11.唯一大陸クロスシード
後半少しグロいかもしれません。お気をつけてお読みください。
突然現れた女神を家の中に招き入れる。
「まぁまずは座って座って、なんで女神様は怒っているんだ?」
俺はお茶を出しら理由を聞く。
「なんで怒ってるかって? それはあなたがまったく魔王と戦う気がないからです!」
女神は机をドンッと叩きながら言う。
それか。たしかに戦う気はあまりないな。
しかしなぁ……。
「そんなこと言われても、この世界めっちゃ平和じゃん。魔王によって蹂躙されてたりしないしほっといてもいいかなって思ったんだよ。」
この世界は、世紀末感と言うか、ヒャッハーな感じがしないので魔王を倒す必要はないのでは? と思ってしまうのだ。
女神は大きくため息を吐く。
「カナメさん、この世界に来て魔王について一度でもちゃんと調べましたか? この世界は既に約七割が魔王の手に落ちています。」
「七割⁈ 」
予想以上に魔王は凄いようだ。
「なぁ、それって結構まずいんじゃないか? なにか手を打った方がいいだろ。」
「だからあなたをこの世界に読んだんじゃないですか、能力まであげて。」
そういやそうだったな。
女神は俺のこの世界に対する認識がズレてると感じたのかいろいろと説明を始める。
「まず、この世界には唯一の大陸クロスシードが有ります。」
「唯一って、大陸は一個しか無いの?」
こちらの世界の世界地図とかは見たことな
いが大陸が一個だけって言うのは驚きだ。
「この世界には人間以外にも知能のある種族がたくさんおり、クロスシードで平和に暮らしていました。実際、1000年以上戦争の起きなかった時代もあったくらいです。しかし10年前、魔王を名乗る何者かがいくつかの種族をまとめ上げ大陸統一を目指し侵略を開始し
たのです。」
なんとも壮大だな。てことはあれか、魔王ってのは世界征服を企むショ◯カーのボスみたいなもんか。
女神は話を続ける。
「魔王は配下とともにたった10年で大陸の約七割をその傘下に収めました。このままでは世界が魔王の手に落ちるのは時間の問題でしょう。」
概ね現状はわかった。事態は思ったよりもやばそうだ。
でも一つ、俺には疑問が残った。
「なんで女神様は魔王軍を敵視しているんだ?」
俺たち人間や、他の種族が魔王軍を恐れるのは理解できる。だが、
「魔王が世界征服してようが女神様には関係ないんじゃないか?」
俺は尋ねる。
すると女神はゆっくりと答え出した。
「魔王軍には転生者が一人います。おそらく別の神に転生させられたものが。」
「どういうことだ? 」
「私たち神は信仰心を糧に存在しています。つまりこの世界で私が信仰される限り私は死にません。でも、もし魔王軍が世界征服をして別の神を拝むように強制し始めたらどうなると思いますか?」
「まあ、女神様は死んでしまうよな。」
「そういうことです。魔王軍に転生者がいて、世界制服を企んでいる。おそらく別の神が私の世界から信仰を巻き上げるためでしょう。そうなったら私は死ぬ。神たる私が死ねばこの世界も回らなくなる。だから魔王軍を潰さなければならないんです。」
女神は真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺にもようやくどれだけギリギリの状態か理解できた。
この世界が回らなくなるってのは滅ぶって事だろう。まだ転生して10日も経ってないがそれでもアンナやエリー、孤児院のみんなと関わっているうちに愛着の様なものは沸いていた。
それが全て消えてしまうのは嫌だ。
俺は決意する。
「女神様、俺は魔王を倒すよ。そしてこの世界を救う。」
俺は立ち上がり宣言する。
「当たり前です。なんのために呼んだと思ってるんですか。」
え? 女神様真顔なんだけど。
ここって「頑張って下さい!」とか「期待してます!」ってなるところじゃないの?
