白焔の魔女 ⑥
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「ハッハーッ! 見つけたぞ、ガキィッ!」
両腕を大きく広げて、通せんぼしようと飛び出してきたのは、薄汚れた麻布製の上下に革製の鎧を着けた男だった。
ギラギラと欲望に塗れた目を光らせ、小汚い面を醜い笑みに歪ませている。
出てきた樹の幹からの距離的に、ルナリアの側に近い。
反射的に魔法を発動させ、グイっとルナリアの手を引いて下がらせながら、腕を振る。
「は・・・?」
問答無用だ。
風の刃に巻き上げられた血液が霧状に舞って、ヒヤリと肌に感じる湿気と濃厚な血の臭いを周囲に撒き散らす。
何の抵抗も感じず、シャアアアン! と擦過音が通り過ぎた後には、両足を踏ん張った下半身だけが残り、慣性で腹から上が横滑りして、1メートル先に落ちる男の上半身は、何が起こったのか理解できずに、ポカーンとしていた。
実際の人間も、顔文字の“ポカーン”みたいな顔になるんだね。
無精髭面の汚いオッサンのポカーンなんて、可愛くも何とも無いけど。
休憩の度に繰り返し反復練習していた私の風ジェットカッターは、発動するだけなら、そこそこ速くなっているんだよ。
研磨剤の土を混ぜなくても柔らかい人体を両断できたのは、嬉しい誤算だった。
もともと人間嫌いの私は、殺していい敵の命を絶つぐらいでは良心の呵責も無いよ。
生きた動物の肉や骨を切り刻むことにも、まったく抵抗感は無いしね。
ドサリ、と落下音が聞こえ、指令装置からの通信が途絶えた下半身が力なく崩れ落ちるよりも先に、ルナリアの手を引いた私が傍を駆け抜ける。
ピッピ、ピイイイイイ―――ッ!
また符牒が変わった。「抵抗された」とか、そういう意味かな?
肺が熱い。息が苦しい。
足を縺れさせたルナリアを引き寄せる私の足も縺れている。
ヒュッ! と、風を切る音が聞こえ、急に足を止めたルナリアに引き留められた私の直ぐ横を、高速の何かが通り過ぎた。
弓―――!?
カツッ! と、近くの幹に突き立ったのは、某・有名旧財閥企業の企業ロゴみたいな矢羽を見せる1本の矢だった。
おおぅ、危なかったよ・・・。
ルナリアが急ブレーキを掛けてくれなかったら矢で串刺しにされるところだった。
「・・・助かった!」
「こっちこそ!」
荒い息の合間に、互いに一言を交わしながらも、私たちは再び駆け出す。
私たちが必死に駆けても、歩幅が大きい大人の方が走る速度も早い。
追手の姿を視界の端捉える度に人影が無い方へと方向転換を繰り返す。
とうに私たちの方向感覚は狂っていて、向かうべき先の方角を見失っている。
今はとにかく、包囲網から逃れるのが先だ。
剣を抜いて先回りしてきた男をカッターで斬り棄て、通り過ぎざまに切り倒した木で、後ろから追い縋ってきた男の接近を妨害する。
剣を持った敵が接近すると同士討ちを恐れてか矢による攻撃は緩むのが助かる。
私たちは必死に逃げ回っているけれど、徐々に接近を許してしまう回数が増えてきた。
ルナリアも私も、すでに何人か斬り倒しているのに、まだまだ敵は残っている。
潜む人影を見落としたか、大木の幹を周って進路変更しようとした私の横っ腹に、強烈な衝撃を受けた。
「・・・ぐあっ!」
「フィオレ!?」
めきめきと肋骨が音を立て、私の小さな体は吹き飛ばされた。
繋いだ手を引き離され、落ち葉混じりの土の上を、私の身体がバウンドして転がる。
脇腹を蹴り飛ばされた・・・?
視界がぐるぐると回って上下の感覚が分からない。ヘビから食らった以上の痛みが私の呼吸を詰まらせる。
「・・・げほっ! げほっ! ・・・がふっ!?」
視界が回る中、ダダダっと足音が近付いてきたと思ったら、追撃が来た。
顔面を蹴り上げられたのか、頭の中に散った火花で思考が真っ白に塗り潰されて、前後左右も分からなくなった。
「・・・ル・ナ・・・にげ・・・!」
ルナリア、逃げて。
たったそれだけの言葉が出て来ない。
「放せええええっ!!」
火が付きそうなほどの怒りに満ちた甲高い絶叫が森に響いた。
ぐらぐらと揺らぐ視界の端に、男に腕を掴まれて必死な形相でバタバタと暴れているルナリアの姿が見えた。
「フィオレ―――!」
私の名前を呼ぶ血を吐きそうな叫び声に、いくらか頭が冷えた。
ルナリアたちの背後には、走り集まってくる複数の敵の姿がある。
私の方へと伸ばされたルナリアの手に、私も震える手を伸ばす。
「・・・く・・・そ・・・、こんなところで・・・!」
悔しさで赤く染まった視界が滲む。
地面に突いた手に触れたのは、倒れた拍子に巾着袋から零れ落ちたらしい魔石たち。
「・・・ル・・ナリアに・・触るなあああああっ!!」
魔石を握りしめた両手から、それぞれに回転刃が生み出された。
力が入らない足を無理やりに動かして駆ける。
赤くぼやけた私の視界には、ルナリアの腕を掴んで持ち上げている憎らしい男の姿しか映っていなかった。
白焔の魔女⑥です。
ボールは友だち!(賞賛
幼女は友だち!(逮捕
なぜなのか。
次回、ついに、あの人が!




