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5話「新居探索その2。前世の料理が美味しい!!」




寝室の扉を開けると、壁紙も絨毯もカーテンもピンクだった。


大きなダブルベッドが部屋の中央にドーンと設置されていた。


昔のラブホテルかしら……?


ちょっと私の趣味に合わないが、贅沢を言うのはやめよう。


部屋の隅に鏡台が二台設置されていた。鏡台の色は片方は桃色で、もう片方は白だった。


乙女ゲームのヒーローは身だしなみに気を使うので、白い方はヒーロー用だろう。


「ノクテリスさんは白い鏡台を使ってください。

 鏡台に入っているものは、全部ノクテリスさんに差し上げます」


「よろしいのですか?」


「ええ」


ノクテリスさんにも身ぎれいにしていてもらいたい。


鏡台には何が入っているのかしら?


私はピンクの鏡台の引き出しを開けた。


化粧水や美容用パックなどの保湿アイテム、化粧道具やマニュキュアや香水など細々した美容グッズが入っていた。


爪切りや眉毛ばさみもある。


そういえば洗面台には歯ブラシセット、お風呂にはシャンプーとトリートメントと石鹸のセットが備え付けられていた。

 

この世界では手に入らないものばかり。


本当に至れり尽くせりで嬉しくなる。


「お嬢様、こちらの鏡台にあるものは本当に全てわたくしがいただいてよろしいのでしょうか?」


ノクテリスさんがやや困惑した表情で尋ねてきた。


「もちろんだよ、遠慮なく使って。

 使い方がわからない道具があったら言ってね」


現代の道具は異世界人には馴染がないので使いづらいだろう。


「この箱に入ってるものの使い方についてなのですが……」


なんだろう?


現代日本にしかないものでも入っていたのかな? 


電動シェーバー(ひげ剃り)とかかな?


精霊でも朝になるとおヒゲが伸びるのかしら?


「どれどれ……こ、これは……!」


箱の中身を見て、私の顔に一瞬で熱が集まった。


これは……! 言葉にするのもためらう用途不明としか明記できない道具!


そう言えば、この家の名前は「これさえあれば無人島でも快適! 家具、食料、庭付き一戸建てセット! 素敵な旦那とラブラブな新婚生活を送っちゃおう!」だった。


新婚だし、場所によっては暇つぶしできるような施設もない、若い二人は暇をもて余し……ゲフン、ゲフン。


前世喪女だった私には、し、刺激が強すぎるわ!!


「はわわ……! そ、それはえっと…! あの………!」


テンパってしまって上手く言葉がでてこない。


「これが何か分かりませんが、お嬢様にとって良くない物なのはわかりました。

 そんな物はこうしてしまいましょう」


ノクテリスさんは手から黒い炎を出した。


炎が箱を包み込み全てを焼き尽くした……。


よかった……! とても言えないものが消えて良かった!


でも……ちょっと残念な気がするような……?


いやいや、そんなことはない!


私はノクテリスさんをそんな目では見てないよ……!


断じて違うよ!


「屋敷の探索はこれくらいにして、お食事にいましましょう。

 何か簡単なものをお作り致します」


ノクテリスさんが話題を変えてくれた。


空気が読める偉い子!


「うんうん、食事は私が作るよ。

 ノクテリスさんはキッチンにある道具の使い方がまだわからないでしょう?

 それに私、今日は日本食が食べたいんだ」


冷蔵庫の中身を見てから、お腹がぐーぐー鳴っているのよね!


ほかほかのご飯と梅干しをいっしょに食べたい! 


熱々の味噌汁をすすりたい!


焼き立てのお魚にお醤油を垂らして食べたい!


たくあんをポリポリとかじりたい!


「では、わたくしはお嬢様のお手伝いをいたします」


「うん、お願い」


その日、前世振りでお米を食べた。


お米は梅干し入りのおにぎりにしてのりを巻いた。


冷蔵庫に入っていた卵を使って卵焼きを作り、ネギと乾燥わかめの味噌汁を作った。


たくあんを切って皿に並べ、そうめんを茹でて上に万能ねぎをかけた。


冷蔵庫に入っていた鮭の切り身をオーブンで焼いた。


飲み物は急須で入れた濃いめの緑茶。


前世では当たり前に食べてたけど、現世ではきっと公爵令嬢や王太子……ううん、国王や皇帝だって食べたことのない至高の料理だわ。


「ん〜〜!

