コーニッツ・ムーア制圧戦 ①
「・・・お披露目?」
「そうだ」
朝食の席で、お師様から申し渡されたお仕事の内容を反芻する。
「がんばってね! フィオレ!」
「・・・うん」
「ルナリア。お前もだぞ」
「ふぇっ!?」
応援に応えたらルナリアに追撃が行って、ルナリアが手にしているフォークに刺さっていた厚切りベーコンの欠片が、ポトリとお皿に落ちた。
お返ししておくか。
「・・・がんばれー。ルナリア」
お貴族様の食卓に同席するなんて、私のテーブルマナーで大丈夫か? と心配していたけど、テーブルに用意されているカトラリーも少ないし、思ったよりも質素で安心した。
学校の教室2つ分は有ろうかというほどに広い食堂の真ん中には、真っ白なテーブルクロスが掛けられた長い食卓テーブルがドデンと鎮座していて、このテーブルは、ボーリングレーンを思わせるほどに長い。
テーブルの上には、3メートル間隔ぐらいでローソクを立てるための燭台が点々と配置されているのだけど、テーブルの真上の天井には点々と“光”の魔法が貼り付いていて、燭台には1本もローソクが刺さっていないので、完全に装飾品なのだと分かる。
長い長いテーブルの両脇には、1メートルちょっと置きに椅子が並んでいて、30脚以上もある。
この領主館は、いわば、一族の総本家なのだから、一族の会食などでも使われる部屋なのかも知れない。
単純に椅子の数を増やせば60人は座れそうだもの。
今、実際にテーブルに着いて居るのは、上座の向かい合わせにハロルド様とお師様、続いて、ハロルド様の隣りにルナリアと、その向かい側に座る私の4人だけだけどね。
人払いでもしているのか、料理を運んできた後、誰も食堂に入って来ないから、大事な話でも有るのかな? とはいえ、手を止めろとは言われていないから、食べながら話せば良いのだろう。
今朝のメニューは、厚さ3センチメートルは有るベーコンが3枚と固めのスクランブルエッグ、大豆っぽい豆の煮込みがメインディッシュで、半分に切ったリンゴ? が大皿に添えられている。
あとは、別のスープ皿にビーツっぽい根菜の真っ赤な色のスープと、カゴに山盛りの丸パンだった。
大人の拳サイズの焼きたての丸パンは、フランスパンっぽく表面が固く、中はふわふわのモチモチ。
酵母による発酵を利用した製パンは普及しているらしい。
仄かにリンゴっぽい香りがするから、リンゴを使った天然酵母かな?
アメリカ人の朝食っぽいけど、お豆もビーツもベーコンも保存食の部類だし、こっちの世界には冷蔵庫が無いのか、有っても冷蔵庫はそんなに大きくないのかも。
朝食にベーコンエッグは一般的だと思うけど、長さ20センチメートルは有るフルサイズの厚切りベーコンを起き抜けに3枚は、5~6歳児の朝食としては相当にヘビーじゃないかな。
しかし、ハロルド様とお師様のお皿にはベーコンが6枚積まれているところを見ると、このボリュームでもお子様メニューに調整された結果であることは理解できた。
こりゃあ、頑張って食べないと、お残ししてしまいそうだ。
テーブルマナーについてウォーレス家は五月蝿く言う家では無いらしく、お師様なんて、テーブルナイフを使うことも無く、フォークで突き刺したベーコンを豪快に齧っている。
それで良いのかな? なんて、騙されてはいけない。
ハロルド様は、きちんとナプキンを襟元に挟み、ナイフフォークを巧みに駆使してお豆も上品に食べている。
これ、絶対にお師様が異端なやつだ。
しかも、みんな食べるのが早い。
お師様もモリモリ食べているし、ルナリアもしっかり食べている。
これはアレか? この食事量がお師様の胸に脂肪として蓄えられているのか?
同じ血統のルナリアも遺伝子のチカラでボリューミーに育つ可能性が極めて高い。
対する私の血統は不明。この状況は良くないな。
私もしっかり食べねば! 私だけ、ぺったんこのまま育つなんてことは、絶対に有ってはならない!
友人間ヒエラルキーの発生は、やがて脂肪量闘争へと発展し、過酷で凄惨な抗争の果てに貧乳を滅亡へと追い込むのだ!
局地的脂肪量の差は戦力の差を如実に表し、我が軍は劣勢を余儀なくされるであろう!
食え! 食うのだ! お肉は我が皿に在り! お肉こそが勝利の鍵となるのだ! もぐもぐ。
ガチガチのお武家さん家系だという認識が有ったから予想はしていたけれど、食べるのが早いのは、「戦場でグズグズのろのろ食べている暇なんて無い」ってことなんだろうね。
あっという間に平らげたハロルド様が、静かにカトラリーを置いた。
「あと1~2時間で、前侯爵と前子爵の部隊がレティアに到着すると、先触れが来た」
「お爺様たちが来るのね!」
「マークスたちとの面会を望むだろうし、面会すれば激高して飛び出して行き兼ねんから、先にお前たちのお披露目を挟んで正気に戻らせる」
「コーニッツとムーアの現当主2人は、企みを吐かせる前に殺させられん」
ハロルド様とお師様が、深刻な表情をしている。
このお二人で深刻にならざるを得ない事態って、想像しにくいんだけど・・・。
面倒くさそうに、お師様が首を振る。
「斬って棄てられれば早いんだが、あれでも味方だから斬るわけにも行かん」
そっちか! 身内の暴走が面倒くさいだけだった!?
コーニッツ・ムーア制圧戦①です。
新章、第7章は、戦争フェーズです!
次回、理科の時間?




