3‐光の部屋
螺旋階段を上り切った先は、真っ暗だった。
腰が引ける。
「進んで大丈夫なのか、これ……」
スマホのライトを闇に向ける。
ぼんやりと、白と黒の床が浮かび上がった。
1階と同じで、市松模様の床が続いているようだ。
「明かりはないのか?」
上にライトを向けると、天井の縁に照明器具が見えた。
小さなスポットライトが、点々と並んでいる。
この階は全面パネル照明ではないらしい。
手探りで部屋を探っている最中、スマホの通知音が鳴る。
『【光の部屋】』
『またチェッカーフロアに白壁。
壁にも床にも何もないが、今回は照明が違う。
天井の四辺に4個ずつ、スポットライトが取り付けられている。
計16個のライトは、すべて中央向きだ』
SOSさん、もう調べ終わったのか。
早いな。
『案内図で言うところの、右上隅から出てきた。
左下隅に階段があるはずだが、何もない』
俺もようやく、部屋の反対側にたどりついた。
こちらも階段はない。
「この状況で、違いを探せってか?」
暗いフロアを見渡し、うんざりする。
スマホの光では、奥まで照らしきれない。
こんなに視界の悪い中で、違和感を探すなんて。難しいぞ!
「照明のスイッチ、ないのかよ」
壁をなぞってみるが、それらしきものはない。
「くそっ」
苛立って壁を叩いた時、ふと、あることに気付いた。
「……SOSさん、部屋の把握に苦労してないな」
『部屋が真っ暗だ』とも言わず、最初から部屋全体を説明してきた。
ひょっとして――
『そっちは最初からライトが付いているんですか?』
送信して数秒。
ぱっと、部屋が明るくなった。
天井四辺のスポットライトが一斉に点灯し、部屋の真ん中に向かって光を投げかけている。
くまなく明るい、というわけではないが、部屋の様子は充分に分かった。
「当たりだ」
明るくなってほっとしたが、すぐ憮然とする。
次の階段は、現れていない。
「1フロアにつき1問ってワケじゃないんだな」
他に何があるんだ?
腕組みしていたら、ピロン、と通知が鳴った。
『この部屋、さっきから何か違和感がある。
でも、分からない。
なんだ……?』
あっちもまだ階段は現れていないらしい。
でもって、原因不明の違和感?
状況を詳しく教えて欲しいと頼むが、返事はない。
「違いを見つけないといけないのに……」
部屋の中央に立ってみるが、別段、何もない。
ライトの個数は一致しているし、照らす方向もすべて同じ。
静寂の中、時間だけが過ぎていく。
『物音一つしない。
ずっと一人きりで、心細い』
俺もだよ、SOSさん。
ぐしゃぐしゃと頭をかき回す。
「影だけが、俺の連れか」
俺は足元に伸びる、自分の影を見つめた。
手を振ると、遅れることなく振り返してくる。
普段、気にも留めていない存在だけど。
今は不思議と親しみが湧いた。
「――待てよ?」
強烈な違和感を覚え、俺は表情を険しくした。
顔を上げ、ぐるりと部屋を見回す。
やはりスポットライトは、すべてこちらを向いている。
伸びている影に、俺はごくりと唾を呑んだ。
「SOSさんの違和感も、これか……?」
すぐさまメッセージを打つ。
『影の位置、おかしいですね』
この状況なら、全方向からの光に打ち消され、影はできないはずだ。
できるにしても、足元に薄く落ちるだけ。
なのに――今、影は俺の前にくっきりと伸びている。
ぞっと、肌が粟立った。
俺のものであるはずの影が、俺のものではない気がした。
ぐにゃりと、空間のゆがむ感覚。
『上がる階段が現れた。
奇怪な場所だ』
「……まったくだぜ」
SOSさんのメッセージにうなずいて、部屋の隅を一瞥する。
こちらも階段が現れていた。
「今度は何が起こるんだか」
歩き出す前に、もう一度足元を確認する。
今はもう、影はちゃんと俺の足元に納まっていた。




