11話「決戦! 聖女&闇の精霊VS邪神」
ぐうう……! 先ほどまでのシリアスな雰囲気返して……!
どこの世界に、最終決戦で段差に気づかず転ぶ聖女がいるのよ……!
剣を手放さなかったのが、せめてもの救いだわ!
ズゥゥゥゥゥゥン!!
という低い音が響き、顔を上げると床に亀裂が入っていた。
先ほどまで邪神が座っていた玉座が真っ二つになっている。
「くっ、それは伝説の転んだ拍子に会心の一撃が出る光の剣!
よもやそのような物騒な物を所持していたとはな!」
とっさに避けたのか、邪神は椅子から離れたところに立っていた。
邪神から先ほどの余裕の表情が消え、眉を引きつらせ、額に汗をかいていた。
えっ、あの亀裂は私が作ったの?
光の剣の効果で転んだ拍子に会心の一撃が出るらしい。
ドジっ子の私にはぴったりな装備じゃない?
「見なさい!
こ、これが聖女の実力よ!」
ティリスに抱き起こされた私は、再び邪神に剣を向ける。
先ほどの一撃が偶然の産物だと言うことは黙っておこう。
「ほざけ!
そんな大技が我に当たるものか!」
「ならば、わたくしが相手です!」
ティリスが私の前に立ち、邪神に向かって闇の炎を放つ。
不死鳥の形をした黒い炎が、邪神を襲う!
しかし、邪神の前で炎はかき消されてしまった。
「闇の炎が邪神である我に聞くと思ったか?」
もしかしたら、邪神には聖属性の魔法しか効かないのかもしれない。
「ならば剣で切り刻むのみ!」
ティリスは長剣を召喚すると邪神に斬り掛かった。
邪神も長剣を召喚し、ティリスの剣を受け止めた。
私も転んだ拍子に会心の一撃を出す光の剣(長い)で参戦したいけど、周囲への被害が大きすぎる。
ティリスはうまく避けてくれるだろうけど、石像にされた悪役令嬢達は避けられない。
さすがにうっかりで彼らを破壊するのは避けたい。
先に彼らをなんとかしないと。
どうしよう? どうしたらいい?
こういうとき、なんか約に立つアイテムないの〜〜!?
お願い、誰か力を貸して……!
『現在の残高5,120円。
アイテムを購入しますか?』
その時、天の声が聞こえた。
課金したお金は全部使い切ったと思ってた。
だけどまだ端数が残ってたんだわ!
ウィンドウに表示されるアイテム名を眺め、使えそうなアイテムを探す。
一日に一回見ることで美しさの数値が1ポイント上がる鏡、
肌の艶が良くなる化粧水、
髪の毛がつやつやになるシャンプー、
服だけ透けて見える眼鏡、
モブを味方につけるクッキー、
攻略対象者の好感度を上げる紅茶、
攻略対象者の好感度を上げる香水、
一緒に見ると攻略対象者の好感度が爆上がりする観劇のチケット……。
乙女ゲームの世界だけあって好感度を上げる系のアイテムが多く並んでいた。
というか、服だけ透けて見える眼鏡とか誰が使うの?
もっと戦闘に使えそうなアイテムはないの!?
画面をスクロールしながら、アイテム名とにらめっこする。
ティリスは強いけど、一人で戦わせるのは不安だから早く参戦したいのに……!
【仲間一人の周りに結界を張る水晶・効果は戦闘中永続:1点:1,000円】
そうそう! こういうのが欲しかったんだよね!
私は5000円を支払い結界を貼る水晶を5つ購入した。
ウィンドウが光り、中から5つの水晶が飛び出した。
「水晶玉よ、お願い!
公爵令嬢アヴェリーナ、王太子ラインハルト、宰相の息子フリッツ、魔術師団長の息子ルイ、騎士団長の息子ジャックの石像を守って!」
私は水晶を手に魔力を込める。
水晶は眩い光を放ちアヴェリーナ達の元に飛んでいき、石像を覆うように光の膜を張った。
これで彼らは安全だわ!
思う存分暴れられる!
「ティリス、避けて!
