白焔を継ぐ者 ⑥
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「おい。そんなことよりも、早くやってみろ」
「・・・あ。はい」
見せろってことは、風ジェットカッターのことだよね?
「フィオレ。はい」
「・・・ありがと」
ルナリアのポケットから手渡された鹿の魔石を手に、頭の中でイメージする。
私の手のひらの中にある魔石を見下ろして、私の胸の中にある熱を魔石へと細く伸ばす。
魔石の中に満ちている魔力を質感を似せた私の魔力で押し出し、大気中に蟠る魔力を燃料にイメージの中のダンボール箱送風機が爆音を上げて起動する。
猛烈な勢いで噴き出し始めた風を細く絞って風向きを制御すれば、風ジェットカッター魔法が発動する。
風の力で方向性を得た魔力が中空に円を描き、そこへ魔石の魔力をどんどん押し込んで風を加速させる。
もっと速く。もっと強く。もっと激しく。どんどん風の密度を上げる。
何度も発動させた魔法は私の脳裏に具体的な光景として記憶されているから、初めて使った時よりも容易に、さらに強力な空気の渦となって現実世界に顕現した。
円盤状の空間をループするように定義された風の刃は、膨張拡散しようとする体積を高密度に圧縮され、映る景色を明らかに歪ませるほどの速度を持って高速旋回する。
シュアアアアアア! っという、こっちの世界の人たちには聞き馴染みが無いであろう激しい擦過音を立てて、私は空気の塊を地面に押し付けた。
そりゃあ聞き馴染みなんて無いよね? 現代日本では聞き覚えが有るだろう、建設工事機械が立てる騒音にも似た擦過音なんて。
実際、遠巻きにこっちをチラチラ見ている騎士様たちも、驚いて剣の柄に手を掛けているぐらいだし。
いやいや! ハロルド様たちに危害を加える意図なんて私には1ミリも無いから、私を斬りに来ないでね!?
落ち葉や土砂を巻き込んで薄く茶色掛かった白濁色に染まった空気の塊を薄い円盤状に整形し、立ち木に向かって私は腕を振るった。
シャアアアン! と金属音掛かった擦過音が通り過ぎた瞬間、幹の直径が30センチメートル以上ある立ち木がぐらりと揺れて、ザザアアアン! と大きな音を立てて倒れる。
いくらか魔法の扱いに慣れてきたのか、威力が上がっている気がするなあ。
何度も検証してみないと詳細は分からないけど、威力が上がる分には問題ない。
「風術式や剣の切り口とは違うと思っていたが、これは面白いな!」
飲み会の余興に喜んでいる酔っぱらいのオッサン上司みたいに破顔したフレイア様が手を叩き、青くなったハロルド様や騎士様たちが硬直している。
「風の加速に圧縮か・・・。土を混ぜるのには何か意味が有るのか?」
「・・・研磨剤? ヤスリの歯みたいなもの」
「ヤスリ・・・? ああ、なるほど。摩擦を高速化すると、こんな風に斬れるのか」
「ハイ! ハイ! わたしも出来るようになったわ!」
「おう。お前もやってみろ」
ぴょんこぴょんこと手を挙げて主張するルナリアに、楽しそうなフレイア様が頷く。
私よりは発動に時間が掛かったけど、私と一緒に練習を繰り返していたルナリアも問題なく魔法を発動し、お父様や家臣たちの前で立ち木の切り倒しを披露して見せた。
さらには、直径50センチメートルを超える木の幹をジェット噴流だけで貫通して見せた。
ぱちっぱぱぱちっぱち、と、纏まりがない、困惑気味の拍手がルナリアに降り注ぐ。
「すっ、すごいぞ、ルナリア!」
「お、お嬢様、素晴らしいです!」
顔色があまり良くないハロルド様と騎士様たちが、なんとなく微妙な盛り上がり具合でルナリアを褒めそやかした。
得意満面のルナリアもぺったんこの胸を誇示して反り返っている。
片眉を上げてルナリアを見下ろしていたフレイア様の視線が私に向く。
「この術式は甲冑も斬れるのか?」
「・・・理屈上は金属でも斬れると思うけど、まだ試せてない」
「理屈上?」
フレイア様が小さく首を傾げて、すぐに投げ棄てた。
「まあいい。ハロルドの館に帰ったら実験するぞ」
「・・・あ、ハイ」
私はフレイア様やハロルド様に隠し事をするつもりは無いけど、ルナリアからフレイア様は天才魔法使いだって聞いていたし、突っ込んで細かく訊かれるかと思ったんだけど、いいの?
しゅばっ、とルナリアの手が挙がる。
「わたしもやりたい!」
「おう。手札が増えるのは良いことだ。実戦で使えるようになるまで、しっかりと鍛錬を続けて徹底的に技術を磨け。魔法術師ならば騎士の一人や二人、一刀両断できんとな」
「分かったわ!」
フレイア様の一言にハロルド様の顔が引き攣って、騎士様たちが仰け反っている。
魔法使いって敵を一刀両断するものなんだろうか?
日曜日の早朝枠なんかでよくある魔法使いのイメージと違うような?
なんか、もう、敵を殺せるなら何でも推奨される家風だってことは、よく分かったよ。
ハロルド様にお願いされて、干し肉の壺は全部放出した。
領のおカネで買い取ってもらう形になるそうだけど、今回の出陣で食べ残した分はフレイア様が全部買い取ると主張して、だから食べ残せとハロルド様に圧力を掛けていた。
ルナリアにも手伝ってもらって洞の1階からバケツリレーで壺を運び出したんだけど、筋肉ムキムキで体格が大きい騎士様たちでは洞の入り口を通れず、騎士様たちに代わって手伝いを申し出たフレイア様も、大きな胸とお尻がつっかえて洞の入り口を通れず、なぜか悔しそうだった。
デレデレのハロルド様と元気に受け答えするルナリアを中心にして、干し肉を齧る騎士様たちも交えてワイワイがやがやと騒いでいる様子をフレイア様の隣に腰を下ろして眺めていたら、私の頭の上にフレイア様の手がポンと載せられた。
「明朝も早い。お前はもう寝ろ」
「・・・はい」
「ルナリア! お前も寝ろ!」
「はーい!」
手を挙げて応えたルナリアと二人で、領の備品の毛布を1枚ずつ借りた私たちは、大人の侵入が難しい洞の2階で睡眠を取ることになった。
1枚を下に敷き、もう一枚の毛布を二人で被って寄り添って横になる。
毛布って暖かいね。
今日は、色々あって疲れたなあ・・・。
うつらうつらし掛けていたら、ルナリアが洟を啜っていることに気が付いた。
ぎゅっと抱きしめる。
肩を震わせて涙を流すルナリアは、声を潜めて嗚咽していた。
そっか・・・。お兄ちゃんのことが大好きだったんだね。
ルナリアの代わりに犠牲になって亡くなった人たちのこともかな?
切り替えが早いなあ、なんて、心の隅で思っていたんだけど、そうじゃなかった。
生還を喜んでくれたハロルド様たちに、これ以上、心配を掛けたくなかったんだね。
偉かったね。ルナリア。
がんばってみんなの前では元気に笑って見せていたんだね。
どのぐらいの間、ルナリアが私の胸で泣き続けていたかは分からない。
誰かのために泣き続けるルナリアの小さな体を抱きしめながら、他人を信じることが出来ない私に誰かの死を悼んで泣くことができるのだろうか? などと、茫洋と考えているうちに、ルナリアは泣き疲れて眠ってしまった。
白焔を継ぐ者⑥です。
プレゼン終了!
次回、評価!




