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蒼焔の魔女 ~ 幼女強い 【感謝! 7000万PV・書籍版第1巻2巻2026年1月10日同時発売・コミカライズ企画進行中!】  作者: 一 二三


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白焔を継ぐ者 ⑧ ※ハロルド面

趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。


人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。

雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。

 ハロルドが知る中で、フレイアよりも一般的な“常識”に囚われない魔法術師は居ない。

 そのフレイアにして、“常識を逸脱する”と言わしめる行為を娘たちは行ったらしい。


 生来の負けん気の強さ故か、強く正しく在ろうとする意志の表れか、尊大とも我儘とも評されることが多いルナリアは、それでも、ごく普通の子供の範疇で、ハロルドにとっては、ただただ可愛いだけの娘だった。

 ほんの二日間、たった二日間、見なかっただけで、あのルナリアがフレイアでさえ予想しない技術を身に付けているという。

 事は、とんでもなく重大で、その渦中のド真ん中に愛娘が居る。


「そうなのか」

 心中の動揺を声に出さないように、ハロルドはいくらかの努力を要した。

 フレイアの言わんとしていることを思索し、ハロルドも一つの可能性に思い至る。

 可能性とは、あの、絵本に描かれる精霊と見紛わんばかりの、銀髪の少女だ。

「何より、“理屈上は”、混ぜ物をした風術式で金属鎧を斬れると言った」

「言っていたな。・・・さて、何の“理屈”なのか」

「さあな。大方、“物理法則”とか言うヤツじゃないか?」

「物理法則・・・ね」

「考え付くことは?」

「勇者・・・かな」

「だろうな。私も他に思い付かん」


 物理法則とは、数百年前の勇者がチキュウ世界から持ち込んだ概念だと伝わっている。

 火はなぜ燃えるのか。

 風はなぜ吹くのか。

 水はどこから生まれるのか。

 土と石はどうやって在り方を変えるのか。

 我々の祖先の常識を勇者が持ち込んだ概念が悉く覆したのだ。


 数千年前から魔法技術が発達していた此方の世界では、神、あるいは精霊と呼ばれる超越的存在の恩恵により起こるとされていた事象が、誰の手でも起こせるものだと伝えられ、魔法術式を高度に昇華させていた種族や支配者階級層ではなく、主に市井の被支配者階級層の実生活に大きな変革を(もたら)し、様々な道具を生み出して民草の生活水準を向上させた。


 魔法術式全般に詳しいとは言えないハロルドは、言葉選びの間違いかと思う程度の小さな違和感を抱いただけだったが、魔法術式の専門家であり研究者でもあるフレイアは確信を持っているようだ。

 しかし、チキュウ世界から神教会が一方的に召喚するチキュウ人の特徴は、二ホン人に多いという黒髪に茶色の瞳が殆どだったはずだ。

 例外が無いわけでは無いが、条件が合い易いのか、魔力で捕獲しやすいのか、記録に残っている限り、召喚術式で攫って来られるチキュウ人の8割以上が、二ホンという国からのヒト族なのだ。

 あの娘は、その二ホン人の特徴に合致しない。


 合致はしないが、もしもハロルドたちの予想が正しかった場合、忌々しい神教会が独占しているチキュウ世界の技術を得られる可能性がある。

 それは、ウォーレス家だけでなく、ウォーレス家が所属するリテルダニア王国にしても喉から手が出るほどに欲しい情報源だ。

 あの娘の身柄を巡って国内で内戦が起こりかねないほどに。

 だが、愛娘の命と息子の尊厳を守ってくれた、あの娘に対する恩義を想えば、主家たる王家へ報告することも躊躇われる。

 王家へ報告するとすれば、状況により王家とでも事を構える覚悟が必要になる。

 ウォーレス家の当主として、例え王家であったとしても恩人を売る選択肢など無いのだ。


「どうするつもりだ?」

「君こそ、どうするつもりだ?」

 マークスやルナリア以外の子供に強い関心を示したことのないフレイアが、あの娘を自ら進んで自分の馬にまで同乗させていた。

 そんな行動は、魔法術式が得意では無かった彼女の妹に対しても、しなかったことだ。

 あの娘に対する興味や魔法術式への探求心だけでは説明できない行動に思える。

 もっとも、フレイアの妹のことは、遅くに生まれた子という事情もあって父親である前子爵が猫可愛がりし、フレイアが手出しする隙も無かったからで、妹とフレイアの関係は互いがサッパリとした性格であることも手伝って、特別には良くも悪くもない。

 本来ならば妹が継ぐはずだった子爵家も、実に貴族家令嬢らしく育った妹はフレイアに跡目を押し付けて、恋仲になった男の貴族家へと、さっさと嫁に出て行ってしまった。


 自ら考え、手探りで探求し、踏み止まって恐れず行動する。

 あの娘の姿勢はフレイアの生き方と、とてもよく似ている。

 ルナリアの方が捕まえているように見えるが、ルナリアと共に強くなろうとする意志が見えるあの娘を、フレイアが憎からず思っているだろうことは明らかだ。


「まだ分からん。分からんが・・・」

 即断的な言動が多いフレイアにして、珍しく、逡巡が見えた。

「ただ、“白焔”を継がせるべきか、・・・とは考えている」

「―――! フレイア・・・!?」


 周囲の家人たちに聞こえないよう、声を抑えることに成功した自分は上出来だと思う。

 それは、これまでの人生の殆どを戦いと魔法技術の向上だけに注ぎ込んで来たフレイアにとって、極めて重要な意味を持つ一言だったからだ。

 “白焔”は、実家が秘伝する“紅蓮(ぐれん)”と呼ばれる火焔魔法術式を発展させて、フレイア自身が編み出したものだ。

 膨大な魔力を代価に、文字通りの一撃で、戦場の趨勢をひっくり返すことができる。


 王国戦力の中でも破格の攻撃力を有する“白焔”と名付けられた術式は、王命によって後継者の育成を命じられていたが、有望とされる魔法術師を弟子として王宮が送り込もうとしても、フレイアは、にべも無く蹴り飛ばした。

