162. クラン仲間との物々交換
今週も2日続けて投稿をお休みさせて頂きました。
いつもお読み下さっている皆様には、ご迷惑をおかけ致します。
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錬金術師用の『工房』がある建物を出たシズが、東キャンプ地の最初に転移してきた辺りまで戻ると。
そこには赤い色の屋根を持つ、なかなか目立った小屋が出来上がっていた。
いや―――小屋というほど小さくはない。
30平米前後の広さはありそうなので、やや小さめながらもちゃんと『家屋』として見えるだけの、大きさがある建物だ。
「こちらの家は、ご主人さまのお店として自由にお使い下さい」
「……本当に良いの?」
「はい。やってみると建築ってなかなか楽しいので、これよりももっと大きな家を今から建ててみたいんです!」
ふんす、と気合を入れながら、シズの問いにそう回答するコノエ。
何もなかった平地に、1時間も経たない内にこんなちゃんとした『家』を建てるだけでも、シズからすれば凄まじいことに思えるのだけれど。
―――それでも、コノエはこの家の出来に満足していないらしい。
元々この家は、シズ達6人が一緒に居住するために、コノエが建ててくれたわけだけれど。
建て終わった後にコノエは『やっぱりもっと大きな家を作りたい』と思ったらしく、この家は破壊して木材だけ再利用しようと思っていたようだ。
パーティチャットでそのことを聞いたシズが、慌てて「破壊するぐらいならお店として有効活用させてくれない?」と願い出たことで、こうして譲ってもらったというのが経緯になる。
「これでも充分に立派な建物だと思うけれどねえ……」
「いえ! 短期間だけとはいえ、ご主人さまにも住んで頂く家なのですから!」
よくは判らないが、何かコノエには譲れないものがあるらしい。
まあ……小さめとはいえ、ちゃんとした家を1時間も掛からず建てられるコノエの技量をもってすれば。もっと大きな家を今日中に建ててしまうというのも、実際に可能なことなのだろう。
「木材は足りてる? 必要なら【伐採】を手伝うけれど」
「いえ、大丈夫です。まだあと樹木8本分ぐらいの木材が丸々残っていますから、もし足りないとしても自分で少し【伐採】すれば充分だと思います」
「ん、了解。でも私の手が必要な時はいつでも言ってね?」
「はい、ありがとうございます!」
せめてものお礼に、何かコノエの力になってあげたいのだけれど……。
要らないと言われた親切を、押し売りするような真似はそれ以上にしたくない。
だからシズは、あくまでも手伝いを惜しまない姿勢を明言するだけに留めた。
「それじゃ、有難くこの家は私が『お店』として使わせて貰うね?」
「はい! あ、鍵はこちらになりますので、どうぞ」
コノエが差し出してきた鍵を、シズは受け取る。
鉄製の鍵だ。コノエの話によると鍵や錠前、それから家屋や家具に使われている鉄製の器具は全て、イズミが作ってくれたらしい。
「それなら、あとでイズミにもお礼を言わないとだね」
「はい、是非そうしてあげてください! あ、では私はそろそろ、次の家の建設に取り掛かっちゃいますね」
「頑張ってね。ちなみに、どこに建てるつもりなの?」
「もちろん、ご主人さまの『お店』のすぐ隣に!」
すぐ隣の土地を指し示しながら、コノエが笑顔でそう答える。
キャンプ地には充分な広さがあるし、この土地は誰のものでもない。
だから、まだ誰にも占有利用されていない状態なら、好きにすることができるわけだ。
「おお……」
新しい家の建築に着手し始めているコノエを邪魔しないように、鍵を開けて早速『お店』として貰い受けた建物の中へと入ったシズは。
内装までバッチリ整えられている内部の様子を目の当たりにして、軽く感動を覚えてしまう。
床面は頑丈で平坦な木材で仕上げられており、壁にもまた綺麗な用紙が貼られて彩られている。更には、天井から明るい照明器具まで吊り下げられていた。
―――この建物にはガラス窓が無い。
これは都市とは違い、ガラスの入手が簡単ではないからだ。
だから室内への採光には、少し難があるのだけれど―――天井の照明が空間内を明るく照らしてくれているお陰で、陰鬱な空気というものは全く無かった。
また、家屋には木製の小窓が何箇所も設けられているようだから。それを利用して適切に換気を行えば、室内の空気が悪くなるということも無さそうだ。
「テーブルや棚まで、作ってくれたんだ……」
室内には商品を陳列するための棚やテーブル、それから販売用のカウンターのようなものまで、色々と既に用意されていた。
これらは、建物をシズに『お店』として譲り渡すことが決まった後に、コノエが〔木工職人〕としての腕を振るって用意してくれたものだろう。
何から何まで有難いなあと、シズは改めて心の中でコノエに感謝する。
