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12話「悪役令嬢の助言、最後の購入アイテム」





『邪神デスファールト討伐セール開催中。

 アイテムを購入しますか?

 現在の残額120円』


その時、また天の声が聞こえた。


「邪神討伐セール?

 そうだよ!

 課金アイテムならティリスを助けられるかも!?

 でも、120円しか残ってない!

 セール中とは言え120円で何が買えるの!?」


セールと言ってもせいぜい半額が上限だろうし……。


こんなことならもっと食費を切り詰めて貯金しておくんだった……!


あの日のスーパーのポテチ代、あの日の自販機のジュース代、あの日お弁当を作らずにコンビニのサンドイッチを買ってしまったお金……!


その全てが惜しまれる!


「諦めるのは早いわ!

 邪神討伐セールは最大99パーセントオフ!

 エリクサーを探しなさい!

 それなら精霊を救えるわ!」


振り返ると、いつの間にかアヴェリーナが私の背後に立っていた。


王太子達も石化が解けたらしく、呆然とした表情で立ち尽くしている。


「アヴェリーナ……どうして……?」


「説明は後よ!

 さっさとしなさい!

 闇の精霊が死んでしまうわよ!」


「は、はい!」


私は焦る気持ちを抑え、震える手で画面をスクロールした。


エリクサー、エリクサー、エリクサー、エリクサー、エリクサー……! 


「あった!」

 

エリクサー(弱)の文字を見つけ、画面をタッチし、OKボタンを押した。


光り輝く瓶に入った青色の液体が画面から出てきた。


急いでキャップを取り、ティリスの傷口にかけた。


お願い! ティリス!! 死なないで!!


ティリスの全身を淡い光が覆う。


その光がティリスの体に吸収され、しばらくして彼が目を開けた。


「ジゼル……無事でしたか?」


ティリスの手が私の頬に触れる。


「ひっく……、ぐすっ……それは、こっちのセリフだよ……!

 ……お帰り、ティリス……!!」


私はティリスの体を抱きしめ、彼の唇にキスをした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




エリクサー(弱)のお値段は12,000円。


99パーセントオフになっていたので、ギリギリ買えた。


正直、エリクサーと言っても(弱)だから効果に不安があった。


通常なら12,000円はするアイテム、効果は抜群だったようだ。


本当ティリスが助かって本当に良かった……!!


それにしても、アヴェリーナがアドバイスしてくれるなんて?


彼女にもウィンドウが見えていたのかしら?


それとも私の独り言を聞いて、状況を理解したのかな?


どちらでもいいわ。


ティリスが助かったのだから。


「ありがとうアヴェリーナ……公爵令嬢。

 おかげで助かったわ……助かりました」


相手は公爵令嬢、世界を救った聖女とはいえ、平民の私がタメ口をきいてよい相手ではない。


それに私は聖女として、世界に認知されていないしね。


きっと、世界はアヴェリーナ達が救ったことになるんだろうな。


私は名誉に興味ないからどうでもいいけど。


「敬語はやめてください、聖女様。

 それに……お礼を言うのはこちらの方ですわ。

 あなたは石像にされた私達を、貴重な課金アイテムを使い、結界を作り守ってくださいました。

 感謝してもしきれませんわ」


アヴェリーナが膝をつき、頭を下げた。


王太子ラインハルト、宰相の息子フリッツ、魔術師団長の息子ルイ、騎士団長の息子ジャックがアヴェリーナに続き膝をついた。


「聖女ジゼル様。

 僕からもお礼を言わせてください。

 我々は石像にされても意識はありました。

 だからあなたの戦いをずっと見ていました。

 あなたが僕たちを守るために戦ってくれたこと、貴重なアイテムで守ってくれたこと、全て記憶しております」


王太子に様付けされるのはどうにもむず痒い。


「聖女ジゼル様に心から感謝申し上げます!」


王太子がそう言って頭を下げると、

「「「聖女ジゼル様に心から感謝申し上げます!」」」

フリッツ達がそれに続いた。


王太子はつきものが落ちたような顔をしていた。


私がみんなを守ったのを知って、改心したのかな?


それとも、邪神を倒したからゲームをオールクリアしたことになって恋の天秤が壊れた?


それなら課金アイテムの99パーセントセールも頷ける。


追加のシナリオがないからこその大盤振る舞い。


「私は学園で嘘の噂を流しあなたを貶め、孤立させ、卒業パーティで断罪しました。

 それなのにあなたは、私たちを助けてくださった。

 見捨てることもできたのに。

 なんとお礼を申し上げていいのかわかりません」


悪役令嬢がしおらしいのってなんか変な感じ。

  

「私のことは許してくださらなくて結構です。

 しかし、謝罪をさせてください!

 私は決して許されない過ちを犯しました。

 一生をかけて償っていくつもりです。

 申し訳ありませんでした!」


悪役令嬢から謝罪される日が来るとは思わなかった。


「城に戻ったら私が犯した罪を正直に告白します。

 そして、聖女様の名誉を回復させます。

 その後は、いかなる罰も受けるつもりです」


アヴェリーナは潔がよいのね。。


「いいの?

 そんなことしたら王太子との結婚や、公爵令嬢の地位も失ってしまうけど……」


私を貶めても守りたかったものじゃないの?