 おにぎりののりがパリパリしてる〜〜!

 お米も粒が立ってるし、梅干しの塩味もちょうどいい!

 最高〜〜!

 たくあんの歯ごたえ〜〜!

 味噌汁の風味が五臓六腑に染み渡る〜〜!

 鮭の切り身には濃い口醤油よね〜〜!

 卵焼きにはケチャップよね〜〜!」


食後の高級玉露が染みる〜〜!


ふわ〜〜! 前世で貯めた全財産課金して良かった〜〜!


転生先でも日本食が食べれるなんて素敵すぎる〜〜!


前世ぶりの和食を味わって頂いた。


「デザート(?)に某メーカーの炭酸水と、うすしお味のポテチ!

 それから某メーカーのナッツ入りチョコレートを贅沢に食べちゃいます!!」


正直、食後にこんなもの食べたら太るだけなんだけど、今日だけ特別。


ポテチのパリパリの食感を楽しみながら、甘い炭酸水を味わう。


ノクテリスさんは前世の食べ物を始めは不思議そうに眺めていた。


だけど一口食べたら気に入ったようだ。


ジャンクフードは一口食べると止まらなくなるんだよね〜〜。


そういえば悪役令嬢ことアヴェリーナは、前世ではどんな食べ物が好きだったんだろう?


ふとそんな考えがよぎった。


ポテチはどんな味が好きだったのかな?


おにぎりに入れる具材は?


卵焼きは甘いのとしょっぱいのどっち派?


カレーは甘口派、それとも辛口派? それとも中辛派?


「恋天」以外に好きなゲームはあったのかな?


好きなアイドルや声優はいたのかな?


今の私は身の安全が保証され、ノクテリスさんが側にいて、食料も日常生活に必要なものも潤沢に揃っている家があって、自然が豊かな島で平穏に暮らしている。


だから、こんなことを考えてしまったのかもしれない。


アヴェリーナは私に冤罪をかけ、断罪した嫌な奴だ。


だけど、前世で好きだったものを話し合える唯一の人間でもある。


アヴェリーナが「悪」というより、彼女には彼女なりの「正義」があったように思う。


正義の反対は悪ではなく、また別の正義なのだ。


アヴェリーナは怖かったんだと思う。


この世界に愛されているヒロインであるジゼルの存在が。


だから彼女は私を全力で排除しようとした。


無実の罪で断罪されたことはまだ許せない。


だけどアヴェリーナが憎いかと言われたらそうでもなくて……。


ちょっとだけ、彼女を気の毒だと思った。


私が悪役令嬢に転生したら、やっぱり同じように攻略対象達のトラウマを癒やして、味方に付けたと思う。


もしかしたら、ヒロインの存在を恐れ、排除しようとしたかもしれない。


「お嬢様、いかがなされました?」


「えっ……?」


「目から涙が……」


知らない間に私は泣いていたらしい。


今日は色んな事があって、気持ちの整理がついてないせいだ。


でもそんなことを話して、ノクテリスさんを心配させたくないな。


「ううん、何でもないよ。

 前世の食べ物があまりにも美味しくて……!

 だからこれは感動の涙だよ……!」


嘘つくのは苦手。


ノクテリスさんを上手くごまかせたかな?


「お嬢様におかれましてはお疲れのご様子。  今日はお風呂をいただかれ、お休みになってはいかがでしょうか?」


「うん、そうするね」


良かった、うまくごまかせたみたい。


「ああ……でもベッドが一つしか……」


これはあれだろうか?


何もしないからという条件のもと二人で一つのベッドを使い、そ、添い寝を……!


「ご心配には及びません、お嬢様。

 わたくしは精霊。

 どこででも寝れますから」


「そ、そうなんですか……便利ですね」


が、がっかりなんかしてないよ!


私、痴女じゃないからね!!


お風呂をいただいて、シャンプーや石鹸の甘い香りに包まれ、清潔なベッドで眠った。


広いベッドでの独り寝は、ちょっと寂しい気がした。


そんな風に思ってしまったことは、ノクテリスさんには内緒だ。






読んで下さりありがとうございます。

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