112. angel for lovers, lovers for angel.
「―――あら、いらっしゃい。『工房』の使用かしら?」
「はい、お願いします」
『錬金術師ギルド』1階販売店のカウンターに立っていたギルド職員のナディアにお願いして、今日も工房を1部屋借り受ける。
3階の工房へ移動し、個室内の椅子に腰掛けながら『配信』を開始した。
《配信キマシタワー!》
《配信きちゃ! そしてもう『工房』にいる!》
《お疲れさまです! 今日も出勤早いですね!》
《工房に居ないと禁断症状が出る身体になってしまってな》
《気付けば無意識に工房へと通っている、まさに社畜の鑑よ》
「なぜ私は社会人経験ゼロなのに、いつも社畜扱いされるの……」
配信妖精が読み上げるコメントを聞きながら、思わずシズは苦笑する。
1年の時点で、これほど他者から「社畜」と呼ばれた経験のある女子高生など、おそらくそうはいないだろう。
《今日は何を調合するの?》
「調合は……とりあえず何でも良いので適当にやりながら、ちょっと先にスキルを取ろうと思う。スキルポイントが貯まり過ぎちゃってるからね」
《最近全然スキル伸ばしてなかったもんねえ》
《その割に、レベルだけはめっちゃ上げてたような》
視聴者の言う通り、先の週末からは『ゴブリンの巣』の地下2階へ頻繁に潜っており、戦闘職のレベルが著しく成長している。
もちろん日々の調合で生産職のレベルも多少上がっているし、先日の『海の日』にはユーリ達とイチャイチャする機会が結構あったので、特殊職のレベルもそれなりに上がっている。
戦闘職・生産職・特殊職、どの職業のレベルが成長した場合も一律『100』のスキルポイントが手に入る。また、それに加えて日々のデイリークエストで稼いでいる分のポイントもあるから、最近は本当に蓄積量が凄いことになっていた。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【300%】
〔操具師〕- Lv.19 【154%】
〔錬金術師〕- Lv.15 【130%】
〔白百合の天使〕- Lv.8 【16%】
HP: 57 / 57
MP: 156 / 156
[筋力] 15 (5)
[強靱] 21 (7)
[敏捷] 120+6 (40)
[知恵] 120 (40)
[魅力] 36 (12)
[加護] 120 (40)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
《天翔る翼》《調合の妙》《盟約の主Ⅰ》《星白の友好者》
《呪具浄化》《恋人送還》
◇スキル - 3389 pts. / 得意化:残り2回
〈☆操具収納Ⅱ〉〈☆武器強化術Ⅲ〉〈☆機械操作Ⅰ〉
〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅱ〉〈○食養術Ⅱ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅹ〉〈☆特性注入術Ⅰ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉
〈○初級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅰ〉〈○素材収納Ⅲ〉
〈○生産品収納Ⅰ〉【○伐採Ⅰ】【○鉱石採掘Ⅰ】
〈水泳Ⅹ〉
〈☆天使は皆のためにⅢ〉
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉
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何もしないのも時間が勿体ないので、とりあえずベリーポーションを量産しながら、シズは自身のステータス画面を視界内に表示して確認する。
現在貯まっているスキルポイントは『3389』。専門スキルか得意スキルなら即座に3つをスキルマスターまで持っていける程の量だ。
ポイントの状態のまま、使わず溜め込んでいても意味は無い。ある程度は何かに割り振って、有効活用してしまうべきだろう。
(とりあえず、ユーリ達や視聴者が喜んでくれているから―――)
そう思い、シズはまず〈天使は皆のために〉のスキルのランクを成長させる。
これは『恋人』の関係になっている相手の能力値を増やすスキルだ。
普段からパーティを組んでいるユーリやプラム、イズミの3人は当然のことながら、関係が『恋人』であれば視聴者の人達にさえ効果があるスキルなので、地味に皆から喜ばれているのだ。
シズ本人には一切効果が無いスキルなのが悲しい所だけれど……。
とはいえ、ユーリ達の能力値が上がれば、結果的にその恩恵はパーティを組んでいるシズにも返ってくる。だから伸ばして損は無いスキルだろう。
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★〈☆天使は皆のために〉スキルをマスターしました!
