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第二十六話

 変わっていたのは、身長と胸の大きさだけじゃなかった。


「目の色まで変わってますね……」

「ん」


 フェリンさんが暫くしたら起きたので、同意の上でいろいろ調べさせてもらった。

 急成長の原因はまだわからない。目の色が変わっているのも同様だ。


 彼女の眼は、金色から、優しい桜色になっていた。


 なんというのか、同時に雰囲気も変わった気がする。

 静かに感じた鋭さというか、戦場の住民特有の、無意識の警戒がない。

 あれ、幼い頃から戦い詰めの人なんかだと、本当にデフォルトになってるんだけど、それがフェリンさんからは消えている。


「ナニガアッタンダー」

「いや絶対気付いてるでしょ?」


 いつの間にか入ってきたコドクさんが鞘に納まった刀でどついてきた。


「え? 俺の体液に含まれた魔力が、大いに影響してるんじゃないかなーとか、全然思ってませんよ?」

「気付いてるじゃない」


 まあそんなこったろうと薄々感づいてましたよ。

 というか、魔力の譲渡は予想はしてたけど、ここまで肉体に大きく影響するとは思ってなかったわ。


「特に気持ち悪いとか、そういうのもないのよね?」

「うん」

「なら問題はないと思うけど……」


 うーん、本当に大丈夫っぽい、けど、油断はしないほうがいいか。

 見た感じ魔力のめぐりに不安なところはどこにもないけど、万が一億が一があったら後悔どころじゃないからなー。


「それにしても、なんか感じ変わったわねー」

「アレンのお陰で、一人前の女になれたから……」

「……あ、そう」


 少し恥らうように、それでも嬉しそうに笑うフェリンさん。

 ごちそうさまとでも言いたそうな表情で、コドクさんはため息をついた。


 なんというか、確かに柔らかく、感情豊かな感じになった気がする。

 以前までの雰囲気が静かと評するなら、今は穏やかというか。

 更に落ち着いたように感じるが、不思議と暖かみがあるのだ。


「しかし、完全敗北ですね、コドクさん」

「どこを見て言ってるのかしら、ご主人様」

「ごめんなさい。今の発言取り消しますから、突き刺さっている日本刀を抜いてください」

「まったく……」


 やれやれといった調子で、コドクさんが刀を鞘に納める。


「とりあえず、ご主人様の魔改造の影響は、今は経過を見るしかなさそうね」

「そうですね」


 魔改造ねー。

 いや、それで間違ってはいないんだろうけど、もう少しオブラートには包めないんですかね?


「暫くは要注意ね」

「わかってますよ」

「ん」


 俺達二人は神妙に頷いた。


 ……


 コドクさんは部屋を出て行った。


「……なんか、ごめんなさい」

「なにが?」

「いえ、その……俺の魔力のせいで、身体変化させちゃったので」

「ん、大丈夫。そもそも、胸が大きくなったのは、アレンの魔力とは無関係」

「はい?」

「魔狼は子供が出来ると、その子供を産み、育てるのに特化した身体になる」

「え……」


 まさか、それって、


「子供、出来てるんですか!?」

「ん」


 マジですか、フェリンさん。


「俺、お父さんになっちゃうんですか!?」

「ん」


 おういえ!

 やっべぇ、変なテンションになってた!

 でもこれくらいはしゃいだ方がいい気がする!

 というかはしゃぎたい!


「ありがとうございますフェリンさん!」

「!」


 ぎゅっと彼女を抱きしめる。


「本当に、ありがとう、ありがとう……!」


 なんでだろう。

 昔の俺だったら子孫を残そうなんて考えなかったはずなのに。

 ああ、そうか。


 彼女との子供だから。

 フェリンさんと共に歩む証だからだ。


 そうか。

 子供っていうのは、こんなにワクワクするものなのか。


「……こちらこそ、ありがとう。アレン」


 そう言って優しく笑うフェリンさん。

 その目じりに涙が浮かんでいた。


 彼女も喜んでくれているのだ。


「元気に産むから、待ってて、旦那様」

「はい。一緒に育てていきましょう、フェリンさん」


 最愛のお嫁さん。

 そのお嫁さんとの子供。


 守りたいものが愛刀と我が家だけだった俺にも、いっぱしの、背負って立つ家族が出来たのだ。

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