とはいえ、残念ながら現状だとまだ、それを利用することはないだろう。
シズの『インベントリ』に収納されているのは、『ベリーポーション』1つしか無いのだから。棚が必要になるのは、もっと商品の種類が色々と増えたあとだ。
《そろそろ営業開始くるー?》
「うん、開始するよー。といっても『売る』わけじゃないけれどね」
視聴者からのコメントにそう回答してから、シズはこれから『クランチャット』に発信する、メッセージの内容を頭の中で整理する。
『クランチャット』は文字通り、クランに所属しているメンバー同士で会話するための機能だ。
〚えっと―――〔錬金術師〕のシズです。
ベリーポーションを大量に調合したので、今日だけは夜の20時まで、クランに所属しているみんなに物々交換で提供します。ヒールベリーを持ってきてくれたら2個につき霊薬1本を、ブルーグミなら1個につき霊薬を2本お譲りします。
交換する個数に上限は無いですが、品切れの場合はご容赦下さい。東キャンプ地に建っている、赤い屋根のお店でお待ちしてます〛
このメッセージを『クランチャット』に流すと。
果たして―――10分も経たない内に、すぐに客が集まってくるようになった。
ヒールベリーは感知スキルが無くても発見しやすく、また〈植物採取〉のスキル無しでも摘み取りやすい素材だから、元々採取していた人が多かったのだろう。
また倒すことでブルーグミをドロップするブルースライムに関しても、スライム系の魔物に有効な鎚矛が最初に配布されていたこともあって、結構狩っていた人が多かったみたいで。
クランを共にする沢山の仲間たちが、ヒールベリーやブルーグミを手に、ベリーポーションとの交換に店を訪れてくれた。
もちろん店員としてお客さんの相手をする傍らでは、物々交換で得た素材を利用して、すぐに霊薬へと加工していく。
ブルーグミがあれば、MPを回復する『マカポーション』が作れる。
とりあえず集まったブルーグミから500本を超える量のマカポーションを調合した時点で、シズは更に『クランチャット』を利用して仲間に呼びかけた。
〚何度もごめんなさい、〔錬金術師〕のシズです。
MP回復霊薬のマカポーションを作りましたので、こちらも今日の夜20時まで限定で物々交換で提供します。こちらは材料のブルーグミを3個持ってきてくれる毎に、霊薬を1本お渡しできます。
それと、同じクランに所属する〔錬金術師〕の方にはヒールベリーやブルーグミを無償で提供します。必要な方は今日のお店が開いている内にお越し下さい〛
こちらのメッセージも『クランチャット』に流すと同時に、客足が一気に増えることになった。
MPを回復するマカポーションは、魔法や魔術をメインとする戦闘職を持つ人達にとって、必要不可欠なものだ。
それがスライムが落とす素材との交換で手に入るなら、喜んで集めるという人達は、シズが想像していた以上に多いようだった。
―――とはいえ、客足が多くても商品が途絶えることはない。
シズはベリーポーションなら50秒毎に『180本』を生産できるし、マカポーションの方でも約2分30秒毎に『120本』を生産できるからだ。
そして調合素材の方は、他ならぬお客さん自身が持ち込んでくれるため、不足するようなことには絶対にならない。
むしろ素材は、消費するよりも圧倒的に早いペースで増えていく。
だから、来店してきた同業者の〔錬金術師〕の仲間に、何度か結構な量の素材を融通しても、シズとしては全く困ることは無かった。
〚皆様にとって沢山のブルーグミが必要なのは判りますが、ブルースライムの狩場を私達のクランだけで占有してしまわないようにお願いしますね。
クラン外から苦情が来た場合、心を傷められるのはマスターであるシズお姉さまです。『天使ちゃん親衛隊』の皆様なら、当然そのようなことはなさらないとは、もちろん私も信じておりますが〛
〚イエス、マム! 狩場の占有なんて絶対にしません!〛
〚もちろんであります! 全ては天使ちゃんのために!〛
〚全ては天使ちゃんのために!〛
〚全ては天使ちゃんのために!〛
シズがお客さんの相手をする裏側では、ユーリが『クランチャット』上で仲間の皆に向けて、そのように注意を促していた。
ネットゲームのプレイ経験がまだまだ浅いシズには、狩場の占有なんてことまで全く気が回っていなかったから。そういう点に関してユーリが率先して皆に注意を喚起してくれるのは、とても有難かった。
……うん、有難くはあるんだけれど。
なんだかクランに所属する皆の反応が、カルト宗教じみているような気がすることだけは。……ちょっとシズとしても、気になるところではあった。
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お読み下さりありがとうございました。




