コーニッツ・ムーア制圧戦 ②
そうすると、私たちがしなきゃいけない仕事って。
「・・・ガス抜き?」
「ガス抜きって何?」
首を傾げるルナリアを、お師様が目で示した。
説明してやれ、ってことね。
「ガスって、火の魔法術式のときにも言ってたわよね?」
「・・・あれもガスだね。でも、ガスが発生する仕組みは他にも有るんだよ」
私はお皿のリンゴを手に取った。
「・・・例えば、水も空気も漏れない革袋に、この果物が入っていたとする。暑い日の日向に何日間か放っておくと、どうなる?」
「腐る?」
「・・・うん。ものが腐ると微生物が繁殖して、ものが分解される過程で臭いを出して、空気が膨らむんだよ。その臭い空気が、ガス。魔石を掘り出した時に臭かったよね?」
「臭かったわね」
思い出したのか、ルナリアが嫌そうな顔になる。
概略は大きく間違ってはいないと思う。微生物、にはツッコミが入らなかったから、微生物の存在は知られているのかな? 天然酵母が利用されているのだから、すでに認知されていると考えよう。
「膨らんだガスを抜くの?」
「・・・さっきの革袋がガスでパンパンになっても膨らみ続けたら、どうなると思う?」
「破裂する?」
想像したみたいだけど、イマイチ自信が無さそうかな。
物事の理屈を理解するために、色々と理科の実験してみると理解しやすいかも。確か、そういう実験主体の教育方法で有名な理科の先生が居たよね。
「・・・そう。だから、破裂してしまわないようにガスを抜く。それと同じ」
「お爺様が破裂しないようにガスを抜くのね。分かったわ!」
お爺様は破裂しないと思うよ?
「・・・まあ、いっか」
意味が通じりゃ良いんだよ。
ハロルド様が、感心した表情で私たちを見ている。
こんな感じで? と、お師様を見ると、一つ頷いた。
「それとな。お前は今日から5歳だ。いいな?」
「・・・私?」
「同い年のほうが、ルナリアと分けて扱われないから、色々と誤魔化しが利く」
「・・・なるほど。分かった」
「良いの? それで」
初めて5歳の人生を生きているルナリアにとっては5歳と6歳の差は大きいだろうからか、不思議そうに見られた。
「・・・もともと、自分の歳、知らないし」
「ああ、そっか」
分かってくれたか。いい子だね。
ルナリアはベーコンとの戦いに戻ったが、今度はお師様の視線が飛んできた。
「半年以上前のことは、何も覚えていないと言え」
「・・・なぜ?」
「お前の身を護るためだ」
半年前ってことは、日本での記憶を身内にも秘密にする方針かな。
お師様たちがそう言うのなら、そうすることが正しいのだろう。
政治的なアレコレが関わる話になるなら、今の私では分からない。
その辺の機微も、しっかりと学ばなきゃ。
「・・・分かった。お披露目って、何をすればいい?」
「甲冑を斬れるか、というアレで良いだろう」
「・・・斬れるかどうか、分からないよ?」
「理屈上は、イケるのだろう?」
「・・・うん」
「なら、挑戦してみろ。出来なければ、出来る方法を考えろ。それがお前の力になる」
「・・・分かった」
ベンチャー企業のモノづくり論みたいな答えが返ってきたな。
ははぁん? 器用なはずのルナリアが苦労していたのは、これか。
自分で考えさせる方針の教育方法だけど、基礎の考え方が身に付いていないと理解するまでが苦労すると思う。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて」の、山本五十六先生みたいな教育方法が教えてもらう側は楽だろうけど、お師様のように自分の頭で考えさせるほうが深く理解できるのだろうから、お師様の教育方法が間違っているとは思わない。
でも、最初から全部自分の頭だけで考えろ、とは言われていないから、ルナリアと互いにコツや知識を教え合って学ぶのはルール的に有りなのだと受け取った。
時短だよ、時短。
戦争フェーズ②です。
デデデデン! でんじろう先生!
次回、綺麗なお姉さんが!