「私が我が身の可愛さについた嘘で、国は聖女様を失いました。

 責任を取ろうと邪神を封印する旅に出ましたが、結果は惨敗。

 邪神の封印に失敗し、石化され、聖女様の足を引っ張ってしまった。

 私達がいなければ、貴方がたはもっと別の戦い方ができたでしょう」


それは否定しない。


アヴェリーナ達に結界の水晶を使わなければ、水晶で私とティリスを守ることもできた。


別のアイテムを購入できたかもしれない。


しかし、それは結果論にすぎない。


もし彼らがいなかったら、扉を開けた瞬間、邪神に不意打ちされたかもしれない。


彼らがいたから、邪神と会話する余裕があったのだ。


ゲームのラスボスは玉座に悠然と構えていることが多いから、不意打ちしてくることはないと思うけど。


しかし、ここはゲームとは違う現実の世界。何が起きるかわからない。


「あやうく世界を破滅させるところでした。

 私が世界に与えた影響は甚大。

 死罪も覚悟しております」


アヴェリーナの瞳は決意に満ちていた。


覚悟ガンギマリ過ぎて怖いよ。


「結果的に邪神が世界に影響を与える前に倒せたわけだし、もういいかな。

 聖女の私が『許す』って言っても駄目なの?

 アヴェリーナはまだ自分が許せない?」


「私は決して許されないことをいたしました!

 民に合わせる顔がございません!」


アヴェリーナは膝を立てた姿勢を土下座に変え、頭を深く下げた。


その姿勢を見ると、彼女も日本人何だなって思う。


私は床に膝をつき、アヴェリーナの手を取った。


「聖女様……!? 何を……?」


アヴェリーナが驚いた顔で私を見ている。


「アヴェリーナの手、剣だこができてるね。

 ここにたどり着くまでに沢山努力した証拠だね」


「…………!」


アヴェリーナが目を見開いていた。


努力が認められたのが嬉しかったのか、アヴェリーナの顔がちょっとだけ色づいていた。


「草木も生えない、道もない荒野を徒歩で越えて、死の山を自力で登って、ここまでたどり着いたんだよね?

 邪神と戦う為にいっぱいレベルも上げたんでしょう?

 あなたが聖女じゃなくても、あなたの民を救いたいって思いと、その努力は本物だよ」


「………!」


「私は課金で購入した精霊の力を借りて、ずるしてここまで来たんだよ。

 ガチャで当てたチートアイテムと聖女の肩書きがなかったら、邪神と戦おうと思わなかったよ」


私はアヴェリーナに微笑みかけた。


「新聞で読んだよ。

 あなた達の存在は民衆の希望だった。

 己を鍛える努力をして、困難に立ち向かって、人々に希望を与える存在。

 そういう人を民衆は『勇者』と呼んで称賛するんじゃないのかな?」


ゲームでは、聖女であるヒロインを助ける仲間のことを勇者と呼ぶことがある。


彼らは私の仲間ではない。


でも彼らの努力は本物。


だから十分、勇者と呼ばれる資格はある。


「聖女様……私はあなたにとても酷いことをしました。

 それなのにあなたは……」


アヴェリーナの頬に涙が伝う。


「それに私、アヴェリーナや王太子には感謝してるんだよ」


この気持ちに嘘はない。


「あなた達が私を卒業パーティで断罪してくれたから、私はティリスを召喚できたんだもん」


私は横にいるティリスの顔を見た。


彼は穏やかな笑みを浮かべていた。


「それは……課金したお金があれば、私達がいなくてもいずれはそうなっていたのでは……?」


私は首を横に振った。


「ううん、断罪されるまで私は前世のことを忘れてたの。

 それに前世の記憶を取り戻したとしても、平時に50万円を一気に消費して高位の精霊を呼び出すなんてきっとできなかったと思う。

 私は前世でも現世でも生粋の庶民だったから」


50万円といえば大金だ。


追い詰められなかったらとても一度には使えない。


「あなた達に追い詰められて、切羽詰まった状況だったから、課金額の大半を消費してティリスを召喚することができたの。

 だからありがとう、私を追い詰めてくれて」


彼らはティリスに出会うきっかけをくれた。


それだけで、彼らの罪を許すことができてしまう。


「だからアヴェリーナ、死ぬなんて言わないで」


「聖女様……でも……」


「アヴェリーナはポテチはうすしお派、それとものり塩派?」


「ええ……? のり塩かしら……」


「カレーは甘口派、辛口派?」


「中辛ですわ」


「松茸チョコとしめじクッキーならどっち派?」


「しめじクッキー派ですわ」


「アイドルグループのキラキラトルネードなら誰推し?」


「パープル潤、一択ですわ!」


私達の会話を周囲にいる男性陣が不思議そうな顔で聞いている。


「こういう前世の何気ない話ができるのは、同じ転生者であるアヴェリーナしかいないんだよ。

 だから、生きてよ。

 生きて、身に着けた力を弱い人や困ってる人達の為に使ってよ。

 時々、前世のお菓子を差し入れに行くからさ」


アヴェリーナにウィンクをすると、彼女は声を上げて泣き出してしまった。


もしかしてお菓子の差し入れは嬉しくなかった?


お菓子より料理を差し入れした方がよかった?


それともシャンプーや歯ブラシなどの日用品が欲しかったのかな?


「アヴェリーナ、泣かないで。

 お菓子だけでなく日本食も差し入れするから!

 筑前煮やきんぴらごぼうは好き?

 切り干し大根やおからもあるよ」


私はアヴェリーナの背中をさすって、彼女が泣き止むのをまった。


「うっ……聖女様……私の完敗ですわ……!

 器の大きさが……ぜ、全然違いますもの……!」


しばらくしてようやく落ち着いたアヴェリーナが涙を拭い、顔を上げた。


こころなしか、その顔はスッキリしているように見えた。






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