白焔を継ぐ者 ①
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「お前はこっちだ」
「・・・あっ、はい」
背中から脇の下に片腕を回されて、ヒョイと抱え上げられた私は、フレイア様の馬に同乗させていただくことになった。
左腕1本で私を小脇に抱えたまま、ひらりと鞍へ跨ったフレイア様は、ご自分のおなかの前へ私を置いて座らせ、右手ひとつで手綱を握って巧みに馬首を巡らせた。
ルナリアは、私と同じようにハロルド様の馬の鞍に載せられている。
「軽いな」
「・・・すみません」
「これからは、もっとしっかり食え。体力が無いと何も出来んぞ」
「・・・はい。痛感しました」
「そうか。教訓は次に活かせ」
「・・・はい」
素直に頷くと、頭の上に、ポンと軽くフレイア様の手が載せられた。
大雑把な体育会系の人だと思っていたけど、その手つきは繊細な壊れ物を扱うように、優しい力加減のものだった。
ウォーレス家の騎馬の一団は二手に分かれ、そのまま崖上を行く部隊を残して、崖下へと向かう部隊は先に出発した。
フレイア様の馬とハロルド様の馬の2頭を先頭にした崖下部隊は、一旦、南へ向かってウォーレス領内の街道へ出てから、再び、崖下の森へと入ることになる。
松明も、ランプの光も無しに。
馬の鞍にはカンテラのような形状のランプが吊り下げられているけど、使っていない。
日が暮れて真っ暗になった森の中では、馬も足元が見えないんじゃないのかな?
「馬が心配か?」
馬上から落ちないように気を付けながら馬の足元を覗いたら、見破られた。
「・・・暗くて馬が足を痛めないのかと」
「魔物討伐や敵襲の有事に備えて、夜の森を歩かせる訓練もさせている」
「・・・明かりは点けないのですか?」
「今はまだ敵兵の掃討が終わっていないからな。平時なら点けるぞ。今夜は夜間行軍訓練を兼ねて光の術式も無しだ」
「・・・光魔法ですか?」
「そうだ。術式で照らせば楽に馬を進められるが、弓兵の的になり易い」
「・・・確かに、そうでしょうね」
深い森は私が親しんできた山とは勝手が違うけれど、木々の枝葉の隙間から僅かな月明りが差すので森の中でも完全な真っ暗闇ではなく、馬だけでなく馬上の人間のほうも、暗さに慣れた目はそれなりに見通しが効くものなのだと、こっちの世界に来て初めて知った。
闇に目が慣れるのは暗殺部隊の側も同じ。
暗い側から明るい側を見ると良く見えるけれど、明るい側から暗い側は見通せない。
敵兵が潜んでいるかも知れないのに、こちらだけが明かりを点けるなんて自殺行為だ。
それにしても、光魔法か。それって、どんなのだろうね?
フレイア様の魔法を見られないのが残念だ。
森の外へと向かう騎馬の隊列は、入ってきたときの蹄跡を遡るので道に迷うことも無く進み、1時間ちょっとで森を抜けて、森の外で待機していた予備兵力の部隊に合流した。
ウォーレス領側へ森を出るまで残り5~6キロメートルほどのところまで歩けていたのだから、私たちは、かなり頑張れていたようだ。
間違いなく網を張られていたのだろうけど、そこさえ突破できれば逃げ切れていたね。
ハロルド様の指示を受けてバタバタと駆け回っていた待機部隊から受け取った何かの荷物を、それぞれの馬の背に積み、20分ほどで崖下部隊は再出発した。
「・・・軍隊って、すごいんですね」
「何がだ?」
なんとなしに零した呟きに、フレイア様は真面目に取り合ってくれた。
「・・・夜は軍隊も休むものだと思っていました」
「休むぞ。ただ、今回は事情が特別なだけだ」
「・・・特別な事情、ですか?」
「ウォーレス領・・・だけでは無いな。リテルダニア王国全体の将来に関わる」
「・・・国の、ですか」
「ウォーレス家は、代々、リテルダニア王国南方の国境を守る要でな」
