7話「リア充満喫、お久しぶりのガチャ」
島に来て半年が経過した。
「ジゼル様、スイカが取れました。
スイカ割り……? というのをいたしましょう」
「うん、今行くねティリス!」
私とノクテリスとの関係に進展がありました。
二人きりの無人島生活。
年頃の男女が暮らしていて何も起こらないはずがなく。
キ、キキキ……キスしちゃいました!
おでこやほっぺではなく唇にです。
前世を含めてファーストキスです!
それを機に、お嬢様呼びから名前呼びに変えてもらったんだよね。
ノクテリスのことも「ティリス」と愛称で呼ぶことにしたんだ。
「ノク」や「ノクティ」という呼び方も候補にあったんだけど、流石にちょっと恥ずかしいかなって……。
ノクテリスの愛称がティリスというのもちょっと違う気がするんだけど、これは愛称で呼ぶことありきで名前を考えなかった制作側が悪い。
ノクテリスではなくノクティリスなら、愛称がティリスでも問題なかったのに……。
この話はもうやめましょう。追求しても今さらどうにもならないわ。
ちなみに1階のダンスホールを改装して、ティリスの部屋にしました。
私は踊れないからダンスホールがあっても使わないんだよね。
ティリスは、島の木を切って器用にベッドやソファーや机や椅子を作っていた。
彼は本当に器用で何でもできてしまう。
◇◇◇◇◇
私達は畑で採れたスイカを持って浜辺へ移動した。
衣装部屋に白のフリフリのついたビキニが入っていたので、私はそれに着替えた。
それだけだと露出度が高いので水着の上にパーカーを羽織り、ビーチサンダルを履いた。
悪役令嬢のアヴェリーナはボン・キュッ・ボンのナイスバディだけど、清楚系ヒロインのジゼルはつるぺたなのだ。
スレンダーといえば聞こえはいいけどようは絶壁だ。
もうちょっとこうなんとかならなかったのかなぁ……?
前世も現世もぺったんこなんて……。
「ジゼル様、どうかされましたか?
浮かないご様子ですが?」
「なっ、何でもないよ!」
体系の悩みは大好きなティリスにも言えない。
「スイカ割り楽しみ!
海に急ごう!」
「はい」
横にいるティリスをちらりと見る。
ティリスも今日は、ビーチサンダルにボードショーツとアロハシャツというラフな格好をしている。
マウンテンハットとサングラスが、服装にアクセントを添えている。
普段の黒のジュストコール姿もいいけど、こういうラフな格好も似合うのよね。うっとり。
男子の衣装部屋に現世のブレザーとか学ランとかタキシードとかあったから、今度着て貰おう。
ティリスは背が高いからスーツ+白衣とかも似合いそうだな。
女子の衣装部屋に入っていたコスプレ衣装には引いたけど、男子の衣装部屋に入っていたコスプレ服はそそるものがあった。
制作陣の思う壺という奴ね。
「ジゼル様、わたくしの顔に何かついておりますか?」
「ううん、今日もティリスはかっこいいなぁって見惚れてたの」
「ありがとうございます。
それを言うならジゼルも今日の装いも可愛らしいですよ」
「ありがとう」
他愛のない会話をしながら、海を目指す。
ティリスが家から森に続く崖に階段を設置し、森から浜辺へと続く道を整備してくれた。
なので、空を飛ばなくても歩いて海に行けるのだ。
「ですが、わたくしも男。
想い人から熱い視線を向けられれば、理性が崩壊することがあることもお忘れなきよう」
「……は、はい」
急に色っぽい声でそういうこと言うの禁止!
◇◇◇◇◇
そんなこんなで海についた。
海は日の光を反射してきらきらと輝き、波は穏やかなリズムで導きを繰り返していた。
白く美しい砂浜には私達しかいない。
ティリスがビーチパラソルや、ビーチチェアを手際よくセットする。
砂の上にシートを引き、スイカを乗せればスイカ割りの準備が完了!
「目隠しをして、くるくる回った後、棒でスイカを叩くの。
見てる人はスイカの位置まで声で誘導するんだよ。
まずは私からね」
私はスイカ割りのルールを説明し、目を布で覆った。
「こ、これは……!」
「ティリス、どうかしたの?」
「いえ、愛しい方が目隠しをしてよたよたと歩く姿に……何か感じるものがありまして……」
ティリスの声はいつになく動揺していた。彼は今どんな表情をしているのだろう?
どうやら、私が目隠しした姿がティリスの新たな扉を開いてしまったようね。
人によってはパン食い競争で、手を後ろで縛ってパンに飛びつく姿が刺さるみたいだし、癖とは奥が深い。
そんなことがあったけど、私達はスイカ割りを楽しんだ。
◇◇◇◇◇
イケメンと浜辺でスイカ割りをして、ビーチパラソルの下で砕いたスイカを食べる……リア充だなぁ。
この世界に転生して良かったぁ……!
ビーチチェアに寝転がりながら、穏やかな海を眺めていた。
ティリスがグラスに入ったジュースを差し出してくれた。
至れり尽くせりすぎる!
オレンジジュースをすすっていると……。
『消費総額が1万円を超えたボーナスとしてガチャ一回プレゼントいたします』
……久しぶりに天の声が聞こえた。
今頃1万円消費ボーナス??
こういうのって少額のものから消費されていくんじゃないの?
50万円消費ボーナスを使ったあとで、1万円を消費したボーナスが届くの?
