21. 森での狩り
「……来る!」
2体の水蛇は、シズ達を視認すると同時にこちらへ這い寄ってくる。
どうやら水蛇はピティと違って、好戦的な魔物らしい。蠕動による移動とは思えないほど、水蛇は素速い動きでシズ達の側へと迫ってきた。
「左側の蛇は止めます! ―――【足縛り】!」
その水蛇に対し、ユーリが精霊魔法で機先を制する。
魔法を行使した途端、森の地面から10本以上の植物の蔓が一気に生えてきて、併走する水蛇の一方を完全に絡め取った。
「ユーリちゃん、ナイス!」
重さを感じずに扱えるとは言え、両手用の両刃斧はお世辞にも取り回しの良い武器ではない。
2体の魔物を同時に相手にするのは難しいだろうから、片方だけでも足を止めて貰えるのはとても助かる。
蔓に拘束されなかった側の水蛇が、シズのすぐ目の前にまで接近する。
相手が鎌首をもたげ攻撃態勢になったのを見て―――水蛇の頭部のやや下の辺りを狙い、シズは即座に両刃斧を横薙ぎに振るった。
「―――やあっ!」
異能のお陰でシズは重さを感じないけれど、実際にはそうではない。
かなりの重量がある両刃斧で、勢いよく斬りつけられた水蛇が無事で済むはずもなく。切断こそされなかったものの、水蛇の身体は大きく左側に弾き飛ばされた。
ピティとは違い、流石に一撃で倒すとはいかなかった。
頭上に表示されているHPバーが一気に8割近く削れたけれど、それでも水蛇はまだ生きている。
すぐに体勢を立て直した水蛇が、今度は鎌首をもたげることなく地面を高速で這い寄ってきて、そのままシズの脛に咬みついた。
「………っ!」
「シズお姉さま‼」
「大丈夫!」
思わず傷みに声を上げそうになった―――が、もちろん傷みはない。
そもそも、シズのHPはたったの『1』しか減っていなかった。
シズが着用している金属鎧は、脛の部分までは保護していないのだけれど……。どうやら防具がない部分を攻撃されても『物理防御値』は有効らしい。
シズの片足に咬みついているせい無防備な水蛇に、再び両刃斧を叩き付ける。
するとHPバーがゼロになった水蛇は、身体が白く光って消滅した。
「そろそろ拘束が解けます」
「了解!」
植物の蔓が消滅し、拘束されていた水蛇に自由が戻る。
どうやら先程ユーリが行使した【足縛り】の魔法は、持続時間が短めらしい。
水蛇はやはりシズのすぐ手前で、一度鎌首をもたげる動作をする。
―――が、今度はその瞬間にユーリが放った矢が、水蛇の頭部に突き刺さった。
大きく怯んで隙を晒した水蛇に、シズが連携の斧頭を叩き込む。
矢と斧の合わせ技でHPゲージを一気に全損させられた水蛇は、あえなく白い光となって消滅した。
《お見事!》
《やっるう!》
「あはは、ありがとー。これはユーリちゃんのお陰だね」
「とんでもありません、シズお姉さまのお力あってこそです」
ふるふると首を左右に振り、さも当然のようにユーリがそう告げる。
どう考えても、片方の水蛇を足止めしてくれたユーリの功績が大きいと思うのだけれど。こう言い始めたユーリは頑ななので、譲ってくれなさそうだ。
「じゃあ、二人とも頑張ったってことで。それにしてもユーリちゃんの魔法は頼りになるねえ。2体同時に来られるとつらそうだから、助かったよ」
「私の種族である『森林種』は、森の中でだけ植物に関する魔法が強化されるんです。本来はそれほど、拘束の成功率が高い魔法では無いんですよ」
「へえ、そうなんだ」
逆に言えば、森の中であれば安定して高い成功率を発揮できるわけだ。
ここファトランド王国は、国土の大半が森に占められている。なので、この国を初期位置に選択したことは、ユーリにとってメリットが多いようだ。
また開発に携わっているラギは、このファトランド王国を「世界で最もヒールベリーや薬草が豊富に採れる国だ」とお勧めしていたから。
〔薬師〕であるユーリはもちろん〔錬金術師〕のシズにとっても、この国を活動拠点にするのは都合が良さそうだ。
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▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:24/スキルポイント:1
獲得アイテム:水蛇の肉、水蛇の牙
《特性吸収》により錬金特性〔生命回復Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:24/スキルポイント:1
獲得アイテム:水蛇の皮
《特性吸収》により錬金特性〔生命回復Ⅰ〕を吸収しました。
