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【コミカライズ配信中】プレアリス・オンライン ~天使ちゃんは毎日配信中です!~  作者: 旅籠文楽
3章 -

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136. オルヴ・フォーラッド

 


     *



 昼食を食べた後、雫は再び『プレアリス・オンライン』を起動して、ゲーム内の世界へとログインした。

 友梨が言っていた来訪予定の『2人』の女性が、本来は14時頃に到着する予定だったのだけれど。渋滞の影響で1時間ほど遅れそうだと連絡が来たからだ。


「………」


 ログインした後にとりあえず『錬金術師ギルド』まで移動して、借りた『工房』の個室に入ってから以降というもの。

 シズはただ、ぼうっとしながら虚空を見つめていた。


 友梨たち3人で充分に満たされている現状があるのに、ここから更に『恋人』を2人も増やさなければならない―――。

 そのことに、どこか現実感が湧かないからだ。


 もちろん、別に『嫌』というわけではない。

 シズは相手が女性でさえあるなら、割と誰のことでも好きになれてしまう性分だから。仲良くしても良い相手が2人も増えるなら、それ自体はシズにとって歓迎すべきことでしか無いわけだけれど。

 とはいえ、諸手を挙げて喜ぶというのも、それはそれで違う気がするし……。


(うー……)


 何となく、心のなかにもやもやしたものを感じながら。

 シズは黙々と霊薬を調合していき、同時に地金(インゴット)の錬金も行う。


 考え事をしながらでも、作業に何の支障も来さずにいられるのは。シズの特技のひとつであるマルチタスクの為せる技だ。

 もっとも、今はなるべく作業側に意識を割きたくは無いから。霊薬への錬金特性の注入は、サボっていたりするのだけれど。


 ちなみに現在は『配信』のほうも、行わずサボっている。

 思い悩んでいることを隠して表情を繕ったり、視聴者の人達と会話を交わしたりすることは、やろうと思えばできると思うけれど。

 何となく―――そんな気分になれなかったのだ。


(……これは、駄目かな。気晴らしに出かけたほうがまだマシかも)


 地金(インゴット)が3個出来上がった時点で、シズはそう判断して。

 1階で『工房』の利用終了手続きを行い、森都アクラスの市街へと出た。


 考え事をしながら、特に目的もなく大通りをぶらついていると。

 後ろ側から走ってきた立派な馬車が、シズの少し前方でゆっくりと停車する。


 誰かこの国の偉い人でも乗っているのかなと、そう思いながら視線を向けると。

 意外なことに―――その馬車の中から降りてきたのは、シズにも面識がある男性だった。


「―――やあ、『天使の錬金術師』のお嬢さん。ご機嫌はいかがかな?」

「あ、ダンディなおじさま」


 あまつさえ、こちらにそう話しかけてくるではないか。

 無意識にシズがそう答えると、おじさまはたちまち破顔してみせた。


「ダンディ? それは、私のことかね?」

「……! す、すみません」


 男性からそう訊ねられて、思わずシズはかあっと顔が熱くなる。

 以前、王城を訪問した際に出会った、目の前の男性。文官の人から『魔術卿』と呼ばれていたこの男性のことを、心のなかでいつも『ダンディなおじさま』と呼んでいたものだから。