 国王陛下とフレイアの関係は良好なものではあるが、王命でも従えない理由は有る。

 フレイアは大雑把な性格だが、譲らない一線は相手が誰だろうと断固として譲らない。

 豊富な魔力保有量を誇るフレイアにして、消耗が大きい“白焔”は何度も放てない難物でもある。

 誰にでも承継できるものでもないし、誰にでも承継させられない実家の事情も有る。

 “白焔”を身に付けるには“紅蓮”に熟達する必要があり、“紅蓮”の習得はフレイアの実家の家督承継条件の一つでも有るのだ。


 結婚する気が無いらしいフレイアには“紅蓮”を継がせるべき子が居ない。

 ハロルドの次男であるマークスの()っての希望で、紆余曲折の末に弟子入りを受け入れはしたが、将来、マークスが生んだ子供のうち、魔法術式の才に恵まれた者をフレイアの養子として返す条件が付けられたほどだ。

 当然、マークスに続いて弟子入りしたルナリアにも同じ条件が付いている。

 とはいえ、血族に連なる魔力保有量が多い者でも“紅蓮”の習得ですら容易では無く、必要量は満たしていると評価されるだけの魔力保有量を持っていたマークスは最期まで“紅蓮”を習得できないまま身罷(みまか)ったし、ハロルドが生んだ子の中でも、身体が成長すれば魔力保有量が最も多くなると判断されているルナリアでも、“紅蓮”の習得には程遠いと手厳しく評価していた。


 術式の行使に重要な物が、技術なのか、才能なのか、フレイアの要求水準は非常に高い。

 フレイアは明確に基準を語らないが、これは、魔力保有量だけでは“紅蓮”ですら習得できないことを示唆しているのだろう。

 門外漢のハロルドでも、“白焔”の習得が“紅蓮”の遥か先に在ることは分かる。

 だというのに、フレイア自身にとって我が子に継がせるべき超難物の魔法術式を、今日、会ったばかりのあの少女ならば“継げる”と確信しているのだ。


 リテルダニア王国にとっても戦況を左右する虎の子の大魔法であればこそ、それを承継させる弟子は重大な関心事で、王国に敵対しない身元が確かな者で無くては困る。

 フレイアが承継させると決めても、王家から茶々が入る可能性が高いのだ。

 彼女自身がそう決めたのなら、王家と敵対しようともフレイアは曲げないだろう。

 “融和派”だけでなく王国そのものを敵に回しても、決して自身の信念を曲げない。

 フレイアという女は、そういう女だ。

 言葉にして発した以上、すでにフレイアの中には、その決断をする可能性が存在する。


 ハロルドが驚くのも無理は無いと思う。

 フレイアのほうは軽く肩を竦めるだけで、落ち着いたものだ。

「慌てるな。聞いてから考えるしか有るまいよ」

 フレイアが遮る木々の葉枝の上空に在るであろう夜空を見上げる。

 ハロルドも、枝葉の向こうの夜空を見上げた。

「・・・そうだな。ルナリアが酷く懐いてしまっているし、先ずは聞いてからだな」


 何を“聞いてから”か? 決まっている。

 あの娘が何者なのか、をだ。

 不倶戴天の“融和派”に対する処置や事後処理だけでも頭が痛いのに、優先的に考えねばならない重要事がまた一つ増えた。

 王都の騎士団長閣下にも根回しをしておくべきだろうか?

 神教会まで絡んでくる話になるのなら、閣下のお耳にだけは入れておくべきかもしれん。

 現国王陛下が凡庸と評価される方とはいえ、完全に王家を無視するわけにはいかないので、口先でも“融和派”と遣り合いに、早期に王都へ赴く必要もある。


 仇敵のカリーク公王国と結びたがっている“融和派”を滅ぼす戦争ともなれば、ハロルドとフレイアの父親である前侯爵と前子爵が喜んで参戦しに来るだろうから、戦線指揮には余裕が出るはずだ。

 コーニッツとムーアはハロルド自身の手で叩き斬ってやりたいが、父たちだけでなく、フレイアが参戦するのにハロルドまで順番が回ってくることは無いだろう。

 なにせ、斬り落とすことができる敵の首の数には限りが有るのだ。

 二つの首に対して、()る気マンマンな3人。

 絶対に父たちとフレイアで取り合いになる。


 ハロルドとて名乗りを上げたいが、あとで腹立ち紛れの鍛錬に付き合わされでもしたら、2~3日は筋肉痛で執務にならなくなるのは請け合いだ。

 ハロルドまで順番が回って来ないなら、ハロルドに回ってくる別の仕事は決まっている。

 また政治かあ・・・。と、ハロルドは切ない溜息を吐いた。


白焔を継ぐ者⑧です。


大人たちの間で進んで行く決断!

このお話で本章は最終話です!

次回、次章、第6章スタート!

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― 新着の感想 ―
>なにせ、斬り落とすことができる敵の首の数には限りが有るのだ。 武闘派貴族怖いわ~
子を奪われた父なのになぁ… 孫や弟子を奪われたとか憎いのに手が出せなかったけどやっと手を出す大義名分が出来たとかで殺りたい気持ちもわかるけど ハロルドさんに譲ってあげても良いんじゃない(;´∀`)
赤→白→青って恒星の色…? つまり核融合魔法なのか…?
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