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蒼焔の魔女 ~ 幼女強い 【感謝! 7000万PV・書籍版第1巻2巻2026年1月10日同時発売・コミカライズ企画進行中!】  作者: 一 二三


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コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑤

「おう。親父殿」

「お前は・・・。もう少し女らしい態度は出来んのか?」

 軽いノリで片手を上げたお師様に、マルキオ様がこめかみを揉む。

 いつものように、ポンと私の頭にお師様の手が置かれた。


「紹介しておくぞ。こいつはフィオレという」

「ふむ。・・・この娘が?」

 私の存在も、もう報告を聞いているんだね。

 お小言を華麗にスルーしたお師様に諦めの目線を投げた後、マルキオ様の目が私に向けられた。

「ああ。一人でルナリアを守り、十数人の敵兵を討ち取って見せた、“白焔”の後継者だ」

「―――、はくっ・・・・・! はぁっ!?」

 サラっと告げられたお師様の一言に数瞬ばかりフリーズした後、マルキオ様が絶句する。

「耳が遠くなったか? こいつが“白焔”の後継者だ」

「聞こえとるわ!」


「フレイア! どういうことだ!?」

 ルナリアを抱えたままのハインズ様も血相を変えている。

 色めき立つお二方に、お師様は五月蠅そうに小指の先で耳をほじる。

「どうもこうも。聞いた通りだが、二人して耳が遠くなったようだな」

「「なっとらんわ!!」」

 仲良しだね。キレイにハモったよ。

 お師様にポンと背中を押される。


「ほれ、フィオレ」

「・・・お、お初にお目に掛かります。フィオレと申します」

「「お、おう」」

 きっちりと最敬礼でお辞儀をしたら、お二方とも律儀にお辞儀を返してくれた。

 ちょっと怖かったけど、良い人なのだということは分かった。


「じゃあ、行くか」

「・・・へっ?」

 さっさと背中を向けるお師様に、私もフリーズした。

「実験だ。実験」

「・・・あ。は、はい」

 再起動した私は、慌ててお師様の背中を追う。


「待て待て待て! どこへ行く気だ、フレイア!」

「挨拶は終わっただろう? 敵兵をブッた斬った術式で甲冑を両断できるか、今から実験するんだ。邪魔をするな」

 邪魔するな、って、お師様、言い方!

 絶句しているハインズ様って前侯爵様じゃないの!?


「ほぅ。術式で敵兵を斬ったのか」

「ああ。ちなみに、その術式はルナリアも使える」

 反応したのは、現役の魔法術師でもあるマルキオ様だった。

 シュバっとルナリアが手を挙げる。

「わたしも敵を斬ったわ!」

「おお! もう初陣を果たしたのか!」

 再起動したハインズ様が喜色を浮かべて一つだけ残った目を瞠る。

 対照的にハロルド様は天を仰いだ。

「私はルナリアを取り戻すまで、心配で心配で、心臓が押し潰されそうだったがな」

「ウォーレスの後継ならば、いつかは通る道だ!」

「そうだな・・・」

 溜息混じりに言うハロルド様を(ほう)()り出して、ハインズ様がルナリアの金髪頭をガシガシと撫でた。


「ヨシ! ルナリア、儂にもお前の魔法術式を見せてくれ!」

「分かったわ!」

「親父殿は、どうする?」

 ハインズ様とルナリアの遣り取りを見届けたお師様が、マルキオ様に揶揄(からか)うような目を向けた。

「行くに決まっとる」

「じゃあ、行こう」

 マルキオ様が溜息混じりに答えるのを確認し、今度こそお師様は背を向けた。

 お師様の歩調は、私の歩幅に合わせるように、ゆっくりとしたもので、一歩後ろで背中を追いながら、私はお師様の横顔を見上げる。


「・・・ほえー・・・」

 お師様、すごい。

 あれだけキレ散らかしていたお二方を、完全に手玉に取って意識の方向を変えちゃった。

 これが、ウォーレスの女、なんだね。ピーシス家はウォーレス家傍系の筆頭らしいから、限りなくウォーレス家の血に近い。

 キッチリと仕事をこなして見せたお師様に、私が恥をかかせられないよね。私もがんばろう。


 領主館の裏手へ回ると、そこには高校のグランドの数倍はある訓練場が隣接していて、今、その訓練場には多くの騎士様や兵士たちが詰めかけていて、デモンストレーションが始まるのを、お祭りさながらの騒ぎで待ち構えている。

 ざっと見た感じ、1000・・・、いや、もっと居るかな。こんなに人が居たんだ?


 衆人環視のド真ん中には、20本の木杭が据えられている。

 片側10本ずつの2列。標的を勤める片側の丸太の杭が着せられているのは、以前の戦争で鹵獲したという隣国騎士の金属甲冑だ。

 あの金属甲冑の中には、水で湿らせた砂を詰めた革袋が仕込んであるらしい。

 なぜ、「湿らせた砂」なのかと言えば、斬った感触が人体に近いから。


 もう片側に立つ丸太の杭には、人間の胴体以上の太さにまで、たっぷりと水を含んだ(わら)(むしろ)が巻きつけられていて、金属甲冑との比較対照のために用意されたものだと理解できる。

 日本の居合い剣術なんかでも水に漬け込んだ畳表(たたみおもて)(わら)(むしろ)を固く巻いたものを人体に見立てて斬るデモンストレーションは、一般的に行われている。

 人体を斬るときには刀身が骨肉を断ち切るのに少なからず抵抗を受けるもので、その抵抗に斬った感触を似せるために、わざわざ手の込んだ仕込みをするのだそうだ。


 戦争は空っぽの甲冑だけが攻めてくるわけじゃないから、実戦に使用できるかを見るのなら、ちゃんと中身まで斬れるかどうかが重要なのは当然だよね。

 ただ、甲冑と藁筵、同様の木杭を、それぞれ10本づつも用意させるなんて、何回やらせる気なんだろう?

 てくてくと一人で歩み出て、木杭の前に立つ。


戦争フェーズ⑤です。


試練の時、始まる!

次回、失敗!

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