4話「新居の探索。前世の食材に感動!!」
ガチャチケットと光の装備に気を取られてしまった。
家の中がどうなっているのか、ずっと気になっていたんだよね。
「ノクテリスさん、一緒に家の中を見て回りましょう」
「はい、お嬢様」
ノクテリスさんが私をお姫様抱っこした。
「……ノクテリスさん!?」
「お姫様の靴が庭の土で汚れてしまいますので」
「ノクテリスさん、このくらいの距離歩けますから……!」
「どうか、お気になさらず」
ノクテリスさんが私を抱き上げたまま、玄関へと向かっていく。
ノクテリスさんが気にならなくても、私が気になるんだよ〜〜!
移動するたびにお姫様抱っこをしてもらうわけにはいかないので、ノクテリスさんにはあとで強く抗議をしておかねば!
でも、ノクテリスさんのきらきらと輝く笑顔を目にしたら、言えないかも……?
◇◇◇◇◇
玄関を開けると、シャンデリアの吊るされた玄関ホールが広がっていた。
正面には左右に分かれた分岐階段があった。
豪華なホテルとか海外の宮廷ドラマでよく見るやつ……!
お姫様抱っこされたままだと居心地が悪いので、下ろしてもらった。
「不思議ですね。
この家は外観より室内が広いようです」
ノクテリスさんが顎に手を当て、怪訝そうな顔で呟いた。
えっ? そうなの?
言われて見ればそんな気がする。
「元々、ゲームのボーナスアイテムですし、何でも有りです!
細かいことを気にしてもしかたありません!
楽しみましょう!」
他に住む場所もないし、家が広いことに越したこたとはない。
「お嬢様はいつでも前向きでいらっしゃる」
「部屋が広くて困るのはお掃除するときくらいですから」
家に自動掃除機能がついてたら楽なんだけどな。さすがにそれは贅沢すぎるかな?
気を取り直して、家の中を探索した。
一階はキッチン、お風呂、リビング、ダイニング、食料庫、なぜかダンスホールや理科室のような場所まで設置されていた。
キッチンはかまどではなく、現代日本風式のシステムキッチンだ。
どこからガスを引いたかはわからないが、ガスコンロ式だった(電気よりガス派だから嬉しい)
冷蔵庫や電子レンジオーブンや炊飯器なども備え付けられていた。
どこから水を引いてるかは謎だけど、キッチンも洗面台もお風呂も、蛇口から綺麗な水が出た。
水とお湯の切り替えも可能。
お風呂はジャグジー付き。
無人島で毎日お風呂に入れるなんて最高!
ノクテリスさんは「これはまた面妖な……」といってアイテムを一つ一つ確認していた。
あとで使い方を教えてあげよう。
冷蔵庫の中には現世の日本の食べ物がぎっしりつまっていて、これには感動した……!
「お米と味噌と醤油がある! 梅干しにたくあんも……! 簡易の味噌汁に各種お漬物にレンチン可能なレトルト食品まで揃ってる……!」
カレーや豚の生姜煮やチキンの照り焼きや切り干し大根のレトルト……!
これを作った人は、なかなか転生者の心をわかっているようだ。
常温の食料庫には、この世界の食べ物と前世の食べ物が半分ずつ収納されていた。
畑で野菜が育つまで時間がかかりそうだし、当分は食料庫の食べ物にお世話になるのでありがたい。
「ノクテリスさん、家事は私がやりますね。 前世の料理を作ってあげます」
前世は三十路のOLだった。簡単な料理くらい作れる。
振る舞う相手はいなかったけど……。
白いご飯に梅干しを乗せて、熱々のお味噌汁と、卵焼きと、鮭の切り身もほしいなぁ〜〜。
大根おろしにお醤油をかけて食べたら最高よね。
前世ではどれも何気ない食べ物だったけど、この世界では材料すら手に入らない。
作り方も謎の物が多いのだ。
味噌と醤油の作り方なんか知らないし、お米の育て方も知らない。(百科事典の丸暗記してないし、普通のOLが知るわけがない)
つまり超レア。
「お嬢様にそのような真似はさせられません!
わたくしの特技は、ナイフを使った個別の暗殺、毒を使った大量殺人、それから家事、炊事、掃除、洗濯、アイロン掛け、細々とした部屋の整理、模様替え、大工仕事、家庭菜園、園芸、動物の飼育、釣り、狩り、魚や動物の解体でございます!
どうか家事はわたくしにお任せください!」
途中物騒な特技が混じってたけど、ノクテリスさんは護衛としても、執事としても、狩人としても、スローライフのお供としても超有能!!
