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2話「闇の精霊ノクテリスと南の島」



「もう大丈夫ですよ。お嬢様」


「うん、助けてくれてありがとう、ノクテリスさん」


「私はお嬢様のしもべ、敬称など不要です」


「そういうわけには……」


前世を含め、私は人を呼び捨てにすることに慣れていない。


ノクテリスさんの年齢は二十代前半に見える。


ジゼルの年齢は十八歳。


年上を呼び捨てにするのは、落ち着かない。(前世の年齢足したらババアだろ、とか突っ込まないでね!)


「承知いたしました。

 それがお嬢様の望みなら、甘んじて受け入れます」


「うん、そうしてくれると嬉しい」


召喚したのが敬語を使う執事風イケメン(めっちゃ好み)でよかった。


俺様キャラや、筋肉隆々の脳筋キャラや、態度の悪いツンデレキャラは苦手なんだよね。


「それで、お嬢様。

 これからどちらに向いましょうか?」 


「うーん、そうね……」


私は公爵令嬢を虐めて、王太子に断罪され、捕縛される寸前に逃げ出したいわばお尋ね者だ。


みんなの前でノクテリスを召喚した為に、「悪魔の手先」というありがたくない称号までいただいてしまった。


祖国には帰れない。


他の国に行っても、いつ追手が来るかわからないから安心して暮らせない。


ジゼルは家族を早くに亡くし孤児院で育ったので、迷惑をかける家族がいないのが不幸中の幸いだ。


「誰もいないところに行きたいなぁ。

 どの国の領土にもなってない無人島とか」


南の島でのんびりバカンスがしたい。


「なんて、そんな都合が良い場所あるわけないよね?」


「いえ、大丈夫ですよお嬢様。

 わたくしにお任せください」


ノクテリスさんはニッコリと微笑むと、進路を南に変え、高速で飛行した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ノクテリスさんが降り立ったのは、海の真ん中にある小さな島だった。


島の中心には森があり、海の周りには綺麗な砂浜が広がり、森の奥には高い山が見えた。


山の幸も海の幸も両方味わえてしまう奴……!


ノクテリスさんは砂浜に私を下ろした。


白い砂浜と青い空と海の対比が美しい……! 絵葉書にしたい!


「ええ! 

 この島はどこの国の領土でもないんですか?

 こんな素敵な場所なのに!?」


「この島の周りには渦がいくつもあり、船では近づけないのです。

 人間は空も飛べませんからね。

 それ故、まだ誰にも発見されておらず、どこの国の領土にも属していないのです」


おお……! まさしく地上の楽園!


船で近づけないなら、追手が来る心配もない!


「ありがとう、ノクテリスさん!

 私、この島が気に入りました!」


「お嬢様にそう言っていただけて、嬉しく思います」


爽やかに微笑むノクテリスさんに、私の胸がキュンと音を立てた。


イケメンの笑顔が尊い……!


「この島で暮らすなら早急に家を作らなきゃですね」


ツリーハウスとかに住むことになるのかな?


その時、また天の声が聞こえた。


『課金額が50万円を超えましたので、ボーナスアイテムをプレゼント致します』


へーー、高額課金者にはそんな特典があったのね。


私の前にウィンドウが現れ、アイテム一覧が表示される。


世界を滅ぼせるスイッチ。

世界中の人間を下僕にする薬を散布する装置。

1000年間止まない雨を降らせ大陸を沈めるステッキ。

火山を噴火させる杖。


いや……! アイテム欄が物騒なんですけど……!


世界征服でもする気ですか!?


もっと、普通に平和的に使えるアイテムを……!


私はうっかりアイテムをクリックしないように細心の注意を払いながら、アイテム欄をスクロールした。


これさえあれば無人島でも快適! 家具、食料、庭付き一戸建てセット! 素敵な旦那とラブラブな新婚生活を送っちゃおう!


おお……!


今の私にピッタリなアイテムが!


後半のラブラブ新婚生活は私には関係ないんだけど……。


隠し攻略対象と駆け落ちルートに入ったときにでも使うアイテムなのかな?


この中で一番まともだし、他は人類全滅させるクラスの物騒なアイテムばっかりだし、これを選択するしかないよね!