スキルの効果に一部変化が加わりました。
★新たに〈☆皆は天使のために〉のスキルが修得可能になりました。
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というわけで、スキルのランクを『3』から一気に『10』まで伸ばしてみた。
ログウィンドウにいつも通り、スキルをマスターした旨の文章が記述される。
同時に、新たに〈皆は天使のために〉というスキルの修得が可能になったことも記されていた。
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〈☆天使は皆のためにⅩ〉
『恋人』の全ての能力値が『10』増加する。
同じ国家内にいる『恋人』は能力値の増加量が2倍に向上する。
『恋人』があなたの元へ転移できる回数が各日1回増える。
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スキルマスターにより追加された効果は、『恋人』がシズと同じ国内にいるなら効果が2倍になるというもの。つまり、全能力値が『+20』されるわけだ。
―――これは強い、と率直に思えてしまう効果だ。何しろ能力値は全部で6種類あるわけだから、総合的には能力値が120も増えることに等しい。
視聴者は他の国に住んでいる人が多いけれど、当然ユーリ達は3人とも同国内の扱いで2倍適用されるはずだから、このボーナスは非常に大きなものだ。
それと『恋人』がシズの居場所に転移してこれる回数が『+1回』、つまり1日に2回までになるらしい。
こちらについては、現状の1日1回制限でも充分に便利なので、あまり有難みは感じない。無いよりは嬉しいかな、という程度だろうか。
《なんか大変なことになってらっしゃる……》
《全能力値+20はヤバい。今日中にファトランド王国に移住します!》
《私の能力値が急増したんですが!?》
《そっか、引っ越すだけで2倍の恩恵受けられるのか》
《どうせ宿住まいだから転居も簡単だしなあ。別にフレンドもいないし……》
《なんか急に最大HPが40ぐらい増えたんでビビったわ》
マスターしたスキルの効果を見て、視聴者も驚いている。
中には効果2倍の恩恵を得るために、シズ達が居るファトランド王国への移住を本気で考えている人も居るようだ。
ファトランド王国を拠点に活動しているプレイヤーの数は非常に少なく、森都アクラスの都市内でプレイヤーの姿を見かけることは滅多に無い。
それだけに―――これがきっかけで、少しでも同じ国で活動するプレイヤーの数が増えれば嬉しいなと、シズは内心でひっそりと期待した。
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〈☆皆は天使のために〉
あなたの『恋人』の『10%』の人達から力を分けて貰い
対象者が最も高めている能力値を1点だけ借り受ける。
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「えぇ……?」
続けて、新しく修得が可能になったスキル〈皆は天使のために〉の効果説明文を確認したところ。シズは驚きのあまり、思わず唖然としてしまった。
〈天使は皆のために〉が、シズの『恋人』の能力値を増やすスキルであるのとは対照的に。〈皆は天使のために〉の方は『恋人』が最も高めている能力値を、1人につき『1点』だけシズに移し替えるというスキルらしい。
つまり、『恋人』全員が最も高めている能力値を『1点』減らしてしまうわけだけれど。これは先の〈皆は天使のために〉で『10点』増えている筈だから、特に問題とはならないだろう。
問題は―――このスキルを修得した際に得られる、あまりの効果の高さだろう。
と言うのも、現時点でシズの『恋人』が、合計で『1000人』を超えていたりするからだ。
5日前までは『800人』ぐらいだったのだけれど……。その時点での〈天使は皆のために〉スキルの恩恵『全能力値+3』を欲しがった人が案外多かったため、ここ5日間だけで更に200人以上も増えてしまっている。
恋人が全部で『1000人』以上いるということは、その『10%』の人達から能力値を1点ずつ分けて貰った場合、合計100点以上増えると言うことだ。
そして、多分だけれど―――スキルランクを伸ばせば、この割合は更に増やしていくことができそうな気がする。
もしスキルマスターまでランクを伸ばせば、大変なことになりそうな……。
とりあえず様子見ということで〈皆は天使のために〉スキルをランク『1』だけ修得してみる。
それからすぐに、シズは自身のステータスを再確認した。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【300%】
〔操具師〕- Lv.19 【154%】
〔錬金術師〕- Lv.15 【130%】
〔白百合の天使〕- Lv.8 【16%】
HP: 116 / 116
MP: 188 / 188
[筋力] 15+17 (5)
[強靱] 21+21 (7)
[敏捷] 120+25 (40)
[知恵] 120+16 (40)
[魅力] 36+16 (12)
[加護] 120+11 (40)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
《天翔る翼》《調合の妙》《盟約の主Ⅰ》《星白の友好者》
《呪具浄化》《恋人送還》
◇スキル - 2589 pts. / 得意化:残り2回
〈☆操具収納Ⅱ〉〈☆武器強化術Ⅲ〉〈☆機械操作Ⅰ〉
〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅱ〉〈○食養術Ⅱ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅹ〉〈☆特性注入術Ⅰ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉
〈○初級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅰ〉〈○素材収納Ⅲ〉
〈○生産品収納Ⅰ〉【○伐採Ⅰ】【○鉱石採掘Ⅰ】
〈水泳Ⅹ〉
〈☆天使は皆のためにⅩ〉〈☆皆は天使のためにⅠ〉
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉
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「な、何だか、大変なことになってしまった……」
スキルを1つ修得しただけで、全ての能力値が劇的に増加した。
特に、シズが全く伸ばしていない[強靱]や[筋力]といった能力値が大きく補強されたのが大きい。最大HPが一気に倍以上まで増えている。
おそらく今回対象となった『恋人』に、前衛系の職業でそれらの能力値を伸ばしている人が、多く含まれていたのだろう。
《天使ちゃんが超強化されておられる》
《私は……。超天使ちゃんだ!!》
《運営側も恋人4桁のプレイヤーは想定してなかったんやろなあ……》
《そんなもん想定できるわけ無いだろwww》
《一気にスキルマスターまで伸ばしちゃおうぜ!》
「い、いや、このスキルはのんびり伸ばすことにするよ」
これ程に能力値が増加するスキルをあまり一度に伸ばしすぎると、ゲームとして破綻しそうな気がする。
〈皆は天使のために〉スキルはある程度の期間を空けつつ、ちょっとずつランクを伸ばしていくことにしよう。
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お読み下さりありがとうございました。




