ドライドックの雨宿り
音嫌悪症
私は、特定の音がトリガーとなって、不快と苦痛に襲われる。
発症後、静かな環境を求めて、職を転々とした。
最終的に就いたのは単独で航行する運送業。
惑星近くに係留する大型船の間を行き来する、小型宇宙船。『トラック』が愛称の頑丈な資材運搬船が職場になった。
『お疲れ 無事でなによりだ』
作業予定はテキスト表示。
病気への配慮だろう、優しい人。
と。
最後『傘を忘れずに!』と表示。
首を傾げつつ指示に従う。
すべて貸与品の船、自律航行支援システムも無個性だ。それでもトラック乗りはナビに心の機微を感じ、『ナビは船に付く』、乗り手になつかないと言う。
私の感想は、違う。
事務的だが、時折、違った面が見え隠れ。
優しく接してくれる瞬間が、多くあった。
自慢のナビを認めて欲しいと一念発起、中型改修の申請をしたが、先日、運悪くデブリに衝突。幸い被害は小さく、偶発事故は査定に響かない。
ただ。
病気を発症、遭難しかけた。
私の資質に疑問は残る——
「後回しにされたかも」
中型移行の希望者は多い。
適格者はいくらでもいる。
4つのコンテナを運ぶCO8[B型] 。
最大の特徴は拡張性。
高出力イオンエンジン ユニット交換
45分
4×1コンテナ 前方フレーム取付け
30分
各種点検
45分
約2時間で中型トラックへ改修。
一度に倍、8個も運べる大型化。
「大型……中型化かな」
ただし、消費燃料は多い。
いずれ枯渇する燃料の、使用期間を延ばすため。
2年以上の実務経験と、航行履歴の審査がある。
「優秀なナビのお陰?」
~♪
NCイヤホンに響く、綺麗な金属音。
思わず苦笑い。
『お? 来たなぁ』
『おう お待たせ』
『相性が良いパーツを検索したら 隣の船に艤装されててな あんたになら譲るって さぁて まずは洗浄作業だ』
通信の文字変換。
早とちり。
運行調整とは。
『頭上注意だ』
「え?」
頭上を埋め尽くす光の粒子。
宇宙空間の乾ドックで、水洗浄?
「もう手遅れだよ、傘」
ズブ濡れで作業を見学する羽目に――
『計測機器とウエイト満載だ 空荷のテスト航行って気を抜くな』
整備長の言葉が表示された。
それを見て、覚悟を決めた。
「ナビ、繋いで?」
整備長の驚いた顔。
スタッフに手を止める指示。
「お心遣いに感謝します」
少し思案顔、短い言葉。
「別に。これが仕事だよ」
「ありがとうございます、行ってきます」
静かに加速し始めた。
『船体・航行に支障なし』
~♪
ナビが上機嫌で歌った。
資材運搬は、孤独な仕事と言われる。
私の感想は、違う。
「この真っ暗闇に話し相手がいたなら。最初に逢うのは、あの2人だろうな」
「音に敏感すぎる娘と、常に気を配るナビ、か。それで愛用したフレームを」
「俺たちだけじゃ、寂しいだろ」
環境の激変で、地球にテラフォーミングが必要になって、どれくらいたつのだろう。似た境遇の話し相手でもいたら、少しは早く解決するのだろうか?
「そん時ゃビショ濡れじゃなけりゃいいが」
「まったくだ。水中生活って誤解されるぞ」





