白焔の魔女 ⑦
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
今すぐに、あの男からルナリアを引き離さなければ。
今、戦わなければ、数瞬の後にルナリアが殺され、そのあとに私も殺されるのだろう。
滅茶苦茶に両手を振り回して、ルナリア以外の動く物を刃でブン殴る。
ちゃんとしろ! 私の足! 真っ直ぐに走れないじゃないか!
「・・・ガッ・・・!」
視界が大きく揺れて暗転した後、ぼんやりと見えたのは、腕を掴まれたまま手足を振り乱して大暴れしているルナリアの姿だった。
かわいい顔をくしゃくしゃに歪ませて私を見て、ぼろぼろと涙を零しながら何か叫んでいる? ルナリア、角度がおかしくない?
聞こえているはずの音が何も聞こえない。
いや。「キ―――ン」と耳鳴りは聞こえているのかもしれない。
地面が近い。何で?
あれ? これって私が倒れてるのか。
何が起こった? 視界の外から攻撃を受けた?
意識は立ち上がろうとするのに、私の手足は私の言うことを聞かない。
真っ白に染まっていた思考が色を取り戻し、状況を理解し始める。
守れなかった。生き残れなかった。また私は殺されるのか。
歯を食いしばる。
ルナリア。
31年と半年を生きて、初めてできた私の友だち。
変わり者の私に、「変なの」と呆れながらも笑いかけてくれた、私の相棒。
悔しい! 悔しい! 悔しい!!
動け! 私の身体! 動いて!!
まだ間に合う! まだ助けられる!!
なのに、ぐらぐらと平衡感覚が狂った私の身体は、身を起こすことすら満足にできず、地面に顔を擦り付け、無様に這い、転がる。
ツンと鼻の奥が痛む。
「・・・くっ! ・・・そぉおおおっ!」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
そのときだ。
「・・・・・は・・・」
私の視界は白黒が反転し、真っ白な背景にルナリアたちのシルエットが黒く浮かんだ。
ゴッ―――!! と、聞こえた後は音すら消えてしまった。
真っ白に塗り潰された視野と、巨大な拳で殴られたように叩きつけられる熱風。
暴風に煽られた私の身体はころころと転がり、両手両足を踏ん張って、地面に俯せになって何とか止まった。
戻ってきた視界が色を持ち、鮮烈な色彩に染まる。
紅蓮―――。
そうとしか表現できない光景が、私の視界いっぱいに広がっていた。
咽かえるほどの熱が押し寄せる。
燃えていた。
一瞬で焔に包まれた薄暗い森は、猛り狂う焔に灼かれて朱く染まっていた。
炎上する森の景色の中で、焔に包まれた男たちが、のたうち回っている。
上手く樹の陰に入っていたのか、背中に火が燃え移って悲鳴を上げる男の手を振りほどいたルナリアが、私の元へと駆け寄ってきた。
「フィオレ!」
「・・・ルナ・・・リア・・・」
「ああ、ひどい・・・!」
涙で可愛い顔をぐちゃぐちゃにしたルナリアが、ドレスの袖口で私の額から頬を拭う。
肌に触れる袖口の感触が、ぬるりと滑っている?
自分では気付いていなかったが、頭部のどこかを切っていたらしい。
私の顔には、涙と鼻水と一緒に、盛大に血が垂れていたようだ。
「・・・ルナリア・・・逃げなきゃ」
震える手で、ルナリアの腕をつかむ。
だけど、ぽろぽろと涙を零すルナリアは、強気に微笑んで首を振った。
「私たちは、賭けに勝ったのよ!」
「・・・勝・・・った?」
呆然と見上げる私に、ルナリアが告げた。
「“白焔”の魔女―――。叔母様よ!」
羨望の色を湛えたルナリアの視線を追うと、渦巻く焔の中を悠然と歩いてくる一つの人影が有った。
凛とした張りのある美声が森に響く。
「追え!! 一匹も逃がすな!!」
「「「はっ!」」」
焔に照らされて赤々と煌く全身鎧を着た騎士様たちが、雄叫びを上げて駆け出して行く。
男性の野太い声だけじゃなく、勇ましい女性の声も聞こえた気がするんだけれど、気のせいだろうか。
キラキラと朱色の灯りを反射して、同じ甲冑を着た騎士様が駆る騎馬も、地響きを立てて数騎が駆けて行った。
「薙ぎ払え!」とかいうセリフが似合いそうな格好いいポーズで指示を放った女性は、悠々と歩いてくる途中にも、逃げようとする負傷した男に向かって手にした細身の剣を振り、10メートル以上も離れた場所に居た男が、背中から血を噴いて倒れる。
「・・・終わったの・・・?」
「ええ! わたしたち、生き延びたのよ!」
「・・・そう。・・・良かったあ・・・」
「フィオレ!?」
仰向けに、ぱたりと大の字に倒れた私に、ルナリアが悲鳴を上げる。
鼓動に合わせて、ズキン、ズキン、と痛む脇腹と頭。
著しい疲労で、もう、一歩も動けそうに無い。
「ルナリア!!」
「ここよ! 叔母様!」
ぶんぶんと手を振るルナリアを見据え、すらりとした金髪の美女は、真っ直ぐに私たちの元へと歩いてくる。
あの人、熱くないのかな? と心の端で思っていたんだけど、焔のほうが女性を避けているようにも見える。
「・・・うわぁ」
近くへ来た女性を地面に横臥したまま見上げて、私の口から勝手に感嘆の声が漏れた。
白焔の魔女⑦です。
幼女、生還!
次回、叔母様!