そっか、ノクテリスさんは動物の飼育も得意なんだ。
フェンリルとか野ウサギとかヤギとかかわいい生き物がいたら、捕まえて庭で飼育したいなぁ。
「わかったわ。
じゃあ道具の使い方や、日本食の作り方を教えるね。
だから家事は交代でやろうね」
「お嬢様のお手を煩わせない為にも、日本食の作り方を死ぬ気で覚えます」
そんなことに命かけなくてもいいよ。
家事は分担制に決まった。
と言っても、ノクテリスさんには力仕事や狩りを担当してほしいから、家のことは私がやることになりそうだな。
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次は2階。
2階には書斎、図書室、音楽室、衣装部屋、それから寝室が一つあった。
1階の理科室もそうだけど、音楽室や理科室などの余計な部屋をつけなくていいから、寝室は二つ欲しかったなぁ。
それは贅沢なのかしら?
まぁ、それはともかく探検探検!
衣装部屋は二つあって、片方には女性用の服が、もう片方には男性用の服が入っていた。
新婚生活を送る為のセットだから、ヒロインの服だけではなく、相手役の男性用の衣服も用意されてるわけね。
衣装部屋には、制服、ドレス、庶民用のワンピース、他国の民族衣装、農作業用の服、狩り用の動きやすい服、冒険者用の丈夫な服など、様々な服が入っていた。
「あっ、このドレス可愛いかも」
黄色や赤のドレスにテンションが上がる。
「お嬢様なら、どのようなお召し物もお似合いになります」
「えへへ、そうかな?」
ノクテリスさんはおだてるのが上手だな。イケメンにおだてられるのは悪い気はしない。
「奥にも扉がある。
こっちには何が入っているのかな?」
そこには前世で見たこともある服が入っていた。
セーラー服、ブレザーの制服、体操服にブルマー、スクール水着、チアガールの服、テニスウェア、ミニスカメイド服、ミニスカナース服などなど……偏りのある衣装だった。
「珍しい衣服ですね?
異国のものでしょうか?」
ノクテリスさんがナース服を手に取り、しげしげと眺める。
「わーー!
ノクテリスさんは見るのも、触るのも駄目〜〜!」
私はノクテリスさんからナース服を取り上げ、棚に戻し、扉を閉めた。
変な服まで備え付けて置かなくていいよ!
私はノクテリスさんの手を引き、次の部屋を目指した。
音楽室には、ピアノ、木管、鉄琴、フルート、バイオリン、チェロ、シンバル、太鼓など、こちらも種類が豊富だった。
音楽室は、男性キャラが使うためのものだろう。
ヒロインは平民出身なので楽器の演奏は出来ない。
娯楽のない場所では、音楽室も必要なのかもしれない。
図書室には絵本から辞典まであらゆる本が揃っていた。
お料理の本、片付けの本、農作物の育て方、うさぎの育て方、裁縫のノウハウ、釣りの仕方、槍と弓の作り方の本まで揃っていた。
困った時は図書館に行けば解決しそうだわ。
小説もあるし、本なら私も読めるからいい暇つぶしになりそうだわ。
「これ、前世で読んだことある!」
前世で好きだった小説のシリーズが並んでいた。しかも日本語で記されている!
「見慣れない文字ですね」
「私の前世で使っていた文字なの。
日本語っていうのよ」
「なるほど、これがお嬢様の世界の文字なのですね」
ノクテリスさんは熱心に本を眺めていた。
「今度読み方を教えてあげるね」
「ありがたき幸せ。
お嬢様と同じ文字を共有できるのですね」
本棚を眺めているとピンクの背表紙の本が並んでいるコーナーが……。
これってもしかして表紙は普通の恋愛小説だけど、中身はいけない挿絵がいっぱいの大人向け小説……?
ぜ、前世では勇気がなくて一冊も買えなかったけど……まさかこのようなところでお目にかかるとは……!
「お嬢様、いかがなされましたか?」
「ひゃあああっ!!」
本の背表紙に手を触れたとき、不意に声をかけられたので、驚いて本を落としてしまった。
幸い表紙は普通のものだった。
私は急いで本を拾い本棚に戻した。
良かったぁ! 本が開いていかん挿絵が見えるなんてことがなくて本当によかった!
「その本が気になられるのですか?」
「な、なんでもないよ!
でも、ノクテリスさんはこの棚の本を見るのは禁止ね!」
「それは構いませんが、その本にはどのようなことが記されているのでしょうか?」
「な、内緒!
次の部屋に行こう!!」
ノクテリスさんの背中を押して、図書室を後にした。
後であの本は、ノクテリスさんの手の届かないところに隠しておこう。
けっ、決して後でこっそり読みたいわけでは……!




