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第十話

 煌々と月が輝く。


「やあ、久しぶり」


 透明な笑みの少年。


「お久しぶりです。最近の調子はどうですか?」

「やっぱり楽しいよ。見ていて飽きない」


 彼の言葉に嘘偽りはない。

 本心からそう言っているのだ。


「君も相変わらずかい?」

「ええ。満足していますよ」


 俺の言葉にも嘘はない。

 それが事実だ。


「嬉しいけど、やっぱり少し残念かな」

「俺が満足しているの、気に食いませんか?」

「そういうわけじゃないんだよ。ただ、可能性をもっと見たいって言うのが本音だね」

「俺がここに留まっているのも可能性でしょう?」

「そうだね。その通りだ」


 彼は相変わらず笑みを浮かべている。


「……彼も元気にしてますかね」

旅人トラベラーなら、相変わらずさ。やっぱり、君達の黒髪赤目ファクターを持ってる存在は、中々面白いよ」

「なんでですかね……」

「主に彼と君の要素だと思う。少なからず、君達の行動は回りに影響を与えていくからね」


 少年が、笑みの色合いを変える。


「それじゃ、また会おう、調節者アジャスター。君に良き運命が訪れるように」

「ええ。また会いましょう。お元気で、創造者クリエイター


 挨拶は程々に、俺達二人はその場を後にした。


 ……


 目が覚める。

 隣には、寝息をたてるフェリンさんが居る。


 時計が示す時間は、まだ、午前五時だった。


「可能性、か……」


 呟き、彼女の頭を撫でる。


「……こうやって彼女と過ごすのも、可能性の一つですよね」


 触り心地のいい髪の毛。

 こうやって近くに誰か居ること。


 その誰かは別の誰かだったのかもしれない。


「…………」


 今、確かに、俺は選んだ可能性の中で生きている。


「……二度寝でもしますか」


 ……


「アレン」

「はい、なんですか?」

「……アレンは、どういう女の人が好みなの?」

「そうですねぇ……」


 フェリンさんに聞かれて、少し考える。


 好み、好み……?


「あれ……?」


 好み……あったっけ?


「特にない……ですね。強いて言うなら、やりたい事を邪魔しない人、でしょうか」

「ふむふむ」


 あ、真面目にメモとってる。

 こっちも真面目に答えよう。


「……あと、家事ができる人とか」

「ふむふむ」

「それと、やっぱり優しい人ですね」

「ふむふむ」

「出来れば、静かな人のほうがいいと思います」

「ふむふむ」


 そこまでメモして、フェリンさんが顔を上げる。


「優良物件が目の前に……」

「ええ、今現在、購入しようか検討中ですよ」

「今なら無料。生活費も保証」

「でも、無料タダより怖いものもないですよ」

「むぅ……」

「ああ、そんなにむくれないでください」


 ぷい、とそっぽを向かれてしまった。


「結局、アレンは、わたしは好きになってくれない……」


 ちょっとマテ。

 なんでそんな結論になったんだ。


「なんでまた、そんな結論に……」

「だって、一緒に寝ても、一緒にお風呂入っても、アレンは、触手なのに襲ってくれないから……」


 しょんぼりした様子で、そう言うが……


(既成事実作戦、まだ諦めてなかったんですか……)


 内心ちょっと呆れている俺がいた。

 というか、あれか。

 コドクさんに毒されたのかもしれない。


 ……もしそうだったら、コドクさん、溶鉱炉のあと、冷凍庫行きかな。


「いいですか? 俺は確かに触手ですが、人は襲いません」

「わたしは人間じゃない……」

「そういう問題でもないです。俺がその気になったら、手加減できないかもしれません。触手としての本能で、傷つけてしまうかもしれません」


 そんなことない。

 そうコドクさんは言ってくれたが、俺は自分がエロ触手だということを、最低の生き物だということを忘れてはいない。


「そんなわけなので、普段から自制は完璧です。万が一、億が一にも人を襲う、なんてしませんから、決してフェリンさんに女の子としての魅力がないとか、そういうわけではありませんよ」

「そうなの……?」

「そーいう行為を行う場合は、合意の上で、人間の身体でやりますよ」

「ん……分かった」

「分かってくれましたか」

「交尾してください」

「……なるほど、ストレートに頼みますか」


 とりあえず、今回はその答えは保留になった。

 人畜無害とは言え、エロ触手に躊躇なくそういう関係を求めるとは……。

 というか、彼女の外見からすれば、こういう発言は似合わないのだが。


 ……人は見かけによらない……よく言ったものだ。

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