静かに語るフレイア様の顔を見上げると、真っ直ぐに遠くを見据える彼女の目には深い悲しみが滲んでいるように見えた。
「お前が見つけた馬車だが、あれに乗っていたのは、マークス・・・。ウォーレス家次期当主だったのだよ」
「・・・それって」
「2年前から失踪扱いになっていたハロルドの次男で、ルナリアの兄だ」
「・・・長男さんは?」
「10年前に戦死した。ルナリアの歳が離れた姉2人は、とうに他家へ嫁いでいる」
ルナリアが衝撃を受けていた理由と、ハロルド様たちが激高した理由が理解できた。
「マークスに続いて、最後に残った後嗣のルナリアまでも暗殺されるところだった」
「・・・目的は、ウォーレス家の排除・・・ですか?」
ぐりぐりと頭を撫でられた。
最初に会った日、暗殺部隊にルナリアが言っていたことと合致する。
改めて、ルナリアって、かなり危険な立ち位置だよね。
「ウォーレス家の排除とは、南方防衛の弱体化を意味する」
「・・・侵略戦争の準備段階・・・?」
騎士団長閣下? の弱体化を狙った政治的理由だけじゃないのかも。
ぐりぐりが倍プッシュされた。
ぐりぐりが、正解って意味だということも理解した。
ルナリアの危険度も倍プッシュされたね。
「お前、歳はいくつだ?」
「・・・うっ。ろ、6歳です」
「ルナリアの一つ上か」
「・・・えっ!? ルナリアって5歳なんですか!?」
「なぜだ?」
「・・・同い年だと思っていました・・・」
「お前は小さいからな。だから、もっと食え」
「・・・あ、は、ハイ」
あれで5歳なのか。
日本基準の年齢詐称は失敗だったかもしれない。
ルナリアって、めちゃくちゃ頭のいい子なのかも。
私も、ルナリアと同レベルの天才児だと思われてる?
ルナリアレベルがこっちの世界標準なのだとしたら、私なんて何をやったって落第する未来しか見えないよ。
「この2年間、政治的な理由で棚上げされてな。マークスは失踪扱いとされていた」
「・・・政治的理由。・・・内乱の抑止ですか?」
「その通りだ。ルナリアが狙われ、マークスの死が暗殺で確定した以上は、誤魔化しの棚上げは無しになった」
「・・・“融和派”と“保守派”の戦争が起こる?」
「なんだ。詳しいな」
「・・・ルナリア様から、大体、聞いています」
「そうか」
もう、ぐりぐりのために、いちいち頭に手を置かれることは無くなり、フレイア様の手は私の頭に置かれっ放しになっている。
そうか。それで騎士様たちみんなが殺気立ったのか。
「棚上げされている間に“保守派”の力を削いでおきたかったのだろうが、これで王家も“融和派”も、“保守派”を抑えることが出来なくなった」
「・・・それって、大丈夫なんですか?」
「何がだ」
「・・・証拠、というか、もう1手、足りないのでは?」
「ふふん。そんなものは、コーニッツとムーアを締め上げて吐かせればいい」
鼻で笑われた!
とりあえず殴ってから考えるの!?
物事の順番が! それでいいの!?
脳筋だよ! めちゃくちゃ脳筋だよ、この人たち!
待てよ? この思考回路が、こっちの世界の常識?
まさかね!
「フィオレ・・・、だったな。お前には感謝している」
「・・・私に、ですか?」
「マークスは、私の初めての弟子だったのだよ。ルナリアのこともだが、これで、やっとマークスを弔ってやれる」
「・・・あ」
そういうことか。
フレイア様も、ハロルド様も、悲しそうだった本当の理由は、これだったのか。
大切な子供や弟子の葬儀すら行ってあげられない。それは、とても辛いことだったろう。
「ありがとう。フィオレ」
私の頭を撫でるフレイア様の手は、ぐりぐりでは無く、とても優しいものだった。
白焔を継ぐ者①です。
このお話から、新章、第5章突入です。
それは、4000年の歴史を持つ暗殺拳(ウソです
次回、事件です!




