91. 特殊職の獲得(前)
ユーリ達と共に天擁神殿の建物内へと入る。
この施設内には『GM』と呼ばれる『プレアリス・オンライン』のゲームを運営するスタッフが1名以上常駐しており、また施設運営を補助する神官系のNPCも10名ほど常駐している。
つまり―――逆に言えば、この施設内で『神官』っぽくない格好をしている人がいるようなら、それは全員が『プレイヤー』だと考えて良いわけだけれど。
神殿内にはシズ達を除けば、そのような人の姿はほんの3~4名程度しか居ないように見受けられた。
……どうやら本当にこの『ファトランド王国』は、プレイヤーからの人気が全く無い国家であるらしい。
神殿の奥側にある、神像が安置された礼拝所のほうまで行っても、やはりプレイヤーの姿は殆ど見ることが出来なかった。
特殊職が取得可能になったその当日だというのに、その手続きを行うための場所さえ閑散としているのは、致命的では無いだろうか……。
『こう言っては何ですが……。ここまでプレイヤーが少ないようだと、この国では普通に『魔軍侵攻』イベントに負け続けるのでは無いでしょうか……』
流石に神官系のNPCに聞かれると心証が悪いだろうと判断したのか、シズ達にだけ聞こえるパーティチャットで、ユーリがそう嘆くように零した。
『魔軍侵攻』イベントはおそらく、全てのプレイヤーに対して『あなた達の活躍があれば国を護ることができる』という、ゲームのプレイ目標を付与するものだ。
その達成には当然、この世界のNPC―――『星白』の人達の努力以上に、シズ達のような『天擁』の努力が大きく関わってくることだろう。
だけど―――そもそも、この国は『天擁』の母数自体が少ないわけで。
これで果たして魔物の大軍の侵攻から、国内の集落を護れるものだろうか……。
『……あんまり酷いようなら、拠点にする国を変えるのも検討しよう?』
『そうですね。考慮はしておきましょう』
『それが賢明だと思います』
シズの言葉に、プラムとイズミがすぐに同意する。
別にシズ達はこの国に縛られているわけではない。『転移門』を利用すれば他国へ瞬時に移動することができるし、いつでも拠点先を変えることは可能だ。
この国に『自宅』や『店舗』、あるいは『畑』あたりを既に所有しているようなら、それが枷になったかもしれないけれど―――。
少なくとも現時点では、シズ達はそのいずれも所有しては居ないのだ。
……ただ、拠点の変更に未練があるとするなら。
それは、この国で折角知り合えた、知己の人達と離れてしまうことだろう。
錬金術師ギルドや掃討者ギルドの職員の人達、高級宿『憩いの月湯亭』の女主人ミレイユ、王城の中で『魔術卿』と呼ばれていたおじさま、ミーロ村は『クラミ商店』の店主などなど―――。
気付けばこの国ならではの人達とも、それなりに縁が出来ているわけで。
そういう人達と完全に別れてしまうのは、結構寂しいことだとシズには思えた。
『でも、とりあえずは検討に留めるだけにして。少なくとも今回の『魔軍侵攻』のイベントぐらいは、この国に滞在したまま頑張ってみようよ』
『はい、そうですね。頑張りましょう』
シズの提案に、ユーリが力強く頷いてくれた。
彼女だって別に、この国を気に入っていないわけではないのだ。
それに森の中で様々は優位が得られる、森林種であるユーリからすれば、国土の大半が森であるここファトランド王国はとても都合が良い場所でもある。
「ところで、お姉さま。『特殊職』って一体どのようなものがあるのか、ご存じでいらっしゃいますか?」
「うん。午前中に視聴者の人から教えて貰ったから、幾つか知ってるよ」
プラムからの問いかけに答えて、シズは視聴者から聞いた話を3人にもそのまま説明していく。
シズが視聴者から教えて貰った特殊職は、現在のところ3つある。
1つは〔スキルワンダラー〕という特殊職で、これは『☆』や『○』のマークが付いていない『一般スキル』を沢山修得した人がなる特殊職であるらしい。
この特殊職になると、あらゆるスキルの修得やランクアップに必要なスキルポイントの量が『70』点で固定されるらしい。
本来なら専門スキルや得意スキルの修得やランクアップには『100』のスキルポイントが必要なので、ここだけ見てもコストが3割も安くなることになる。
