しいと思ったからこそ、その考えは考えとして出され、『自分自身は何もできない無能な人間』という考えが完成する。
例えその思いが、考えが、ポジティブであろうとネガティブであろうと――その前提は、変わらない。
自信過剰の考えだろうが、自己中心的な考えだろうが、その出した考えを自分自身が正しいと思い、その考えが、それにより一つの考えとして完成する。
自殺志願の考えだろうが、自分を卑下する考えだろうが、その出した考えを自分自身が正しいと思い、その考えが、それにより一つの考えとして完成する。
その思いが、考えが、どんな感情であれ、どんな心情であれ、どんな気持ちであれ――その前提は、変わらない。
――人間という生き物は、誰よりも自分自身を優先する生き物。
自分自身が生きていなければ自分自身は終わりで、他人が生きていようと死んでいようと楽しんでいようと苦しんでいようと、自分自身には関係の微塵も欠片もない。
だからこそ、人間という生き物は、自分自身を最優先し、自分自身を守ろうとする。
人間という生き物から見れば、それは当然のことであり、決しておかしなことではない。
だからこそ――自分自身を優先せず、他人の命を、心を、体を、思いを、考えを、意見を、案を、計画を、感情を、感覚を、宝物を大事にし、他人を優先するというものは、とてつもなく、絶滅危惧種と言えるほど少ない。
そして、そのように他人の命を、心を、体を、思いを、考えを、意見を、案を、計画を、感情を、感覚を、宝物を大事にし、他人を優先するというもの――人はそれを、勇者と言う。
なんか友達が後書き書いていたので僕も書きまーす。
はい、みなさんこんにちは、超越世界 作者です。
今回の小説を読んでいただき、大変誠に感謝を申し上げます。
誤字報告などもしてくれたら嬉しいです。感想もしてくれたら嬉しいです。
ちなみに、友達の名前は「ヤック・ヤッグ」というらしいです。
ぜひ見てみてください。面白いです。きっとおそらく多分可能性として。いや確定で面白いです。
というわけで、本当に小説を読んでくれてありがとうございます。読んでね? 頼むから。
というわけで、ばいなら。
あー次の話も読んでくれたら幸いです。
というわけで、本当にばいなら。
ちょっと待ってそうだ。
えーと、この作品、一応R15がついていないんですけど、つけた方がいいですかね?
残酷な描写結構あるかなーとは思うんですけど、どっちがいいのか僕は非常に悩んでいます。
もしよかったら、感想でR15つけるかつけないか議論をしてくれると、幸いです。
というわけで、まじでばいなら。
<追記>
R15指定はすることにしますね。指摘してくださった方、ありがとうございます!!
はい、本当の本当にばいなら。