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ログウィンドウを確認してみると、経験値はピティの4倍ぐらい貰えていた。
そして目論見通り〔生命回復Ⅰ〕の錬金特性が2つ手に入っているのが嬉しい。
〔生命回復Ⅰ〕は霊薬を作る際に注入することで、霊薬に『HP回復』の効果を与えることができる錬金特性だ。
ヒールベリーから『ベリーポーション』の霊薬を作る場合は、もともと霊薬自体に『HP回復』の効果があるわけだけれど。その際に〔生命回復Ⅰ〕の錬金特性を注入すると、更に『HP回復』の効果を上乗せすることができる。
『ベリーポーション』は駆け出しの〔錬金術師〕が作成する、最も初歩的な霊薬の1つなわけだけれど。錬金特性で回復量を更に積み増せば、初歩の霊薬とは思えない回復量を出すことも可能になる。
ラギがオススメしていたぐらいなので、その実用性は折り紙付きだ。
討伐するだけで〔生命回復Ⅰ〕の錬金特性を得られる水蛇は、シズにとって垂涎の魔物と言えるだろう。
レベルが低い間は、森の中に棲息する水蛇を根絶やしにするつもりで、毎日のように狩猟しようと思っている。
―――それから暫くの間、シズ達は河川沿いを西に進み続けた。
この辺りには水蛇以外にも、ファンタジーでは定番の『ゴブリン』や、ニワトリに似た『グーグー』という空を飛ばない鳥の魔物も出現した。
どちらもシズ達を見つけると即座に襲い掛かってくる好戦的な魔物だったので、遭遇した相手は全て討伐しながら進む。
ゴブリンはレベルが『2』、グーグーはレベルが『1』の魔物なので、1体ずつ襲いかかってくるぶんには特に苦戦もしなかった。
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▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:24/スキルポイント:1
獲得アイテム:銅鉱石
《特性吸収》により錬金特性〔筋力増強Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:6/スキルポイント:0
獲得アイテム:グーグーの鶏肉、グーグーの卵×3
《特性吸収》により錬金特性〔移動速度向上Ⅰ〕を吸収しました。
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これは前者がゴブリンを、後者がグーグーを討伐した後のログになる。
ゴブリンは討伐すると『銅鉱石』や『鉄鉱石』のような、鉱石系の素材が得られるようだ。
シズ達にとっては、あまり必要な素材ではないけれど。集めておけば『鍛冶』系の生産職のプレイヤーが、それなりの値段で買い取ってくれそうだ。
一方でニワトリを一回り大きくした見た目のグーグーは、倒すことで『鶏肉』や『鶏皮』、『卵』などの素材が得られた。
ユーリの話によると食材系の素材は需要が高いぶん換金がしやすいので、これも悪くないドロップアイテムらしい。
「そういえば、魔物って『お金』は落とさないんだね?」
「はい、そうですね。MMOーRPGはわりと、魔物から直接お金が手に入らない作品が多いんです」
「じゃあ要らないアイテムは積極的に処分して、お金に換えるほうが良いのかな」
「その方針で良いと思います。特にグーグーが落とす食材アイテムなどは品質が自然劣化しやすいですから、早めに売るようにするのが賢明ですね」
「なるほどねえ……」
流石はオンラインRPGをよく遊んでいるだけあり、ユーリは造詣が深い。
ユーリからのアドバイスは、ちゃんと覚えておくほうがよさそうだ。
「お金を直接落としてくれた方が、色々と楽なのになあ」
《天使ちゃんが追い剥ぎを所望しておられるぞ!》
《ゴブリン! 金を出せ!》
《おう、ちょっとジャンプしてみろよ!》
《そこで逆立ちしてみろよ!》
「人聞きが悪いな⁉」
妖精のコメントに狼狽しながら答えるシズを見て、ユーリがくすくすと笑う。
ちょっと口が悪いところもあるけれど、視聴者の人達はとてもノリが良いので、こうして『配信』を行っていると自然に楽しい時間が過ごせてしまう。
ラギから依頼されでもしなければ、きっとゲームの配信なんてものは、シズには一生縁が無かっただろうけれど―――。
やってみてよかった、と。初日の今日から、シズはそう思えていた。
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