ほんと、俺の異世界ライフは思ったようにはならないな。
女神は俺の決意を確認するとすぐに帰っていった。
翌日。
俺は朝早くからギルドを訪れていた。
「受付嬢さん、昨日の精鋭パーティの話だけど。俺やっぱり入ることにします。。」
俺は受付嬢さんに考え直したのでパーティに入りたいと伝える。
「うーん、こちらとしては嬉しいんですけど……。」
受付嬢さんは苦笑いで伝える。
「実は今日の昼に首都のメルトに各支部の精鋭パーティが集められて結成式をやるんです。ですからもう間に合わないかと……。」
少し考え直すのがおそかったか。
「もし俺が昼までにメルトに行くことが出来ればパーティには入れるんですか?」
俺はたずねる。
「既にギルド本部に精鋭パーティのメンバーリストは送ってありますので候補に居たとわかれば入れてもらえる可能性は有ります。」
よかった。まだ間に合いそうだ。
「でも無理ですよ。ここからメルトまでは3日はかかりますよ?」
受付嬢さんは心配そうに教えてくれる。
「大丈夫ですよ。魔法でちょちょいっとなんとかしますから。」
俺は間に合うと確信した。
俺は首都メルトまでの地図と馬を借りてすぐさま向かうことにする。
「ユー・バフ・フィジカ!」
馬に乗る前に身体能力向上魔法をかける。
「出発! 目指すは首都メルトだ!」
爆走する馬に乗って俺は出発した。
✴︎
アラドはAランクの冒険者だ。
彼は15歳の頃から12年間戦い続けた、実績、経験共に優れた実力派の冒険者だ。
三年前には新人冒険者の弟子もでき、今では10人以上の弟子がいた。
彼は指導者としては更に優れており、既に弟子のうち2人は彼と同じAランク、1人はSランクにまでなっていた。
今日はAランクの弟子1人、Bランクの弟子3人とクエストに来ていた。遺跡の調査だ。
彼等が調べる「トラガー遺跡」は最近まで古代兵器ビルド・ジャガーに守られていたためその内部の探索は出来ていなかった。しかし最近その古代兵器がSランクの冒険者によって討伐されたため、新たに遺跡調査のクエストが発生したのだ。
彼等は遺跡を目指し歩いていた。
「アラド先生、どうして遺跡の調査くらいで5人も冒険者が必要なんですか?」
弟子の1人が尋ねる。
「まだ未知だからだ。ダンジョンならば難易度がゆっくり上がるため危険な場所で引き返すことも出来る。だが遺跡は初見殺しの罠が転がってる可能性もある。だから大勢で向かうんだ。」
アラドは理由と一緒に教える。
彼はその筋骨隆々な見た目と違い理屈っぽいところもあり、それが幸いして指導の質が上がっているのだ。
話しているうちにアラドを始めとする5人は遺跡に到着した。
「さて、マイキー、お前は遺跡の外で待機だ。俺たちが30分経っても帰って来なかったらすぐに撤退しろ。ギルドにはこの遺跡は危険だからSランクの冒険者を寄越すように言え。」
「はい、 先生!」
「ハビー、ラスク、メイ、お前たちは俺と一緒に遺跡内部の調査だ。まずは30分間だけ調査して再びマイキーの元に戻る。こまめに情報を共有して疲れた者は待機係を代わってもらい持続的に調査する。いいな。」
「「「了解です。」」」
アラドはさすがAランクの実力者なだけあって遺跡の探索にも通じていた。まだ若い弟子たちに指示を出しながらテキパキと装備を揃える。
「では、入るぞ。」
アラドと3人の弟子は遺跡に足を踏み入れた。
罠を警戒し、互いに一定の距離を取りながら慎重に進んで行く。
「ビルド・ジャガーは現れないな。どうやら討伐されたのは本当らしい。」
遺跡の中央まで来ても何も起きない。ゆっくりと進んで来たためもうすでに20分程経っていた。
弟子のメイを待機しているマイキーの元に戻し、情報の共有をさせる。
その後、今度はマイキーが戻って来て探索は再開される。
「マイキー、次は何分後に戻るって言った?」
アラドは確認する。
「1時間後に戻ると待機係には伝えました。」
「了解だ。」
では探索を進められる時間は40分程だろう。そう思い彼等は遺跡中央を調査し始めた。
遺跡は広い石畳の上に巨大な石柱が何本も乱立した不思議な構造になっていた。
まるで屋根を外した神殿のような雰囲気だ。
しばらく調べるうちに、弟子のハビーが奇妙な物を発見した。
「先生、こっちに地下に通じる隠し扉が有ります!」
ハビーの報告を受け周りにいたアラドと他の弟子もそこに集まる。
「ハビー、でかした。こいつは中々の発見だ。」
アラドはその扉をこじ開ける。
そこには階段があり下に降りると細長い通路があった。
「ハビー、お前は扉の前に残れ。ラスク、マイキー俺と一緒に来い。」
アラドは弟子2人を連れ、通路を奥に進んでゆく。
「これは、凄いな。」
しばらく歩くとそこには3メートル程の大きさの祭壇があった。
地下なので光はほとんどないが調節能力で光の感度を上げているため歩くくらいなら問題は無かった。
アラドは祭壇に近づこうとする。
しかし、祭壇まであと5メートルというところで何かに気付く。
「おい! 誰だそこにいるのは?」
何者かが祭壇の前でうずくまっている。
アラドの声に反応して何者かはゆっくりと振り向く。
「誰はこちらのセリフだよ。 なぜここに入ってこれた?」
低い、脳に絡みつくようなネットリした声だ。
「我々はギルドからの依頼でここを調査しに来た冒険者だ。 もう一度聞く。お前は誰だ。」
「ふー、まったく。またポニータはサボっていたのか。しょうがないね。私がやるしかないか。」
その男はアラドの言葉を無視して立ち上がる。背はさほど高くない、中肉中背だ。
「えーと、そこのお前たち。私は見られたらまずいことをしているんだ。だから死んで貰うよ。」
男はそう言って手の平をアラドに向ける。
「おい、ラスク、マイキー。こいつを捕まえて何やってたか調べるぞ。」
アラドと弟子2人は刀を抜き戦闘態勢に入る、がーーーー!
