プレゼン
玲奈の前で熱く語る男は、大人びた見た目とも相まって、高校生というよりも、もうお金をもらって働いているサラリーマンのように見えていた。
「君は芸能人の仕事を博打にたとえた。つまりご両親も弟たちも言葉は悪いけど、現在進行形で博打を打っている状態だ。大友和樹は芸能界の大御所だが、ツアー三昧をしていた全盛期の頃から比べると歌手としての収入は減っているはずだ。和樹さんはもともとが田舎の堅実な家に生まれ育っていたから、そのあたりは若い頃から手を打っていて、副業としてキャンプ用品の店を持っている。本業の歌手の方でも、若い子のプロデュースをして曲を売り、多角的に収入が入るようにしている。俳優業の方はまだまだ精力的にやってるけどね。亜紀さんも、歳をとっても仕事ができるように、声を生かしたナレーションや声優の仕事を続けてる。それに頼もしいコネを使って、真島グループの雑誌の仕事もしてるしね」
そういえば、親の収入を心配したことはない。
まだ目が見えない赤ちゃんだった頃に一時心配したことはあったが、ものごころついてからは親の仕事の仕方を認めていたようだ。
「ただ今が安心できているとはいっても、芸能界の仕事が水ものであることは変わらない。目の前にあるチャンスをつかんで、立場を盤石にしていく努力は常に続けていくことが必要だ」
「それが今回の話ってわけ?」
「ああ。でも仕事という意味では社長業や企業のトップも変わらないんだよ。社員の生活や大金がかかった大博打は、多大な責任が伴うんだ。企業のトップには、世の中の流れを見てここぞというチャンスをつかむ機微が必要になる」
へー、真島グループなんて経済界の重鎮だからそんな努力なんて必要ないのかと思ってた。
「君にキャンペーンガールを頼むのは、いいところに目をつけていると思う。でも方法は他にもあると思うんだ。今はテレビや雑誌なんかの旧来のメディアより、ネットの比重が高くなっている。企業側もそこは注視していて、ユーザー数の多い大物ユーツバーに広告を打っているところも多いだろ」
「ああ、たまに企業からの提供品を使ってる人もいるね」
「あれがバカにならないらしい。ユーツバーにはコアな趣味の人が多い。それを観ている人間も同じ趣味の持ち主だ。つまり、市場調査とかの営業努力なしでピンポイントに広告を打てるんだよ。商品を渡して使ってもらうだけなら、テレビ局に億単位の広告料を払わなくても済むからね」
「なるほどぉ」
「ユーツバーになってもらったら、君にも利点がある。まずユーツべの広告収入だ。そして真島グループからの広告収入も入る。なにか商品が提供されたら、それをもらえるだけでもラッキーだしね」
「ちょ、ちょっと待って。ユーツベの広告収入って、ユーザー数が何十万人もいなきゃたいした金額にならないんでしょ?もうそこからして無理があるじゃない。それにネットにあげる映像を撮影したり、編集したりなんてできないし」
なんせ機械音痴には定評がある昭和の生まれなのだ。
すぐにパソコンのブラインドタッチができなかったことだけが、小学生時代の汚点として記憶に残っている。
「その心配はいらないよ。撮影は俺がやるし、編集も任せとけ」
「は? 真島くんがなんでそこまでするの? お父さんに私の説得を頼まれただけなんじゃ……」
「俺にも利点があるんだよ。俺は真島グループの化学関連の会社に就職したいと思ってる。研究職に就くのが夢なんだ。今回、親父に手を貸そうと思ったのは、コネ就職の面でアドバンデージがとれることだ。トップのドラ息子がへこへこと頭を下げて就職させてもらうんじゃなくて、あっちからコネを使って俺を求めてほしいわけ。それにユーツベ用の撮影機材は、ゆくゆく必要経費で俺がもらう。ちょうどカメラもパソコンも最新式が欲しかったし」
「………………ちゃっかりしてる」
「君にもプラスになると思うぜ。会社のルートに乗ったら、あちらの都合で動かされるけど、自分たちで計画して広告活動に参加するのなら、主導権はこっちにある。学校の勉強やその時々の行事なんかに合わせて動画をあげるなんていう調整もできる。動画内容も勉強とかおすすめの本とか、和樹さんのキャンプ用品の紹介とか、弟たちの裏話とか、流行や都合に合わせて自由自在だ。大友家のためにもなるし、自分が社会に出た時に使える経験値を稼ぐこともできる」
「経験か、なるほどね。真島くんって、営業がうまいわ。研究職じゃなくて営業課に配属されるんじゃない?」
「いや、営業課はご免被るな。研究職の方が気楽だよ」
「それ、私もそう思ってるんですけどー」
「アハハ、これは一本取られたな。でも失敗しても金の面では微々たるもんだし、サイトの人気が出なくても精神的な負担が少ないと思わん? これって、君が言ってた芸能人になるためのリスクを全部クリアできるっしょ」
確かにね。
しかし、話してるうちに真島くんも地が出てきた。こういう人だったのね。
「わかった。私の意見も組み入れてくれるんだったら、真島くんのやり方でやってみてもいいよ。ただし、大貴おじさまがそれで納得してくれるんだったらね」
玲奈がそう言うと、芳孝は満面の笑顔で立ち上がった。
「やりぃ。自分が考えた提案を受け入れてもらうのって、気持ちいいな。帰って、親父を説得してみるよ」
食べた後のトレーを片付けながら、玲奈と芳孝はそれぞれ今後のことを考えていた。
ここでの出来事が何十年も続く二人の共同作業のスタートになったのだが、そこまではさすがの二人も想像していなかった。