また本来なら『200』のスキルポイントが必要な一般スキルも『70』で修得やランクアップが可能となるので、こちらのお得度はその比ではない。
これが非常に大きな効果であることは言うまでもないだろう。
この『プレアリス・オンライン』では、スキルの効果がどれもこれも強力なものばかりだからだ。それを他人より沢山修得したりランクアップできるというのは、間違いなく大きな強みになる。
それに、この特殊職はどんな『戦闘職』や『生産職』を選択しているプレイヤーにも噛み合うものだ。自分の強みをそのまま伸ばすことができるし、自身の職とは関係無いスキルも遠慮無く伸ばして短所も補うことができる。
「良さそうな特殊職ですね。人間種の能力とも噛み合いそうです」
「……? 人間種って、何か特殊能力があるの?」
イズミの言葉を聞いて、シズは思わずそう問いかける。
『人間種』とは、文字通りこの世界における『普通の人間』の種族を指す。
イズミの種族が『人間種』であることは知っていたけれど。それが何らかの特殊能力を持つ種族だとは、シズも今の今まで全く知らなかった。
「人間種は特徴に乏しい種族ですが、その代わりスキルの修得が得意で、スキルポイントの獲得量が他種族に較べて3~4割ほど多いんです。
だから人間種が〔スキルワンダラー〕の特殊職を手にした場合は、他種族以上にスキルを大量に修得したり伸ばしたりできると思います」
「おおー、そうなんだ。それは確かに凄そう」
他にも―――〈隠密〉系のスキルを駆使して、頻繁に不意打ちで魔物を倒しているプレイヤーには〔サイレントアサシン〕という特殊職が与えられたり、『天擁』と『星白』の両方に沢山のフレンドを持つプレイヤーに〔天星者〕という特殊職が与えられたことなどを、シズが話していくと。
「とても面白いですね。何の特殊職が貰えるのか、今から楽しみです」
ユーリはそう言って、判りやすく期待に溢れた表情を浮かべてみせた。
「じゃあ、最初はユーリからやってみる?」
「よろしいですか? では、お言葉に甘えまして」
他にプレイヤーが誰も居ないので、ユーリは誰に憚ることなく神像の目の前まで移動すると。その場で両膝を折り、神像に祈りを捧げてみせた。
すると、祈りを捧げたユーリの身体が七色の鮮やかな光に包まれて―――。
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★ユーリが〔自然の守護者〕の特殊職を獲得しました!
ユーリが《自然の叡智》の異能を獲得しました!
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10秒ほど経って光が収まると、視界の隅に表示させているログウィンドウに、そんな文章が表示された。
すぐにシズは意志操作により、ユーリが手にした『特殊職』と『異能』の詳細を視界内に表示させる。
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〔自然の守護者〕 - 特殊職
『森』を絶対的に得意とする森林種に贈られる特殊職。
そうでない場所さえ、自身が得意な場所へと作り替えてしまう。
【選定条件】
・種族が『森林種』である
・魔物討伐の9割以上を森の中、またはその近郊で行っている
・探知または感知スキルを少なくとも1つ以上マスターしている
△能力成長修正
[魅力]+6、[加護]+4
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《自然の叡智》
自然の多い環境下では、以下の2つの効果が得られる。
・精霊魔法の効果が増加する。(最大+100%)
・感知や探知スキルの有効範囲が増加する。(最大+100%)
探索した場所の自然を増やして、有利な場所へと変える。
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どうやらユーリが手にした特殊職は、今まで以上に『森』というフィールドでの探索や戦闘などを、有利にするものらしい。
ユーリは今までも森を得意とする『森林種』の強みを、常に生かしてきた。
なるほど―――この特殊職は、彼女が手にするのに相応しいものだろう。
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