白焔を継ぐ者 ②
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「“光”」
フレイア様が軽く手を振った、それだけで、中空に数十もの白い光の粒がパッと舞う。
「・・・ふぁああ・・・」
すごく、綺麗。
私にしては珍しく胸に来る光景に、私の語彙が死んだ。
明るい蛍の群れみたいだ。
どうやったのかな? 一つの光の粒なら真似できそうな気がするけど、両手両足の指の数よりも多い複数の魔法を同時に発動するイメージが湧かない。
白色LEDのような小さな光の粒は、いくつもが寄り添って集まり、合体するたびに照度を増して、夜の森から闇を駆逐した。
投光器を向けたかのごとく照らし出された崖の足元に、緑色の大きな怪物が蹲るように、蔓草の茂みに包まれた馬車が横たわっていた。
「・・・ここの盛り上がりの下に騎士様が」
蔓草の茂みの手前、枯れ葉の山を私が指し示すと、数人の騎士様が跪き、表面の落ち葉をそっと払い除け始めた。
最後にお供えしてから数日が経っているので、雑草のお花は萎びてしまっているね。
「―――! ご当主様・・・」
「・・・うむ」
遺体を掘り当てたらしい騎士様の一人が顔を上げ、頷きを返したハロルド様が、呼んだ騎士様の傍へと跪いた。
ハロルド様を呼び寄せた騎士様の手には、ご遺体の騎士様のものらしい長い金髪が数本載せられている。
「・・・ユーエン」
痛みを堪えるようにハロルド様が表情を歪める。
あのご遺体の騎士様の名前は、ユーエンさんと言うらしい。
殺されたマーサさんのご主人で、ルナリアのお兄さんであるマークス様の従者を務めていた方のご遺体で、間違いないようだ。
「他の者もここに居る可能性が。この辺りの落ち葉を全て除けてみる必要が有りそうです」
「そうだな。人手が必要になりそうだ」
「増援を呼びます」
「そうしてくれ」
騎士様の提案にハロルド様が頷く。
「父上にも伝令を送っておいてくれ」
「はっ」
ハロルド様と話していた騎士様の合図で、周囲の警戒に当たっていた別の騎士様たちのうち二人が、馬に跨って待機部隊への応援要請を報せに出発していった。
ユーエンさんの発掘に当たっていた騎士様たちがご遺体の傍に跪いたまま、固めた右拳を額に当て、黙祷を捧げる。
あの仕草って、キリスト教徒で言えば、十字を切るようなものなのだろうね。
騎士様たちと同じ仕草で、固めた右拳を額に当ててご遺体に黙祷を捧げたハロルド様が、私たちのところへと戻ってきた。
ハロルド様の表情は硬く、その双眸は悲しみと怒りが入り混じった光を湛えていた。
「良いか?」
「ああ」
私とルナリアの肩に手を置いてご遺体の確認を見守っていたフレイア様の短い問いに、覚悟を決めたようにハロルド様が低く答える。
フレイア様が、私の肩に置いていた手を挙げると、周囲の騎士様たちが蔓草の茂みへと取りついた。
騎士様たちの手によって、絡みついた蔓草が引き剥がされ、横倒しになった馬車の全景が姿を現す。
蔓草のカーテンに守られていたのか、泥跳ねや水垢で汚れてはいるが、騎士様のように積もった枯れ葉に埋もれることは無かった様子だ。
軛? いや、轅? だったかな。そのパーツの呼び名って日本の牛車だったっけ?
馬車の車台と馬を繋ぐ木製アームが圧し折れていて、御者さんが座る部分はぺしゃんこに潰れているが、乗客が搭乗する箱の部分や四つ有る車輪は原型を留めている。
馬の死骸は見当たらないから、馬は犯人に奪われたのかも。
「お兄様の馬車だわ・・・」
最後に見たのはまだ3歳の頃のはずだけれど、ルナリアは馬車に見覚えが有るらしい。
呆然と馬車を眺めるルナリアの手を、私はキュッと握りしめた。
騎士様の一人が、横倒しの馬車の上へとよじ登って、窓から覗き込んで馬車の中を確認する。
ハロルド様とフレイア様のほうを返り見て、騎士様は一つ頷いた。
誰かのご遺体の存在を確認した、という意味だろうね。
信じたくなかった現実を突き付けられたかのように、ハロルド様の顔が強張り血の気を失っている。
「おい、フレイア・・・」
ハロルド様の掠れた声を無視して、フレイア様がつかつかと横倒しの馬車へ歩み寄り、ひらりと飛び乗った。
「押さえておけ」
「はっ」
迷いなく馬車のドアを引き開け、言うが早いか、するりと馬車の中へ入ってしまった。
ほんの数分。
一言も発さないまま馬車から出てきたフレイア様は、馬車の上からひらりと飛び降り、つかつかと歩いてきてハロルド様の正面に立った。
悲しみも怒りも感じさせない人形のような無表情だけど、少しだけ目が充血している。
ハロルド様の右手を取って、何かをギュッと握らせ、フレイア様は何も言わないまま踵を返して立ち去ってしまった。
白焔を継ぐ者②です。
本職の魔法!
次回、騎士の姿!