ドンッ!
大きな音とともにマイキーの頭は弾け飛んだ。
「マイキー! しっかりし「無駄だ死んでる逃げるぞ!」
もう1人の弟子ラスクが倒れたマイキーを介抱しようとするが、もう意味がない。
アラドは経験上マイキーは即死と判断した。そして、謎の男の見えない高威力の攻撃を危険と判断する。
ラスクを連れ全力で元来た道を走り地上に出る事を優先する。相手の攻撃の正体がわからない以上理由が無いなら逃げるべきなのだ。
「地上にはハビーがいる。あいつはAランクだ、 俺と連携すれば足止めくらいは出来るはず。地上に出たらすぐに逃げろ!」
アラドは弟子のラスクに指示を出す。
ーーーーがもう遅かった。
ドンッ!
二度目の音がなりラスクの頭も吹き飛んだ。
死んでしまった。
「くそ、絶対ゆるさねえ! くそっくそっ!」
死んだかどうかの確認もせずアラドは走る。
立ち止まれば自分も死ぬと分かっていた。
すぐさまギルドに戻りSランクの冒険者でパーティを組んで対処しなければ、そう思い走る。
彼は三度目の音が鳴る前に地上に出ることが出来た。
「ハビー、逃げろ! 中にヤバイのがいる、俺以外やられ……ハビー?」
扉の前で待機させてる数少ないAランクの弟子、ハビーにもすぐ逃げるよう伝えようとした……が。
「あっ、やっぱりまだいたー! おじさんここに入っちゃダメだよ〜。」
地上にはピンクの髪にピンクのメイド服を着た17くらいであろう少女が立っていた。
彼女の顔には血が付いている。
そして彼女の手にはハビーの首が……。
「おじさん、奥で何やってるか見ちゃったでしょ? 」
アラドは12年間の冒険者生活の中で一番の恐怖を覚えていた。
「なんなんだ、 なんなんだお前たちは……。」
少女がアラドに正体を明かすわけもなく。
「拒否しないってことは見たんだよね。じゃあ死んじゃおっか! 」
少女は狂気を含んだ満面の笑みでアラドに近づき……彼を切り裂いた。
「やっぱり死は綺麗ね。」
少女はうっとりとした目でそう呟く。
すると、地下からゆっくりと祭壇の前にいた男が上がって着た。
「ポニータ、お前また仕事をサボったな。まったく、殺すしか脳のない狂人はめんどうだよ。」
アラドの返り血で汚れた少女に向かって話しかける。
「ひっっどーい! 女の子はマキナスと違っていろいろあるんですー!」
少女は男に抗議する。
「知らないよ。儀式の最中に誰も遺跡に入れないのがお前の仕事だろうに。次誰か侵入してきたら魔王様に報告させてもらうよ。」
男の言葉に焦る少女。
「ま、魔王様に報告って絶対やめてよね! マキナスのバカ! アホ! マヌケ!」
「ふぅー、ポニータ、お前と話していると頭が痛くなるよ。私はもう儀式に戻る、死体はちゃんと片付けて痕跡を残すなよ。」
男はため息をつきながら再び地下へと戻って行った。
地上に残った少女は文句を垂れながら殺した男達の片付けを始める。
控えめに言っても可憐に位置するであろう少女が死体を片付ける様はなんとも不気味であった。
次回、精鋭パーティの結成式です。