喰らえ! 50万円消費したときの特典ガチャが大当たりしてゲットした光の剣から繰り出される会心の一撃っっ!!」
ティリスが邪神から離れた瞬間を見計らい、私は思いっきり躓いた。
剣から斬撃が放たれ、邪神を襲う……!
直撃を食らった邪神の手から剣が落ちる。
邪神は胸を抑え床に膝をついた。
やった! 今度は当たった!
「くっ、我が床に膝をつく日がこようとはな……!
流石、聖女と言ったところか……!」
邪神は苦しそうに顔を歪めていた。
しかし、彼の目からは殺気を感じる。
まだ、彼は諦めてはいないのだ。
「こうなれば、貴様らも道連れにしてやる……!!」
邪神が顔を歪め、手に魔力を込めた。
なんか凄く嫌な予感がする……!
「ティリス! 私の後ろに隠れて!!」
ティリスは瞬時に私の背後に移動した!
私が光の盾を構えたのとほぼ同時に、邪神が魔法を放った!
「世界を闇に包み込め!
道連れのワルツ!!」
邪神が呪文をと変えると、とてつもない音量の不快な音が流れ、暴風が巻き起こった!
暴風は壁に亀裂を作り、床を切り裂いていく!
アヴェリーナ達は結界の中にいるから安全のはず。
危険なのは私達だ。
光の盾よ! 私とティリスを守って!!
強い風に吹き飛ばされそうになったとき、私の体をティリスが支えてくれた。
ありがとう、ティリス!
私は心の中で彼にお礼を言った。
暴風に耐えていた光の盾に亀裂が入る……!
お願い光の盾……! もう少しだけ頑張って……!
やがて不快な音が止み、風がおさまった。
それと同時に光の盾がボロボロと音を立てて砕け散った。
ガチャで出したレアアイテムが破壊されるなんて……。
邪神、恐ろしい相手だったわ。
でも、もうこれで終わったんだよね。
私はこれで大丈夫だと油断していた。
影に覆われ、誰かが自分の前に立ったのだと気づいた時には、剣が目の前まで迫っていた。
「ジゼル! 危ない!!」
邪神はまだ生きていた。
邪神が剣を振り下ろす!
刹那、ティリスが私を突き飛ばした!
次の瞬間、血しぶきが舞った。
一瞬、誰の血なのかわからなかった。
いや、脳が理解するのを拒んでいたのだ。
私の瞳は、邪神の剣がティリスの心臓を貫く瞬間を捉えていた。
「ちっ、聖女は殺り損ねたか……。
まあよい、最後に聖女が苦痛に歪む顔が見られたのだからな……」
ボロボロになりながら、邪神は私を見てにやりと笑った。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!
ティリスーーーー!!!!」
私はティリスの元に駆け寄った。
彼の体は冷たく、血がどくどくと流れていた。
許さない!
私のティリスをこんな目に合わせるなんて!!
私は怒りに任せ光の剣を邪神に突き刺した!
光の剣が邪神の身体を貫く。
「邪なる神よ!
これが、聖女と光の剣の力だ!
滅べ!!」
正直、邪神とはいえ人型の生き物を刺すのには抵抗があった。
だけど、その時の私はティリスを傷つけられ、怒りで我を忘れていた。
邪神デスファールトは口から黒い血を吐き、体がボロボロと砕けていく。
そして、最後は黒い霧になって骨も残さず消えた。
役目を終えた光の剣が砕け散る。
そんなことより、ティリスが心配だ!
「ティリス!!
お願い、目を開けて!!
死なないで……!!」
いくら呼びかけてもティリスの反応はない。
ティリスの体はさっきよりも冷たくなっていた。
「嫌っっ!!
駄目だよ!!
こんなところで死なないで……!!」
私は袋から回復薬を取り出しティリスの傷口にかける。
だが、ポーションをかけても、万能薬をかけても、上級ポーションをかけてもティリスの反応はない。
どうしよう! 傷口が塞がらない!
そうしているうちに彼の体がどんどん冷たくなっていく。
「ティリス、しっかりして!!
一緒に家に帰るって約束したじゃない!!」
神様、お願い!
ティリスを連れて行かないで!
私を一人にしないで……!
ティリスを助けて……!!
読んで下さりありがとうございます。
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