 思わず―――無意識の内にその呼称が、口を衝いて出てしまったのだ。


「謝ることは何もないが。ふむ、そうか……私はダンディかね?」

「あ、はい。今まで見たことのある人の中では、断トツで」

「ほほう」


 穏やかさと厳しさの両方が包含された、いかにも思慮深そうな顔立ち。

 50前後ぐらいは歳を召しているように見えるのに、精悍な雰囲気があって。

 そして何よりも、充分に蓄えられた口ひげと顎ひげがとても立派なものだから。

 総合すると―――眼の前の男性のことを『ダンディ』と言い表すのは、何よりもしっくりと来る表現なのだ。


「ふふ、褒め言葉として受け取っておこう」

「……普通に褒め言葉ですよ?」

「そうかね。この歳で若い天使のお嬢さんに褒められるのは……何というか、少しこそばゆい気がするな」


 そう告げると、ダンディなおじさまは、いかにも愉快そうな表情で。くつくつと声を押し殺すようにしながら笑ってみせた。


「ところで―――天使のお嬢さんはいま、時間に余裕はあるかね?」

「私ですか? 1時間後ぐらいに予定がありますが、それまでは暇です」


 14時の予定から、渋滞で到着が1時間ほど遅れそうという話だから。15時の少し前頃にはログアウトしておいたほうが良いだろう。

 現在時刻は13時41分なので、まだ1時間以上は余裕がある。


「では、良ければ少しばかり、おじさま(・・・・)に付き合って貰えないかね?」


 ニヤリと楽しげに笑いながら、おじさまがそう告げる。

 自分でも言っちゃうあたり、割とこの呼ばれ方が気に入ったんだろうか。


「いいですけど……。どこへ行くんですか?」

「近くに良い店があるので、甘味でも一緒にどうだろうか」

「おおー、ご馳走してくださるんですか?」

「もちろんだとも。可愛らしい女の子に金を払わせるようでは、立派でダンディなおじさまにはなれないだろうからね」


 そう告げて、おじさまはパチリとウィンクしてみせた。

 そこらの男性がするものとは違い、その所作にはしっかりとした魅力が伴う。

 とはいえ―――シズの心がときめくことは、あり得ないわけだが。


「ありがとうございます、ご相伴に預かります」

「……おや。私の口説きのテクニックも錆びついてしまったかな?」

「大抵の方には有効だと思いますが。私は同性の相手にしか興味が無いので」

「ほほう。では同じ『女好き』として、良き友にはなれそうだな」

「女好き……」


 あまり、そういう点で考えたことはなかったけれど。

 確かに『女性』という同一の対象を好きになる嗜好を持つ、という点では。世の多くの男性とシズは、共通していると言えるのかもしれなかった。


 おじさまが馬車に同乗するよう促してきたので、入らせてもらう。

 馬車に乗るなんて―――もちろん人生で初めての経験だ。

 しかも普通の馬車ではなく、いかにも『貴族』の人が乗りそうな豪奢なもの。

 こういうのを『儀装馬車』って言うんだろうか?


 車内に入り、おじさまの対面側の椅子にシズが腰を下ろすと。おじさまが馬車の前方にある小窓から御者の人にサインを出し、ゆっくりと馬車が動き始める。

 意外にも揺れは殆ど感じられず、乗り心地は悪くなかった。

 高級な馬車だから、乗り心地を良くするための工夫がされているのだろうか。あるいは単純に、都市内の街路が充分に整備されているからかもしれない。


「馬車から眺めると……都市内の景色がまた、いつもと違って見えますね」

「そうかね? 私はいつも馬車移動だから、もう見飽きてしまったよ」


 おじさまはそう告げて、露骨に肩をすくめてみせた。

 貴族の人ともなれば、都市内を徒歩で移動することなんて殆ど無いだろうから。見飽きるのも無理はないかもしれない。


「ところで―――以前に王城の敷地内で会った時には、名も明かさず随分と失礼をしてしまったからね。この場で改めて挨拶をさせて貰えるだろうか。

 私の名前はオルヴ・フォーラッド。フォーラッド家門の当主を務めている。王家に忠誠を誓う貴族の家柄で、家格は一応『侯爵』になる」

「こ……侯爵、ですか?」


 おじさまの言葉に、思わずシズは瞠目した。

 この世界での貴族制度が、歴史の授業で学んだ現実世界のものと同じかどうかは判らないけれど。もしも同一のものなら―――侯爵は『五爵』の中でも第2位と、尋常でなく高い地位にある相手になる。


(―――こ、こんな、普通に話して良い相手なんだろうか)


 思わずシズがそう混乱してしまうと。

 その気持を見透かしたように、おじさまは愉快そうに笑ってみせた。


「ふふ。世界には数多の国家があり、その中でもこのファトランド王国は、国威の低い側から数えたほうがずっと早い位階にある。

 小国も小国なのだから、所詮は『侯爵』などと言っても高が知れている。だから別に、今更になって変に意識する必要など皆無だよ」

「そ、そうなんでしょうか……?」

「そうだとも。それより是非、天使のお嬢さんのお名前を聞かせて貰えるかな?

 ―――まあ、既に知ってはいるのだけれどね」


 そう告げて、おじさまはくつくつと笑ってみせる。

 それはそうだろう。何しろおじさまは―――以前に王城で初めて会った時点で、既にシズの名前を把握していたのだから。


「そうですね。ご存知でしょうけれど、シズと言います。〔錬金術師〕です」

「うむ。お嬢さんが非常に腕の良い〔錬金術師〕であることは、シアーズ男爵から常々よく聞かされているよ」

「……シアーズ男爵?」

「お嬢さんにはマレッドと呼ぶ方が、判りやすいかもしれないな」

「ああ―――」


 マレッドは『錬金術師ギルド』のギルドマスターを努めている女性だ。

 あの人も貴族だったのか、と。シズは内心で結構驚かされていた。




 

-

お読み下さりありがとうございました。

昨日の後書きについて、友人から「そこは百合カップリングじゃないのかよ!」と思い切りツッコまれましたが、私が百合沼に落ちたのは知世さまと出会ってからなので、FE聖戦より後なんですよ…。

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