仕組みはわからないが、私がこの世界に転生したことでシステムも混乱してるのかもしれない。
まぁ、くれるというんだからありがたく頂戴しておこう。
そのうちまた、予期せぬタイミングで5万円消費ボーナスとか、10万円消費ボーナスの通知が来るかもしれない。
目の前に表示されたウィンドウのボタンを押すと、ガラガラと音を立てて新井式回転抽選器が回った。
そして、ぽとりと白い球が落ちた。
『白い球が出ましたので、こちらのアイテムと交換できます』
ウィンドウにアイテム一覧が表示される。
多分、白い球は外れだったんだろう。
薬草などのしょぼいアイテムしか並んでいない。
家庭菜園の傍ら、薬草も育て、理科室でポーションを精製してるんだよね(おもにティリスが) 。
だから今さら薬草や初級ポーションを貰っても困る。
他には歯ブラシとか石鹸とかポケットティッシュとか、くじ引きの参加賞みたいなアイテムが並んでいた。
うーん、どれも家にあるのよね……。使っても次の日には復活するしね。
いつもと違う香りの石鹸と交換しようかしら?
そう思ったとき、あるアイテムの名前が目に入った。
それは新聞だ。
この世界にも新聞はある。しかし無人島なので当然配達はされない。
ここにいると外界の情報は手に入らない。
暇つぶしに一部もらっておこうかしら?
新しいカフェが出来たとか、観光名所ができたとか、人気作家の新刊が発売されたとか、面白い情報が乗ってるかもしれない。
もしかしたら、悪役令嬢と王太子の結婚とか……あんまり見たくないニュースが一面を飾ってるかもしれないけど、それもまた面白い。
卒業パーティーから半年が経過したこともあり、彼らへの怒りもほぼ残っていない。
イケメンとののどかな生活っていいね。それだけで保養だわ。
森でフェンリルの赤ちゃんと、ケット・シー(二足歩行する黒猫)を拾ったから、家族が増えて、もふもふにも癒やされてるしね。
イケメンともふもふとの生活が心を癒やし、魂を浄化してくれたのだ。
断罪イベントなんて過去の話だよ。
新聞に何が書かれていても動じない。
私が新聞をタッチすると、画面が光り、四つ折りにされた新聞が出てきた。
「ジゼル様、それは?」
隣りにいたティリスが不思議そうに尋ねてきた。
「なんかね、今頃1万円を消費したボーナスをもらったの。
景品の中で一番面白そうだったから、新聞を選択したんだ。
読み終えたら、引き出しの底に敷いて湿気取りにも使おうと思って」
新聞のインクには防虫の効果もあるし、とても便利なアイテムなのだ(アイテムの効果で家の中に虫はでないけど)。
「それはとてもいい考えですね。
ですが大丈夫ですか?」
「えっ?」
「新聞にはジゼル様が知りたくないようなことも、記されているのではありませんか?」
ティリスは厳しい表情で新聞を見据えた。
ティリスは私が傷つかないか心配してくれているんだよね。
「大丈夫だよ。
卒業パーティーの出来事はもう過去のことだから。
何が書かれていても今さら傷ついたりしないよ」
私はティリスを安心させるように微笑んだ。
「ジゼル様、がそうおっしゃるなら……」
ティリスが折れてくれたので、私は新聞を広げた。
公爵令嬢アヴェリーナ・グランベール、王太子ラインハルト・ホーエンベルクとご成婚……とでも一面に書かれているかなぁと思っていたのだけど……。
「えっ……これって……?」
「どうかしましたか、ジゼル様?」
ティリスが新聞を横から覗き込んだ。
公爵令嬢アヴェリーナ、王太子ラインハルト、宰相の息子フリッツ、魔術師団長の息子ルイ、騎士団長の息子ジャック……彼らの名前が新聞の一面に記載されていた。
「邪神デスファールト復活! 邪神を討伐に行った王太子一行が行方不明!」という見出しとともに。
邪神デスファールト……そんな物騒なもの「天恋」の世界にいたかしら?
イケメンの攻略対象たちと、学園できゃっきゃうふふするのがこのゲームの特徴だったはずだけど……。
あっ、もしかして続編?
私が知らないだけで「天恋」続編があったのかも?
続編ではヒロインが攻略対象と共に、邪神の復活を阻止する話だったのかな?
それはもはや恋愛シュミレーションゲームというより、RPGゲームね。
ヒロインであるジゼルが退場したから、悪役令嬢のアヴェリーナが攻略対象と共に邪神の討伐に向かったのかな?
でも、アヴェリーナはヒロインじゃない。だから邪神を封印も討伐もできなくて……死亡。
そこまで考えてゾッとした。
ヒロインの私に冤罪をかけ追い詰めたのは彼らだ。
実家のコネもない私は、ティリスと共に逃げる以外の選択肢はなかった。
だから、私が罪悪感を覚える必要はない。
だけど胸の中に広がるこのもやもやは何だろう……?
「自業自得ですね。
ジゼル様を蔑ろにするからこうなったのです」
ティリスは新聞を読んで眉間にしわを寄せ、吐き捨てるように言った。
ティリスの言う通りなんだけど、胸の奥がざわざわしてなんか落ち着かないんだよね。
「ジゼル様、顔色が悪いですよ」
「そうかな……?」
「熱中症になったのかもしれません。
家に帰りましょう」
「……うん」
ティリスも、私が熱中症じゃないことぐらいわかってるはず。
何も言わずに優しく接してくれる彼の思いやりが愛しい。
ティリスにお姫様抱っこされて家に戻った。
フェンリルとケット・シーをベッドに連れ込み、抱き枕にして眠ったらちょっと落ち着いた。
やはりもふもふ、もふもふは全ての癒やしに通じる。
読んで下さりありがとうございます。
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