「家具、食料、庭付き一戸建てセットをください!」


私はアイテム欄をクリックし、OKボタンを押した。


すると『家を設置する場所を選択してください』という天の声が聞こえた。


「家を建てる場所?」


「いかがいたしましたお嬢様?」


「ボーナスアイテムをプレゼントしてもらえることになって、家を注文したんです。

 でも設置する場所がわからなくて……」


「ボーナスアイテムですか?」


ノクテリスさんが首を傾げる。


そんな仕草も素敵。イケメンは何しても絵になる!


「この画面に表示されている……」


「申し訳ございませんお嬢様。

 私には何も見えません」


申し訳なさそうな顔で、ノクテリスさんが謝罪する。


そっか、液晶画面は私にしか見えないんだね。


「あっ、こっちこそごめんなさい。

 えっとこれには理由があってですね」


私はノクテリスさんに、今までの経緯を私が転生者であることを含め説明した。


ノクテリスさんなら転生者にも理解を示してくれるはず、という謎の信頼があった。


「なるほど、お嬢様にはそのようなご事情があったのですね」


ノクテリスさんが顎に手を当て、頷いている。


「お嬢様のお話をお聞きしたら、わたくし悪役令嬢とその取り巻きに無性に腹が立ってきました。

 ちょっと戻って、彼らを殺処分してもよろしいでしょうか?」


にっこり笑って恐ろしいことを言うなこの人……!


「だめだめだめ!!

 人殺しは絶対だめ!!

 お願いだからやめてください!」


ノクテリスさんの裾を掴み彼を引き止める。


「わかりました。

 お嬢様のご命令に従います。

 出過ぎた真似をいたしたことを謝罪いたします」


「ノクテリスさんが私の為に言ってくれたのはわかってる。

 だから怒ってないよ。

 ただ、人殺しはやめてほしいなって」


「あのような仕打ちをした者をお許しになるとは……!

 お嬢様のお心は海よりも広く、女神よりも慈悲に満ちておりますね!

 わたくし、感銘を受けました!」


ノクテリスさんは自分の胸に手を当て、瞳をうるうるさせていた。


そこまでのことは言ってないんだけどね。


前世が日本人なら普通の感覚だよ。


「それより、ノクテリスさん。

 課金ボーナスで、家をプレゼントしてもらえることになったんだけど、砂浜には建てられないみたいなんだよね?

 どこか建てるのに適した場所はないかな?」


「おそらく、砂浜は海面の上昇や嵐などの影響を受けるので拒否されたのでしょう」


なるほど、今は海が穏やかだけど嵐のときは波が荒れ狂いどこまで水が来るかわからない。


砂浜に家を建てられないのはそういうことか。


砂浜に家を建てたら、某有名漫画の仙人の家みたいでかっこいいと思ったんだけどな。


「森を抜けた先の高台に建ててはいかがでしょうか?

 あそこなら風通しもよいので洗濯物もよく乾きます。

 森の中と違い害虫の被害も少ないでしょう。

 さらに湧き水もあり、生活用水にも困りません」


なるほど、家を建てるのはそういう場所が適しているのね!


ノクテリスさん博識!


空から降りて来るとき、湧き水の位置まで把握してたのね!


ノクテリスさんは目がいいんだな。


凄いな! 尊敬しちゃうな!


「うん、じゃあそこに建てよう。

 ノクテリスさん、高台まで連れて行ってくれる?」


「もちろんでございます。

 お嬢様」


ノクテリスさんは私をお姫様抱っこすると、飛行モードに入った。


移動って、やっぱりお姫様抱っこなんだ。


な、慣れないから緊張する……。


至近距離で見るノクテリスさんの顔はとても整っていた。


前に飛んだ時は、空を飛んだ事への驚きや感動、これからどうなるのか不安、そういう思いがあって彼の顔をあまり良く見ていなかった。


間近で見たノクテリスさんは、眉が整っていて、瞳がきらきらと輝いていて、鼻がシュッと高くて、口元は理知的で……パーフェクトな美しさだった。


神絵師が三日徹夜して生み出したような……そんな努力と執念と完璧なキャラを生み出そうという作り手の愛を感じた。


彼としばらく二人で暮らすのかと思うと、心臓がバクバクと音を立てていた。




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